複雑・ファジー小説

Re: 人喰症候群 ( No.5 )
日時: 2016/09/11 23:22
名前: 朝野青 ◆jodSh4MSQs (ID: 03lnt/I/)
参照: 食べてばっかり

「何でお前らが呼ばれたか分かってるか?」

 昼休みの職員室。早くお昼ごはんを食べたいのに、私達三人は数学の先生の前に立たされている。

「分っかりませーん」

 私の左隣に立っている山小菜君が言った。
 先生は大きく溜め息を吐いた。

「今日の授業で答えられなかったからですか……?」

 次に、私の右隣に立っている薺が言った。

 今日の授業。眠たくてちょっと眠ってしまって、目が覚めてからは寝惚けた頭のまま空を眺めていた。

「まぁそれもあるけどなぁ……」

 先生が机の上に置いていたクラスの名簿表を開いた。確かあれにはテストの点数が書かれていたはずだ。それを見た先生は困ったようにガリガリと頭を掻く。

「この前の中間テストの数学の点数、下から三人がお前らなんだよ」

 中間テスト、数学。そういえばそんなものもあったな。
 頑張って半分くらいは解いたのに、正解だったのは大問一の基礎問題の数問だけだった。だから点数は確か四点だった。それなりに頑張ってテスト勉強もしたのに、そんな点数なのだからやる気は下がる一方だ。他のテストでは平均点は取れていたから、私はどうも数学だけが壊滅的に苦手らしい。

「だのに、授業中の簡単な問題も分からないと言うし、このままだと期末テストでも同じような点数を取ることになる」

 あれは簡単な問題だったのか。私にはさっぱり分からなかった。

「そうすると、お前らは赤点を取って夏休みは補習三昧ということになる」
「はぁぁ!?」
「えぇぇ!?」

 山小菜君と薺が同時に声を上げたのに対して、仲が良いなと思う。

「まぁ落ち着け。俺だって、夏休みなのに暑い中登校させて可愛い生徒たちに補習させるような意地悪な先生じゃないからな……」

 冗談半分でそう言ってから先生はニッと笑った。

「今日から毎日放課後は居残って勉強しろ! そうすれば次の期末テストではきっと良い点が取れるから!」
「…………………………」

 居残って勉強。頭の中で反芻させる。
 面倒臭い。どうにかそれは無しにしてもらいたい。

「結局勉強させんのかよ!」
「そりゃそうだ! 何にもなしに赤点が免除されるとでも思ったのか!」

 山小菜君と先生が口論をする。薺も何か文句を言いたげだったけど、流石に先生に真っ向から言う勇気は無いらしく、先生のことを不満たっぷりな目でただ見詰めていた。

「それと同じ問題をテストで出すんですか!?」
「安心しろ、数字を換えるだけで解き方は一緒だ!」
「んなもん分からないっすよ!」

 そうだ、そうだ。と、心の中で山小菜君に同意する。
 そんな簡単に解けるほど頭が良ければ授業を聞いただけで解けるし、補習に呼び出されたりもしていないはずだ。居残って勉強をしたところでどうしても解けないような気がしてならない。

「とにかく! 放課後にプリントを持っていくから、ちゃんと教室に残っとけよ!」

 サボろうかな、とぼんやりと思った。



 数学の先生の話が終わって、食堂へ来た。
 私の目の前には、先程購買で買った紙パックのアセロラジュースとサラダがひとつ。

「で、何でお前までいるんだよ!」

 顔を上げると、私の目の前には真向かいには山小菜君が座っている。山小菜君は私の右隣に座った薺を一瞥してから言った。

「弁当持ってきてないから食堂で食ってるだけだろ」
「だったらなんでここに座ってるんだよ」
「他に席空いてねーだろ」

 山小菜君の言う通り、数学の先生の話を聞いてきた後では既に他の生徒で食堂はごった返していて、やっと見つけた空席はここしかなかった。

「他の場所探せよ」
「そっちがどっか行けば良いだろ」

 仲良く言い合っている二人を横目に、手を合わせて「いただきます」と小さく言う。それからアセロラジュースを上下に振ってストローをさす。一口飲むと、アセロラの味が口の中に広がった。
 サラダを食べ始めようと思ったが、まだ言い争っている二人を流石にどうにかしなくてはいけないと考え、どうしようかと二人を見る。

「山小菜君、今日は唐揚げ定食一つだけなんだね」
「え? あぁ……そうだけど?」

 突然口を挟んだ私に驚きながらも山小菜君が返事をする。

「昨日はカレーとうどん食べてたから、毎日あんなにたくさん食べるのかと思ったよ」
「……昨日は、そういう気分だったから」

 にこりと笑って言うと、山小菜君もニコリと小さく笑った。

「……ほら、薺も山小菜君も早く食べよう? 昼休み終わっちゃうよ?」

 昼休みは既に半分くらい時間が過ぎていて、もうお昼を食べ終わって食堂から出ていく生徒もいる。

「はい、いただきます!」

 そうして、私たちは食事を始めた。