複雑・ファジー小説
- Re: 陰陽花伝 ( No.4 )
- 日時: 2016/08/10 07:49
- 名前: 白夜 (ID: l/9ga28M)
- 参照: 2016/08/10 07:47 投稿日
「……朝ですよ、雪菜さん」
……ん、ああ、朝か。この世界での始めての朝。
敦政さんの声が聞こえたので起き上がる。
「ふわあ……おはようございます」
「おはようございます。起きていきなりすみませんが、ちょっと私の手伝いをしてくれないでしょうか?」
お手伝い〜? 一体何だろう?
とりあえず、了承した。
「勿論です。何をすれば良いのでしょうか?」
「それは後ほど。とりあえず、私に付いて行ってください」
敦政さんがニコニコしながらそう言うと先に歩いて行った。私は頷いて敦政さんの後ろを付いて行く。
敦政さんに付いて行って着いた場所は、昨日行ったあの森だ。
「さて、入りましょう」
敦政さんは、私に向かって言うと先に入って行った。私も入ろうとしたが、ある物が目に留まる。木で出来た看板に書いてある「危険。立入禁止」の字。昨日は見なかったがもしかしたら私が見逃しただけかもしれない。
何となくだったが、それを見たせいで嫌な予感がしてきた。今すぐ敦政さんを呼んで引き返そうと思った。だが、
「雪菜さん、入って来て下さい」
その声を聞いた途端、私の足が森に向かって勝手に歩き出した。おかしい、何故? まるで黄泉返りの儀式とやらをやった時と一ちょっと似たような物をかけられている。でもあれは人間が出来る技じゃない……。
冷や汗をかきながら敦政さんへと近付いて行く。
「……敦政さん……。手伝いとは何でしょうか……?」
そう聞く私の声は少し震えていた。どうしよう、心配させたく無いのに……。
「簡単な事です。……死んでください」
私が何かと聞き返す前に、私首に何かが、目に見えぬ速さで伸びてきた。見てみると、敦政さんの右手がある。敦政さんが私の首を締めているのだ。目を見開く。だが何も変わらなかった。
嘘、これは、現実なの?
「あ……あ……?」
意味がよく分からなかった。敦政さんが突然殺しにきたことよりも、何故私がこうしてまた死ななきゃならないことに疑問を持つ。 何で、何で、私は死ななきゃならないの?
……いや、まだ死ぬと決定した訳じゃないか。抵抗すれば良いじゃない。
「……っ」
抵抗しようと、自分の両手で相手の右腕を引き剥がそうとしたが、途端に両手に鋭い痛みが走る。両腕を見える位置までに上げると、引っかき傷の様な物が出来て、其処から血が出ている。相手の左手には、人間の物とは思えない爪が伸びていた。
「さて、そろそろ死んでもらおうか」
相手の口調が変わっていた。低く、恐ろしい声。私はいつの間にか無意識に泣いている事に気が付いた。恐怖によるものだろう。
相手は、首を締める力を強くしたのを感じた。そして意識が朦朧としてくり。
「その娘を放しな」
そんな時、後ろから誰かの声が聞こえてきた。その途端に相手の頬を何かが掠る。その掠った箇所から紅い血が出てきた。
その後に、後ろからザッと足音が聞こえてきた。
「……誰だ!」
相手は右手を私から離すと、そう叫んだ。解放された私は、ごほっごほっと、むせる。そのあと、私以外の誰かがいるのにその人を置いて逃げようかなという、愚かな行為をしようとしていたが、足が全く動かない。力が入らない。震えている。
「昨日、お前を睨みつけてやった陰陽師の安倍晴明(あべのせいめい)だよ。狐妖怪さん」
安倍晴明……? あの陰陽師の……?
私は後ろを振り向いた。すると其処には、昨日見た赤髪の白装束の男が、右手には大幣、左手には何かよく分からない物が書かれたペラペラの紙を何枚か持っていた。
「……ちっ! あの安倍晴明か……!」
私を殺そうとした男——狐妖怪は、相手を睨んで殺気を放つ。だが、それに安倍晴明さんは動じない。
「……おお、殺る気まんまんだな。よし、相手してやるぜ」
安倍晴明さんは、少し態勢を整えると、にやりと笑って指をクイッとやった。挑発だ。
狐妖怪は吼えて地面を蹴り、鋭い爪で引っ掻こうとする。
「あ、危ない……!」
掠れ掠れの声で安倍晴明さんにそう叫んだ。すると、その人は私に向けてニヤリと笑うと、攻撃を最小限の動きで避ける。その後に、隙を狙って鳩尾辺りを拳で殴る。
「何て馬鹿正直な攻撃なんだ。俺の挑発にかかったのかぁ?」
さらに言葉で挑発をすると、大幣を持ち替えて同じ箇所を棒の所で突いて攻撃する。
「くっ、少し痛みを感じたが何の問題も無い。私は妖怪だからな。人間の使えない妖術で苦しむが良い!」