複雑・ファジー小説

Re: 陰陽花伝 ( No.8 )
日時: 2016/08/11 18:53
名前: 白夜 (ID: l/9ga28M)
参照: 2016/08/11 17:24 投稿日

 狐妖怪は4人に分身すると、周りに大量の紫色をした炎を浮かばせて私達に放つ。あ……これ、どうすれば良いの……。

「ああ、この娘がいる状況でそんな範囲広い攻撃されたら守りの御札を何枚か使わないといけないじゃないか。あれ、呪文を書くの面倒なのに」

 安倍晴明さんは私を見てぼやくと、青い字が書かれた御札を自分の所と私の所辺りに数枚投げた。その直後に、炎が色んな方向から飛んできたのだか、それが安倍晴明さんの前、私の目の前ででかき消される。

「何だ……これは?」

「お前は無知で馬鹿すぎるんだよ。これはただの結界。これぐらいの攻撃を破れる術も持ってないなんてな。攻撃は強いのに能はない奴だ」

 安倍晴明さんは赤い字が書かれた別の御札を数枚、指に挟んでひらひらとさせながら、恐れずに狐妖怪の近くまで歩く。

「ああ、……認める。此処に連れて行って喰おうとしたのは間違いだったな……」

 4人から1人になると、少し苛ついたような感じで言い返している。
 喰おうとした? まさか私を殺した理由は、食べる為……。

「そうだよ、力任せの馬鹿!」

 安倍晴明さんは大きな声を出して吐き捨てる。凄いな。化物相手に動じないどころか、罵るなんて。狐妖怪が言ってた通り、喰われるかもしれないのに……。私は、とても怖いよ……。
 
「そんなに怖がるな、あんた。直にコイツを倒すから」

 安倍晴明さんが振り向きもせず、私にそんな言葉をかける。そう言われたなら、少し落ち着かないと。

「さて、と。今すぐお前を退治する。人を喰おうとした罪で。未遂でも重いからな」

 そう言った途端、何か小さい音がなった。音源を見ると、其処は狐妖怪の足。……にある、安倍晴明さんが持っていた筈の数枚の御札。それが縄の様になって相手の足を縛っている。

「……くそっ!」

 狐妖怪は縄を切ろうと両手を振るうがその手は、御札から縄の様な物が伸びて縛られた。

「それは、まあまあ強力な封印術だよ。お前ぐらいの、力は中級妖怪の奴には結構効くのさ」

 安倍晴明さんがそう言った後に、大幣を力強く握る。相手の体に左斜めの形でそれを振りおろして当てる。
 直後、狐妖怪は声を上げて苦しみだす。大幣を振り下ろしただけに見えたけど、何か特別な力でもあるのかな。

「あぁああぁあああぁあぁあ!!」

 苦しんでいる狐妖怪を、安倍晴明さんは鋭い目付きで見下ろしている。

「……ふん、じゃあ今すぐ散れ。陰陽師の裁きを受けな。トドメだ」

 安倍晴明は深呼吸をする。

「『青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女』!」

 よく分からない呪文を唱えながら、両手の形を素早く変える。
 その呪文と両手の動作が同時に終わった瞬間、狐妖怪の体から紫色の煙が出てくる。狐妖怪は胸を抑える。

「……あぁあああっ……!」

 その体は、灰色となってボロボロと落ちていく。やがて、狐妖怪がいた場所には灰しか残っていなかった。その灰を安倍晴明さんは拾うと仕舞う。

 そして灰のあった場所に、青い五芒星の印が書かれてある御札を一枚ペタッと貼り付ける。すると、印が少し光った。安倍晴明さんはそれを見た後に取る。

「よし、退治と妖力の処理完了。あんた、帰るぞ、一緒に」

「はっ?」

「馬鹿か、お前。そのままの意味を指している」

 この人って「馬鹿」が口癖なの? 狐妖怪にも馬鹿馬鹿言ってたけど。

「とりあえず、俺の家に入れてやるから付いて来い」

 そう言うと、スタスタと先に歩き始めた。付いていかないと此処から出れないかもしれない。なのでちゃんと付いていく。
 早歩きで歩く安倍晴明さんと私は一緒に歩いていると、森を抜けた。
 そして何処かへと、歩いて行った。