複雑・ファジー小説

Re: 陰陽花伝 ( No.9 )
日時: 2016/08/15 23:45
名前: 白夜 (ID: l/9ga28M)
参照: 2016/08/15 23:15 投稿日

 大きめな和風の家で、晴明さんが私を大きな玄関から入れ、和室に案内した。あの家(狐妖怪の家)よりも結構広い事が入った瞬間に分かる。
 
「青龍ー! 包帯頼む」

 この陰陽師の人、他の誰かと住んでいるの? でも、青龍って変わった名前だなー。
 とか思っている内に、その人が現れた。青い髪で角が生えている者が包帯を持ってきた。人間じゃないわ……。

「軽いトラウマになってないか、あんた? まあこいつは俺の命令に従うから、襲う事は無いぞ」

 なっ、と青龍さんに言う。それに対して青龍さんは無言で命令に対して頷く。そして、包帯をむんずと奪うようにして取る。
 私と晴明さんは座布団に座り、そして、狐妖怪に引っ掻かれて出来た傷の所を包帯で巻いてくれた。

「ようし、これでいいか?」

 巻き終わると、私を見て言う。

「はい、ありがとうございます」

 頭を下げてお礼を言う。狐妖怪から助けて貰った事も含めておいて。

「いやまあ、いいってもんよ。それじゃあ、とりあえずまずはこれを唱えろ」

 近くにあった緑の巻物を掴んで私に放り投げる。私は紐を解いてそれを広げた。
 中身を見てみると、意味分かんない言葉の羅列。ふりがなが打ってあるから読めるけど。

「それ、出来る限り集中して本気で唱えろ。朝日に向かって」

 ……え? どういう風に? まあ、とりあえず唱えた方がよさそうだ。晴明さんが指差す方法を向く。

「えーと……。『元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る』……」

 ゆっくりだけど、集中して間違えないように唱えた。

「……で、この呪文に何の意味が?」

 巻物を持ったまま晴明さんに聞く。

「ああ、それは俺達陰陽師が毎朝、朝日に向かって唱える呪文だよ」

「え? なんで私が唱えるんですか? 私……陰陽師じゃないですよ」

「……その才能、陰陽師の才能があるんだ。あんたには。……なあ、陰陽師になってくれ! 俺の弟子に!」

「嫌です」

 即座に断った。晴明さんには悪いけど、あんな凄い事をする自信が無いし、妖怪と戦うのはなぁ……。

「……じゃあ! 毎日の飯、お風呂、住む所、そして安全を保証するから! それで頼む……」

 土下座をされた。何で私みたいの人間にここまで言うのかな? まあ、断れない。色々な物も保証してくれるそうだ。もし、ここで断ったら、毎日生きていけるか分かんない。
 ここは自分の身の為と、晴明さんの為。

「……私陰陽師、なります!」

 承諾の言葉を放つ。すると、晴明さんは顔を上げた。嬉しそうな表情をしている。

「おお、それはよかった! じゃあ、師匠である俺の事を知っとかなくちゃな。知ってるかもしれないが、改めて。俺は安倍晴明、(あべのせいめい)陰陽師だ。気軽に晴明と呼べ。後敬語も辞めてくれたら嬉しい」

 師匠なの? ……晴明。まあ、この人ならいいかな。

「えー……分かった。私は哀川雪菜。好きなように呼んで」

「じゃあ、雪菜だな」

 晴明が頭を掻きながらそう呟いた。

「そして、最後はこいつの事。青龍、自己紹介しろ」

「ああ、はい。自分は青龍という者。晴明殿の式神をしております」

 式神か。よく分からないけど、式神なら人間じゃないね。真面目そうな感じだし、信用してみようか。