複雑・ファジー小説
- 花の温度 ( No.28 )
- 日時: 2016/11/14 22:51
- 名前: 亜咲 りん ◆1zvsspphqY (ID: LYNWvWol)
- 参照: 史上最高に短い何故だ
花畑に行った。父とエルフと俺で。それは、エルフが我が家に来てから2週間ほどのことで、まだ俺が恋を知らない頃のことだった。
「綺麗だね」
「すげー」
思わず息を呑む。色とりどりの花が咲き乱れる花畑は、幼かった俺のこころを掴んだ。その頃の俺は、普通に戦隊モノが大好きだったが、子供なんて単純。綺麗なもの、可愛いものを見れば、素直に受け入れてしまうのだった。要するに、ませていたのだった。
「える、ほら、お花」
「……おはな?」
「そう。綺麗だね」
とてとて、と、それまで父さんの後ろについてきていたエルフが、花に近寄る。
来たときよりもだいぶふっくらとしていて髪の毛も整えられ、白いワンピースを着たエルフはそれなりに見栄えも良い。真っ白ですらりとした手足は、花畑によく映えた。
「……きれー、だね」
同年代の女子よりも舌っ足らずな声で、エルフが呟く。普段そこまで喋らないから、これだけでも随分とした進歩だと思う。
それにしても、花が綺麗なのは当然だろ。やっぱりコイツはおかしい。
「はなかんむりの作り方を教えてあげようか」
「おはなのかんむり?」
「そう。それを被ると、誰でもお姫様になれるんだよ」
そう言って、父さんはシロツメクサを手に取って、器用に丸にし始める。前から思っていたけど、ちょいとうちの父親は女子力が高くないか。一応、いかつい警察官なんだぞ。
「ほら、完成。可愛いティアラだ」
穏やかに微笑んで、父さんがエルフの頭に出来上がったはなかんむりを乗せる。それはエルフの薄い金色の髪によく映えて、まるで天使みたいだ、と思った。
「おひめさま……」
うっとりと呟く。本当にどこか異国のお姫様のようで、俺はどこか彼女を遠くに感じた。呼んでも届かない、**……
「お前にもつくってやろうか、アル?」
いたずらっぽく微笑んで、父さんがそう呟く。
「ばっっ、俺がそんなのつけるわけないだろ!」
「はははははは」
真っ赤になって言い返す。エルフに見蕩れていたとは、とても言えなかった。
ベンチに座って、冷たい麦茶を飲む。もちろん父さんが入れたものだ。やっぱりうちの父は女子力が高い。俺は父さんを、呆れつつも頼もしく思った。
花畑は綺麗だ。こころが和む。それは、日頃から張り詰めていた思いがんー、と伸びをして広がってゆくようで、気分がよかった。
そして。
「おはな、きれーなの」
はなかんむりに手を当てて、エルフははにかんだ。胸がどきん、と跳ねる。まるで花のつぼみが花開くような、可憐で綺麗な笑顔だった。
なんだこれ。なんだこの気持ちは。
「どうした、アル」
「ばっっっっ、別に、なんでもねーよ」
不思議そうに俺の顔を覗きこんだ父さんの目線を振り払い、俺はベンチから下りる。エルフはひまわりのように、花畑の中で舞い踊っていた。
まだ心臓がバクバクしている。エルフと目線が合う度、それは高まっていった。
きっと、それは花が綺麗なせいだ。そうだきっとそうだ。
うん。