複雑・ファジー小説
- Re: 馬鹿にリズムを取らせたら ( No.1 )
- 日時: 2016/09/16 23:05
- 名前: ナカヒロユキ ◆ZPN.oSAN/A (ID: QrFqqwfB)
01. Tragic Overture
太陽の光が僕の体を貫通して行く様な感覚に陥る、穏やかな昼時。僕の真正面に対峙している黒板の隣に掛けられているカレンダーは、4月と書いてある。
1学期最初の授業というものは、前学年の復習か、前年まで教鞭を取っていた教師が去っていれば、自己紹介で大体潰れる。実に無意義だ。
今の時間も例外では無く、まだ若い男性教師が1年の授業のカリキュラムについて語っている。せめて窓際の席に座っていたならば窓の外を覗くなり、どこかのラノベにありそうな態度を実行かつ暇潰しにもなったかもしれないのだが、何せ僕の名前は守郷 夕麻。苗字が『カ』行である。出席番号順で座らされている席順では、カ行はどうしても真ん中の席となる。
教師の話を聞いている素振りを装いながら、カレンダーをぼーっと見る。今の僕には人よりもあの紙切れの方が価値がある、と思えてしまう程、退屈だった。
ああそうだ、退屈ついでに、僕の悩みを脳内で展開しようか。少なくとも、無駄に熱く語っている授業についての話より、僕の少し変わった独り語りの方が、脳を刺激させる自信があるし。
さてと、目の前に食料があったとする。もし君が空腹だとしたら、その食料をどうするか。
そう、選択の余地すら無く喰らうだろう。
ここまではいつも皆理解してくれるのだが、僕の様な『食料』の定義が広い者に対しては世間サマは少々厳しいようで。
どうやら僕は、食欲をそそるストライクゾーンが普通の人間とは少し違うらしい。
それもそのはず、だって僕が好むのは、
人間の肉、なのだから。
勿論、人の肉しか食べられないなんていうゾンビ的な事でも、呪われた体とか厨二的なイタい設定という訳でもなく、僕だって普通の食事は普通に食べる。
それで腹は満たされるかもしれないけど、僕の心は充たされなかった。体は重いのに、宙を飛んでいる様な感覚。奇妙だ、と幼少期ながらに感じたのを今でも覚えている。
だから幼い僕は、自分の欲求に素直に応じてみる事にしたのだ。
初めて人を食った時の記憶は、正直よく覚えていない。今でも鮮明に記憶に残っているのは、血塗れの僕の口と両手、あとは肉が微かにまだこびりついている細く、白い骨。
今の僕なら、こんな勿体無い食べ方はしないのになぁ、なんて事を思い、昔の僕に説教したくなる。食物への感謝を表す方法は、残さず腹に収める事だと僕は勝手に思っているから。
それからというものの、僕には食人衝動にブレーキをかける事もしなくなった。人間の肉の旨さを舌が覚えてしまって、中毒に近い状態、と言った方が正しいのかもしれない。
だけど、そんな僕にも、食う事の出来なかった者がいる。幼い頃からの友人で、もう二度と逢う事が不可能な人。
その人の名は、有朱 深陽。
あまりにも不可解な死に方だったので、事件発生当時は警察が必死に探したりしていたが、思う様に解決の兆しが見えず、現在捜査は打ち切られてしまっている案件だが、僕は断定出来る。
彼女は、誰かに殺された、いや、食われたのだと。