複雑・ファジー小説
- Re: 気まぐれ短編集 ( No.1 )
- 日時: 2016/10/07 20:07
- 名前: 鏡 (ID: HKLnqVHP)
・ピアノと少女・
—ピアノの音がする。 楽しそうに弾いているような音。
音が跳ねてるっていえばいいのか。言葉には表しにくいけど、とっても楽しそうな音。
題名のわからないその曲は家に響いている。
家にピアノはある。でも、もう何年も弾いていないピアノ。
ちょっとおかしい。 そうおもってあのピアノのある部屋へ行く。
知らない少女が弾いている。 髪の長い、妹と同じくらいの年の子。
僕の存在に気づいたのかその子は弾いていた手を止めてこちらを振り向く。
「あんた、誰」
明らかに年上の僕に対し、そんなことを聞く少女。 少しムカつく。
「僕はこの家の人間だよ。 君こそ誰なの」
僕がそう聞き返すと少女は
「しーらないっ」
それだけ言ってまたピアノを弾く。
部屋の入口のところに立って名の知らぬ少女のピアノを聴く。
(あ、さっきと曲が違う。)
そう気づいたけど何の曲か、わからない。
「ねぇ、さっきの曲。作曲者は誰?」
曲が弾き終わったタイミングでそう聞く。 無視されるかな、と思ったけれど少女はこっちを見て誇らしげに笑って
「作曲は私と私の妹よ」
と言った。
へぇ、と素直に感心する。
妹と同じくらいだからきっと中学2年生、3年生くらい。そんな子とそれよりも年下の子がこんな風に曲を作れるなんて。
「妹は私と3歳離れてたの。でもねー、とーっくに歳追い越されたわ。いやー、久々に会いに来たけど相当なおばさんになっちゃてたよ」
ピアノに背を向けこちらを見る、あの少女の言うことが少し—いや、かなり。理解できなかった。
「高校3年の息子と中学3年の娘がいて幸せに暮らしてるわ」
君は、一体何者なんだい。
そう聞こうとしたけど言葉がのどに張り付いて声が出ない。 何も聞けなかった。
「さてと!私はここでお暇させてもらうわ。じゃあね。あんたの——によろしくね!」
それだけ言うと、少女は音もなく、僕の前から姿を消した—。
「あらぁ、なんでピアノの蓋空いてるのよ」
仕事から帰ってきた母さんが不思議そうにそう聞いてきた。
「さっき、知らない子が弾いてた」
そういうと「変な子ね」とだけ言ってキッチンへ向かう。
キッチンへついていくように行き、母さんに聞いてみた。
「ねぇ、母さんてさ、お姉さん。いた?3歳年上の」
驚いたように目を見開いて、母さんは
「えぇ、いたわよ。もう、中学2年の頃、亡くなったけど。丁度、今日は姉さんの命日よ」
あぁ、あの子は僕の叔母さんか。
きっと命日だから、戻ってこれたのかな。
また、来年も、来てくれるかな。
そしてあの楽しそうにピアノを弾く姿は見れるのかな。