複雑・ファジー小説

Re: 最強の救急隊 ( No.11 )
日時: 2018/12/15 21:00
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

『繋! しっかりしやがれ!! 何で、何で……っ』

——……覚えている。計算とか、重要な情報なんて寝ればすぐに忘れてしまう自信があるのに。
 4年前(あのこと)だけは鮮明に覚えてる——……。

『繋!!』
『ナル』

 苦しい、苦しい、息が苦しい。可笑しい。
今まで思いっきりどこまで走っても肺が苦しい何てことなかったのに。
繋が寝ている部屋の襖を思い切り開けると、其処には血相を変えている雪ちゃんと。

『危ないだろ? 廊下はよく滑るから歩けって言ったじゃないか』

 何時もの日常の様に微笑(わらう)繋。
 繋の腕には酷い程の火傷の痕があって。いっそのこと病人らしくぐったりしていればまだ気が紛れたかもしれないのに。
 まるで、何事もなかったかのように繋は笑っていた。

『お勤めご苦労さん、ナル、雪』

 繋も、雪ちゃんも悪くないんだ。
 ただただ、自分が弱いと思い知らされただけだったあの日。
 力が無いと、思い知らされた。









「……てっきりお前は結構賢い部類だと思ってたんだけどな」
「知らねえよ、そんなの」

 コキリ、と首を鳴らすと燠は唸るような低い声で成葉を睨み付ける。
成葉は無表情でそう吐き捨てながら、地面にあった石を拾った。
 そして静かに燠に向かって指さした。

「別にいいけど。アンタがどうってよりかは俺が第一補佐になってこの荒んだ場所を掃除するって考えたらいい気分だ」
「お前じゃ、無理だよ」
「!!」

 次の瞬間、燠の顔面に先程成葉が拾った石がめり込んだ。ゴッと鈍い音がした。
その威力は最早石ではない。
特命隊の中でも場数を踏んでいるはずの燠が迫ってくる石に反応できなかったのだ。しかも、ただの石に。
 燠は痛いどうこうよりも、成葉の先程攻撃の速さに目が眩んだ。

「どうしたの燠君。まさか初めって言った瞬間から始まるって思った? 此処は第7だ、そんな常識通用しないし生きていけない」
「調子に乗るな……っ!」

 直線的に成葉の拳が迫ってくる。
自分に近づけさせないと、燠は自らの奇術である風を展開する。その風にあたった瞬間、成葉の体に無数の切り傷が付いた。
 見ていた特命隊の1人が「お嬢!」と悲鳴に近い大声を上げた。
成葉は口元に人差し指を当てる。
 まるで、静かに、と言わんばかりに。
(……今の、殺す気こそはなかったが確実に急所狙ったのに……! 切り傷程度かよ……)

 燠はその現状に、ギリリと歯を食いしばった。

(くそ、これじゃただ恥をさらすだけじゃねぇか……っ)
「くたばれ」

 いつの間にか背後に回っていた成葉に、燠は対応しきれなかった。
 そして、首元に鋭い手刀が飛ぶ。


Re: 最強の救急隊 ( No.12 )
日時: 2018/12/15 21:02
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=327.jpg

「珍しいねぇ、あの成ちゃんが……」
「何だババァ、クソガキがなんだって?」

 雪丸は1人、商店街に向かう1本道を歩いているとヒソヒソと不穏な声音で話す大谷に出会った。
 何時もなら大して気にもならないのだが何だか胸騒ぎがしたのだ。雪丸は大谷に近寄る。雪丸に気が付いた大谷ははっとしたような表情になった。

「若! ……いやね、さっき隊員たちと新入り君が大入道の調査してたんだけど揉め始めちゃって。呼ばれてきた成ちゃんが間に割って止めてたんだけど……その」
「……? 何だよ」
「新入り君が繋ちゃんの悪口言っちゃって……それであの2人……」

 其の言葉を聞いた瞬間、雪丸は素早く赤い半纏の袖を捲ると大声で叫んだ。

「ババァ!! 急いで其処から避難しろ!!」
「え!? 若!?」

 大谷の驚嘆の声を聴くことなく雪丸はアスリート並みに速い速度で商店街に向かった。段々大谷が言っていた通り、乱闘の様な騒がしい声が聞こえてくる。
 ギリリ、と雪丸は血が出そうな勢いで歯を食いしばっていた。
















 手刀は、確かに当たった。
しかし、燠も燠で攻撃をいなしていたらしく、フラフラと体のバランスを崩しながらも成葉を鋭く睨み付けた。

「……もういい、こんな浅草(まち)壊してやるよ……っ」

 ヒュウッっと燠の手の平に小さな風の子が発生する。一瞬、眉を顰めた成葉だったが、次の瞬間には細めていた眼を大きく見開いていた。
 燠の手の平の風が次第に大きなものに変わっていく。
5秒もしないうちに風の子は天に届くぐらいの竜巻へと変わっていた。
 周りの民衆から悲鳴が聞こえないわけもなく。

「や、やべえよアイツ!! 本気で浅草ぶっ壊す気だよぉ!!」
(……危ない!!)

 今のうちなら拳圧で殴ったら風は消えるだろう、と考えた。
そしてそれを実行するために成葉は軸足である右足を思い切り踏み出して風を撃破しようとする。
 燠も待ち構えていたように不敵な笑みを浮かべて竜巻を付きだそうとする。

「終わりだ」

 逃げながら2人の様子を見ていた民衆は燠の不敵な表情に思わず背筋が凍った。
「お嬢!!」と隊員が叫ぶ。此のまま突っ込めばさすがの成葉は只ではすまないと思ったからだ。
 戦っている2人以外どうすることもできない。風と拳がぶつかり、大きな衝撃による風が浅草の街に吹き抜ける。立っていることもままならない突風だ。

「お嬢!! 生きてるよな!?」

 煙を払いながら隊員は彼女の場所に戻ろうとする。何とかその場所に戻った隊員は思わぬ光景に口をあんぐりさせた。
 何故なら、成葉と燠の間には繋が割って入っていたから。
 繋は驚く2人をよそに悲しそうな声で低く一言、

「……お前ら、何してんだ……っ!!」

 其の言葉に思わず成葉は拳を下し、力なく突っ立った。燠も同様だ。
3人の周りには大量の水でも降ってきたかのような形跡が地面に記してあり、明るい黄土色は黒ずんだ土色になっていた。