複雑・ファジー小説
- Re: 最強の救急隊 ( No.32 )
- 日時: 2019/03/01 19:07
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
——プルルルルル、プルルルルルル。
平日の、少し早い朝。
花緒の領土(テリトリー)である事務室に1本の電話が鳴り響く。
電話の目の前にいた花緒は素早く電話の受話器を取る。
事務員たるもの、電話は3コール以内に出る。それが基本だと彼女は日々自分に言い聞かせている。
「はい。こちら特殊救急隊第7隊。どうなされましたか?」
眠たい平日の朝でも、一流の事務員は笑顔ではきはきと。
それがたとえ誰も見ていなくても。花緒のポリシーである。
左手に受話器、そして右手にメモを取るためのペンを持っている。
依頼、苦情、配達その他諸々、花緒は何時も困難を乗り越えてきた。それはこれからも変わらない——いつものように、用件を聞こうとする。
しかし、相手から飛び出してきた言葉は思いにもよらないものだった。
『おっはよー! その声花緒っしょ。やっぱ事務(そっち)にTEL(テル)してよかったわ〜。朝っぱらからマジメンゴ! でも急な事件発生系だから応援欲しくて行動に移したってわけ』
(……朝っぱらからこの空気の読めないギャル口調きついですね……)
思わず受話器を握りつぶしたくなるほどの場違い感万歳だったが、花緒は一流の事務員なのだ。此処はグッと堪える。
「そうでしたか。でも珍しいですね。みぞれちゃんの所は人数不足でしたけど今まで応援呼ぼうだなんて一度も言ったこと無かったですのに。そんなに切羽詰まってるんですか?」
『それなんだけど超都会人冷たすぎない!? 今回頼みたいのは雪ピー兄妹に雪を溶かして……ざっくり言うと雪掻きなんだけどさー。ほら、今年の雪ヤバかったじゃん? こっちは隊の人数少ない上に青森全域の氷雪を管理しなきゃいけない感じだけど流石に手が回らないわけ。だからいっそのこともう溶かしてもらおうと閃いた次第、昨日神奈川と京都の方にTELしたら1秒で断られたし! お願い、花緒! 雪ピ—兄妹1週間だけ貸して!』
「許可するのは私じゃないんですけどねぇ……」
そうしたものか、そう心で呟くと花緒は肩をすくめた。
雪ピ—兄妹、つまり雪丸と成葉はこの7隊の主軸だ。
隊長と第一補佐官が1週間も浅草を離れる事態はあまり好ましいことではない。
かといって、電話の彼女の言うことも無視できない。
確かに今年の青森の雪はすごかった。というか、年々降雪量が増えてきているといっても過言ではない。
青森の地域——酢ヶ湯は毎年雪が2メートルを超える。それにそれだけではない。
文字通り氷雪で人が死ぬのだ。
「……ニュースでしか知識がありませんが——車がスリップして事故ったり雪崩や屋根の雪で人が亡くなったり……冬は戦場ですよねそっち」
『マジやばたんピーナッツなんだって! お願い、新幹線&バス往復分とホテル宿泊のお金とかそういうの全部こっちで受け持つから。一生のお願い!』
「ごめんなさいみぞれちゃん。私ならともかく行くのは慶司さんたちだから今から聞いてみますね」
『……依頼として依頼金たんまり積むから!!』
「わかりました。今すぐに青森(そちら)へ向かわせますね!!」
——花緒は一流の事務員。
お金の匂う話題には誰よりも先に食いつく。