複雑・ファジー小説
- Re: 最強の救急隊 ( No.41 )
- 日時: 2019/04/20 20:12
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「みぞれさん!!」
「みぞれちゃん!」
涼に続いて成葉、そして燠は雪の滑りやすさを利用し、斜面を降りていく。
道を歩いている女——氷室みぞれを呼び止める。
みぞれはゆっくりと後ろを振り向いた。すると弾ける様な笑顔に変わった。
「ちょ! やっと見つけたし! どこ行ってたのよも〜。それにユキナル! 来るの遅いし何か悪魔に襲われたんだって? よく無事だったじゃん。それに知らない顔がいるし結構なイケメンじゃね? ってかあれ? ユキケイは?」
(雪女と神様のハーフとは思えないなこのテンションは)
「あ……」
矢継ぎ早にみぞれは話し出す。その速度はまるでマシンガンのようだ。
3人を見渡すと、雪丸がいないことに気が付いた彼女はユキケイこと、雪丸を探し出す。
そんな彼女に燠は面食らっていたが、状況が状況なので珍しく黙ることにした。
成葉は一瞬言葉が詰まったが、話すことにしたのだ。
しばらく、成葉は今までの事情をみぞれに話した。するとみぞれは眉間に皴を寄せ、疲れ切ったかのように叫んだ。
「はぁ〜? こっちもマジヤバいけどそっちも超ヤバいじゃん! ユキケイ行方不明とかさ……ま、しぶとく生きてるんでしょうけど」
「まぁ、それもそうだけど……。みぞれさん、よかった無事だったんだね。それと、隊員の誰かに会った?」
ほっとしたように涼は胸をなでおろす。
そんな彼の言葉にみぞれはフルフルと首を左右に振った。
「全然。つーか人に会ったのアンタたちが初だし。もしかしたらみんなあのエセ野郎の人質になってるかも」
「えっ」
「なあ気になってたんだけど。涼の言ってた燕尾服の男って他に何かわからないのか?」
燠は痺れを切らしたようにみぞれに言う。
みぞれは考え込む様に「うーん」と唸っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「正直わかんないわ。でもこの日に襲ってこんな惨事起こすぐらいだから大体アイツの目的は分かってる」
「目的? 何?」
「そりゃあこの山の醍醐味は登ってからだし! じゃあ早速レッツゴー!」
首を傾げる成葉にみぞれはウインクをする。
そして強引に3人を引きずって歩き出したのであった。
06
「山……怖い……! 高い、寒い、息苦しい……!!」
「大丈夫か……ナル……。ゲホッ、ゲホッ」
「ナルさん、燠さん。はい、水」
みぞれの特力——氷雪で一気に空中へ飛ばされ、投げられるように山頂へ辿り着いた一行。
しかし、急に温度と酸素濃度が変わったため、成葉と燠は噎せ返ってしまった。
涼は慣れた動作で2人に水を手渡した。さすがは雪ん子と雪女というべきだろうか。
こんなに寒くても身震い1つもなく。寧ろ生き生きしているようだった。
数分して、ようやく息を整えた2人は静かに立ち上がった。
「それで、奴の目的って何だ?」
「——目的は簡単よ。今日は儀式の日。死者を霊界に導くのは同時に『死者が正者の世界に一番近い日』でもある。つまり——ありったけの死者を生き変えさせること」
燠の問いにみぞれは冷静に言う。
その言葉に思わずたじろいだが、それはあり得ないことだと知っている。
なぜなら、死者の蘇生は禁忌中の禁忌。犯して行けない領域。
そして何より——そんなこと、現代を生きる人間ができるはずがないのだ。
「そんなこと只の人間にできるはずがない。いや、万が一できたとしても代償が大きいはずだ」
「それは……特力を使う人間が人間だった時の場合じゃん?」
その瞬間、空気が変わった。
ただでさえ冷えているというのに。更に冷たく、凍てつくような。
すると、涼は雪ん子に似合わぬ青ざめた顔で小さく呟いた。
「アンタ、誰」
その言葉と同時に冷たい風が通り過ぎる。
思わず、成葉と燠は固まった。なぜ、そんなことを言うのか。性格的に涼は冗談を言えるような人間ではない。
それは、彼の言葉が証明している。
彼は——親愛するみぞれに「アンタ」とは言わないのだ。
「アンタ、誰だ!! みぞれさんは『あの時』から山頂には絶対に登ろうとしないから!! 晶馬さんが死んだ日からずっと!!」
涼は悲鳴を上げる様に叫んだ。
確かに、少し違和感を覚えていた。
先程まで子犬のように積極的に、涼はみぞれに話しかけていたのに。
彼女が山に登ろうと言った瞬間から、何も言わなくなったのだ。
「ふーん。案外勘がいいじゃあないか」
突き放すような冷たい声。
その声はみぞれ——だが、口調も様子も先程までとはがらりと変わっていた。
そんな彼女の行動に成葉は何とか棒を素早く構える。
「……じゃあお前の正体は1つしかない。だろ? 燕尾服の男とやら」
成葉は冷静にそう言うと、みぞれの形をした者は不気味に微笑む。
「大正解でございますよ、救急隊の方々。いやぁ……此処まで嗅ぎ付けられるとは思ってもおりませんでした」