複雑・ファジー小説

Re: 最強の救急隊  ( No.42 )
日時: 2019/04/28 21:06
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

「凍れ、凍れ、凍れ……!」

 その瞬間、みぞれたち4人の周りには絶壁の様に高い氷塊が囲む。
 優に3メートルは超えており、少し高く飛んだだけでは飛び越えられそうにもない。
 みぞれの姿でクツクツと怪しく笑う「それ」はたじろぐ3人を嗤っている。
 成葉は睨むように、

「もう少し正体渋るかと思ったよ。『証拠はあるの』とか言わないんだな」
「ええ、勿論。私がどうこう言っても何れはバレてしまうでしょう。そんな無駄な時間を過ごすのであったなら最初から言ってしまった方が都合がいいのでねぇ。ま、バレたとしても問題はないのですがぁ」

 そう言うと、「それ」は成葉の真横にいる涼を妖しく見つめる。
 涼はそんな不気味なものに臆することなく、スナイパーライフルを構える。涼ほどの銃の腕前で有れば、目の前の「それ」の脳天をすぐに撃ち抜くであろう。
 敵意を抜き出している彼に対し「それ」は余裕の表情であった。

「止めた方がいいですよぉ。確かに意識は僕のものですが肉体は氷室みぞれのもの。撃ち抜けば僕はこの肉体を棄てて新しい物を探します。そうしたら神の混血とはいえ氷室みぞれは死んでしまうでしょうねぇ」
「お前……っ! ふざけないでよ、さっさとその体から出ていけ! アンタは何なんだ! 急にこの場所を襲って、燃やして、時間を止めて……っ! 挙句の果てにはみぞれさんまで! 馬鹿にするのもほどがあるじゃないか」
「下がって、涼!」

 成葉はそう言うと、一歩踏み込み、「それ」の頭に何とか棒を振り下ろした。
 「それ」はその行動を呼んでいたかのように氷を纏った腕で何とか棒を受け止めていた。
 更に成葉は無防備な「それ」の脇腹に右足で蹴り上げた。
 さすがにそこまでの攻撃は読めなかったのか、「それ」は軽く吹っ飛ばされた。

「ナルさん……っ」
「酷いなぁ、話は最後までするもんじゃないんですかぁ? 流石凶暴と名高い第7救急隊。攻撃的ですぅ」
「涼。話は此奴をとっちめてからにしようぜ。キリが無い。いくらみぞれちゃんの体とはいえ今はそういう状況でもなさそうだし!」

 蹴りを入れた足を素早く地に付け、着地すると簡潔にそう言った。
 蹴られた「それ」は口に溜まった血を乱暴に噴き出す。
 涼は一歩、後ずさりをする。しかし、その行動を阻む様に、燠の体が壁になっている。

「燠、さん……」
「逃げんな、もうやるしかないんだよ。此処でオレらが迷えばもっと被害が出る。だから此処で止める」

 そう言うと、燠は成葉の元へ勢いよく走り出した。

「ナルゥ!! オレとソイツじゃ相性が悪い! 正直オレの風を吹雪に利用されて終わりだ。だからオレは『外』の方を何とかする。オレを蹴飛ばしてこの氷塊の外に出せ!」
「……オーケーオーケー! 承ってやるよ!」
「やらせるか……っ」

 燠の言葉を聞いて、成葉は力強く一歩踏み込む。
 すると、先ほどまで余裕の表情を浮かべていた「それ」が初めて大きく目を見開いた。
 まるで「イケないものがバレてしまった」ように。
 「それ」は2人の行動を阻む様に強く手を伸ばした。

「行かせるわけないよ」

 涼は「それ」の足元に向かって発砲したのだ。
 反射的に避けてしまったため、タイミングと勢いが無くなってしまう。
 
「ちゃんと役目果たしてよね!」
「誰に言ってんだ。ナルじゃあるまいし」
「生意気!」

 燠が軽く自分の特力である風で体を浮かす。そして追撃するように燠の足を成葉は思い切り蹴飛ばした。
 燠は勢いよく飛んでいき、氷塊の壁など軽く超えていった。
「それ」は殺す勢いで成葉を睨んだ。そんなのも平気なように成葉は「ハッ」と鼻で笑う。

「貴様……、気が付いたとでもいうのか……っ?」
「まさか、わたしはぜんっぜん燠君の考えてることわかんない。さっきのはただ蹴っただけ。でもよかったよ、ようやくお前のその醜悪な顔が見られたから」