複雑・ファジー小説
- Re: 最強の救急隊 ( No.43 )
- 日時: 2019/05/06 20:04
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「人間にしてはやってくれましたねぇ。ああ、すみません。先程はちょっぴり予想外で驚いたものでしたからぁ」
「別にいいよそういうの。グダグダ話すとラノベみたいにページ数嵩張るしさ」
「ちゃあんと説明をしないと読者には伝わらないのではぁ? 文章の多さも馬鹿に出来たものではありませんよぉ」
「お前編集者みたいな奴だな」
先程の殺伐とした表情から一変、今までの様な余裕の笑みに戻っていく。
再び成葉は何とか棒を構える。
すると突然「それ」は歓迎するように」両手を広げる。
「あなたたちは先程から僕の、いや、僕たちの目的について知りたがってますよねぇ」
「おれ……達?」
思わず涼は眉根を寄せた。
ニヤリと「それ」は笑うと「ええ」と小さく返事をする。
天を指差すと、
「これも特に支障はないので言っちゃいますけどぉ、簡単です。過去の英雄——いや、異形を蘇らせることですよ。この恐山は確かに死者が一番集まる場所。それと同時に死んだ異形も存在する」
「此処までもったいぶった割にはありきたりすぎるんだけど。『世界征服したい』って言うやつみたいで拍子抜けだな!」
ブン、と真横に何とか棒を振る。しかし、身軽に「それ」は避けると、呆れたようにため息をついた。
「人が話しているときに攻撃なんてぇ……。あなた絶対日曜朝の女児向けアニメの変身中でも攻撃してくる質でしょう」
「うっさい! こちとら隙あらば殺せって教育されてんだ。文句言われる筋合いはない!」
「隣の国並みに凶暴ですよあなた」
コホン、と「まあ、どうでもいいですけどぉ」と一息つき、改めてスナイパーライフルを構える涼を見る。
一瞬、涼は肩を竦めたが、再び標的を見据える。
「そりゃ勿論何でもかんでも蘇生させるわけではありません。力がある者のみです。バカバカ蘇生してたら秩序が乱れる。制御できる範囲内にしますよ。恐らくあなたたちは死者を全て蘇生したりこの場所や町に被害を加えたから僕を倒そうとしてると思っているようですが——。どうです?」
「何が?」
「僕を見逃してくれませんか? 僕も好きでこうしているわけではないのですよぉ。あのお方の命令で。どうしてもぉ。何なら僕の目的が達成したらこの場所も町も綺麗さっぱり元に戻しますよ。何なら他の隊員の身柄も氷室みぞれの肉体も。そして無駄に戦って、余計な血を流さなくて済みますよ。ねぇ、いいじゃないですかぁ」
「…………」
一瞬、涼は迷っていた。確かに、その条件は魅惑的だ。この不気味なものと戦わずに済むし、無事に隊員とみぞれの身柄も帰ってくる。
そしてこの山も町も戻すと言っている。けれど、本当のことを言っているとは限らないのもわかっている。しかし、しかし——……。
どうしても、「頷きたく」なってしまう。
「——4年前、浅草を襲ったのはお前たちの一味か」
「はい? 浅草ぁ……? うーん、どうでしたっけかなぁ、えーと。ああ! 雷苦(らいく)が行って殺された場所だぁ! ふふっ、今でも笑えますよぉ。雷苦の奴、人数合わせに幹部になれたことにも気が付かずにのこのこ向かって殺されるなんてぇ」
「そうかよ」
成葉の問いを、小馬鹿にするように「それ」は嘲笑った。その瞬間、「それ」の腹部に重い衝撃と振動が走る。
一秒にも満たない合間に成葉が、詰め寄り「それ」の腹部に拳で体重を乗せて殴りつけたのだ。
暫くしないうちに、胃の中にある液体が逆流するのを直に感じる。手で押さえる間もなく、大量の血を吐き出した。
「は……っ?」
「もう喋るな。そんで、みぞれちゃんの体からさっさと出てけよ」
いよいよもって目障りだ。
そう言った彼女は、無表情にそう告げた。「それ」は目の前の成葉が少しだけ、誰よりも悪魔の様に見えた。