複雑・ファジー小説

Re: 最強の救急隊 ( No.6 )
日時: 2018/12/15 20:50
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ナルちゃん! 今朝大福出来上がったのよ、よかったら持ってって!」
「うおっ! 本当にか!? やったぁ世界で一番綺麗だよ大谷のおばちゃん」

 早朝——7時に成葉は浅草通りを散歩していた。
大福屋「小雪」の50代後半の女店長、大谷(おおたに)は成葉の姿を見つけると手早く袋に入れた6個入った大福を差し出した。
 食い物大好きな成葉にそれは願ってもいない申し出で。即座に目を輝かせ受け取る。
その場を食べようかと思ったが雪丸を思い出すと、後が怖くなるため今は食べない。
 大谷は笑顔で話しかける。

「今日、新人さんが来るんでしょ? 今度は可愛い女の子がいいわねぇ!」
「え、あ、はいです……」
「敬語がおかしいことになってるわよ?」

 大谷は「やーね! 寝ぼけているの!?」と朝から元気よく成葉の背中をバシバシ叩く。彼女の言葉に思わず成葉は息を詰まらせた。
なぜなら、2週間前の繋の言葉、履歴書の詳細が妙に気になっていたからだった。
 大福の入った袋を見ながら成葉の頭の中は真っ白である。


















「別名上司滅多刺し神原(かんばら)……? 何それ怖すぎ」
「嗚呼。噂でな」
「上等だ、返り討ちにしてやるよ……」

 2週間前、大入道を倒した夜の一室。
 物騒極まりない異名に成葉は思わず唾を飲んだ。そしてホラー映画でも見たかのように背筋が凍った。
そんな繋の言葉に意気揚々と雪丸は右手首をゴキリと鳴らす。
 繋もあまりよく思っていないのか小さくため息を吐いた。

「アメリカの奇術専門学校を首席で卒業、日本に帰国して政府要人異形対策護衛に就いて……」
「政府要人異形対策護衛? ありゃ相当のエリートしかなれねぇはずだが……。まぁ、あんな爺共の護衛なんざ反吐が出るがな」
「それで?」

 繋の言葉を聞くと偉そうな上司が嫌いな雪丸は眉を顰めた。
成葉はその続きが気になるのか繋を急かす。

「けど、何があったのかは定かだが翌年に上司をぶん殴って他の特名隊を転々としたんだと。今回来る理由も同様だ」
「ま、まさか。893」
「んなもん誰が特命隊に入れんだよ……」
「第7は上品じゃない奴らの集まりよ。893が来ても左程問題及び違和感がありません」
「ま、今は何とも言えないから様子を見るしかないな」

 乾いた笑いを零す繋。その後直ぐに兄の顔を見るが雪丸は素知らぬ顔だ。
もし新人が反抗しても燃やす気でいるのだろう。
 成葉は新人の末路が分かる気がした。というか考えたくもなかった。考えたどおりならR18Gどころではないからである。
そしてそのまま2週間が経過したのである。













「今日の午後1時かー……。イケメンには棘があるんだなー……。バラもラフレシアも一緒。蠅を寄せるだけ寄せて結局は食物になっていく。どうすることもできない」

 あまり出来の良くない頭を必死に回す成葉。
すると、前方から勢いよく走ってくる救特命隊の一員であり、部下である黒髪をオールバックにした30代前半の男、楠木(くすのき)。
 楠木は成葉の前で止まるとゼエゼエと息を荒くする。

「どうしたの?」
「た、大変だお嬢! 異形が……窮鼠(きゅうそ)が暴れてやがるんだ!!」
「こ、こんな時に!!」

 成葉は肝が冷える思いがしながらも、楠木に案内されながら窮鼠がいる場所へ走り出した。