複雑・ファジー小説

Re: 最強の救急隊 ( No.7 )
日時: 2018/12/15 21:30
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「雪ちゃん! 窮鼠がいるって聞いたから急いできたけど」
「……! 見んな、クソガキ!」

 息を切らせて浅草の中心街まで走った成葉。其処には既に他の救急隊員と兄である雪丸が対処にあたっていた。
 周りは見事に瓦礫や破壊されたコンクリートが散らばっており、迂闊にもサンダルで歩いていようものなら足を怪我するほどに鋭利な破損物が散らばっていた。
 駆け付けた成葉を見るなり、雪丸はギョッとした表情で叫ぶが、間に合わなかった。
成葉は犯人である窮鼠を見てしまい……。

「ち、千葉のランドにいるやつやん!!」
「窮鼠だっての」

 成葉は窮鼠を指さし、思わず絶叫する。
そう、雰囲気こそは夥しいものがあるものの、見た目こそは少なからず千葉ランドの有名マスコットとても近いものがあった。
 雪丸は妹の反応が予想通りだと言わんばかりに、額を手で押さえて大きくため息を付いた。

「千葉から来たのかな……」
「浅草生まれ浅草育ち浅草暴走です」
「純粋な浅草っ子か」

 淡々と部下が説明する。
千葉からきたのではないと理解した成葉は少し残念そうに眉を顰めた。
 窮鼠は若干かわいらしい顔をしながらもバリバリとガラスを食べていた。

「若! 避難誘導終わったぞ……ってなんだ窮鼠か、何かどっかのランドで見たことがあるフォルムだな……。外来種が変化してきてるように窮鼠も変化してきたのか?」
「ほら! 繋だってアレかと思ってるじゃん! わたしだけじゃないね」
「うるせぇよ……。俺は黄熊派なんだよ」
「わたしだってそれがいいよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ! ……しまっ……」

 議論になりそうな2人の雰囲気に思わず繋は冷や汗を流す。
言い終わった瞬間、窮鼠は近くにいた救急隊員に不意打ちと言わんばかりに、襲い掛かろうとしていた。
 
「う、うわぁぁぁぁっ」

 肉を砕くような鈍い音が響き渡る。
腕は千切れていないものの、深く窮鼠が思い切り噛みついていた。
隊員は腕を大きく振って追い払おうとするが、どんどん噛みついてきて痛みは増す一方だ。
 成葉と雪丸が飛び出そうとした瞬間だった。

「ギィィィィッ!!」
「……統率もとれていない。無駄話。隊長格だけ強くて他は弱い」

 強い突風とともに窮鼠は10メートルぐらい吹き飛んでいった。
思わず雪丸は風の発生源を見ると、其処には薄い金髪に、整った目鼻立ちの背の高い青年が呆れたように立っていた。
 地面に荷物を下すと手を横一線に振る。
すると、鎌鼬のように窮鼠の体が次の瞬間真っ二つになった。窮鼠は悲鳴を上げる間もなく、消滅していく。

(……早い、目で追うのがやっとだ。体が反応するかどうか……)
 
 ゴクリ、と繋は息をのんだ。
そんな彼に対して青年は退屈そうに欠伸をしていた。
雪丸はギッと凍てつくような視線で青年を睨んだ。

「よかった、無事だ。ドブネズミじゃないから菌は多分ないだろうけど。一応繋に……」

 成葉あ先程窮鼠に噛まれた隊員の怪我の具合を見て安心したように息を吐いた。
無事を確認すると兄たちを見上げる。
だが、其処は剣呑な空気だった。
 雪丸は足早に青年に近寄ると胸倉を荒々しく掴んだ。

「テメェ……何のつもりだ……」
「何の? 意味が解らないな」
「無闇に異形殺してんじゃねえよ、其れにちょっと奇術持った人間がこんなことしてんじゃねぇ」
「止めろ、若!」

 今にも殴り合いになりそうだ。そう判断した繋は2人の間に割って入る。
漸く胸倉から手を離した雪丸だが青年を睨んだままだ。
青年も青年で喧嘩上等という雰囲気を醸し出している。
 暫く睨み合っていると、疲れたように、はあ、とため息を付くと青年は懐から証明書の様なものを取り出した。

「……神原燠(かんばらおき)。本日付で第7救急隊に所属に……なっちまいました」
「神原って、あの新入りか……」

 成葉は肌で感じ取っていた。これから起こる不穏(主に兄)な事件を。