複雑・ファジー小説

Re: 最強の救急隊 ( No.8 )
日時: 2018/12/15 20:57
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「成ちゃん成ちゃん大変だよ!」
「どしたの大平さん」

 神原燠がやってきてその翌日。
昼の浅草商店街を散歩していると第7特命隊の屯所の向かいに住む、穏やかな性格で有名な老人、大平が珍しく声を荒立てていた。
 成葉の姿に気が付くが否や、ぎこちなく動きながらも慌てて駆け寄ってくる。そんな様子に思わず成葉は食べていたたい焼きを一気に口の中に放り込む。

「成ちゃんとこの新入りが騒動起こしてるんだよ!!」
「あぁ?」

 思わず、ヤクザみたいな声が出てしまったことは大平しか知らない秘密。











「んだとテメェ! もう一編言ってみやがれ!」
「何度でも言ってやるよ。アンタらチンタラしすぎ。オレがやってた方がさっさと終わるから今すぐ帰ってくれ」
「ふざけんなよ新入りが!!」
「ちょちょちょちょっと待って!!」

 居場所は直ぐにわかった。
大平と別れた後、真っ直ぐに走っていくとただ事ではなさそうな大声と、それに反比例するような冷静な声が聞こえてきたからだ。
 その場所には特命隊員と燠がいがみ合う様にして対峙していた。
周りには燠を気に入らない特命隊メンバー数十人と不安そうに見守る商店街の人たちがいた。
 成葉が間に入ると怒鳴っていた隊員が少し表情が和らぎ「お嬢」と声をかけた。

「何だよ、今昨日の窮鼠の調査してたんだろ? 何でこんな言い争いになってんの」
「此奴等があまりにも使えないから俺1人でやるって言ってんのに勝手に突っかかってきたんだ」

 異形の調査とは、退治した異形の遺体、もしくは周りの破壊痕から調査器具を使ってこうなった要因や再発を防ぐために行われるものだ。
 突き放すように言うのは燠だ。
早く終わらせてくれ、という空気が流れている。目線すら争っていた特名隊メンバーに合わせない。
 その態度が余計メンバーが苛立たせる。

「ふざけんな! 第7では慎重にかつ、個人に分担があるんだよ!!」
「じゃあ分担しても遅いってどういう有様だよ」
「コイツ!」
「落ち着け!」

 身を乗り出す2人に成葉が腕で押さえる。

「いいかね新入り君。君が何と言おうと第7ではみんなと協力してもらう。もしみんなが遅いっていうなら指摘して、いかに素早く正確に行えるかアドバイスするのが筋ってもんだよ」
「俺に茶番でもやらせる気ですか第一補佐殿。……もういいです。オレはもう帰るんで【先輩たちで】勝手にやっててください」
「おい……!!」

 冷たく燠はそう言うと、クルリと背を向けて歩き出した。メンバーは歯を食いしばる。
行ってほしくもないが、ここに残ってほしくもないのだろう。
 成葉は逃がさないと燠の肩を掴む。

「待てよ。出された仕事は最後までちゃんとやってもらう」
「——……これだから戦うしか能のない無法者共は嫌なんだ」
「だけど神原君は此処にいるよね」
「もう辞めるさ。噂以上に最悪だよ。部下は使えない上司は聞かん棒、おまけに——……」

 大きく燠は息を吐く。
それが、成葉の地雷とも知らずに。

「——……おまけに、部隊の副隊長が一般隊員より劣ってるときてる」

 周りが一瞬、凍り付いた。住民たちの中には「ヒッ」と声を上げる者もいた。
 メンバーが「お前!」と叫んだ瞬間だった。
その瞬間、燠と成葉の間の地面に大きく亀裂が入る。それは、成葉は右足で行った行為であった。

「……は?」
「今、なんつった?」

 普段の成葉からは想像つかない底冷えするような低い声が聞こえる。
空気が一瞬で変わった。心なしか温度は一気に下がっていくようだ。いや、実際そうだろう。
メンバーは一気に顔を青ざめた。中には恐れで尻餅をつく人間もあるほどだ。
 だが、成葉は気にせずに続ける。

「そんなに気に入らないなら勝負しようぜ燠君。殺しなしの文字通り真剣勝負。もし君が勝ったらわたしの地位をやったりその他諸々だ。もし燠君が負けたら——……さっきの言葉訂正しやがれよ」
(……こいつ……!)