複雑・ファジー小説

Re:年の瀬、番外編にて ( No.8 )
日時: 2016/12/30 20:31
名前: 水海月 (ID: sWaVmrWQ)

※パロディ、はちゃめちゃ、支離滅裂注意








いつかの、二人の話____






「あー寒いっ、やってらんねぇ!」
「お、お疲れさん」

 見事なくらい真っ赤な鼻。思わず口角が上がってしまう。何笑ってんだよ、と靴を脱ぎながら膨れる凪紗に、ちょうど蓋を開けかけた甘酒を差し出した。それを受け取りながら、凪紗はどっかと腰を下ろす。そして、ビニール袋をやや乱暴にテーブルの上に置いた。一体何にキレているんだ。不思議に思いながらビニール袋を覗くと、出てきたのは大量の簡易鏡餅。使い終わった後に食べれるヤツだ。古きよき……って感じだな。

「聞けよ! スーパー行ったらもう餅が売り切れてて! そしたら……」
「はいはい。いつものおせっかいおばちゃんにそれを持たされたんだろ」
「当たり!」

 俺たちの行きつけのスーパーには、とてつもなくおせっかいなおばちゃんがいる。とにかくよく喋る。どうでもいい話題が出るわ出るわ。そして喋ってる途中で右手をパタパタさせる癖のあるおばちゃんだ。「お」の発音が「も」に、「ん」の発音が「ぬ」に聞こえるという特徴もある。そしたら「おばちゃん」は「もばちゃぬ」じゃねえか。あ、ちょっとウケる。

「普通大晦日に鏡餅なんか食うかっつの。まぁ、その分金が浮いたのは良しとするけど……」
「ホント懲りねえな、あのもばちゃぬ」

 しまった。
 と思ったが、凪紗が「似てる」と言って吹き出した。な? 言ってるよな、そんな感じで。



「まだ夕飯には早いし、ほら、ゲームしようぜ」

 凪紗の提案に、俺は乗った。バイトも休みだし、暇すぎてやることがない。意外と凪紗はこう見えて、超絶コアなレトロゲーマーでもある。一世紀以上昔のハードをどこからか仕入れてくる手腕には感服する。なんでも、レトロゲームのハードを自分で再現して作っている技術人がこの世にはいるそうだ。恐れ多い。そんな俺もすっかり感化されて、「好きなゲームソフトはファイターエムブレムシリーズです」なんて言えるようになった。いいじゃん、好きなものは好きで。カッコいいじゃんマルフとクオム。ちなみに作者はロンクーが一番萌えたって。同志いたら連絡くれって叫んでる。

 一方の凪紗は、オールラウンドでいける。しかし例えばマニオブラザーズとか、ポケモノとか、ファイナルファンタズィーとか、そこそこ有名なものしかやらない。勿体ない。
 話は逸れたが、凪紗はとても強い。しかし、俺には唯一あいつに勝てるゲームがある。
 それが「太鼓の超人」だ。
 凪紗はやっぱり嫌そうな顔をした。

「だってさ、それ絶対お前勝つだろ?」
「いいじゃねぇか、たまには勝っても! 選曲全部お前でいいから!」
「んー……まあ、リベンジも兼ねて、やってやるか」

 何回目のリベンジ戦だろうか。凪紗は無難な選曲で、無難にプレイしたが、結局負けていた。いつもポケモノで、俺のフシギダナをボコボコにしてる報いだ。

「晴この野郎……! 次はスマヴラで勝負だ!」





 楽しい時間はあっという間に過ぎ。すっかり日も落ちた頃に、二人の腹の虫が鳴った。

「……もうこんな時間か」
「あー、鏡餅だ……」

 もういっそ縁起など関係無い。飾る分を残して、鏡餅を大晦日に食い尽くしてしまおうと、俺は立ち上がった。ビニール袋を持ち、台所へと向かう。餅の袋を開けながら、凪紗の方を振り向いた。しかし、どう答えるかは予想できている。

「凪紗ー。何餅がいい……」
「あんこ」
「……はいはい。この甘党が」

 時々心配になる。糖尿病にならないかとか、虫歯にならないかとか。医者は脅威の被害が多い地区に優先的に行っているため、近くにかかれる病院は無い。結構遠くにしか無いのだ。決して凪紗を心配しているんじゃない、交通費、医療費の問題だ。しかしそういう俺も、醤油のいそべ餅が大好きで。ここの家では、餅となるとこの二つしか出てこない。それを言うと、「塩分過多で死ぬぞ」と言われるのだが、お互い様だ。

「おい、手伝えよ」
「はーい奥様」
「ふざけんな」

 冗談でもやめてほしい。鳥肌が立つ。なんで俺が女役なんだよ。

「だって俺より身長低いしさ?」
「はい新年の抱負今決めた。『打倒凪紗の身長』」
「っはは」

 行く年、来る年。あんこの缶詰を開けながら、凪紗は呟いた。随分知的な言葉を知っているものだ。俺を見て目を細め、凪紗は微笑む。

「来年も宜しく頼むぜ、奥様」



「……あんこ没収確定」

 俺からあんこを守りながら、凪紗は大きな声で笑った。凪紗にはその表情が一番合っている。大人びた調子は似合わない。そして、そばでも食ってろ、と俺はあんこをもぎ取った。そうだ、そばを忘れていた。ここは凪紗の出番だ。

「凪紗。あんこが欲しかったら、そばを……」
「……ん? なんだよ」

買ってこい、といいかけてやめた。









「……一緒に、買いに行くぞ」

 俺は凪紗の腕を掴んだ。











 新しい年。それはただの節目に過ぎない。
 けれど、楽しんだっていいじゃないか____