複雑・ファジー小説

Re: 星ノ魔法使イ ( No.5 )
日時: 2017/01/02 22:31
名前: 綾原 ぬえ (ID: V.0hQJQJ)

(5)
 校舎へ入ると、まだあまり人気がなかった。みんな、クラス分けを見ているのであろう。
「2年のSクラスは——、こっちね」
 楓が指差した方向には、一つしか教室がなかった。
 教室の前まで行くと、まず驚いた。
「なんだこりゃ、めちゃくちゃ広いな」
 一年生の時の倍はあろうとんでもなく広い教室だった。
 その教室にポツンとたたずんでいる一人の少女。楓たちに気付くと、パタパタと駆け寄ってきた。
「みなさん! 今年も同じクラスですね」
 少女——柚木 夢華(ゆうき ゆめか)は小柄な体全身で喜びを表している。可愛げな顔をして、夢華自身もSクラス生——上位15名と特待生に含まれており、かなり強い。
「ほかの奴らは?」
 湊がポケットに手を突っ込みながら尋ねた。
「まだ来ていないようなのです。教室を間違えたかと思って焦ってたのですが、ここで正しいのでしょうか?」
「ああ、ここで正しいぞ」
 教室に入ってくるまだ若い男性教師。
「お前たちの担任だ。とりあえず好きな席座っとけ」
 広い教室のため、楓は座る席を迷ったが、窓際の一番後ろに荷物を置いた。
 ちらりと男性教師で2−S担任の名前を確認した。
 ——2−S担任  箱柳 逸樹(はこやなぎ いつき)
 去年3−Sの副担任をしていた先生だと、楓は思い出した。
 学生時代も優秀で、主席の座を譲ったことはなかったとか、素行に問題があるとか、いろいろな噂をよく耳にする。
「あの先生って結構有名だよね? 去年の先輩たちが召喚したドラゴンを片手でねじ伏せたとか」
「あー、そういえばそんな事故もあったわね……」
 去年の3年生が授業中に呼び出したドラゴン。しかしそれが暴れだしたため、逸樹が叩きのめしたという“事故”があった。
「箱柳先生なら、今年の新入生のSクラスになると思ったのですが——」
「本来なら持ち上がりのはずだった前1−S担任の授業を5分で終了させて、担任の自尊心やらなんやらをズタズタにした奴らがいるから、担任が変わった」
「ってうわ御室!! 驚かせるなよ……」
 発言するまで誰にも気づかれなかった彼——御室 日向(みむろ ひなた)は名前から想像できるような明るく女子っぽい男子、とはかけ離れた男である。伸ばしっぱなしの前髪、根暗な性格。何より、
「相変わらず、影うすいな」
「今に始まったことじゃない」
 影がものすごく薄い。
「今、日向君のことを指摘して話をそらそうとしましたけど、1年生の時の担任の先生をイジメてたのって……」
 楓を含む3人(湊と知広)は、ヒョイと視線を泳がす。
「とぼけても無駄ですよ!! 3人ですよ、元凶は!」
「夢華、そういうあんただって先生困らせてたでしょ!?」
「知広ちゃんほどではありませんよ!!」
「やっぱり、私が一番まとも——」
「「「「なわけない」」」」
「4人そろって、ひどい……」