複雑・ファジー小説
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.10 )
- 日時: 2016/12/24 23:52
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: V.0hQJQJ)
一章「幼き星々たちよ」
(1)
「ふぁー、よく寝た」
カーテンの隙間から漏れる光が楓の頬に落ちていた。
時を同じくして、頭上では目覚まし時計が鳴り響く。彼女は手を伸ばし、カチっと音を消した。
時計は5時25分を表示していた。
ゆっくりと体を起こすと、一度大きく伸びをして、床に足を付けた。
(っ、冷たい)
春休みの間ずっと畳の上で生活していた楓にとって、久しぶりのフローリングはとても冷たかった。
スリッパを足で探り、それを履くとキッチンへと向かう。学生寮の中でも、Sクラス生の部屋は特別一人部屋で、キッチン、トイレ、風呂が完備なのだ。
楓は、キッチンにおいてあるケトルで湯を沸かすと、インスタントコーヒーを淹れ、大量のミルクと砂糖を混ぜた。トースターでパンを焼くとハムとチーズをのせた。
「うん、上出来」
テーブルにそれらを運ぶと、一人優雅な朝食を始めた。
「今日の予定は……」
椅子に腰を下ろしパンに手をかけながら、無属性初級魔法——浮(うかび)——を使い、手帳を自分に近付ける。ペラ、ペラ、とページを進める。楓の両手はパンと激甘コーヒーに支配されているため、無論ページをめくっているのも魔法だった。
スゥと今日のページで手帳の動きを止めると、その内容をじっくりと眺めた。
(自己紹介と入学式の準備……、実質的な授業はナシっと)
ふぅん、と声を漏らすと、一口パンを食んだ。甘ったるいコーヒーで残りのパンを一気に流し込む。楓の中での“優雅な朝食”はわずか3分ほどで終了した。
楓は寝間着から動きやすいジャージ姿に着替え、カーテンをさっと開いた。ロックを解除して窓を開けると、寮にかけられた防犯魔法に引っかからないように細心の注意を払いながら、
「それじゃ、行きますか」
ベランダの手すりに足をかけ、大きく飛び出した。そのまま、空中に魔法陣をうまく張り、その上を駆ける。楓の“朝の鍛錬”である。
始業のベルが鳴るまで、まだ2時間半ほどの時間があるのだった。