複雑・ファジー小説

Re: 星ノ魔法使イ ( No.12 )
日時: 2017/01/29 01:01
名前: 綾原 ぬえ (ID: jyyH8tA1)

(3)
「え、うそ! なんで!」
 バッと立ち上がり、抗議する知広。
 やれやれといった表情で紙の上に手をかざす楓。時間が経過して、薄くなりつつあった魔法式陣に魔力を流して、それの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
「まず、菱形は二重式陣なわけで——」
「いや、だってルールじゃ単式陣でいいんだよ!!」
 めんどくさいことを、と顔をしかめる湊。こいつが切れて、教室ふっ飛ばしたらどうすんだよ、とでも言いたげな顔だ。
 湊が描き込んでいたものは、二重式陣と言われるもので、一般的に使われる魔法式陣が詳しくなって進化した感じのものだ。このゲームのルール上は、単式陣(基本形の魔法式陣をさす言葉)でも、二重式陣でもいいのである。
「それだけじゃなくて、ここ。つづりが違ってるの」
 あ、と固まる知広。
「しまったぁぁぁ!」
 大声で叫ぶ知広の姿に、教室にいた何人かの生徒たちが振り向く。
 視線が自身に集まっていることに気付いた知広は赤面しつつ、悶える。
 魔法式陣には、たくさんの文字が描き込まれている。そのうちの文字が一つでも間違っていると、それは成立しない。よって、知広の自動失敗というわけだ。
「う、うううぅ」
 呻る知広を無視して自分の席に着いた楓。すると、
「おはようです、楓ちゃん。あれ、知広ちゃん、どうかしたんですか」
「朝からうるさい。廊下まで聞こえてきたんだが。そこの馬鹿の声」
 追い打ちをかけるように現れた夢華と日向。
 知広は涙目になる。
「ああ、それが——」
 仕方なく事情を説明し始める、湊であった。

Re: 星ノ魔法使イ ( No.13 )
日時: 2017/02/25 00:54
名前: 綾原 ぬえ (ID: fR1r/GEI)

(4)

「それじゃ、ホームルーム始めるぞー」
 手に持っていた出席簿を教卓に投げ置くと、逸樹は眠い目をこすりながら、ホームルームを進行していく。
「まず、何をしなくちゃねんねーかっていうと、自己紹介だ。てめーら、クラスメイトの名前くらい、もうわかってると思うが一応決まりだからな」
 知広は、ばっと振り向き後ろの席にいる楓に問いかけた。
「クラスメイトの名前、分かる?」
「全く分かんない」
「ですよねー」
 二人のそんなやり取りを見てすかさず夢華が、
「何言ってるんですか二人とも! 同じ学年の人くらいは顔と名前を一致させないといけないですよ!」
「いや、さすがにそれで出来るのはお前くらいじゃ?」
「同感」
 突っ込みを入れる湊と日向。ぎゃあぎゃあと騒ぐ四人を見、逸樹は大きくため息を吐いた。
(去年のクラスもひどかった。だが、今年はそれを上回りそうだな。目下の問題は大和楓、か)
 楓は、三人が話しているあいだ中、ノートや本とにらめっこしていた。会話に入っているものの、それもどこか上の空だ。
(——!! いいこと考えた)
 逸樹は、パンパンと手を叩き一同をしずめる。
「まず、俺が今から魔法を発動させる」
「ばれたらやばいんじゃ?」
「ばれねーよ。教師なめんな」
 生徒の声にそう答える逸樹。教師であれ、生徒であれ、校舎内で無断に魔法を発動させることは禁止なのだが、逸樹はお構いなしだ。
「で、その魔法に当たった奴から自己紹介な」
 えー、という声が漏れるが知ったこっちゃない逸樹。
 指をぱちんと鳴らし、魔法を発動させた。
 ——氷属性初級魔法 氷弾(ひょうだん)——
 空中に浮かんだ透明で冷気を帯びた個体が、教室内の空を切っていく。
「まずはお前からだよ!」
 その個体が、こつり、という音を立てて床に落ちた。