複雑・ファジー小説

Re: 星ノ魔法使イ ( No.20 )
日時: 2017/05/01 22:22
名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)

(7)
「いやー、想像以上にいいのになったねー」
 ぐっと背伸びしながら、先ほどまでいた大広場から校舎までの沿道を歩く知広。
「主に私の働きあってのことね」
「うわ、うっざー楓」
「そんなことより腹空いたんだけど」
 生徒会メンバーの三國時子と夢華、日向と別れた楓、知広、湊の三人は、クラスで請け負っている入学式準備に参加しようと一年生棟の教室へ向かっている途中だった。延々続くようにも見える長い道は、多くの生徒たちの手によって華やかに飾られている。
「いっつもこんな感じで楽しかったらいいのになー」
 さらに歩みを進めると、三人は不穏な魔力の流れを感じ取った。
「ん? なんか、ここら辺おかしくねえか?」
 湊がきょろきょろとあたりを見渡す。準備が終わった生徒からどんどん引き上げていっているようで、まばらにしか人の姿は見当たらない。ましてや、不審物なんてものは——
「楓、ここ怪しい感じがするのは、あたしと湊だけ?」
「いや、私もよ。変なところで気が合うわね」

——無属性中級魔法 中域探索(サーチ)

 楓が素早く探索系の魔法を発動させる。無色透明な魔法陣が楓を中心にして水文のように、広がり、そして集束する。
「ざっと20ってところかしら。私中心で半径300メートルくらいの範囲内での話よ?」
「何が20なのか、説明してもらっても、いいかな?」
 知広が引き攣った笑みを浮かべて、楓に問いかけた。無論、自分の中でも、大体の予想はついているが。
「爆弾よ、魔力で起動するタイプのね」
 楓の言葉に、緊張が走った。
「と、とりあえず、一番近いのとりあえず取り出してみたほうがいいんじゃないか?」
「こいつの言う通りね。とりあえず、掘ってみよー!」
 知広はわくわくとした心を抑えきれぬまま、魔力の発生源へと近づいて行った。
「(一体、誰がこんなことを……?)」
 自分の知らないどこかで、何かが動き出していることに、気持ち悪さを感じる楓だった。

Re: 星ノ魔法使イ ( No.21 )
日時: 2017/06/04 00:12
名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)

「こんな感じでいいのか?」
「うん、ばっちりよ」
 湊は、地面に埋められている爆弾を素手でゆっくりと取り出した。
「間違っても、魔力を流さないように、慎重にね」
 楓は、湊に指示を出し、それを知広が興味深そうに観察している。
「あたしには、どうして楓が爆弾処理についての知識があるのかが不思議なんだけど」
「……まあ、人には得意不得意的なそういうのがあるでしょ?」
「説明になってないし……」
「おい、取れたぞ」
 湊はそう言うと、両手に収まるくらいの大きさの黒っぽい立方体を足元に置いた。
 それは、金属製のようにも、木製のようにも見える不思議な物体だった。表面には薄く幾何学模様が見え、ほのかに光を帯びている。
「——魔法爆弾“エクリラ”」
 知広がポロリと言葉を零した。
「え?」
「魔法爆弾でしょ? これ」
「ええ、パッと見そうっぽいけど……」
 知広は少し考え込むようなそぶりを見せると、くるりと向きを変えた。
「ごめん、二人とも。私急用を思い出したから先帰るね! 逸樹先生にもそう伝えて!」
 楓と湊が知広の言葉を理解できないままフリーズしているうちに、知広は姿を消していた。
「あいつ、何なんだ一体? さっきまでやけにわくわくしてたのに、血相変えて逃げやがって」
「…………。」
 楓はさっきの知広の顔を思い出そうとした。いつものどんな顔とも違う、不安そうな、何かに気付いたような顔。
 だめだ、そんなことよりも今、すべきことは——
「“凍結(フリーズ)”」
——氷属性初級魔法“凍結(フリーズ)”
「え、なにやってんだ大和!?」
「凍らせるだけよ、爆発しないようにね」
 慌てる湊をよそに、楓は冷静に爆弾を保存した。
 楓にとっては、爆弾なんかは二の次で、知広のことのほうが気がかりだった。もしここで、爆弾に爆発されでもしたら大変なことになる。
 爆弾が埋められていた場所——それは木の根元だった。
「それにしても、悪意のある場所ね。こんなところに埋めるなんて」
「はぁ? 何言ってんだ」
「ここで爆発したら、木も誘発されて威力を増すわ。なんてったって、ここの学校に植えてある木は例外なく魔法木だもの」
「あ、そういうことか」
 湊は納得したようで、さらに事の重大性にも気づいたらしかった。
「おい、これからどうする——って冷たっ!」
 楓は凍らせた立方体をひょいと湊に投げつけた。
「それ冷たいから持ってて。これから理事長室に行くわよ」
「はぁぁぁ!? 校長室!? いまから?」
「そう、今からよ」
 楓は一年生の校舎から、校長室のある中央の棟へと向きを変えた。