複雑・ファジー小説

Re: 十年後の大晦日 ( No.3 )
日時: 2016/12/31 15:36
名前: 星川 (ID: btNSvKir)


3

 ぼくはまた、喋りだした。
「ぼくはいじめられっ子だった時、ヤンキーみたいな人が皆大嫌いだった。勉強を馬鹿にするやつは皆死んじまえばいいって思ってたし、頭の悪いやつなんて皆社会の塵芥だって叔父さんにもよく言ってたよね」
「言ってたな。沙貴子に注意されても全く聞いてなかった」
「うん。母さんは何でそんな奴のことを庇うんだ、って怒ってた。懐かしいよ。正直、高校生ぐらいまで学歴とか髪色とかで人のこと見てたと思う。高校は進学校だったから、ぼくみたいな考えのやついっぱいいたし、先生も何も咎めなかった。たまに、貴方は素敵な人なのにそんな狭い視野を持つのは勿体ないって言ってくれた先生いたけど、たぶんぼくはそういう声を無視してた」

 進学校っていうのは、皆じゃないにしてもかなりの割合でそういう風潮がある。ヤンキーとか、学歴のない人を見るとあの人たちは「負け組」だって思いたがる。努力しないで、ただ流されるままに生きてきて、ああやって堕落しているんだって。ぼく達とは違う、一生関わることのない人たちだって。
 ぼくはその時、その考えに微塵も疑いを持たなかった。

 ぼくは続けた。

「でもさ、大学入る前の春休みくらいからかな。ボランティアとか、バイトとか始めて、色々な大人の人に出会うようになってから、今までのぼくってつまんない奴だったんだなって少しずつ思うようになったんだ」

 叔父さんは、少しきょとんとした顔をしてから微笑んだ。

「そうか」
 ぼくは仔羊の肉を一口齧ってから、頷く。
「うん。学歴だけで判断するのは勿体ないなあって思った。ボランティアとかバイト先では、ぼくが聞いたことのない大学出た人の方が多かったし、大学を出てない人もいた。ぼくは初め、内心どこかでは軽蔑してるところがあった。でも、話したり一緒に飯行ったりすると、うーん、何か、上手く言えないんだけど、その人達はすごく人生を大切に生きてるんだなあって思った」

 ぼくは、何とか叔父さんに伝えようと思った。だけど、上手く言葉が出てこない。難しいのだ。頭でっかちだったぼくですら魅力されたその人達を表すことが。言葉とか、明確なもので測ったり示したりすることが出来ないものなのだ。たぶん、そういう類の良さなのだ。
 
 うら若きぼく達の物差しでは、駄目なのだ。