複雑・ファジー小説
- Re: 十年後の大晦日 ( No.4 )
- 日時: 2016/12/31 15:38
- 名前: 星川 (ID: btNSvKir)
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「ぼくはコンビニで会った家族を見てて、そういう事を思い出した」
「そうか」
「ぼくは、」
一瞬、言葉に詰まった。叔父さんが真面目な表情でぼくを見た。
「もし、あそこにいたのが昔のぼくだったら、昔と中身が変わらないままのぼくだったら、あの時ぼくはああいう気持ちにならなかったんだ」
ぼくは続ける。
「ねえ、叔父さん」
「なんだ」
少し照れくさかったけど、ぼくは叔父さんの目を真っすぐ見て言った。
「今年、ぼくはそれに気づけたことが一番嬉しかったんだ。大晦日に、楽しげな家族がいる。それを見て素直に良いなあって思える。くだらないかもしれないけど、ぼくにはそれがすごく嬉しかったんだ」
叔父さんは微笑んだ。そして、胸ポケットから煙草を一本取り出して吸い始めた。
それから、暫く何かを思い出すような表情をして、喋り始めた。
「それを聞いて、面白い事を思い出した」
「何?」
「お前昔、たぶん小学生くらいの頃、俺に『年を取って良いことってあるの?』って聞いてきたよな。大人が嫌いってわけじゃないけど、歳を取ることって一体何がどう楽しいんだ、って」
ぼくは何となく、覚えているような気がした。たぶん昔のぼくは失礼な奴だったから、多分その当時ぼくが侘しいと思っていた大人の人を見て思ったんだろう。叔父さんは続けた。
「俺はその時、こう言ったんだ。『今まで見えなかったものが見えるようになることだ』って。そうするとお前はきょとんとして、それはぼけたじいさんとかばあさんのことだろうとかなんとか言ってたな」
「うん。ぼくって、本当に失礼な奴だったんだね」
ぼくは苦笑した。
「どうだ」
突然、叔父さんが尋ねてきた。
「え?」
ぼくは一瞬何のことか分からなかったけど、すぐに理解した。叔父さんはぼくのそんな様子を察して含みのある笑顔を見せた。
「あの時から年を取って、何が見えた?」
叔父さんは煙草を口に銜えて、すう、と煙を吐く。
ぼくは少し叔父さんを意識して、含みのある笑いを見せた。
「素敵な大晦日」
勿論、まだまだ見えてないものは沢山ある。
でも、きっとあの頃よりは沢山のものが見えている筈だ。