複雑・ファジー小説
- Re: StraИgeRs【オリキャラ募集しております】 ( No.11 )
- 日時: 2017/03/09 20:42
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「にしてもうめえな鶏肉」
「それ、ただ単に鶏肉ゆでただけじゃないすか?」
「うるせえ茹でるだけでも力量が試されんだ」
「はあ…」
ゆでた鶏肉を手づかみで口の中に放り、そういうドルキマスに対し、九十九は訝しげに言葉を挟む。しかし一方的な反論により、九十九はため息を漏らすだけに終わる。
ここは先ほどの宿から歩いて5分ほどの距離にある食事処。そこでドルキマスと九十九は、ゆでた鶏肉と新鮮なアボカドとわさびじょうゆ、カリカリに焼いたベーコンとレタスを、パンで挟んだだけのサンドウィッチを今日の夕飯として腹に入れていた。もちろん鶏肉とアボカドは九十九が口に入れようと手を伸ばしたら、ドルキマスからグーで手を潰されそうになった。ひとつくらいいいじゃないすかーと文句を言うと、全部アタシのモンだとピシャリと言われたため、おとなしくサンドウィッチを消費することになった。まあでもゆでただけっぽそうだしいいかな。
「んで、九十九」
「うい」
「なんか有力な情報は得られたか?」
「歩いて5分、しかも人もまばらっすよ?聞こえるもんも聞こえてこねえっす」
「おめえの地獄耳は落ちたんか」
「地獄耳っても限度があるっすよお」
鶏肉を頬張りながらドルキマスが九十九にそう聞くと、九十九は苦笑いしながら返事をする。その答えはドルキマスの気にそぐわなかったのか、多少睨めつけながら九十九を見やると、とうの九十九は最後のサンドウィッチのかけらを口の中に放りこんでうなだれた。無茶言わんといてくださいっすよ、と文句を言うものの、うるせえ、と頭にチョップを入れられる。
「理不尽す」
「バッカ言うなやぃ。そこら辺で鳴らしてるベッドの音くれえ聞き取れや」
「それやばいやつっすから!聞き取ったらダメなやつ!!」
「シャブ漬けクソビッチちゃんがいっかもしんねーだろ。もうちょいでお天都さん沈み切るからな、案外ヤってんじゃね?」
「そーすかぁ…?」
「そうだろ。アイツはそういうヤツだ。前にアタシらが乗り込んでった時もその最中だったろ?あの顔は今でも笑えっけどなーケケケ」
「……はぁ」
悪い笑顔を浮かべてそう言ってのけるマフィア元ボスに、その右腕であった九十九は眉を潜ませる。その手の話題、うちがちょい苦手だってことわすれてるんすかねえ…いや確かに何の嫌悪感聞けるって時点で、苦手とかないけどそれでもそういう…ねえ?九十九はうなだれていた体を起こし、頬杖をついて訝しむ顔で運ばれてきたコーヒーをすする。苦味と酸味が口の中にじんわりと広がり、ベーコンの脂を和らげてくれる。
そんな九十九を脇に、ドルキマスは鶏肉にわさびじょうゆにつけたアボカドを乗せてそれを頬張る。美味そうに咀嚼したあと飲み込むと、ちらりと九十九を見、更に口を開く。
「ほれ、あすこのカドッこに座ってる連中。面白そうな話してやがるぜ?テメエの地獄耳の出番だ」
そう言ってスッと指さした場所には、確かに数人で構成されたグループが、なにやらこそこそと話している様子があった。九十九は嫌そうな顔でドルキマスを見る。
「えー…」
「いいから、はよしろ。命令だ」
「うっす」
ドルキマスに急かされ、しかも命令されてしまえば逆らうこともできないわけで、九十九はしぶしぶ了承して言われたとおりに、角の辺りにいる何やら怪しそうな連中の会話に耳を傾けた。つうかいつのまにアイツら来てたんすかねえ…と思うがそこは気にしない方向で、とドルキマスが言ってくる。読んでたな、この人。
『いいか、明日だぞ』
『例のテントでオークションだろ?大丈夫だ』
『準備ならできてる』
『商品の移動は?』
『今日中に終わりますよ。あいつら、反抗してこねえんで楽っすね。自我ないし』
『女王陛下、マリア様が来られるぞ。粗相のないようにな』
『わかってる。我が身はマリア様とともに、だ』
『あと、フォスタファミリアの連中には気をつけろよ。いくら万全に警戒してたとしても、奴らはスキマをすり抜けてくるからな。まあ生きてるかもわからんが』
「……」
「どーだったよ」
「今この場では言えませんなあ」
「そーかよ。んじゃま宿に戻るとするかねえ。九十九、テメエの『左眼』で戻るぞ。金は前払いなんだ、別にいいだろ」
「うぃっす」
「つーか見えてねえんかねえ…」
「さあ?」
そういうと机の上にほんの少しのチップをおき、九十九は自らの左眼を覆っている包帯に手をあてがい、それをぐっと上に押しやる。そして、顕になった左眼の瞼を開くと、そこには見事な『虹色の瞳』が浮かび上がる。
「———『転移』。『宿』へ」
すこしばかり力の入った声で紡ぐと、左眼の虹色がキラリと光った後、いつの間にか2人の姿はそこから消えていた。ソレに気づくものは、誰1人としていなかった。
———————
ボスンッというなにか重いものが落ちた音がベッドから鳴る。その上にゴロリと寝転がる九十九とドルキマス。
「やっぱオメーの『左眼』は便利よなー」
「落ちる形式で、もすか?」
「らくーに移動できんならそれで構わねえんだよ」
「ズボラっすねえ」
「なんでも楽にできたら別にいいだろが」
ドルキマスの言う『左眼』とは、文字通り九十九のいつも包帯に覆われている左の眼球のことを指すのだが、普通とは意味合いが異なる。
九十九の左のアイホールには、『神の玩具』(オーパーツ)と呼ばれし物のひとつである、『至高の虹色』(パーフェクト・レインボーアイ)なるものが嵌めこまれている。
もともとオーパーツとは、人間の技術では到底作り得ない、未知の領域レベルである力が備わった物であり、形やそれに備わっている力も、個体によって大きく異なる。体に憑依したり一部になったりする『肉体型』と、何らかの物の形をしている『固形型』の主な2種類に分類され、九十九の持つオーパーツは、直接肉体に入り込んでいるので『肉体型』のカテゴリに入る。これがもし、銃やナイフと言ったものだったら、『固形型』となる。
ただ、遺伝子や、その家系の存在そのものがオーパーツというものであると、どちらにも当てはまらないのでその場合『不定型』として扱われる。しかし遺伝子に関しては『肉体型』でも良いのではないか、という声があったため、『不定とも取れるし肉体とも取れる』という、なんとも面倒くさく曖昧な分類となった。
『至高の虹色』(パーフェクト・レインボーアイ)は、『保持者に1つの力を与え、更に時空間転移能力も授ける』という力が故、それはもう血で血を洗う凄惨な争いが、それを手に入れんと躍起にになる人間によって、各地で行われていた。が、九十九がそれを偶然にも手に入れてしまったことにより、その争いはぱったりとなくなってしまった。それにより九十九は時空間転移能力と、『なんでも閉まったり取り出したりすることができる』力を授かった。その当人の九十九曰く、これを手に入れた経緯は『ただの事故』と評しており、それ以来自身の左眼に嵌めこまたオーパーツを隠すために、包帯で顔半分を覆っている。こうでもしないと勝手に転移することがあるから、と九十九は苦笑いを浮かべながらドルキマスに報告していた。ちなみに災害前のことである。
「まったく便利なもんよの」
「便利じゃねえすよ。『厄介モン』っす。そんなことより」
「あーハイハイ。報告ヨロシク」
ドルキマスは投げやりにそう言うと、やれやれと九十九はため息をつきながら話し始める。
「さっきの連中、先生の予測の中に入ってたローゼンファミリアすね。女王陛下、マリア様って言ってたんで」
「大当たりィ!やっぱそうだよなァ!!」
「話を続けるっす。んでオークション開催日なんすけど、明日っす。今日中にも『商品』運びが終わるって言ってたっす」
「なるほどなるほど」
「それと、ウチらのことも言ってたっす。フォスタファミリアには気をつけろ、だそうで」
「ケケケケケ。おもしれえ」
「以上報告っした」
「ご苦労!」
ドルキマスは上機嫌に九十九にそう言うと、九十九があらかじめ出しておいた車椅子に座る。肘置きに頬杖をつき、いつもの悪い笑みをいっそう深めさせた。心の底からおもしろい、というように。彼女は胸ポケットから黒いパッケージのタバコを一箱取り出し、トントンと底を肘置きで叩いてやる。すると黒いタバコが一本出てきたので、それを抜き取り口に加え、九十九が差し出したジッポを受け取り、そのタバコに火をつけた。紫煙はゆっくりと上に立ち、そのタバコをすぅっと吸うと、口から煙を吐き出す。その煙に九十九は眉を若干しかめるものの、特に文句は言わずそれをじっと見る。
「やっぱ生きてやがったか、シャブ漬けクソビッチのガバガバクイーン!!そうでなくちゃおもしろかねえ」
「相変わらずっすねえ」
「そりゃそうだろ。こうでなきゃアタシじゃねえ」
「っすね。にしても先生が生きてるなんて、連中どこから情報仕入れたんすかねえ」
「アタシが生きてるとはひとっことも言ってねえだろ、さっきの奴ら。まあ大方ちらばった奴らんなかで生き残りがいて、そいつらがなんか活動してんだろ」
「ありそうなのは?」
「ギルバート」
「ああ、ブラック家の…」
ドルキマスのいうギルバートとは、災害前フォスタファミリアの幹部として、彼女の忠犬と言わんばかりの活動をしていた『ギルバート・ブラック』のことである。彼は組織のために人一倍に活動し、さらにドルキマスに忠誠を誓い、彼女の好物であり主力であったアボカドの貿易に全力を尽くした人物である。そんな彼ならば、彼自身の『オーパーツ』を使って生き延びてどこかで活動しているに違いない。そうドルキマスは信じていた。ブラック家の『オーパーツ』ならば————
「ゆーてももし生き延びてたとしても、災害からもう結構年数経ってるっすよ?ギルバート何歳になってるんすか」
「さあな。まあ案外アイツはしぶといからな。ひょっこり活動してるだろ」
「そっすね」
ドルキマスの言い分にどこか納得した九十九は、うんうんと頷いてみせた。
「それに、もう2人しぶてえのいただろ」
「…確か、吸血さんとキューブさんすか?」
「そ。その2人は絶対生きてんぞ。吸血の方はアタシにご執心のようだしなァ。キューブの方はキューブ使って生きてんだろ。あと生きてそうなのは…」
「あ、新月になるとぶっ倒れてるあの人」
「ああ。アイツもしぶとそうだな。案外そこら辺にいたり」
「ありそうすねえ」
「っとまあそんな話は置いといてだ」
話を切ると、ドルキマスはタバコをまた一口吸って煙を吐く。そして車いすから立ち九十九に向き直り、いかにもな悪い笑みで言葉を吐く。
「明日、巨大テントにて開かれるオークションにて。目標『人造人間』(レプリカ)の奪取及び———オークション自体の壊滅。以上を任務とする。失敗ないよう、遂行しろ」
その言葉に、九十九は先ほどまで座ってたベッドから立ち上がり、含み笑いをドルキマスに向ける。
「了解、『ボス』」