複雑・ファジー小説
- Re: StraИgeRs【オリキャラ募集しております】 ( No.15 )
- 日時: 2017/04/30 22:07
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「……」
朝。カーテンから溢れる朝日が、九十九の顔に当たる。さすがに顔に当たり続けると眼も覚めるもので、よっこいせっと体を起こす。ボリボリと首もとをかき、不意に自分から見て左側にいるはずのドルキマスを見やると、
「エンドレェース…サイクリン…」
と、奇妙な寝言を言いながら右手を天たかくあげ、親指をぐっと立てていた。
「気にしないでおこ…」
九十九はそう判断をし、ドルキマスを起こさないように注意しベッドから降りて、支度をすることにした。
風呂、トイレと併設になっている洗面台の前に立つと、まずは寝ている間にずれてよれよれになってしまった、左眼の包帯をはずし、水で顔を洗う。ある程度さっぱりすると、はずした包帯で左眼に巻き直す。
「よしっ」
きっちり巻けると九十九は小さくガッツポーズを取る。すると突然後ろから、にゅっと腕が九十九に伸びてきて、のしっと体重が体にかかった。小さく呻くと後ろにいる上司に苦言を呈する。
「おはよっす先生。あと、のしかかってくんのやめろくださいっす」
「こーとわーる。あークソネミぃ」
そういって更に体重をかけるドルキマス。そのドルキマスをうっとおしげにペチペチと叩くが、ドルキマスは動こうとせず、しかも寝ようとしてくる始末。さすがにイラッと来たので、九十九は強行手段に出ることにした。
九十九はドルキマスをなんとか振り払い、一度脱衣所から出て部屋に戻ると、ボックス型のカバンをむんずとひっつかみ、脱衣所に入ってドルキマスの目の前でそのカバンを開く構えをする。そしてニヤリと笑った。
「先生!!そんなにしてっとカバンにしまうっすよ!!」
「嘘でもしねえの知っとるわ。テメエアタシのことだーいすきだもんな?」
「ぬぐぐ…あ、でも大好きは否定するっす!!」
「素直じゃねえー」
むぅと頬をふくらませるドルキマスは、しぶしぶ九十九から離れ、部屋に戻っていった。そんな彼女をまったくもうと呆れつつ、備え付けの歯ブラシに歯磨き粉をにゅっと出して歯を磨き出す。そしてぼんやりと思考にふける。
今日はオークション会場を叩いて、人造人間(レプリカ)の奪還、そして主催のローゼンファミリアにちょっかいを出して金を巻き上げる…だったかなあ。というかオークション会場を叩くこと自体が、向こうにちょっかいを出してることにかわりないとおもうんだけどなあ。まーいいや、そゆこと深く考えてるとハゲそうだし。とりあえず先生のあとついてけばいいか。っつうか寝起きの先生めんどくさいんだよなー。さっきみたいに絡んでくるし訳わっかんない話ふっかけてくるし、そろそろあの悪い癖やめさせたいんだけどなあ…って
「ふぇんふぇい…」
「あ?」
「いふのふぁにいふぁんふか」
「ついさっき。つうかさっさとしろ。おいてくぞ」
「ええ…」
いつのまにか後ろにいたドルキマスに、九十九の思考はそこで途切れた。ドルキマスはぼーっとしながら歯を磨く九十九にいらだちを感じたのか、ケッと言いながらそう急かしてくる。いやさっきまでアンタ寝ぼけてたでしょどこにいったんすか、などとは歯を磨いている手前言えるはずなく、その言葉は歯磨き粉の泡と水と共に、洗面台の向こうへと流れていった。ほんっとこの人は理不尽だ、と口元を拭いながら思う。
「ほれ着替えろ。いいか、10秒以内だ」
「いやスーツは10秒で着替えられないっす」
「しゃーねえ30秒だ」
「無理があるっす」
「いいからさっさと着替えてこいや。テメエが車椅子出さねえ限りこっちは自由に動き回れねえんだよ」
「うーす」
げんなりとしつつ九十九は部屋に戻り、クローゼットからスーツを取り出す。オプションは真っ黒なジャケットと真っ黒なマフラー、そして真っ黒な帽子と手袋。ハタから見たらただのマフィアだが当人たちは立派に元マフィアであるので何ら問題はない。暑い時期はさすがに視界に入れたくもない格好だが。
ばっと黒のワイシャツを着、黒のズボンを素早く履く。白のネクタイをしゅっとしめたら、ジャケット、マフラー、手袋、帽子の順に身につけていく。
そうして出来上がった元マフィアの九十九に、元マフィアのドルキマスはやっとかと声をかける。
「おせえ」
「結構速いほうだとおもうっすよ!?」
「アタシがおせえっつったらおせえんだよわかったか」
「常々思ってるっすけど、理不尽すよね先生」
「悪いか」
「悪いっす」
「あぁ!?」
「どーうどーう。さっさと行くんでしょー。車椅子出すっすから」
「コイツ…」
九十九はドルキマスを流して自らのカバンから、ドルキマスの車椅子を取り出す。スポンッと小気味いい音がなると、車椅子が広がった状態で勢い良く飛び出してくるので、九十九はそれをひょいっと捕まえて静かに地面に降ろす。その車椅子にドルキマスがドカッと座り、フンと鼻を鳴らす。腕を組み、後ろにいる九十九に振り向くと口を開く。ニヤリと、悪い笑顔で。
「んじゃ、いくぞ。あのクソビッチにちょっかいかけに!!」
「レプリカは?」
「ついで!!!!」
「ついでに下がった…!?」
———————
目的地、現在での地名『ペニュモニア』、旧イタリア北部。
「いやあ人だかりすげえっすね」
「そらー、表向きは慈善事業とお祭りだかんなァ」
ドルキマスたちはオークション会場の近くまで来ていた。が、予想外の人だかりに九十九は感嘆の意をもらす。
そう、いまこの場は表向き、慈善事業と日本で言う『縁日』のような祭りとして近くには広められている。人を程よく集めてカムフラージュにでもする考えなのだろうか。
「…で、どうするすか。潜入」
「こいつを使う」
そういってドルキマスは懐から1枚の鏡を取り出す。その鏡に、九十九は目を見開く。
「もって…きちゃったんすかあ…それえ?」
「使えるもんは持ってくのがポリシーな性分でな」
「にしてもそれ…【幻影の写し身】《ファントム》持ってくるって…それウチの家宝じゃないすかあ!」
そう、ドルキマスが取り出したのは、九十九家の家宝、神の玩具(オーパーツ)の【幻影の写し身】《ファントム》。本来ならば九十九の実家で厳重に封印されている代物のはずなのだが、その家宝は今、目の前の人物の手の中に在る。九十九が驚くのも当たり前の話だ。
「テメエを勧誘する時にジャッポネに行った記念としてくすねてきた」
「いやいやいやいや!!家宝なんでくすねるんすか!!しかも記念って!!」
「いーじゃねーかもう災害後なんだしよー」
「それは…まあ…うぬぬ」
「ほうれさっさとやんぞ。アタシらの顔はもうとっくにバレてんだからなあケケケ」
そう言ってドルキマスは自分の顔をその鏡に写した。するとどうだろうか。鏡からなにか風のようなものが吹いたと思ったら、その風は彼女を包み、みるみる隠していく。そうして一瞬の後、風がばあっと過ぎ去り包んでいたものがなくなると、そこには清楚な女性が憂いを含んだ表情で車椅子に座っていた。その女性はとても華奢で、守りたくなるような雰囲気を醸し出していた。が、そんなイメージは次の瞬間に崩れ去ることとなる。
「ケケケ、うまくいったみてぇだなァ」
「台無しだー…見た目いいのに台無しだ—…」
その憂いを帯びた顔は、悪い笑みを浮かべたものに塗り替わり、九十九はついつい声に出してしまった。清楚で純粋そうな女性の姿が、そのセリフによってガラガラと夢をぶち壊された瞬間であった。
【幻影の写し身】《ファントム》は、その名の通り鏡に写した人物を、全く違う人物に変えてしまうというオーパーツである。その効果故、何にでも応用できることから、鏡を所持していた当時の九十九家当主は、厳重な封印をかけ蔵にしまっていたのだ。何人たりとも近づけぬよう、触れぬようにと。しかし何を思ったかドルキマスは、災害前、当時まだ幼い九十九を引き取り(と書いて誘拐と読む)に来た時に、目を盗んで鏡の封印を解き、蔵から持ちだしたというのだ。どうやったかは知る由もないが。
なくなったと思っていた家宝が、今目の前で披露され、それを実際に家の血筋の者以外が使っている場面を見てしまった九十九は、なんだか複雑な気持ちになっていた。しかも持っていった理由が「日本に来た記念」では、さらに心境は複雑がかんじがらめになっていく。
「おら、オメエも」
「うーす…」
家宝をあたかも携帯のように渡された九十九は、ため息をつきながら鏡に自分を写す。
すぐに鏡から風のようなものが吹き出し、一瞬で九十九は別の人間の容姿になっていた。若干老いが入った女性だが、背筋はしゃんとしている。気品を感じさせるその姿はまさにマダムで、今のドルキマスと並ぶと、まるで母娘のようであった。
「あら…私はこのような姿ですか」
「お母様、キャラが変わっておりますわ」
「貴方も、人のことはいえなくてよ」
「そうですわね、ふふ。失念しておりました」
ドルキマスと九十九は、今なっている人物になりきって会話をし始める。いつものしゃべり口調ではかなり怪しまれるからだ。当たり前といえば当たり前だが。
「それよりも先ほどの。ここでして良かったのかしら」
「心配いらないわお母様。見ないようにと念を出しておきましたから」
「(こっちを見る人たちがなんか怖いものを見たような顔で逃げてったのはそのせいすか…)」
実は先ほど2人が会話していた時、全身真っ黒という変わった人物がいたからよってきたのか、近づく野次馬たちをドルキマスはものすごい目で睨みつけたため、怖がって誰も彼もがさっとそこから逃げていったということがあった。九十九は気にしていなかったのか気づいていなかったのか、ドルキマスがそんなことをしていたのは知らなかったようだが。
「とにかく。これで潜入できますわ。早く参りましょう」
「え、ええ。そうね…えーと」
「『ナターシャ』よ、お母様」
「そうね、ナターシャよね。早く行くとしましょうか」
ついさっき思いついた偽名を出すと、九十九はわかったように頷いて車椅子を動かす。
さあ、ここからは戦場という名の『トイ・パーク』だ。