複雑・ファジー小説
- Re: StraИgeRs ( No.4 )
- 日時: 2017/01/05 19:08
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「っだぁぁぁぁぁぁ!!!!極殺の黒炎様のお通りだぁぁぁぁぁ!!!!」
「ボスー!!待ってくださいっすー!!」
「先生って呼べや!!!!」
何も無い更地。ひゅうひゅうと風が吹く中、ある2人が走り抜く。1人は車椅子に乗り、黒のスーツを着て黒の手袋をはめ、眼鏡をかけた若々しい女性。もう1人は水色のロングヘアーに、同じ黒スーツを着て黒帽子を被り、傍らにボックス型のカバンを携えた長身の女性。その女性2人組は、何故こんなところでただ走っているのか。
「組織が無くなった今、アタシはもうボスじゃねええええ!!!!」
「それはいいんですけどもー!ちょっと待ってくださいっすよー!!」
「うるせえテメエには『左眼』があんだろが!!」
「いやそれは確かにそうなんすけど……!!」
「だったら黙ってついてこいやぁぁぁぁ!!!!」
「ボ……じゃなくて先生ー!!ほんと待ってくださいよー!!」
今、車椅子のエンジンを全力でかけて荒野を走る女、『ドルキマス=フォスター』と、その車椅子を必死になって追いかける女、『九十九 閉伊』(つくも へい)は、今夜泊まる宿がある街を必死に探している最中であった。
この、荒廃した地球の中で。
【第1話:Hello,world!】
ことの始まりは数十年前に遡ることとなる。
突如として原因不明の謎の大災害が地球を襲い、世界は一瞬にしてそれ迄の日常から終わりを告げた。海は大口を開けて何もかもを飲み込み、風は吹き荒び、大地はスクラッチのようにえぐれ、空はあたかもすべてを諦めたかのように真っ黒になった。当然、その影響で地球に住んでいた人間も、生きとし生けるものたちが息絶えていった。
しかしその中でもなんとか命を繋いだものがいたようで、世界の総人口はそれ以前の5分の1にまで減少した。こうなっては戦争どころではない。残った者達でどうにかして生きる術を手探りで見つけ、子孫を少しでも残そうと必死になっているのが現状だ。あるだけをかき集めて住まいを作ったり、どうにかして残った作物を使って農耕をしたり。とにかく明日のために皆必死なのである。今死ぬかもしれないし、今日も生き延びたと思ったらその瞬間死ぬかもしれない。生きるためには皆、身を粉にして動き続けるしかないのだ。
などということを思わせない者が、約2人ほどいるのは確かなようで。
「おらおせえぞ九十九ォ!!」
「そりゃ……っ先生は……っエンジン付きの……っ車椅子だから……っそう思うかもしれ……っませんけど……ねえっ……!!」
「おいおいもう息上がってんのかよスタミナ切れんのはえーな」
「こちとらずっと走ってたんすよ……ッ!!」
「ったくしゃーねえな。5分休憩したらまた走んぞ」
「勘弁して……」
ぜぃぜぃと息を切らす九十九に対し、呆れながら車椅子のエンジンを緩めてゆっくりと近づくドルキマス。
「ったくテメエはんとに体力ねえよな」
「いやいやいやうちももう人間の体やないすから」
「にしてはおめー、貧弱すぎんだろ」
「休憩なしの50分間全力で走り続けてりゃ、そりゃ体力も切れますから……!!」
「あー……そんなもんか?」
「そんなもんす!……ってあれ?」
そんな言い合いをしていると、九十九がふと何かを見つけたようで、遠くを見て声を出す。ドルキマスはそんな九十九を不審に思い、何があった、と警戒しがちに聞いてみる。
「いや、あれ……」
「はあ?……あ」
荒野の向こう側——吹き荒ぶ土煙を超えた先に、ぼんやりと見える恐らく建物の影。その影がぽつりぽつりと重なっているそこは、もしかしたら———
「街、じゃないすか?」
「……」
その言葉に、ドルキマスは密かに目を鋭くさせた。
———————
「部屋は1つしか空いておりませんが、宜しいでしょうか?」
「ええ、はい。先生もそれでいいすよね?」
「おう。構わん」
「それではこちらの鍵をどうぞ。205室になります」
コトリとカウンターに置かれたルームキーを受け取ると、九十九はドルキマスの方へと向き直る。
「先生、行きますけど……階段平気でしたっけ?」
「さっき見てきた。あの程度なら別に問題ない。行くぞ」
そう言うとドルキマスは、先程から座っていたその車椅子からすっと立ち上がり、しゃんと背筋を伸ばしてコツコツと歩き始めた。その光景にカウンターにいた受付嬢は大層驚いた顔をする。九十九はそれをちらと見ると、そりゃそうっすよねー、と心の中で独りごちた。今まで車椅子に座っていた人間が、いきなり立ち上がってあたかも当然のように歩き始めたのだから。しかも平然と階段を昇っている。一体何が起きたんだとか、普通は思うだろう。
「(あの人の場合、『歩けなく』て車椅子に座ってる訳じゃないからなー……)」
九十九はそれ迄ドルキマスが座っていた車椅子を、携えていたボックス型のカバンをあけてその中に入れて仕舞うと、ドルキマスのあとを追うように部屋へと向かった。
「……今の人、車椅子カバンに入れてなかった?」
「入るもんなの?」
またしても信じられない光景を見た受付嬢たちは、その場で口をあんぐりと開けるだけだった。
———————
「さっきの顔すごかったっすねー。受付の人」
「アタシ見てねえぞ」
「いやー、先生が車椅子から立って平然と歩いてるの見てすんごい顔してましたよ!!あれは是非写真に収めたかったー。まさにクララが立ったー!みたいな!!」
「オメエアタシをなんだと思ってんだ」
「元一大マフィアのボス」
「……」
部屋に入ったあと、荷物を下ろすと九十九がそんなことを言い始めた。ドルキマスが九十九に多少の不満を混ぜつつそう言うと、帰ってきた言葉で言葉に詰まる。マジでそうじゃないすか、と言われると言い返せなくなるドルキマス。苦い顔をして九十九を睨めつける。
元々ドルキマスは、災害が起こるまで大規模なマフィア組織『フォスタファミリア』のトップに立っていた。その組織は主に貿易、特にドルキマスの好物である鶏肉とアボガドに力を入れていた。しかしながら裏ではかなり汚い仕事もしていたようである。災害後はお察しの通りだが。
「それともなんすか?極殺の黒炎とでも呼びゃいいんすか?」
「それやめろよ勝手につけられただけだし」
「えーでもお似合いっすよ。闇の瘴気を纏い、黒炎で炙り殺す!まさに先生じゃないすか」
「やめろ。やめろ」
九十九のその言葉に、ガックリとうなだれるドルキマス。その様子を見てケタケタと九十九は笑った。
極殺の黒炎とは、かつてドルキマスに付けられた異名である。ドルキマスは話に出たとおり、戦闘時には闇の瘴気を纏い、黒く染まった炎を操り、極めて残虐な殺し方をするのでこの名がついたとされている。ただ本人はこの名前をよく思ってないらしく、理由として「ネーミングセンス無さすぎダサい」とのこと。ちなみに九十九は面白いからいいじゃないすか、との一言をドルキマスにしたところ、アームロックを十数分ぐらいかけられたそうだ。
「現役時代はその能力を使ってどれだけの反逆者や他の組織の内通者を葬ったことか……」
「いつの時代の話だ」
「災害前すから、数十年くらい前すかね?」
「昔話にも程があんだろ。そのへんでやめてくれ」
ぷらぷらとドルキマスがそう言って手を横にふると、九十九はちぇーと残念そうに口を閉じた。
「つかコールドスリープ装置なんてよくありましたね」
「あー、確かなんとなく作ったってだけの装置だったからな。使い時も分かんねえし、テキトーにあすこに放置してたんだわ。ま、ちゃんと作動して良かったが」
「ちゃんと作動してなかったら、うちら今多分あの装置ん中でずっと寝てたっすよ……?」
そう言って九十九は、自らのカバンを開き、そこに手を突っ込んでドルキマスの車椅子を取り出した。ドルキマスは先程まで座っていた椅子から立ち上がり、広げた車椅子にドカッと腰を下ろした。
「ていうか、その足の呪い、ほんとなんなんですかね?災害による『呪い』なんすかね?ほんとに」
「それを追求するために今こうして旅してんだろうが」
「まあそう言われればそれまでっすけど……」
謎の災害が起こった直後、ドルキマスと九十九は急いで組織の地下室にあったコールドスリープ装置へと入り、災害をやり過ごした。しかしその時の影響か何か、ドルキマスの足に『呪い』がかかり、コールドスリープから目が覚めた時は実に、災害から数十年のあとの世界だということに気づくと同時に、全く『走れなく』なっていた。走るということ自体出来なくなっていたのだ。しかも長距離歩くこともままならなくなっていた。そこで、テキトーに作ってそのまま放置されていた車椅子を使うことで、こうして生活が出来ているのだが。
「走れねえのは問題だよな……」
「長距離徒歩も出来ねえすからね」
このまま車椅子生活を続けようにも、不便極まりない。それにマフィアも復活させたい。ついでにいえば今のうちに世界を牛耳りたい。そんなついでがついでじゃない目的で、丁度いいから九十九と放浪の旅をしているのが今。一向に解呪のヒントもなけりゃ、組織を作ろうにもドルキマスの気に入る人間にすら会えない。
「先生ー、そういやですねー」
「なーんだその気の抜けた喋り方ー」
「いや先生もじゃないすかー。さっき小耳に挟んだんすけどー」
九十九は備え付けのベッドにぼふりと体を投げ出したあと、気の抜けた声でドルキマスに話題を持ちかけた。
「なあーんかー、近々人身売買オークションやるみたいっすよー。ここ近辺でー」
「そうかー、それがどうしたー」
「そん中にぃー、どーにも『人造人間』(レプリカ)がいるって話なんすよぉー」
「…………おい、まじか」
人造人間(レプリカ)、という言葉に、先程までぐだりとしていた体を急に前かがみにして九十九を問い詰めるドルキマス。九十九はそんなドルキマスをどうどうと押し止めるや、まあ小耳に挟んだ程度すけど、と続けた。
「もしかしたら、うちのバカ共がやってたあの研究の……じゃないすかねえ。なーんか目玉商品言うてましたし。つかレプリカ、あの後消息不明になってたっすよねえ。まさかとは思うっすけど……」
「おい、そのオークションやんのいつだ」
「へ?近々としか聞いてないすけど、多分あの様子だと明後日とかじゃないすか?」
「なんでそう言いきれる?」
「いやあ、なんか大掛かりなテントだかなんだか張ってたんで」
「へえー……?」
九十九の話を聞いているうちに、ドルキマスの顔はどんどん黒みを帯びた笑顔になっていく。九十九が気づいてぎょっとした時にはもう遅く、フフフフフと悪い笑い声を漏らしていた。あっちゃー、スイッチ入れちゃったか……、と九十九がため息をついている間に、ドルキマスは完全に悪いスイッチが入ってしまったようだった。こうなっては九十九が殴っても止まらない。
「一応聞くっすが、何しでかすつもりで……?」
「は?決まってんだろ」
ドルキマスは車椅子からすっと立つと、
「オークション行って、金目になりそうなもん奪ってくんのと、レプリカ確保だ」
とてもとても悪い笑顔で、自らの手から黒炎を燃え上がらせた。
続く