複雑・ファジー小説
- Re: StraИgeRs【オリキャラ募集しております】 ( No.5 )
- 日時: 2017/02/12 20:08
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「……それはつまり、オークション会場を襲撃するって意味すか?」
「バッカちげーよ」
「そんじゃどういう意味す?」
「普通に入り込んで、人造人間(レプリカ)をとったら、その会場ごと燃やす」
「意味合い同じじゃないすか!どこが違うんすか!!」
「うるせえいきなり会場燃やしたらレプリカごと燃えんだろーが!!ソッチのほうがはえーけどな!」
「あ、やるきだったんすねえ」
とても悪い顔をしていたので、九十九は念の為に聞いたところ、ドルキマスから、あってないようで予想通りの答えをもらった。その答えに九十九は思わずツッこむものの、最ものような言葉がドルキマスから飛び出、妙に目つきを薄ませる。その顔にドルキマスは何だ、と、トーンを低くして九十九に投げるが、九十九は手を横に振りながらなんでもないっす!とごまかした。
「つか、立ってて大丈夫すか?」
「このくらいならなんともねえよ。つうかレプリカ、いなくなったと思ったらオークションに出されてたんか」
「驚きすねえ」
「大方、どっかのシャブ漬けクソビッチに見つかって、売りに出されたんだろうさ。ったく、あのクソビッチはやることがいちいちえげつねえ」
「(それ先生が言うんすか…)」
「なんだ」
「いえ!何でもないっす!!」
ぶんぶんとまた手を横に降ってごまかす九十九。ドルキマスはそんな彼女を訝しむが、ため息をついて思考の海に沈む。
ドルキマスの言う「シャブ漬けクソビッチ」というのは、災害前、フォスタファミリアに何かと因縁をつけてきた「ローゼンファミリア」のトップである、『マリア・サッチャー』のことである。ドルキマスたちが黒基調のスーツを基本としているのに対し、マリアの組織は白基調のスーツまたはドレスワンピースである。
ローゼンファミリアは、表はチャリティーやボランティアを主な仕事としているが、その裏では人身売買や臓器密売、果てはマリア主導で、麻薬取引や販売も行っている、極めてどす黒い組織だ。ヘタをすれば、ドルキマスのフォスタファミリアよりもタチが悪い。麻薬取引をトップ主導でやっているのならなおさらである。
そんな悪行もいいところのマリアを、ドルキマスは皮肉と蔑称の意をふんだんに込めて、『シャブ漬けクソビッチ』と呼んでいるのである。ちなみにクソビッチが本当かどうかと言われると、本当である。彼女は災害前から、数多の男(ただし見た目が良い方に最高クラスであることに限る)に、その体を許している。その後の男たちは神と彼女のみぞ知るが。
「って待ってくださいっす先生」
「んあ?」
「マリアって『今』でも生きてるんすか?あの災害っすよ?神の玩具(オーパーツ)とか、秘術みたいなもんとか、それこそ、うちらみたいに冬眠制御装置(コールドスリープ・マシン)でもない限り…」
「生きてるだろうよ。第一、アイツはどんな人間か忘れたか?」
「そりゃあ…まあ…わかってるつもりすけど…」
「あんなやつが、そうやすやすと災害ごときで死ぬか?死なねーよ、あのクソビッチは」
「…そんなもんすか」
「そんなもんだ」
確かに、ドルキマスと九十九は、コールドスリープマシンがあったからこそ、災害を生きながらえた。だが、そんな装置が、盗んだのならまだしも、マリアのローゼンファミリアが所持しているはずはない。無論、そんなものをつくろうという気さえ、災害前のローゼンファミリアにはなかっただろう。だが、一丁前に非人道的なことをしている組織である。なにかしらこさえてあって、それで災害を乗り切り、のうのうと今を生きていることも、可能性がないわけだはない。それにマリアは———
「アイツ、アタシを自分の手で殺そうと躍起だったしなァ」
「あー、さいですか」
どんな手段を使ってでも、マリアは今生きているだろう。ドルキマスはそう確信していた。
「つうか…先生」
「なんだ」
「今回のオークション、ローゼンファミリアだってことは確定してないすよ」
「……」
「なんで連中だって口から出たんす?」
「……白昼堂々オークションやってんのあいつらしかいねえだろ」
「あ、もしかしてなんも確証もなしに口走ったっすか」
「うるせえ」
「つかいつからローゼンファミリアの話になったんで」
「……うるせえ」
「ほんとにただただ口走っただけなんすね」
やーいやーい、と九十九がドルキマスを煽ると、うるせえと、更に声のトーンを低くして睨めつけた。
「どうどう。んまあとりあえず、そのオークションが開かれないことには、なんとも言えないっすよー」
「そりゃそうだがな」
「それに、近いうちでしょうけど、いつやるのかわかんないっすよ?その状況で行動を今決めると、後の祭りになっちまうっす」
「でもだ。始まってからじゃ遅すぎる」
「うぬぬ」
九十九はドルキマスのその言葉に唸る。確かに始まってからじゃ遅い。始まってそこから動いても、すでに手遅れになる時だってある。が、早め早めにと準備が早すぎても、もし予定と違って見立てが狂ったら元も子もないのだ。
何しろ人身売買オークション。遅かれ早かれ、売りに出された者達は、人のいい者に買われなければ地獄を見ることとなる。それがもし買われたのがレプリカならばなおさらだ。
レプリカはオークションでは通常、人間としての自我が目覚める前に売りに出され、買った人間の手で目覚めさせる。レプリカはもとより、最初に目が覚め、なおかつ最初に見た人間を主人(マスター)として認識する。そしてそのマスターに忠実に従う性質を持つ。それを利用して、自身の慰みものにしたり、『そういう性癖』のはけ口にしたりという人間が少なくない。金持ちほどそれ用のレプリカを多く所持しているほどだ。
ちなみに災害前より人身売買は禁止されている行為であるので、フォスタファミリアはそういったことをしている組織を壊滅することも請け負っていた。だが現状世界がこうなっては法律もクソもない。嬉々として商品を売ったり買ったりする輩はわんさか出てくる。
「そういうやつらをいっぺんにまとめて締め上げる絶好の機会だぞ?逃すわけには行かねーよ。それに、今の世界について一つでも情報を絞りだす必要もあるし、何より」
「何より?」
「大金を巻き上げることもできる」
「あ、そっちが本音すね」
ケケケ、といかにも人の悪そうな笑い声をあげてメガネをギラギラと光らせるドルキマスを見て、九十九はため息をつく。この人は絶対に敵に回したら最後、社会的にも精神的にも物理的にも躊躇なく自分を殺しそうだ。
というか、そもそもの話なんすけど、と九十九は口を開いた。
「今この世界で、『金』って…そんな影響及ぼしますかねえ。金があってもモノがなけりゃ買えないしょ」
「何言ってる。金だって、立派な『モノ』だろ。溶かして銀や銅にすりゃ、日常的に使えるモノに変えることも出来んだからよ」
「あ、それもそっか」
「それに紙幣だって、『メモ帳』にゃなるだろ」
「高額紙幣をメモ帳呼ばわりっすか」
「現状それぐれーにしか用途ねーだろ。いや、あることにはあるが」
「金持ちの間だけっすか」
「それもきたねえ用途だな」
「うす、なんとなくわかったっす」
げっそりした顔で九十九がそう言うと、ドルキマスはニヤリと笑う。ま、そういうこった、と付け加えて。
「だから、金は必要なんだ。アタシらの元の職業は何だった?」
「マフィアっすね」
「なら、なおさら必要だ」
その部分を力強くいうと、ドルキマスはさっさと飯食いにいくぞ!と、意気揚々と車いすに座り直し、部屋を出て行ってしまった。
「たしかにそう言われると、妙に納得するっすけどねえ…って」
とそこで九十九はハッとあることに気づく。先ほどドルキマスは、車いすのまま外へ向かった。そしてその先に在るのは、車いすでは下れない、階段があることに。
もしかして、車いすのまま階段降りたりなんてしないっすよね…?
九十九は急いで鞄を手にして扉を開き、
「ちょっ、待ってくださいっす先生ーッ!!」
と、宿全体に響くくらいの音量で叫んだ。
———————
「……」
ここはある場所。冷たく暗く、周りではすすり泣く音や、のんきにすやすやと寝息を立ている音が入り交じっていた。
そんな中で1人、じっと黙って地面を見つめる者がいた。
「……」
その者は、ニッとギザギザの歯を魅せつけるように
『嗤った』。