複雑・ファジー小説

第六階層 〇〇との出会い  ( No.8 )
日時: 2017/02/04 14:37
名前: 姫凛 (ID: /JJVWoad)







「…広い場所?」

第六階層についてすぐに見えたのは。初めて見る場所だった。

縦長の円形の広い部屋? それとも建物? 天井は吹き抜けで天辺はすごく上の方、螺旋階段が周りを囲んでいる。

壁は古い石? 所々に苔が生えててツタも垂れている。石に触れてみると

「…冷たい」

こちらの体温を奪う。この石が体温を奪うからここはなんだか少し肌寒い感じなのか。

「まるで牢獄のようですね…」

「ろうごく?」

僕は牢獄と言うものを知らない。

前にドルファに騙されて、椿の牢獄という所に捕まっていたこともあるけどあそこは…とちらかというとからくり屋敷って感じだったから。

「牢獄は普通、犯罪を犯した者が入る場所。ではこことシルさまにはどのような関係があるのでしょう?」

「…あっそうか」

ここはシルさんの心の中(プリンセシナ) シルさんの記憶の再現。

追体験しているようなものだった。だからここにも少なからずシルさんとの関係があるはず…なんだ。

『シルや』

「この声は…」

声がする方へ行ってみると、やっぱりパクホー伯爵がそこにいた。近くにはシルさんの姿もある。第五階層で見た時よりも大きくなったみたい?

『お前が我が屋敷に来てから、幾年たったかの?』

『……二年です。パクホーさま』

『おお、そうであった。そうであった』

「…二年」

二年間もシルさんはあんな酷い仕打ちを耐え続けているんだ…。

『娘たちは我儘放題でさぞ大変だったろう?』

『………』

『して。今日はお主にも褒美じゃ』

『……ほうび?』

『入ってまいれ』

パクホー伯爵がそう言うと、大きな鉄で出来た扉がゆっくりと開かれ

『……』

一人の少年が入って来た。

「あれはっ!?」

「お知り合いですか? ご主人様?」

知り合い、なんてもんじゃない! ウサ耳で赤い目の和服の少年。あれは忘れもしない

ドルファフィーリング主催のパーティーで、僕に睡眠薬入りのジュースを飲まして

ドルファフィーリング主催のコロシアムではシルさんを景品に仕立てた張本人

ドルファ四天王が一人

「ユウ!!」

「……ユウさま?」

「なんであいつがこんなところに!?」

『……』

ユウは無言だ。無言で下を向いている。

シルさんも訳が分からないって顔をしている。それは僕も同じだ。

『フォッフォ。どうじゃ? 驚いたか? 』

『…はい。その子は』

『なに。元々は、馬が気に入らないと我儘を言い出したメリアントの為にドルファから買いと取った兎だったのだかな。
 まさかのメリアントが気に入らないと言い出し、せっかく買ったのにもったいないと妻が言うので
 お主に白羽の矢が立ったというわけじゃ』

『……』

唖然だ。なに…? その身勝手な理由は…。

パクホー伯爵は続ける。 フュムノスとリリアンの混合種は珍しいからそれで新しい商売をするのもいいかもしれない…って。

「…混合種?」

「他の種族とのハイブリット。人を人と思わない愚の骨頂ですね」

本当に…。本当に…そうだね。

嗤いながらパクホー伯爵は部屋を出て行った。この場にはシルさんとユウと僕たちだけが残された。

『『………』』

二人は無言で見つめ合っている。

『……その耳』

しばらく見つめ合ったあと、先に口を開いたのはシルさんだった。

『…なんだよ』

ユウはシルさんから視線を外し、高い天井を見ている。

『…可愛いね』

『ッ!?』

シルさんは静かにユウに向かってそう言った。ユウの耳がビクンッと動いた。

『なにをっ…言って…』

『貴方を見てると、小さい頃の友達を思い出すよ。
 家の近くの森に棲んでた子ウサギでね…』

シルさんは昔話を始めた。幻の階層で最後に見た以来の、シルさんの笑った顔。

楽しそうな笑顔。ここに連れて来られてから、初めて見せた笑顔。

『……』

最初は退屈そうに聞いていた ユウも次第にシルさんの話を真面目に聞きだす。

『君は愛されてたんだね』

『愛? 私にはよくわからない…でもそうだね。
 お父さんとお母さん、シルビアに森のお友達。みんなみんな大好きだよ』

今も。と最後にシルさんは小声で言った。それを少しイラついたような、少し羨ましいそうな、顔でユウは聞いている。

『ねぇ…貴方の『ボクに友なんていないよ』

シルさんが質問する前にユウは答えた。その答えにシルさんは笑顔で優しく

『じゃあ、私が貴方の初めてのお友達ね』

と答えた。ユウは最初、驚いた顔をしてたけど、ふんっと言ってそっぽを向いてしまった。

「なんなんだ? あいつ…そっぽ向いたりして…」

「青春ですね♪」

そしてなぜかパピコさんがキラキラ輝いているような気がする…。

「青春ってなに…?」

「青い春でございますよ! ご主人様♪」

…。よけいにわけがわからなくなった、ような気がする…。




[第六階層…。ここまで来ちゃったんだ。アソビはここまでってとこかな?
 仕方ない、ボク自ら相手しますかっ。次の階層で待ってるよ、ルシア。
 この手で、無残に 残酷に 無慈悲に コロシテあげるよ キミを…ね]