複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン-椿の牢獄- ( No.5 )
日時: 2017/09/12 17:19
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: PCEaloq6)

ドルファフィーリング。我らの王バーナード様が作り上げた企業。
表向きには食品、不動産、旅行サービス、孤児院の経営、地域振興などを行っている総合企業という事になっている。
我もまた表舞台では、極度の人見知りで恥ずかしがりやなムラクモとして、ドルファのぼでぃーがーどなるものをやっている。
具体的には何をする仕事なのか聞かされていないが、重要人物を見張って暗殺者に横取りされないように見張り守ればいいらしい。
裏の仕事。本来の仕事では、殺し屋・暗殺者・始末屋。様々な呼ばれ方をされるが、ようは王にあだなす厄介者をこの世から消す。単純な仕事だ。

今日も新たな獲物を捕まえた。

長年王自ら探し求めていた、メシアと呼ばれる種族の最期の生き残りの一人。ルシアという名の少年だ。
ドルファ主催のぱーてぃなる茶会に誘われ、のこのこやって来たところを睡眠薬入りのじゅーすなる飲み物で眠らせ、ここ椿の牢獄に捕らえておくことになった。
我がそう王に頼んだのだ。此処ならば自身の目でじっくり吟味することが出来るから。

メシアの少年と出会ってから少し調子が悪いのだ。
無意識にため息をつき、胸がもやもやとして気持ちが悪い、食欲があまりなく普段なら十人前なぞ軽く食べれていたのに、最近は一人前を食べるのでやっとだ。こんなことは初めてだ。
…奴に可笑しな病気でもうつされてしまったか。


「起こさんよーに慎重になぁー。ん?どうしたんや、叢ちゃん?」

あまり感じていなかったがどうやら、長い時間考え事をしていたようだ。時計の針が進んでいる。
そして見たくもない眼帯親父の顔が目の前いっぱいに占領されている。相変わらずこの男の顔は、見るに堪えないな。
なんでもないと言ってロックスの横を素通り。

「少し汗をかいた。風呂に入る」
「あっ、そうか。ほんじゃ、こいつはわしらで片づけとくわ」
「あぁ。頼んだ」

メシアの生き残りことはひとまずロックスの奴に任せておくことにしておこう。
煮ても焼いてもくえない奴だが、腐っていても一応は、ここ椿の牢獄の看守長。頼りになるとき…なぞ待ってられん。今すぐにでも役に立ってもらうことにした。

椿の牢獄で用意された自室へと向かう。
そういえば、ここに来る者皆口をそろえて此処は入り組んでいるから迷子になる。嫌いだ。などどぬかしていたな。我からすれば地図を見ればいいだろう、と言いたくなるものだ。
看守長に置かれている椿の牢獄の設計図。あれを見れば一目瞭然というもの。仕組まれているからくり仕掛けも全て記載されているのだから、それを利用すればいいだけの話だ。
敵に利用されたならば終わりだがな。

「着いたか」

考え事というのはいかん。あっという間に時がすぎてしまう。
【ワシと叢ちゃんの愛の巣】などと書かれたプレートをへし折りつつ、指紋認証で鉄の扉を開き中へと入り、王から頂いた。心を鬼にすることが出来る秘密道具、般若をかたどった面を机にそっと置て、そのまま脱衣所に向かい初陣を頑張った褒美にと王から頂いた血で紅黒く染まった鎧を脱ぎすて、しゃわーるーむなどと変な名前の箱型の湯船へ入る。


「そういえば…前にロックスの奴が」

我の自室はシンプルすぎるとやんやん言ってきたのを不意に思い出した。
寝床と獲物(武器)とそれを整備する道具、そして乾かし干物にした肉や魚の携帯用食品と必要最低限着替え。それ以外に何が必要だと言うのだ。逆に聞きたいものだ。
奴の部屋は我の隠し撮り写真で部屋中埋め尽くされている。…あれはさすがに引いた。
全ての写真を無に帰し、奴も無に帰そうかと考えたほどだ。

そうえば他の奴らはどうだっただろうか…一度入った入らなかったかの他の奴らの自室風景を思い出すために施行を巡らせる。

ザンクは確か無数のナイフを置いていた。どれも血がべったりと付き、乾いて錆びていた。ちゃんと整備してない証拠だ。あれではもう使い物にならないだろう。

ユウは本が山になっていた。皮肉で少々子供っぽい性格の奴が広辞苑など分厚い本を沢山持っていて驚いたのを思い出した。あと本の山が崩れて生き埋めになっていたのを。

ナナはよくわからない骨董品などが並べられていた。どこぞの国の国宝だそうだがそういったものに一切興味のない我からすればよくわからない代物だ。

エフォールはテント暮らしだから我とそう変わりはないだろう。

ロザリーはぴんくのふりるとかおひめさまという生き物を模した部屋にしていると本人が熱く語っていた。難解すぎる内容だったため子守歌かわりに聞いていたのを思い出した。

うむ。皆の部屋と我の部屋そう変わりはなにな…と独り、流れ出る滝の如くしゃわーなるものにうたれていると


「叢ちゃ〜ん、ちょっとえぇ〜かぁ〜?」
「ッ!!?」

この気だるく腹が立つような声は…ロックスかっ!?
足音は真っ直ぐしゃわーるーむの方へ向かって来る。我が入浴していると知っていながら、あえて入って来たなっ。
奴は俗に言う変態と呼ばれる種族だ。何度我に肉体関係を迫られたことか……考えただけで吐き気がする。
ロックスを懲らしめるくらいわけない。獲物なし、素手で十分だ。…だが、さすがに今の恰好で戦うのはちょっと…たじろいでしまう。

「叢ちゃ〜ん?」
「な、なんだっ!?」

しゃわーるーむもすぐ外からロックスの声が聞こえる。もうこんな近くまでっ。
どうするっ。ここはもう開き直って、全裸で相手を…

「あ、まだ風呂やったんか?」

なにを白々しい。知ってて入って来たくせに。
まあいい。今の奴はこれ以上、入って来る様子はない。ここはひとまず様子を見る事にするか。

「そうだ。だから帰れっ」
「そない、冷たい事いわんといてな〜。昨晩は一緒に燃えたやないか」
「そんな事実ない。他の女と間違えているのではないか?」
「あっれ〜?」

あれではない。全く、どうして雄はこうも阿呆ばかりなのだ。いや同じ雄でも我が王違う。あの方は気高く高潔なお方、そしてあのルシアと言う少年もまた……

「って、我は何を考えているのだっ!?」
「あ〜? なに〜?」

メシアの生き残り敵だぞ! 今はいいがいずれは殺さなければいけない対象。
え? 殺さなければいけないの…?

「だあああああ!!」

いくらこの先、我を楽しませてくれそうな強者になりそうな逸材であったとしてもだ。我らの王。バーナード様の願いを叶える邪魔になりゆえる芽は早めに刈り取らなければならないのだっ。

「叢ちゃ〜ん?」

しまった! メシアの生き残りのことを考えていたらロックスの声が先程よりもずっと近くに聞こえるぞっ。

「ロックス、貴様それ以上こちらに入ったら殺すぞ!」
「おっと」

足音が離れていく。まったく…油断も隙もならない男だ奴は。
滝のように流れ出るしゃわーを止めて脱衣所に向かうと、ない。ないのだ。大事に脱いで置いておいたはずの、紅い鎧がないのだ。

「あっ、鎧はしまわせてまらったで」
「なにっ!?」

まるでたいみんぐを計ったかのようにロックスが答えた。まさか覗き込んではいないだろうな…? 
たとしたら殺す! 二秒で殺す!!
とゆうのは後にするとして、さっきだっての問題は鎧だ。鎧がなくては裸で表に出なくてはいけない。それは……・別の意味で死ぬことになろう。

「安心し、その代わりに洋服置いてるから」

別の服だと? 改めて脱衣所内を探してみると、あった。別の籠の中に表舞台でムラクモとして活躍するときに着ている衣装が綺麗に折りたためられていた。
分からぬ。なぜロックスの奴は鎧を盗み、代わりにこの衣装を置いたのだ? 解せぬ。

「叢ちゃん、イカンよ?」

本当にたいみんぐのいい男だな。

「ずっと重たい、鎧着て気をパッツンパッツンに張っとたら疲れるやろ?
 たまにはラフな格好してラクにせな」

鎧を着て疲れたことなど一度もない。むしろ今こうして貴様の相手をしている方が何百倍も疲れる。
逆にそのことについてはどうしてくれようか…。と怒りに震える拳をおさえ、用意された衣装着替え脱衣所を出ると、待ってましたと言わんばかりに縞々とらんくす一丁のロックスが手をわきわきさせながら嬉しそうに

「よしゃ、綺麗になったとこで、ベットイコか!」

と飛び上がり襲い掛かって来たのでここは、先ほどの怒りを思い出し

「行くかーーー!!」
「ムギャーーー!!」

奴の股間をふぐり蹴り飛ばしてやった。股間を抑え、悶え苦しむロックスを部屋に捨て置き後にする。自業自得だ。

自室を出るとすぐにエフォールに呼び止められた。

「……殺殺殺殺」

ザンクとユウとあのメシアの生き残りが運ばれた部屋へ様子を見に行くらしい。きっと話の論点がずれにずれ、最終的に殺し合いに発展するだろうからその審判兼仲裁係りに我も参加しろとの事だ。

いつから我はお子様の世話係となったのだ。今は何も仕事が入っていないことだし、久々お子様たちの顔を見るのも悪くはないだろう。

「わかった。行こう」
「殺殺殺殺殺殺殺殺」

着いて来てというエフォールの後をついて行く。
このままついて行けば、メシアの生き残りが眠っている部屋へ辿り着く。眠っている…寝ているのか…奴の寝顔はどんな顔をしているのだろか。
可愛い系? それとも癒し系だろうか……

「って、だからなにを考えているんだっ我はーーー!!」
「殺?」

メシアの生き残りと出会ってから調子が本当に悪い。特にあの美しい満月の夜を共に過ごした辺りから拍車をかけて……悪くなって……顔が熱い。
やはり一度、医者に診てもらった方がよいのかもしれぬ。可笑しな病気、特に注射針を刺すような事にだけはなりませんように……心から祈ろう。本気で。