複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン-椿の牢獄- ( No.12 )
- 日時: 2017/10/12 11:48
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: nCjVBvXr)
それは地下の深淵と続く階段を下りてすぐの事だ。
「はぁぁぁぁ!!」
「ふんっ!」
—ゲシャァァァァ!!
躊躇なく地下に住まう化け物達が我らに襲い掛かって来たのは。ならば我も躊躇なく斬り裂くとしようか化け物達を真っ二つに。
知識のない。食欲しかない獣達は学習などしない。先陣を切った者がどんどん斬り殺されているというのに、数だけで押し襲い掛かってくる。愚かな。それでも我が王の僕だとでも言うのか。なんと愚かで無駄な物たちだ。ならばせめてその命。我が鉈の錆にしてくれよう。
「はぁっ!」
—ブシャァァ!!
バッサバッサと目の前に、左右に、後ろに、同時に、現れる化け物達を鉈で斬下し槍で貫く。あぁつまらぬ。こやつら相手では童の遊戯でしかない。退屈過ぎて退屈しのぎにもならない。目の前は一撃で血の海となり、一瞬で辺りは肉塊の山となる。
「はぁ…はぁ…」
我に背中を預ける形で戦っていたメシアの生き残りの息が荒い。もうばてたか。この程度の準備運動にもならない、戦い程度で。
「大丈夫ですかっ?」
「うっ、うん」
振り返り一応聞いてみると奴の顔は全然大丈夫そうではなかった。疲労困ぱいといった表情で苦笑い。我に心配をかけまいとでもしているのか? それは馬鹿にされたものだな。貴様にとって我という存在は——
「こちらにっ!」
ムカつきメシアの生き残りの腕を掴んでいた。そして三字に横へ進み壁に紛れて隠してあったすいっちを起動させ、隣の壁を横へ動かせ隠し通路を出現させる。
化け物達がまた襲い掛かってくる前にメシアの生き残りを連れ中へ入り、壁を移動させ通路を塞ぐ。壁の向こう側からは化け物達の悔しそうな鳴き声が木霊している。
地下も上同様にからくりだらけだ。来たことはあまりなくとも、何処にどんなものがあるのか把握している。設計図を見れば誰だって一目瞭然のことであるがな。
- Re: シークレットガーデン-椿の牢獄- ( No.13 )
- 日時: 2017/10/13 08:27
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: nj0cflBm)
「隠し階段の次は…隠し壁……」
メシアの生き残りは今只の壁へと戻った隠し扉をまるで隣人の邸へ訪ねて来た客のようにこつこつとのっくし材質を確かめているようだ。こつこつと叩くたびに首を左右に傾げながら。そんな不思議な物なのか、ずっとからくりがある生活をしていた我には分からない感覚だった。不思議そうな顔で首を傾げるメシアの生き残りに「はい。此処は最高技術を持ったからくり職人達に造らせた、からくり牢獄なんです」とからくりのことを説明してやった。メシアの生き残りから出てきた言葉は「へぇ…」となんとも素っ気ない物。初めて見る物だ。それも致し方ない物か。—少々つまらなくも感じるが。
いや今はそんなくだらない事に現を抜かしている場合ではない。一刻も早く此処ここから逃げ出さねば……知識のない化け物達だげ、食欲は旺盛だ。どんな姑息な手段を使って襲いかかってくるか知れたものではない。メシアの生き残りの腕を掴み「こちらですっ」と次のからくりの仕掛けがある場所へ移動しようとしたときだった——腹部に強烈な重い一撃、まるで鉄球を当てられたかのような激痛を感じたのは。
「ごふっ」と喉の奥から腹の奥の方から血が溢れ吐血した。横にいるメシアの生き残りの「ムラクモさんっ!?」我を心配する声が聞こえる。敵に同情をかけられるなどなんと惨めな。ふがいなき事だ。吐血し膝までついてしまうとは……こんな醜態バーナード様へとても見せられたものではない。汚名は返上するもの。足元に落ちているのは腐りに繋がれた分銅か……ならば敵は一人しかいぬ——ロックス。「ヒドイやないか〜、ムラクモちゃ〜ん」鎖の先を持つものに鋭い眼光を向ける。けたけた嘲り左手で鎌を持ち右手で繋がれた鎖をくるくると手持ち無沙汰のように振り回している。
「わしという男が居ながら、他の男に浮気するやなんて」
浮気だとなんの話だ、と奴の視線の先を見つめればそれはメシアの生き残りの事だった。そうか他の男と駆け落ちしようとしていることが気に食わないのか。……ふふ。なんと幼稚で独占欲の強い男だ。我の心などとうの昔に王へ捧げたというのに。ぺっと唾を吐き捨てたつもりがそれは赤黒い血だった。この体は我が思っている以上に先の一撃でだめーじを受けていたようだ。——瞼を閉じた。そして無理やり抑え込んでいるもの殺意の奔流。臓腑を丸ごと支配するが如きそれらを一時的に解き放った。
心地よい感覚だ。瞼の裏側で微かに見える、轟々とした流れとうねり。毛細血管の幻が脳に見せつけてくるのは、血流のいめーじ。肉塊の夢想。次々に思い浮かぶいめーじが、指を、脳を、心臓を、全身全てを震わせて——あぁ——殺したくなってくる。
「貴方…何者ですか?」
「はぁ?わしはお前なんかに用はないっちゅーねん」
「奴の名はロックス。此処の監守だ」
「そしてムラクモちゃんの彼氏やなっ」
「えぇぇぇ!!」
なにか聞こえる。瞼を閉じた向こう側の世界でなにか聞こえる。話し声、男が二人。驚くメシアの生き残りの声といやらしく笑うロックスの声だ。人を疑うという事を知らないメシアの生き残りがまた何か変な勘違いをしているような気がするがそんな事我には関係のない話。我のすることなんていつの時代もどんな時でも変わらない。
「そこをどいてください」
「いややと、ゆうたら?」
「……殺す」
「くひひっ、ムラクモちゃんはせっかちやの〜」
鉈の切っ先をロックスに向ける。我が獲物は欲しているのだ、奴の生き血を。ならばそれを用意してやるのが持ち主の役目。メシアの生き残りにも剣を構え直す様に伝え、殺る気になったロックスも右手に掴んでいた鎖を手持ち無沙汰な感じから八の字に回し、いつでもその先に下げられている重い文堂から重い一撃を放てるように。「まぁ、ええわ。わしも最近体がなまってきとったから、ええ運動になるわ。死んでも恨まんといてなぁ!!」躊躇なく襲いかかってくる奴に向かって我はあくまでもムラクモとして答えた「それはこちらのセリフです!」—と。
やっと始まる。血沸き踊る闘いが。やっと潤すことが出来る毎年ずっと乾き続け砂漠のようになってしまった我が喉を——我が獲物を—潤すことが出来る。
- Re: シークレットガーデン-椿の牢獄- ( No.14 )
- 日時: 2017/10/13 09:09
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: nj0cflBm)
「ほらほら、どないでっか!?」不規則に乱暴に鎖を振り回すロックス。「うわっ!?」飛んでくる分銅をかわすのでやっとのメシアの生き残りと「くっ」やはりあの一撃が尾を引いているのか、脳髄からの指令を受け取った体が指令通りに動くのにこんま二秒遅れる。それが致命的たった。本来ならばかわすなど当たり前、三分もあればこんなロックス程度すぐにでも一片の欠片も残さず粉砕してくれるものだというのに……こんま二秒体の動きが遅れるだけでかわせるものがかわせず攻撃を受けてしまいそのだめーじが蓄積され疲労となる。悪循環だ。
メシアの生き残りも分銅をよけるだけで精一杯といったところか。青ざめた顔から大量の冷や汗が流れている。本調子ではない我と役立たずのメシアの生き残り、絶好調であり我らを甚振ることを楽しんでいる。気に食わない。あぁ胸くそ悪い吐きそうだ。このような塵屑に弄ばれるなど憤懣やる方ない思いとはこのことをいうのだろうな。「スキありやっ!」大幅な体力を消耗し、疲れ切った我らを見て勝機を感じたのだろう。ロックスは右腕を大きく振り上げ鎖で繋がられた分銅も大きく飛び上がり「「…あれっ?」」絡まった。天井を覆いつくすようにいくつも配管された鉄ぱいぷに上手い事くるくると絡みほどけなくなったようだ。「ちょっ、ちょっと待ってな…今取るさかいに」ロックス両手で力いっぱい鎖を引っ張り鉄ぱいぷごと絡まった鎖を解こうと悪戦苦闘しているようだが、複雑に絡み合ったそれはもうそう簡単には解けない。
溜息が出るほどに阿呆な男だ。そっと静かにロックスも背後に立ち「え…? ムラクモちゃんそれはないわ〜。さすがに…卑怯やで? な? な?」とうぃんくをしてくるロックスに苛立ちを感じ「…待つわけないだろっ!!」鉈で奴の背を真っ二つに切り裂いた。「ムギャーー!!!」と響き渡るロックスの断末魔。あぁ——なんて耳障りな声なんだ。
「む、叢ちゃん……」まだ息が合ったか本当に黒光りする虫並みの生命力と気持ち悪さを持った男だな。蔑む視線を足元にすがり這いつくばる死にぞこないの屍に向ける。
「な、なぁ……このままじゃアカン」
「……なにがだ」
こんな死にぞこないの屍の話など聞いてやる必要性もなにもないのだが、なぜかその時我は止めを刺せなかった。話を聞いてやることにしたのだ。どうゆう風の吹き回しなのか自分でも分からなかった。只なんとなく、まだこやつの話を聞いていたかったのだ。
「ドルファフィーリング……はな……バーナード……は……叢ちゃんが思っとる……ような凄い男やない」
なにを—なにを言っているのだ、この屍は。我らの王。バーナード様を愚弄する言葉を吐くなどっ。槍を振り上げる。狙いは死にぞこないの屍の頭上。「——思い出すんや! 自分が何者だったのかを」ぐちゃり。元同僚だった男の最期はぐちゃり。頭部を槍で串刺しにされ悲鳴も断末魔も上げる間もなく一瞬の死。痛みも苦しみもない死。—即死。
ぐちゃり。ぐちゃり。ぐちゃり。なんども奴の体に槍を突き刺した。最初の一撃で死んでいたことは知っている。手ごたえがあったから、妄言しか吐かぬ口がやっと閉じたから、いやらしいものを見る瞳から生の光が消えたから——もうこと切れているのはわかっていた。それでも我は槍を突き刺し続けた。骨が砕け肉が途切れない贓物が破裂する。生臭い匂い。鉄の臭い。嫌な音。我の中に眠る黒き獣がドラゴンネレイドとしての本能が満足するまでこの無意味な虐殺は続けられた。椿の牢獄看守長ロックスと呼ばれた男が只の肉塊となるまで続けられた。
我は叢。この世界を支配する王 バーナード様の手駒 紅き鎧の騎士と呼ばれる者。それ以外の何物でもない。
-fan-