複雑・ファジー小説
- Re: 新月鬼【リメイク版】 ( No.1 )
- 日時: 2017/03/25 07:10
- 名前: 鏡杏 (ID: HKLnqVHP)
第1話—新月の少女
一人の少女が新月の闇に紛れるような黒いコート姿で歩いていた。手には街頭の光で光るるナイフ。少女の口元はにやりと笑っている。何かを楽しみにする子供の様に。
少女の目線の先には一人の男がいた。男は少女に気づくと微笑んで近づいてくる。
「どうしたの、お嬢さん」と言いながら。
「いいえ。何でもないわ。ただ…いい男だなって思っただけなの」少女は恥ずかしそうにそう言い、微笑んだ。
男もそれをきき最初は驚いたように目を見開いた。でも満更でもないようだ。男はくすりと笑い少女との距離を縮める。
「お嬢さん。こんな夜は一人じゃ危ない。僕と楽しい場所へ行きませんか」
ダンスに誘うかのように少女に手を差し出す男。少女も口元に笑みを浮かべ空いている手を重ねる。
「ねぇ。あなたの名前、まだ聞いていないわ。なんて言うのかしら」
男はそれを聞くと「稲沢だ」と自分の名字を口にする。
「稲沢ソラ。氷に空って書いて氷空だ。君の、名前は?」
「榊莉愛。よろしくね。氷空さん」
莉愛と名乗った少女は微笑む。口元は笑っているが目が笑っていない、そんな笑いだった。
「でもね、ごめんなさい。氷空さん。あなたとはここでお別れなの」
氷空は一瞬意味のわからなそうな顔をしたが自分と重ねている手とは反対の手に持っているナイフをみて顔色を変えた。
「ねぇ、この頃世間を騒がせている【新月鬼】って知って—、るよね、普通」
莉愛はふふっと楽しそうに笑い続けて言った。
「その新月鬼って性別、年齢不明。ただ解っているのは月に1回ある新月の時のみ犯行を行う。そこからネット上で【新月鬼】と名付けられた。—まぁ、名づけ親には感謝しているわ。名のない殺人鬼なんてつまらないもの」
莉愛はまるで自分の事を話すかのように殺人鬼—【新月鬼】の話をしている。
「今日は新月。【新月鬼】のだーいすきな新月の夜。っていうことは、わかるわよね。
私がその【新月鬼】だってこと。そしてその【新月鬼】の次の獲物は—。あなた、だよ」
男の悲鳴だけが暗闇の中に消えていった。