複雑・ファジー小説

Re: 紫陽花手帖 ( No.5 )
日時: 2017/07/26 19:22
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: FAqUo8YJ)
参照: 咎人

 




 許されたい、という思いと、裁かれたい、という思いは同じだ。許されるためには、裁かれなければならない。
 それは両親であったり、兄弟であったり、友人であったり、恋人であったり。そして、遺族であったり。時には死人だったりするのかもしれない。
 傷つけられたら傷つけ返す。そんなことを繰り返せば、あっという間に僕たちは滅びるだろう。いや、滅びていた、か。
 人が、人間が生きてゆく以上、誰かを、何かを犠牲にしなければならない。それは豚であったり、牛であったり、はたまたトマトであったり、鯖だったりするのかもしれない。
 トマトはわからないけれど、他の動物たちにもきっと、意志があったはずだ。命があった。血が通っていた。空を、海を見ていた。僕らはそれらを犠牲にして、生き続けている。
 何かを傷つけることは罪だ。何かを殺すことは罪だ。よって、食べることは罪である。そう考えたら、この世に聖人なんてものは存在していない。
 人間がこの地球にまだ生き残っているということは、復讐の連鎖はどこかで止まっている、ということでもある。人間を滅ぼすのは人間だ。
『いただきます』僕たちは、動物を食べた。どうかお許しください。『ごちそうさまでした』
 そんな言葉だけで、罪が許されるとでも。
 だから人は死ぬのかもしれない。死は罰。その死をもって、全ての罪は許される。
 みんな、誰かに許されたがってるんだ。