複雑・ファジー小説

Re: 紫陽花手帖 ( No.6 )
日時: 2017/08/04 19:17
名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)
参照: イミテーション

 




 そこに映っている貴女は、本物ですか。
 鏡に映っている、白いワンピースを着た女の子。それが自分だって言い切れる、証拠はありますか。
 ショーウィンドウも鏡も透き通った湖も、自分を映す道具だって、私たちは知っている。それはそう教えられたからで、実際にどうなのかは知らない。私たちは、何故人間は死ぬのかも知らない。物事の本当の理由は、何も知らないのだ。
 無知とは愚かだ。

「知らなかった。これをやってはいけないなんて、知らなかった教えてもらえなかっただから許してください」

 私は、悪くない。

 私たちは、人間が人間である理由なんて知らない。何故地球が生まれたのかも知らない。何故生きているのかも知らない。私の本当の気持ちなんて、誰にもわかりゃしない。

 鏡の割れる、音がした。赤い液体が、私の手から流れている。

 ねえ、教えてよ。
 そこに映っている私は、本物ですか。