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複雑・ファジー小説
- Re: 紫陽花手帖 ( No.12 )
- 日時: 2017/09/10 18:59
- 名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)
- 参照: 曖昧な
彼女の描く世界はひどく曖昧で、天邪鬼だ。
デッサンをしろ、と言われて描いたものはひどく正確なのに、自由に描け、と言われると、途端にひどく曖昧になる。彼女がペガサスだ、と言うものはユニコーンだし、笑ってる女の子だよ、と言うものは泣いている男の子だった。
人間を描けば、それは死んでいる、と言う。私の描く人間はみんな死者で、生きているものはいないのだ、と彼女は言った。
この前、クラスでペアになってお互いを描こうという授業があった。僕と彼女がペアになって、僕は彼女を描いた。僕は美術部なので、多分よく描けていたのだと思う。先生も褒めてくれた。
天邪鬼な彼女の方も珍しく、写真みたいに僕のことを描いていて、先生も驚いていた(先生は美術部の顧問だ)。目が一重になっていたり、鼻の穴が3つになっている、なんてことは無かった。普通に、上手な絵だった。
けれど、そこに色がついた瞬間、世界は一気に曖昧になった。彼女は、肌を紫のような、そうでないような不思議な色で塗り、僕の茶色の髪は黒く染めた。
流石にこれはいたずらが過ぎると思ったので、『いい加減にしろよ』と言うと、彼女はぽつり、と呟いた。
『私は死者しか描けないんだよ』
その絵が完成して、もう1週間が経つ。
僕は、曖昧なものになった。
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