複雑・ファジー小説
- Яお菓子な塔の物語 ( No.23 )
- 日時: 2017/08/15 09:00
- 名前: 雪姫 (ID: gG5ipZbC)
アタチの 王国
アタチの 為だけの 王国
お菓子の 王国
お菓子の 可笑しの 王国
"ホールケーキアイランド”が建国してから数年? 数百年? 数千 数万 数億年?
とても とても永い 永い 月日が経ちました…なの♪
永い月日が流れていく過程で、双子の片割れが消えてしまったの。
両方 消えてしまったの
でもいいの アタチのオモチャになってくれない オモチャなんていらないの
ワタチには
「ハグハグハグッ! ハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッ!!」
美味しい 美味しい お菓子があるからいいの♪
『ラプンツェル様は元気ー ギャアアアアア!!』
『今日お美しくー ギョエエ!!』
『お菓子を食べなさるー ウゥゥゥ!!』
ここはお菓子の国 意思を持ったお菓子達が歌い踊り そして食べられるの♪
嗚呼— 楽しいの♪ 今ワタチはずっごく満たされているの♪
ズッ クンッ
「…………」
『ラプンツェル…様?」
ズッ… クンッ…
「……食べたいの」
『…はい? なんと…おっしゃ「食べたいのーー!!」ギャアアアアア!!』
傍に居たプレートアーマーから吹きあがる、甘い 甘〜いイチゴジャム…
ペロリ
「違う! これじゃないの!! クロッカンブッシュ! クロッカンブッシュが食べたいのぉぉぉお!!!」
『おいっまたか!?』
『ヤバイ! いつもの食いわずらいだぞ!!』
「アア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
食いわずらい。 突然発作的に食べたくなるの。 それが食べられなきゃ暴れるの。
どうしても食べたいの! 食べさせてくれないのなら、コロしちゃうの!! ミナゴロシなの!!
『そもそも、クロカンブッシュってなんだよ!!』
『知らねーよ! 俺は和菓子担当だぞ? そんなシャレオツなもん知るか!!』
『カシペディアで調べた所によると、シュークリームを円錐型に積み上げた飾りお菓子のようですな』
『へぇーそうなんだぁ〜……じゃねーよ!!』
『シュークリーム担当どこ行った!? いや、シュークリーム達か!?』
『お二方、海の国へバカーンス…だそうですよ?』
『アホンダラァァァァァ!! さっさと連れ戻せ!!』
『電電蝸牛つながりました!』
『よしっ! 状況は伝わっているな! さっさと帰ってこいアホ!!』
『えー? ムリ的なー?? ここから帰るのとーすぎ的なー??』
『使えねーコイツ!! おい、フランス老人は!?』
『生地をこだわりたい…アーモンドの手配を…』
『こだわっとる場合かぁぁぁぁあああ!! このままだと俺らみんなおっちぬんだぞぉぉぉおお!!』
『た、隊長!! う、後ろー!!』
『ん?』
「クロカンブッシュが食べたいのぉぉぉおお!!」
『ひぃいいら、ラプンツェル様!? た、退避〜〜!!』
「アア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
- Яお菓子な塔の物語 ( No.24 )
- 日時: 2017/08/16 07:14
- 名前: 雪姫 (ID: C2X31cwX)
あれから数十分後…
「ハグッハグハグハグッ、ン〜〜〜〜〜〜〜美味しいの〜〜〜〜〜〜〜♪」
『そ、それはよかった……です、はい…』
「さっきは暴れてゴメンなさいなの♪」
『ラ、ラプンツェル様が謝った!? ごめんを覚えなされた!? それだけで私は嬉しいです、はいっ!』
ゴメンって言っただけで泣くなんて変な隊長なの♪ オモシロイの♪
『(だがしかし、本当に良かった…。たまたま、森に家族に取り残された迷子のシュークリーム達が居てくれて…。
数が少々足りなかったが、飴細工担当が良い感じにまとめてくれたおかげでなんとかそれっぽいクロカンブッシュなるものが出来上がり、ラプンツェル様の食いわずらいを沈めることが出来たのだ。
クロカンブッシュってなんだよ! そんなシャレオツなもん和菓子担当の俺が知るわけがないだろ!)」
「隊長…? ボーとしてるの?」
『あ、はいっ! 申し訳ありません、ラプンツェル様!!』
別に気にしてないの、アナタのことなんて、どうでもいいの。
「お菓子、食べたいの」
『ええぇ!? 今、大皿にのったクロカンブッシュを食べたところなのにですか!?』
「もう食べ終わったの、早く次にが食べたいのー!!」
『わ、分かりました! すぐに持って参りますのでどうか、暴れないでください!!』
隊長はお菓子を取りに厨房へ走って行ったの。まだかな〜まだかな〜なの♪
次はどんなお菓子? 洋菓子? 和菓子? 楽しみなの♪
アタチは動かないの
アタチは初めてお菓子と出会ったあの日からずっと動かないの
アタチ玉座に君臨する女王様なの♪
女王様は働かないの♪ ずっとずぅーと、お菓子を食べ続けるの♪
嗚呼— なんてシアワセなの♪ 今のアタチはとっても満たされているの♪
でも— シアワセな日々なんて長くは続かないの
赤い— 返り血で赤く染まった魔女が来るの
アタチの— アタチの王国を壊しに来るの
ダメ— ダメなの ダレか ダレかタスケテーなの
- Яお菓子な塔の物語 ( No.25 )
- 日時: 2017/08/17 07:56
- 名前: 雪姫 (ID: YOt4GnQH)
—ある日 世界は赤に染まったの
—ある日 世界は静かになったの
—ある日 世界から音が 声が消えたの
—ある日 世界から生命が消えたの
『コワイコワイ〜赤ずきんちゃんがやって来たど〜♪』
『コワイ〜ミナゴロシ〜♪』
『赤ずきんちゃんが通った後は〜♪』
『草木ひとつ残っちゃいない〜♪』
『死体の山〜♪ 死体の山〜♪』
「ハグハグハグッ! ハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッハグハグハグッ!!」
『ラプンツェル様! お逃げ下さい! この塔はもう駄目です!!』
隊長がなにか…言ってるの。…でもいいの、カンケイないの。
だってアタチは今、目の前に山積みされたカップケーキを食べるので忙しいの。
『ァァァアア!! ギャアアアアア!!』
ダレかの断末魔なの。
『く、もうここまで来たか…ラプンツェル様! 俺が時間を稼ぐので、その間にお逃げ下さい!!』
ギィィとダレも開けていないのに扉がゆっくりと開かれようとするの。
体長は剣を構え、振り下ろそうと…
『貴様っ何奴! ギャアアアアア!!』
する前に真っ赤なイチゴジャムを噴き出したの、あれ? 体が半分しかないの 上半分なの?
ニヤリ
赤い 真っ赤な頭巾を被った少女と目があったの あってしまったの
あの子の金色の瞳が紅色に光るの 極上の獲物を見つけたハンターのような瞳なの
「モグモグ…アナタ…モグッ、たち、ハグッモグ…ダレなの?」
—コワイ
赤い頭巾の子の両サ隣にいる 金髪ショートの子 全身ツギハギだらけの少年
『やっと会えたね♪ お姉さま』
「モグモグッお姉サマ? それはダレ? アナタはダレ? アタチは知らないの」
アタチは姉妹の末っ子。、アタチが一番下の妹なの。
妹がいるなんて知らないの、聞いていないの。
「ハグハグ……ぁ」
カップケーキがなくなってしまったの、全部食べちゃったの。
あーあ…つまらないの。
カラの大皿なんか見てもつまらないの。
「ダレかー ダレかー いないのー!?
お菓子がなくなったのー。 お腹がすいて死んでしまうのー」
食べ物がないの、そう思っただけで急激にお腹が空いてくるの。
「ダレか…いないの? ううっ…お腹…すいたの」
『お腹、空いたんですか?』
ビックリなの、扉の所にいたはずの赤い頭巾の子がすぐ近くに居たの。
でもいいの、この際ダレでもいいの、お菓子を持ってきてくれるのなら
「そうなの。今日はまだ、七回しかお菓子食べてないの」
『それは大変ですね。じゃあボクがその空腹を満たしてあげますよ♪』
「本当なの? アタチ今度はあま〜いキャラメルソースのかかった…」
シュッ
「…え なの?」
何が…起きたの?
赤い頭巾の子の拳がアタチの顔スレスレを掠めたの。
寝転んでいた玉座の端が崩れているの、どうして…どうして崩れているの
赤い頭巾の子の顔を見上げると
『ゴメンなさい。外してしまいました、でも次は当てるので安心してください♪』
あの子は笑顔に 愉快そうに言うの
「…どう…して…なの? なんで…アタチ……死んじゃうの…」
『だって、死ねばもうお腹は空きませんよ? アハハハッ♪
これでもう空腹で悩むことがなくなりますね♪』
死—
死—?
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死アタチ…死んじゃうの…?
イヤなのー!!
「そんなこと頼んでないの! そんなのイラナイの!!」
『わっと♪』
あの子を突き飛ばすの でも全然効いてないの ビクともしてないの
逃げないと—
早く 少しでも早く あの子から逃げないと
死—
あの子に コロされてしまうの—
隊長がもしもの時に、と作ってくれた玉座の後ろに隠してあった塔の頂上へと続く階段を駆け上がるの。
嗚呼— 早くアタチに食べ物をちょうだいなの! なんでもいいから 早くちょうだいなの!
このままじゃ アタチ…… あの子にコロされちゃうの—
- Яお菓子な塔の物語 ( No.26 )
- 日時: 2017/08/18 09:48
- 名前: 雪姫 (ID: JT0cxu6k)
—コワイ
「ハッハァッハッ」
長い 長い 階段を駆け上がるの
—コワイ
『待って マッテください。どうして逃げるのですか?
せっかく一発で殺してあげようとしているのに』
—コワイ
赤い頭巾の子の声がするの
—逃げないとなの
早く 早く 逃げないとなの
遠く 遠くへ逃げないとなの
—カラダが重たいの
ずっと玉座に寝転び続けたカラダはタプタプのおニクのようなの
タプタプは重くて 動きづらいの
「ハッハァッハッ!」
少し走っただけで すぐに息があがってしまうの 重いの
こんな邪魔なおニク 棄ててしまおうなの♪
ザクッザググ…
まずは お腹
次は 太もも
邪魔なおニクは全部 ゼンブ棄ててしまおうなの♪
おニクを斬り棄てると赤い 真っ赤なイチゴジャムがカラダから溢れ出るの
嗚呼— なんて甘くて美味しいそうな匂いなの
ペロリ
—美味しい
今まで食べた どのお菓子よりもずっと美味しいの
「ハグハグハグッ!!」
餓死寸前だったの アタチは目の前にあるおニクを食べるの
嗚呼— 甘い 甘くて美味しいの
『ナニがそんなに美味しいんですか♪』
「ッ!?」
美味しいおニクのせいで忘れてたの あの子のことをなの
『アハハハッ♪ 今度は外しませんよ?』
赤い頭巾の子は また拳を強く握りしめるの
—コワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
死の?
死んじゃうの?
イヤなの
まだ 死にたくないの
赤い頭巾の子 逃げるの
赤い頭巾の子 頂上へ逃げるの
赤い頭巾の子 捕まったらダメなの
—でも 動けば 動くほど お腹が空くの
邪魔なおニクを棄てたはずなのに まだ 走りづらいの
「ハッハァッハッ!」
カラダから流れる落ちる イチゴジャムが止まらないの
チクチクと焼ける ように イタイの
—コワイ
パタッンッ
頂上に辿り着いたところで 躓き転げてしまったの
『あ〜あ、大丈夫ですか? そのまま貫きましょうか♪』
赤い頭巾の子 声がすぐ後ろから聞こえるの
追いつかれた コロされてしまうの
—コワイ
「お腹が……空いたの…」
『死ねばそんなの感じなくなりますよ♪』
「お菓子……食べたいの…」
『もう食事もいらなくなりますよ♪』
赤い頭巾の子 近づいてくる足音がするの 一歩ずつゆっくりとなの
—コワイ
「お腹……空いた…の」
『這いつくばってもダメですよ♪ アハッ』
地面を這いながら、赤い頭巾の子から逃げるの 少しでも
お菓子
お菓子 を 食べれば
お菓子 を 食べれば 逃げられるの
お菓子 を
『死んでくださいな♪』
トンッと蹴り飛ばされたの ふわっとカラダが飛び上がるの
そのまま落ちて行くの
塔の上から 落ちてゆくの
『アハハハハハハハッハハハハハハハハハハッ♪』
頂上から聞こえるのは 狂った笑い声
赤い頭巾の子 狂気の笑顔
「お腹…空いたの…
ダレか
ダレでもいいの ダレか
アタチにお菓子を
お菓子を ちょうだいなの…」
—ラプンツェルはゆっくりと 静かに雫のついたその瞼を閉じた
—ヒューーーーーウ ヂュビチャァァ
—これは 末の妹の物語
—ラプンツェルの物語
—食に狂い 食に支配され 溺れた ラプンツェルの物語
—暴食の最期の物語
<Яの最期END>