複雑・ファジー小説

Re: 炎船ナグルファル【第1章 完】 ( No.12 )
日時: 2017/09/08 20:26
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

〈間章壱:グラン族の生態〉

それはまだ、リーフェンが草原の国 プレリオンに滞在していた時のこと。リーフェンはバルを連れて、市場で屋台を巡っていた。

「本当に、肉しか売ってねえな……しかも、毛皮ついたまま……」

「グラン族の男は、狩りができるようになって一人前、グラン族の女は、捌けるようになって一人前なんだよ」

リーフェンはグラン族の花嫁修行を想像して、思わず倒れてしまいそうになった。これが、狩猟民族の本領である。

「つーか、お前ら……肉ばっかりで野菜は食わねえの?」

リーフェンは屋台を見回して、生野菜を売っている店がないことに驚いた。あるとすれば、缶詰だ。それも大半の生産国は、プレリオンのお隣である森の国 シャロン=ウッド。リーフェンは昔、その製品を食べたことがあり、それがとてもマズイことを知っていた。

「グラン族はちゃんと内臓まで食べるから、野菜を食わなくても平気なんだ。リーフェンも食べる?羊とか美味しいよ?」

「いや……遠慮しとく……」

砂漠の国 サヘリアほどとは言わずとも、プレリオンは乾燥帯である。作物栽培に土地が向いていない。木も少ないので、果実もとれない。そんな土地柄では、骨の髄までしゃぶり尽くすのも当たり前なのだろう。

ふと、軽食屋の前でたむろする若者たちの姿が目に止まった。彼らの足を見ると、ヤギや、牛や、狼など、様々である。皆一様に、鹿か何かのもも肉を、人間が手羽先を食べる要領でかぶりついている。

「足が草食でも、口は肉食なんだな……」

リーフェンは、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。隣でバルはヨダレを垂らしながら答えた。

「色々血が混ざっているからね。俺の足は虎だけど、俺の母ちゃんの足はキリンだったらしいよ」

色似てるしな……と思いながら、見かねたリーフェンが鹿肉を購入する。バルに渡すと、嬉しそうにかぶりついていた。尻尾をブンブン振っている。

リーフェンはふと、バルの全身を眺めた。グラン族の服は、男女とも膝丈のトップスだけだ。打ち合わせ部分が、首もとに斜めに付いていて、それより下は脇腹寄りに沿っている。その上に、お腹のところで帯を締めている。

毛皮や尻尾が邪魔になって、下に服を着れないのだろうが、最初のうちはリーフェンも目のやり場に困っていた。ふと、今まで気になっていた疑問を問いかけてみる。

「なぁ、バル。お前らって、パンツ履いてるの?」

バルは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。やがて、真面目な顔をして答えた。

「パンツ……褌のことだっけ?俺は履いてるよ。女の人は履かないらしいね」





以来、リーフェンは風が吹くたびに、グラン族の女性から目を背けるようになったと言う。

グラン族の元ネタは、パンという西洋の妖精なんだって。ヘソ周りから下は獣足で、毛皮が隠してくれるから、そんなに気にならないよ(バル談)