複雑・ファジー小説

【曇天の町】 ( No.2 )
日時: 2017/10/23 22:40
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 8月に書いたもののリメイクです。

 リア友からアイデアをもらって短編を書きだす藍蓮です。
 今回のテーマは「曇り」です。

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 ——その町では、青空が見られたためしがない。


「今日はいい天気ね!」

 一人の少女が、雲を眺めてそう言った。

「いい天気だね、洗濯物でも干そうかぁ」

 その後ろから、彼女の兄らしき青年が現れて、しみじみと言った。
 空は今、晴れていないけれど。これからもずっと晴れないけれど。
 彼女らにとって、今日は「いい天気」なのだ。

「雨が降らないよ、雨が降らないよー!」
「こんなにいい天気は、何日ぶりのことだろうねぇ」

 はしゃぎ回る少女を微笑みつつ眺めながらも、少女の兄は家の中に消えた。

「わーい、わーい、いい天気ー!」

 くるくる回る少女の髪は、綺麗な金色。
 そもそもこの曇天の町には黒髪の人なんて見たためしがない。
 
 しばらくして、少女の兄が洗濯籠を抱えて家から出てきた。

「ほら、兄さんも手伝うから。お前もしっかり仕事しなさい」
「はーい!」

 どこまでも元気な少女は、洗濯物を抱えてずっこけた。
 その瞳から涙があふれ出す。

「うわぁぁああああん! うわぁぁぁあああああん!」
「はいはい、気をつけようねー」

 呆れたように笑いながらも。青年は慣れた手つきで傷の手当てをする。

「はい、おしまい。でも、怪我したからってさぼっちゃ駄目だよ?」
「……お兄ちゃん、鬼なの?」
「当然のことを言っているんだよ!?」

 笑顔で言って、彼は洗濯物を少女に手渡した。
 少女は半ベソをかきながらも洗濯物を干していく。青年はその倍のスピードで、干していく。
 相変わらずの曇天の空を、眺めながらも。

「……今日はいい日だねぇ」

 この町の人にしかわからぬ違いを見つけながらも。彼は穏やかに微笑んだ。
 曇った空は、変わらずだけど。
 そもそも晴れた空を知らない彼らにとって、今の空は「いい天気」なのだ。

 終わったよー、と。少女が腰に手を当ててふんぞり返る。青年はそんな少女の頭をはたいた。

「そんなことで偉そうにしてちゃ、将来絶対苦労するよ?」

 はたかれた少女は涙目だった。怒ってプイとそっぽを向く。



 そんな少女を青年がなだめようとした時だった、不意に、天から光が降り注いだのは。



 彼らはそれの正体を知らない。だってここは「曇天の町」。みんな「それ」なんて見たことがなくいから。



 突如、雲が晴れて天から差し込んだのは、日の光。

「あ…………」

 青年は小さく声を上げた。





 その身体が、どろどろに融けた。





「お兄ちゃんッ!?」


 叫んだ少女の。





 その身体が、どろどろに融けた。





 だって仕方がなかったんだ、この町に住む人は。
 

 生まれつき身体が太陽に適応しなくて。日の光を浴びただけで死んでしまうのだから。
 

 だから300年前に高名な魔導士がやってきて、途切れることなき雲を町に送ったのだけれど。
 

 その日、その魔導士はついに寿命で急逝してしまった。


 魔法が解けた町には。


 その町の人にとっての殺人光線たる、日光が降り注ぐ。


 この町が「曇天の町」だったのは、決して最初からではなくて。


 しかし曇天はもう、曇天でなくなって。


 屋外にいる人も、屋内にいる人も。


 突如降り注いだ殺人光線に、みんなやられて、一人残らず死んでしまった。


 後日。そこを訪れた人たちは、町人どころか町があった跡さえ見つけられなかったという。


 当然だ、太陽のない町で育った人々。太陽に耐えうる建物なんて、建てられるわけがなかったんだから。


 かくして「曇天の町」は、なくなった。


 地図上から、大地から。


 やがては人の心から——。


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 相変わらず、深夜に短編をお送りした藍蓮(当時)です。

 最初は幸せな展開だったのに、藍蓮の作品はどうしてこうも悲劇になるのでしょうか。

 リア友からアイデアをもらった時は、「一年中曇りの町の話にしよう」と思い立ったものですが、そこに太陽を混ぜようと思った時点でもうおしまい。後は悲劇まっしぐらでした。……ご愁傷様です。

 ……本当に短編ですが、ご精読、ありがとうございましたー。