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複雑・ファジー小説
- 濡れない水 ( No.2 )
- 日時: 2017/08/31 17:00
- 名前: 葉鹿 澪 (ID: k30LHxXc)
白昼夢を見たことがある。
お盆に田舎で、墓参りに行った時の事だ。一緒に来ていたはずの両親や祖父母は、気が付いた時にはどこにもいなかった。僕一人が自分の苗字が彫られた墓の前で、水と杓子が入った重たい桶を持って立ち竦んでいた。
白いアスファルトも、灰色の墓も、何もかもがやけに白っぽく光っていて目が眩む。持っている桶から、水の匂いが立ち上がった。電車が走る音が、やけに遠くぼんやりと聞こえてきた。
誰か探しに行きたかったけど桶を地面に置くのも躊躇われて、僕はいつも大人達がやっているように墓に水をかけようと、杓子を掴んだ。
なみなみに汲んで、勢い良く墓へと水をぶつける。本来はそんな荒っぽくやるものではなくて、優しく上からかけるものだと知ったのは後になってからだった。
水と石がぶつかって、飛沫が飛び散る。光をその中に閉じ込めた水滴は、そのままアスファルトや僕の服に吸い込まれていくことはなく、小さく透明な石ころになって地面へ散らばった。雨が降るような音がした。
ふと顔を上げると、僕の方を見ている人影が一つあった。揺らめくその影は、僕だった。
同じ視線で僕を見つめる僕は、真っ直ぐこっちを指差して何かを言った後、そのまま僕に背を向けてどこかへと歩いて行った。
確かに僕に向けられたはずの言葉が何も聞こえなくて、追いかけて尋ねようとした時。家族の声が後ろから聞こえてきて、僕の足は止まった。
気付けば僕は一人、お寺に入っている家族を外で待っていたらしい。
見上げれば、墓はひたすら太陽に焼けていた。
蝉の声がやけに煩く感じた。
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