複雑・ファジー小説

Re: 光のどけき国、春のぞむ魔女 ( No.4 )
日時: 2018/05/27 17:59
名前: 星野 (ID: aruie.9C)

 サジェの言い分はこうだ。王様は近頃容態が思わしくない。そこで後継者として、ひとり娘のお姫様が挙がる。けれどもまだ小さくか弱い姫が、いかにして国を導けるだろう。だから後見人が必要だ。才色兼備な青の魔女、遠からず王族の血を引く赤の魔女。この二人の間で、騎士団は派閥を作っているらしい。どちらが姫の後見人になるのか、どうやらサイラスもそれに一枚噛んでいるという。だから青の魔女を擁護するのだ。

「僕としては、コトリ、貴方を推しますよ」
「……冗談でしょう」
「いやいや、本心からです。赤の魔女は性格に少し難があるし、青の魔女は完璧すぎる」

 サジェの言葉に、コトリは首を傾げた。完璧の何が悪いというのだ。

「僕は少々、青の魔女が怖いんですよ。僕は人の考えに聡いんです、そのおかげでこの役職につけたといってもいい。でもね、あの人の考えだけは読めた試しがない」
「それにしたって、わたしを推薦する理由にはならないでしょう」

 コトリは半分に減ったバスケットに視線を落としながら呟いた。サジェはというと、いつものすまし顔を少しだけ綻ばせている。

「わたしは役立たずの魔女ですよ」
「そう言いますがね、貴女は存外周りから慕われていますよ。腰痛に効く薬を、城の者に煎じてあげたりしているでしょう」
「わたしができることなんて、これくらいですから」

 ふうむ、とサジェは腕を組みコトリを見定める。そして「とにかく」と話を結んだ。

「すぐにどうこう、という話にはならないでしょうね。ですが、気をつけてください」
「あの太っちょのサイラスにですか」
「おや、貴方にしてはひどい言い様だ」

 サジェは思わず吹き出す。そしてひとしきり笑った後、視線を小さな窓の方へ投げた。もう騎士団の姿は何処へやら。遠くへ行ってしまったようだ。

「違いますよ、あのロジーという男です。彼は筋金入りの魔女嫌いで有名ですから」

 嫌われることには慣れている。もうそんな心配も今更必要ないだろう。コトリはそう考えて、忠告に対する感謝を一言述べた。関心ごとは、もう別にあったのだ。西の森の異変。騎士団に同行できたら、どんなに良かっただろう。もしかしたら、新しい発見があるかもしれない。
 けれどどうして、異変なんて起こったのだろう。