複雑・ファジー小説

Re: 夜に舞うは百火繚乱 ( No.6 )
日時: 2017/09/08 14:14
名前: hiGa ◆nadZQ.XKhM (ID: hgzyUMgo)

第二話 何でこんな色物ばっかりなんだ


「スイッチ……オン!」

 わざわざいう必要もないのに、そう言った少女は部屋の明かりをつけた。明かりのついた部屋で一際大きく目立っていたのは当然のごとく人間ではなくて、先ほど蓮とその他が演じた大乱闘の痕跡であった。社長室の床は下のフロアを巻き込む形で陥没し、ところどころ焼け焦げている。そればかりか、アクエリアスと呼ばれた少女が生み出した水のせいで池のようになってしまっていた。

「私の部屋だというのに、派手になったものだネ」

 話す言葉は批判的なのに、どうでもよさそうに依頼主の男はそう言った。初めから、こうなるとわかっていたようでもある。実際、この真下のフロアは部屋こそあるが機材は何一つ置かれていない空きフロアだと彼は説明した。蓮の実力を量る必要があると決めてから、大事な機材は全てもっと下のフロアに移したらしい。

「さてと、自己紹介の前にこのフロアを元に戻すとするかネ。堅物君」
「わかりました」

 眼鏡をかけた黒髪の少年が、一歩前に出る。この声は一番初めに蓮に対して仕掛けてきた男だと彼自身すぐに思い出した。堅物と呼ばれた彼が手を陥没した床にかざすと、まるで床が生きているかのように踊り、元々の形へと戻った。その様子をじっと眺めていた蓮であったが、ただただ驚愕の一言に尽きた。
 元通りになった大理石のフロアを手で撫でてみるが、何も変なところなどない、平らで滑らかなフロアとなっている。

「どうダイ? 能力者は自分だけではないと君は理解したカイ?」
「ああ、流石にこんなもん見せられたらな」

 それで、どんな能力なんだ? 関心を惹かれていることを、もはや隠そうともしない蓮は同年代の少年に尋ねてみる。高校の制服を身に着けたままであり、学校や塾の帰りに直接ここに来たのだろうと考える。その制服は、全国的に有名な進学校のものであったからだ。
 かっちりと制服を正しく着用しており、先ほど堅物君と呼ばれた理由が垣間見える。背は蓮よりも少し低く、170程度であろう。

「まずは名前からでいいだろう。黄金川 重吾(こがねかわ じゅうご)。コードネームは堅物。能力は、金属と鉱石を自由に操ることができる。現状、訓練が追い付いていないから形状の変化が精いっぱいだが、おそらく将来的に手で触れずとも自由に動かせたりもすると思う」
「別にそこまで詳しい情報求めてなかったんだけどな」
「彼は真面目なんだヨ。君も見習うとイイ」

 一言余計だ。そうやって釘を刺した蓮は、次のメンバーの方へと目をやる。真っ白で、ひらひらとしたワンピースを身にまとっており、背筋がしっかりとした少女だ。この女も同年代かと察知する。白く透き通るような肌や、立ち振る舞いから何となく貴族のような印象がある。髪は肩ほどまでに伸びており、少し茶色っぽい。

「白宮 天空(しろみや てんくう)ですわ。コードネームはスノーホワイト。能力は、自分や手で触れたものを自由に浮かせ、移動させられるものでしてよ」
「何だこのお嬢様口調……」
「あー、この子ほんまもんのお嬢様らしいで。白宮グループのご令嬢」

 にしてもこの口調は痛いとうちも思うけどな。蓮にだけ聞こえるように黒崎はそう呟いた。
 育ちがいいというのは理解した。背も女子にしてはかなり高い部類であろう。ヒールを履いて少し高く見せているとはいえ、蓮と目線は早々変わらなかった。蓮自身、身長は最後に計った時には175センチあったので、それは間違いない。

「別に気を遣わなくても結構でしてよ。普通に接してください」
「いや、当たり前だろ。はなからそのつもりだ」
「流石に無礼すぎると私も怒りますので、身の程はわきまえておくことをお勧めしますわ」

 これ以上けんか腰になっても仕方ないと、蓮が先に折れた。適当にうなずいて、最後の一人の方へと視線を向けた。アクエリアスと呼ばれていた少女は、それまでの二人とは違って蓮よりも年下のようで、その部屋にいる誰よりも、ずっとかわいらしい背丈をしていた。蓮の胸の位置にようやく頭のてっぺんが届くといったところだろうか。
 目はだらしない半開きで、どこか眠そうにしており、髪の毛は真っすぐ肩の少し下まで伸びているが、ところっどころ寝ぐせのようなものがついている。青みがかった瞳は、眠気で少し濁っているが、きれいな色をしていた。

「水野 瑠璃(みずの るり)……アクエリアスって、呼んで。能力は……水を操れる、みたい。小学校の、六年生……です」
「この子は、色々とマイペースな子ですの。話しているとじれったく思うこともあるかもしれませんが、急かさないであげて下さい」
「安心しろ、お前の話し方よりまだ受け入れられる」
「私も、あなたの無礼さよりは遥かに受け入れられますわ。人にこうして自己紹介させたんですから、あなたも名乗ってはどうですの?」
「おい、会ってすぐなんだから喧嘩はやめろ。……君も自己紹介、してもらっていいかい?」

 それもそうだなと、蓮と黒崎はお互いに顔を見合わせた。どちらが先に言い出すか、少し目線で相談する。結果として、顎で指示されたとおりに蓮の方から名乗ることとなった。



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