複雑・ファジー小説
- Re: 夜に舞うは百火繚乱 ( No.7 )
- 日時: 2017/09/21 16:56
- 名前: hiGa ◆nadZQ.XKhM (ID: hgzyUMgo)
「もう大体知ってんだろ? 紅川 蓮(あかがわ れん)、炎や熱を操ることができる能力者だ」
能力の応用できる範囲は広いため、この場においては割愛した。中学から一人で、高校に入ってからは黒崎と二人で能力をどう応用できるかを探求した。その結果、発想と練習次第でいくらでも応用は効くのだと分かり、実際に発展させてきたため、この場だと時間を無駄に取るためだ。
「黒崎と会ってからは色々あって、一緒にコソ泥みたいなことをすることになった」
「コソ泥言うんやめーや、正義の盗賊やろ?」
不法侵入と窃盗に正義も糞もねーよ。吐き捨てるように蓮はそう言い、黒崎はふてくされた。
「まったく、夢も希望も無いやっちゃな。じゃ、うちも自己紹介しよか。うちの名前は黒崎 未来(くろさき みらい)、能力は嘘にまつわる力や。あんたらが嘘ついても一発でわかるし、うちのつく嘘は絶対分からへん」
「はぁ!? おまっ、能力者ぁ?」
「そっか、蓮に言うんも初めてやったな。言い出すタイミング無かってん、ごめんごめん」
一年以上の付き合いだというにも関わらず、彼は初めて相方の少女の秘密を知る。嘘を見抜き、嘘を自在に操る力。確かにこの女にそんな力があってもおかしくはないと妙に納得する。あっさりと人をからかいながら冗談や嘘でクラスメイトを翻弄し、胸のうちの深いところを決して人に見せないこの少女なら。思い返してみると、黒崎相手に隠し事ができた試しも無い。
「でもな、よー考えてみ? あんたが超能力者やっていう与太話すぐ信じた理由もこれで分かるやろ?」
「いや、分かった……にしてもてめえなあ……」
「まあまあ、唯一の友達の黒崎ちゃんのこと、許したらなあかんやろ?」
「唯一じゃねえよ! 人をぼっちみたいに言ってんじゃねえ!」
「あ、友達とは認めてくれんねんな。うちも嬉しいわ」
「やかまし、どうせいつもの嘘だろ」
今の蓮に、彼女のおふざけに付き合う余裕は無かった。能力者と呼べるような、呼べないような地味な能力とはいえ、彼女は自分にすら能力を隠してきた。自分自身は彼女を信頼し、これまでずっと彼女に自分の力の秘密の全てを打ち明けてきたというのに、彼女はというと仲間である自分に何も打ち明けようとはしなかった。
それで強いショックを受けるほど、やわで幼いメンタルを彼もしてはいなかったが、それでも少しこれまでずっと隠されていたという事実が、疑念を植え付けてくる。
「ま、蓮が言いたいことも理解できるけど、一旦信用してもらってもええかな? うちにもあんま大っぴらに言われへん事情はあんねん」
その時黒崎が作った困惑の表情に嘘があるとは、彼も信じたくなかった。けれど、先ほど彼女の言った彼女自身の能力が引っかかる。言ってしまえば、どんな嘘でも信じさせることができるのだ。もしこの言葉が嘘で、自分が利用されていただけなのだとしたら、それがどうにも気がかりでならない。
けれど、信じた方がいいのだろうとは彼自身思っていた。信じたいかという願望はさておき、不信感を抱く意味があまりないと思われたからだ。本当に自分のことを信用していなければ、互いにチームとして、犯罪に手を染めるようなことはしていなかっただろう。たとえ目的は正義だとしても、逮捕のリスクは充分にある行為だ。そんなリスクを共有してきた黒崎が、自分を全く信用していなかったとは思えない。彼女が真にどういう人間かはこれから見ておいたほうがいい。
「しゃあねえ、信じる」
「あんたが感情で動かへんやつで助かるわ」
まるで蓮ならそう判断すると知っていたように、黒崎は淡々とそう告げた。少し最後微妙な空気になってしまったが、簡易的な自己紹介は一旦終了となった。そのため、蓮は今度は黒崎でなく、それ以外の三人の方に向き直り、彼らが名乗った時に疑問に思ったことを尋ねてみる。
「そういえば、コードネームって何だったんだ?」
「ああ、やっていることがやっていることだから活動中に個人名が特定されないためのものだヨ。我々が真っ向から敵対する連中に、些細な個人情報でも与える訳には行かないからネ」
「できるだけ本人をモチーフにしたりして分かりやすいものになっておりますの」
「俺は色んな知人から堅物と呼ばれているからな。わかりやすく、名前の特定もし難いから堅物とつけた」
「飾りっ気全くねーな。そういうほうが好きだけどよ」
「私は名前にしろとついていることと……」
「上流階級で姫を連想して白雪姫でスノーホワイト。ちょっとひねった感じと中二らしさが出てる感じな」
「一々余計な口をはさんでくるの、やめてくださります?」
あんたらほんまに相性悪いな。そう言って黒崎が二人の間に割って入る。この困惑の表情は確実に本心だろうなと、全員が確信できた。
「水が使えるから、水野だっけ? はアクエリアスなのか?」
「それも……ちょっと、ある」
「その子、ただ飲み物として好きなだけですの」
「最初は、ジンジャーエールにしようと……してた!」
「流石にしまらないという理由で、本人が好きで本人をイメージしやすい、両者納得できる名前ってことでアクエリアスになったんだ」
「安直生真面目男にメルヘン女、不思議ちゃんの小学生って……何でこんな色物ばっかりなんだ」
「しかも蓮にしてもただのチンピラやしな。正統派美少女の黒崎ちゃんが中和するしかないなぁ、これは」
「何でこんな色物ばっかりなんだ」
「今何でもっかい言うてん。蓮、とりあえずお説教や」
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