複雑・ファジー小説
- Re: 表裏一体(オリキャラ募集中) ( No.8 )
- 日時: 2017/11/25 14:09
- 名前: 麗楓(のんたん) (ID: /uXIwxRd)
ファーストキス
「赤木くん、生徒会副会長に選ばれたんだって? やったじゃん!」
「凄いね、おめでとう!」
「先生もクラスの担任として誇らしく思うわ」
次の日の朝、俺の周りにはそれなりの人だかりが出来た。口角を無理矢理あげてありがとう、と言葉を返す。
ちゃぷちゃぷと水の上に浮かぶ彼らの言葉は意味が軽薄で、決して俺の心の底までは沈まない。
やったじゃん、凄いね、おめでとう、誇らしい? バカバカしい。そんなこと一言も思っていないくせして。
水の上に浮かんだ軽い発砲スチロールのような気持ちは上部だけの響きに聞こえた。
「ところでさ、皆に聞きたいんだけど。今度会長になる紫野さんって知ってる?」
昨日は散々な目にあったからな......。
しかしクラスメートは互いに顔を見合わせて、困まった表情をしていた。俺は気になって質問してみる。
「紫野さん、何かしたの?」
「いや、紫野さん少し変わった人だから気を付けたほうがいいと思うよ。前のクラス一緒だったけど、友達も居ないみたいだし、行動が少し変わっているというか......」
「そっか、ありがとう」
少し、というよりは物凄くと言ったほうが良いと思う。何せあの言動をする人物だぞ、警戒心MAXで挑まなければならない。
「ねぇ、赤木くんっている?」
ふいに聞こえた柔らかな声。今話していた人はぎょっと後ろに倒れ込んだ。鈴の音のような朗かとした声は教室に響き、誰もがその少女の姿を見て驚愕した。
「赤木リンくん、居ますか?」
その声の持ち主は紫野巨峰だった。にまっと笑うどこか幼い表情の裏側には、何か企んでいるような気がする。制服は着ているが、制服の規則にはないピンク色のカーディガンを羽織っていた。ルックスの良い彼女の顔立ちに女子たちはヒソヒソと、カーディガンに見えるくっきりとした胸の影に男子たちはギャアギャアざわついていた。
「赤木くんは......」
そう言ってクラス全員が俺に目配せをする。皆がみんな、俺に何とかしてくれ!という困惑した目付きをしている。厄介ごとは全部俺に回すようだ。
「紫野さん、外で話そう?」
「うん、分かった」
そう言って俺は彼女の腕を引っ張って教室を後にした。
「あら、この前の続きしないの?」
「誰がするか」
「病院は退院したのか?」
中庭に連れ出してきたが、春の風はやはり冷たい。所々溶け残った雪の間近に春の植物が芽吹き始めている。緑と雪のコントラストは少しばかり鮮やかに見えた。
「別に、いつでも退院出来たし。生徒会会長をやるの面白そうだから来てみた」
企んでいたのはこのことか。どうせまた俺のことを玩具にでもして遊ぶのだろう。俺はまっぴら御免だが。
「私、隣の6組だから気軽に声かけてね?」
「誰がお前に気安く話しかけるか」
「冷たいなぁ」
髪の毛をくるくると弄ぶ彼女は残念そうに呟く。そして俺の顔をじっと見つめて小悪魔のように、にまっと笑った。
「まつげ、頬についてるよ。取ってあげるから、顔近づけて」
「ん、別にこれぐらい......」
「いいから早く」
「はいはい」
彼女に顔を近づけた瞬間、柔らかい唇は俺の唇を吸い込むかのように、そっと優しくキスをした。思わず顔が蒸発。
咄嗟に離れようとしたが、彼女の柔らかい唇に心までもぎとられる気分だった。
「っ!?」
「んっ......んん......」
そのうち彼女は舌を中に入れてきて俺はぎゅっと彼女を抱き締めたとき、ハッと目が覚めたかのように彼女を突き飛ばす。
「んふふ、真っ赤になって可愛い。これからもよろしくね?」
「っ......俺の大事なファースト奪うな!」
そう言って俺は彼女から走り去った。
「結構乙女なんだねぇ。......まぁ、ファーストってところは一緒かなぁ」
その呟きは風の音にかき消されるのであった。