複雑・ファジー小説
- 「喝采せよ! 喜劇はここにはじまれり!」承⑥ ( No.16 )
- 日時: 2017/10/26 00:12
- 名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: bs11P6Cd)
あの日、壇上から浴びせられたあまりな内容の言葉に、呆然と壇上を見ていたときだった。背後から聞こえた子どもの声。
(違う! そんなことじゃないのに!)
自分の気持ちを代弁したかのようなそれに樹ははっと我に返った。けれど、きっとあれは、付き添いの母親となにかもめた際に出た言葉だと思って、ずっと忘れていたのに。
あれは、審査員の言葉に対する非難だったのか。
——俺は、ショックでなにもいえなかったのに。
小柄な清家の背中を捉えたのは、三階から四階へと昇る階段の踊り場だった。
「——清家!」
家庭科室とか視聴覚室とか特殊教室ばかりを集めたこの校舎を、放課後歩いている生徒といえば屋上に用があるものばかり。それを裏付けるように、樹が清家を呼び止めたとき、周囲には生徒の影はおろか、教員の姿もなかった。
踊り場から、駆けあがってくる樹を見下ろし、清家がまた顔を輝かせた。
「先生! やっぱり練習、見に来てくれたん……」
「——さっきの! さっきの、おまえ、どういうつもりだ!?」
教員の顔をかなぐり捨てて怒鳴るように問う樹に、清家は一瞬、不思議そうな顔をした。ややあって、
「ああ、全国に連れて行くって……」
「そっちじゃねぇ! 審査員の、」
「——選評、間違ってましたよね、あれ」
さも当然のごとく、清家はそういった。あのとき樹が欲しくて欲しくてたまらなかったその言葉を。
「……」
清家は続けた。暗い復讐劇の主人公のように、目をぎらぎらと輝かせて。
「だからね、おれ、この高校の演劇部入って、全国行って、あの審査員にいってやるつもりだったんです。あんたの考え方はもう古いんですよ、演劇人、引退されたらどうですか、って。そしたら、先生が赴任してくるでしょう? これはもうリベンジしろっていわれてるのと同じことじゃないですか!」
「……やりたいことって、そのことか……?」
「え?」
「さっきいってたろ? 俺にアドバイスしてほしいことがあるって」
「ああ、はい。そうです。おれ、リベンジに最適な脚本見つけたんです。これ演じるのに、先生のアドバイスがほしいなぁ、って」
「なんだよ、それ」
「ダーチャ・マライーニの『メアリー・スチュアート』」
ご存知ですよね、そう清家が悪戯小僧のような表情を浮かべる。
「——っ!!」
知らないはずがない。入部当初に渡された練習用の脚本だ。ペアを組み、冒頭の数ページのみ交代で演じていたのを覚えている。でも、あれは、
「女優の、二人劇じゃないか」