複雑・ファジー小説
- 「喝采せよ! 喜劇はここにはじまれり!」承⑦ ( No.17 )
- 日時: 2017/10/26 22:10
- 名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: bs11P6Cd)
軽やかに少年は笑う。
「男が演じちゃいけないなんて決まりはないですよ? むしろ、これだけジェンダーレスが叫ばれてる世の中で、宝塚とか歌舞伎がある日本で、女王の役をやっていいのは女だけっていうのがおかしな話じゃないですか」
——そうだが。そうだが!
あの頃、樹もまったく同じことを考えていた。十一人の仲間たちも、同じことを口にしていた。それで否定されて、もう抵抗することをやめてしまったのに。
(違う! そんなことじゃないのに!)
あのときただひとり反旗を翻したちいさな子どもは、たったひとりで武器を磨き続けていたのだ。県大会出場がやっとな、弱小演劇部で。
やろう。
そういってやるのは簡単だった。樹がそういってやれば、清家は喜んで樹の復讐を果たそうとしてくれるだろうから。
でも、樹とてだてに年を食ったわけではない。だてに顧問を押しつけられたわけじゃない。
「エリザベス? おまえならメアリーのほうか?」
「どっちでも。メアリーはナニーもレティスもやらなきゃだから、やりがいはあるよね」
清家は気合十分といったていでうなずいた。樹が協力する気になったのだと思ったのかもしれない。
『メアリー・スチュアート』は、スコットランド女王メアリーとその乳母ケネディ、イングランド女王エリザベスとその侍女ナニーの四人しかほぼ出てこない脚本だ。四人の女優がそれぞれを演じてもよいが、一般的には、ひとりの女優がどちらかの女王を演じるときにはもうひとりはその相手を演じるといった、二人劇として浸透している。
だからこそ清家は選んだのだろうし、樹は訊かなければならなかった。
「おまえがメアリーを演じるとしたら、誰がエリザベスをやるんだ?」
いまの演劇部には、男子生徒はひとりしかいない。もしほんとうに『メアリー・スチュアート』を選ぶのであれば、もうひとりも男子生徒である必要がある。そうでなければ、この脚本を選ぶ意味がないのだ。
樹の指摘に、あれほど饒舌だった清家が黙り込んだ。彼も、それは気づいていたのだろう。
「聞いたことに答えろ、清家。誰が、エリザベスを演じる?」
「……まだ、決めてない。でも、たぶん、先輩たちの誰かになるかと……」
消え入りそうな声。復讐や憧れに瞳を輝かせていたのが嘘のように、悔しそうな顔で目線をさげた。
樹はため息をついた。返事は決まっている。
「俺は、協力しない」
「そんな」
「おまえだってわかっているんだろう? おまえがメアリーをやるのに、エリザベスを三年女子がやるのがどういう意味か。それのどこがリベンジだ。なにが引退されたらどうですか、だ。そんな茶番につきあわせるくらいなら、おとなしく当たり障りのない脚本でも読んどけよ!」
「でも、新入生が」
「入ってくるのかよ、男子が!」
「——」
清家が怯えたように身を震わせた。