複雑・ファジー小説
- DG 運命遊戯 小休止1-1 磨き合えば ( No.17 )
- 日時: 2017/11/25 12:01
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
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《小休止 英気を養って》
1 磨き合えば
飛んできた稲妻をエーテナは防ぐ。あえて隠してきた能力を開放しなければ殺される、そう確信したから。
「さがりなさい! ここはあたしが!」
チームリーダーとしての誇りと矜持を胸に抱いて、能力がばれるのを覚悟の上で自分の能力を展開させた。
エーテナの能力は攻撃的ではない。それはどちらかというと防御に適した異能力。
稲妻が彼女に当たる寸前、それは突如、
固まった。
そう、文字通りに固まった。凍りついたように固まった。実体のない紫電が実体を持って固まり、そのまま動かなくなった。
一部は少し遠くにいたハーフの方へ飛んで行ったけれど、彼女は稲妻を屈折させてかわした。
これがエーテナの能力、「実体のないものを固める」能力だった。
彼女にかかれば水も空気も炎も電気も、全てが全て固体と化す。水や空気を固めればその上を歩けるようになるし立派な防御壁にもなる。燃え盛る炎を固めれば、熱さはそのままに物理的な壁を作ることが出来る。稲妻を固めれば進行を止められるし、上手いこと応用すれば稲妻のロープだって作れる。
その力で、エーテナは稲妻の進行を食い止めた。
「礼を言うぜ」
ジェルダは笑った。
「殺しの稲妻じゃなかったし実際、見た目が派手なだけで大した威力も無い稲妻だった、当たっても一瞬痛いだけで致命傷にはなり得ない稲妻だったのに、みんなして防御してくれたこと。お陰でそれぞれの能力が読めた。これで十分に対策出来るじゃんか、なァ?」
そんな事を言う彼に、エーテナは不敵に呟いた。
「いいじゃない、上等よ」
彼女の内側で燃え上がる闘志。
彼女は振り返って、自分の仲間たちを見て笑った。
「大丈夫、みんなはあたしが守るから。でもね、参考までに能力を教えてくれると嬉しいのだけれど」
「それもそうだね」
真っ先に言ったのはトーン。白黒の小柄な少年は頷いて、軽く目を閉じてそして開いた。
すると。
溢れ出す闇。それは彼の不安を象徴するように頼りなく揺れて、やがて消滅した。
彼は説明する。
「自分は自分の感情を光や闇として放出することが出来るんだ。感情の強さによりけりだけれど、強い感情を持っていれば建物だって壊せるよ。エーテナさんのは固める能力?」
「そ。だから防御的。あんたの力は様々に応用できそうね? 便利じゃない!」
エーテナは上機嫌に笑うと、残るハーフとウェインを見た。
ウェインはビクビクしていて自分から話そうとはしない。分かったよとハーフが進み出た。
彼女はスカートのポケットから一本の筆記具を出して皆に見せた。
「私の能力は『折る』能力なの。見て」
取り出した筆記具を軽く睨めば、それは真ん中から綺麗に折れた。
「やろうと思えば『屈折』させたり『折半』したり、様々な応用が可能なんだ! エーテナさん、私でも貴方の役に立てるかな……?」
それは、ひどく応用範囲の広い能力だった。『折』という字が付く事象ならばどんなことでも起こせる能力。この字が付く言葉は案外多い。大いに役立つことだろう。先程の、自分に飛んできた稲妻をよけたのもこの能力のお陰、稲妻を『屈折』させたからに他ならない。
すごいじゃない、とエーテナは笑う。
「貴方の活躍、期待しているわね。じゃ、最後。ウェイン?」
「はい……」
彼女は周囲をきょろきょろと見渡したが、やがて諦めたように首を振った。
「ちょうどいいものが無いから口で説明するね。ボクは一定範囲内にある重力を操るの。物を飛ばしたり、重力で潰したりなんて真似が出来るんだ。正直言って、ボクはこの力が怖い。でもね、これがボクの力なんだ」
「そんな機会、あたしが訪れさせないようにしてあげるわ」
怯えたような顔をするウェインに、エーテナは明るく笑いかけた。
「これでみんなの能力は把握した! さぁて、せっかくの休日を利用して、生き残るための作戦を練ろうじゃないの。まずは部屋に行くわよ! さあ、作戦会議の始まり!」
どこまでもどこまでも力強く皆を引っ張るリーダー、エーテナ。
彼女の紫のツインテールが風に揺れた。
「いいこと、みんな。人を簡単に信じちゃいけない。あたしたち以外のだれが何を言ったって、その言葉に乗せられたりはしないでね。中にはあんた達を利用しようとする悪い奴らもいるんだからさ」
でも、あたしは裏切らないから。
「それだけは覚えておいてよね。だから何かあっても、あたしを疑うのは筋違いってもんよ? 自分の目で、何が正しいかしっかり見極めなさい。あたしは全力でサポートするから」
そんな事を言って、彼女は颯爽と歩きだす。その後をついて行くは三人のチームメイトたち。
エーテナたちは、歩みを止めない。
◆
稲妻が飛んできた時、カーシスは自分の身を守るのだけで精一杯だった。
彼は防御的能力など持っていない。それでもナイフの扱いだけは得意だったからとっさにナイフを投げ、それに稲妻を自分の代わりに受けさせて事なきを得た。
しかし彼の相方であるヴィシブルは、それさえもできない。
「……っ」
「ヴィシブル!」
真っ白な少年の身体が、稲妻の直撃を受けてびくんと跳ねる。小さな電撃が少年の身体中を一瞬のうちで駆け巡り、やがて出て行った。
実際それは殺しの稲妻ではない。その程度の事では誰も死なない。けれども。
稲妻を受けて倒れた少年は、ひどく苦しそうな顔をしていたから。
カーシスは優しく彼をかき抱き、ジェルダを睨んで氷のような声音で言った。
「ジェルダ・ウォン。その名前、しかと覚えた」
その氷の目線を受けても、ジェルダの稲妻は揺るがない。
カーシスは己の感情を精一杯鎮めると、小さく宣言した。
「ヴィシブルに手を出した事、心の底から後悔させてやる。……『策略家』を、侮るなよ?」
カーシスとヴィシブル。ずっと一人で行動するはずだったのに、同じ状況下で偶然出会った。
出会った瞬間に彼らは互いに直感した。ああ、この人は自分の相棒だ、と。
運命なんて甘いものを信じるほど、二人は純粋ではないがしかし。その出会いはなるべくしてなったと心から思えるから。
ゆえに仲間を傷つけられた時の恨みは深い。
「いいんだよ、カーシス……」
呼吸を整えたヴィシブルが言うが。
「簡単には、許さない」
対するカーシスの答えはにべもない。
青い瞳が炎を宿す。
「まあ、見ていろ。手足を一本ずつもぎ取って孤独にさせて、地獄よりもつらい目を見せてやる」
生まれた不和を、仲間が傷つけられたという事実を彼は忘れない。
カーシスの青の瞳とジェルダの金の瞳がぶつかり合った。交錯する視線。
「ま、楽しみにしてるぜ」
そう笑って、ジェルダは去って行った。
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