複雑・ファジー小説

DG 運命遊戯 プロローグ ゲームの始まり ( No.2 )
日時: 2017/12/16 15:02
名前: 流沢藍蓮 (ID: Yv1mgiz3)

>>1
 ありがとうございます♪
 これからも暇を見つけて更新していきますので、気長にお待ちくださいませ。
 最近は亀更新です。済みませんね……。

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †


 プロローグ ゲームの始まり


  ◆


 異能なんて、異能者なんて、あくまでも小説の中でだけのことだと思っていた。誰もがそんなことを信じ、当たり前の「日常」を生きていた。ある時から、実際に異能者は存在し、少しずつ増え始めているという話を彼女は聞いたが、普通に中学生をやっている彼女にとっては対岸の火事、関係のないことだった。
 今日だって。

「行ってきまぁす」
「気をつけるのよ」

 彼女——花咲華菜はなさきかなは、通学バッグを持って当たり前のように学校へ行く。彼女の家から中学校までは歩いて十分ほど。華菜は茶色のお下げを揺らして、その日も当たり前のようにして学校へ行った。
 教室へ入れば。

「おはよう、信互しんごくん」
「ああ、花咲か。おはよう」

 華菜の挨拶に、信互と呼ばれた少年は軽く手を挙げる。
 落ち着いた雰囲気、鋭い輝きを宿す黒の瞳。学校の黒い制服をそれなりに綺麗に着こなして、優等生にこそ見えないが、そこらの不良とは一線を画す印象のある少年。
 明るい性格の華菜は友達が多いが、どこか孤独を宿す信互は名前の割には友達が少ない。
 それでもそれでも。今日はいつも通りの日だった、


 はずなのに。


「この数式を解いて! 花咲さん、答えてみなさい」
「はいっ!」

 目の前には、ずらりと並んだ一次方程式の問題。今は数学の時間である。
 そこまで難しい問題でもなかった。華菜はその答えを口にする。

「X=3です!」

 自信を持って答えた、


 瞬間。


 日常が、当たり前だと思っていた日常が、


 崩れた。


 グサリ。先生に突き刺さったのは、凶悪な輝きを宿す、


 ——刃物。


「え……」

 先生の身体が崩れ落ちる。
 凶悪に光る刃物を握った男が、生徒たちを睨みあげた。
 次の瞬間。

「キャー! 殺人者だ! 殺される!」
「助けて助けて!」
「死にたくない!」

 上がった悲鳴。生徒たちは教室の出入り口に殺到する。
 しかしそういったところに限って、狭い。
 刃物を握った男は生徒たちが逃げ出している入口へ向かい、握った刃物を振りかざした。
 悲鳴、血飛沫。
 恐怖と驚愕に凍りついた華菜は、動くことすらできないでその様を凝視するしかない。

 しかし、動かないのは信互も同じだった。彼は冷めた目で冷静に状況を確認していた。
 男は殺す。上がる悲鳴。
 華菜の口から、思わず小さな悲鳴が漏れた。
 そしてそれを、男が聞き逃すはずがなく。
 男の目が、華菜をとらえた。

「……こんなところに、はぐれた奴か」

 次の瞬間、男は一気に華菜に肉薄した。「やめろ」という信互の叫び声。彼は割り込もうと走ったが、間に合う距離でもない。それに彼が何か、できるわけもない。なぜなら彼は、一般の中学生にしか過ぎないのだから!

 華菜の席は教室の一番後ろ、信互の席は教室の一番前。二人は殺戮が始まってから、互いに一歩も動いていない。つまり、両者の距離は絶望的なまでに離れている。

「死ね!」

 迫った刃。華菜は己の死を覚悟して、それでも生きようと手を伸ばした。その手が男に触れた。

 その時。

 華菜を突き刺さんと迫っていた刃が、彼女に刺さる直前で止まった。華菜はパチパチと瞬きする。
 華菜の手は男に触れていた。触れた瞬間、男は止まった。
 男は自分を見、華菜を見、血濡れた刃物を見た。
 その目からは、何故かぎらつく殺意は消えていた。
 男は不思議そうに自問した。

「……自分は、何を?」

 そして、彼は知った。
 自分が人殺しをしてしまったということを。
 全てを悟った男の顔が、青ざめていく。

「おれは……何を」

 その後、悲鳴を聞いて駆けつけてきた先生たちが男を取り押さえて男は捕まり、男は裁判を受けることになった。最悪死刑になるだろう。彼はそれほどのことをした。
 しかし華菜は不可解でならなかった。どうして自分が男に触れたとき、男は不意に殺意をなくしたのか。彼女を殺さなかったのか。

 そしてある日華菜は知った。自分には、「触れた相手の殺意や敵意、害意を消す力がある」と。
 以降、彼女は学校内で『救世主』として崇めらるようになったが、彼女の親は「能力者を育てた親」として罵られ、嘲られるようになった。
 華菜の力は平和の力。なのにそれは異能力。
 異能力者は世間の異端。故に蔑まれる定め。
 あの時。華菜は自分の力を使わなければ、死んでいたのに。
 世間は彼女の自己防衛すら、「異能力者め」と否定した。

 ただ一人——風道信互を、除いて。

 彼だけは何も言わず、彼女には以降も同じように接した。
 それは、一年前の変事。
 華菜が中学校に上がって、一月が経った頃の——.


  ◆


「七虹(しっこう)異能学園?」

 その日。ある知らせが、告知された。
 彼女の家に届いたのは、虹色の文字で書かれた綺麗なチラシ。
 そこにはこう書かれていた。

〈全国の異能力者に告ぐ! 七虹異能学園に来たれ! 来た生徒には、その力を社会で堂々活かせるようになる『資格』を差し上げる!〉

 それは、本当に小さなチラシだった。他のものに紛れてしまいそうな、外見的にはそこらのチラシとは何ら変化のないチラシだった。
 しかし、書かれた文章に、華菜の心は高鳴った。

「社会で堂々……」

 能力者は幸せになってはならない。なぜなら異端であるから。
 誰の言葉だったか。そんなことを言っている人を、華菜はテレビで見たことがある。
 しかし、堂々と社会に出られるようになったら? 能力者でも幸せになれるのだろうか。
 だから華菜は決めた。チラシを両親に見せて、言った。

「父さん、母さん。私、ここに入りたい!」

 彼女がチラシの先に見たのは、未来への展望。
 彼女の両親は、彼女の差し出したチラシとその目に浮かぶ強い光を見て、頷いた。

「「華菜がそう望むのならば」」


  ◆


 募集人数は20人、しかし入学希望人数は100人を越える。
 七虹異能学園長のリェイルは事前に送られてきた入学希望書を見、内容を散々吟味して、20人の生徒たちを選びだした。
 華菜の家にも通知が来た。それは、『入学許可証』。
 手紙の中に入っていたそれを見て、華菜は嬉しそうに飛びあがった。
 手紙には、学園内の特殊な規則が書かれていた。

・生徒たちは決して本名を名乗ることは許されず、「コードネーム」を名乗ること。
・生徒たちは学園内で、自分に合った「コスチューム」を与えられる。
・生徒たちは入学前に一度学園に来て、上記の二つを決めること。

 といった内容が。
 ひとまず入学前に、学園に行けということらしいと華菜は判断した。
 手紙に書かれた入学式の日付は今からちょうど一カ月後。
 その日が華菜は、待ち遠しくてならなかった。
 だから翌日、学園に来ることを決めた。


  ◆


「ようこそ七虹異能学園へ。私が学園長のリェイルです」

 学園長リェイルは、ストレートロングの金髪に抜け目のない紫の瞳をした、細身の女性だった。黒いフォーマルな衣服をきっちり着こなした、まるで隙の見当たらない印象。しかしそれでもその口には穏やかな笑みが浮かんでいて、厳しそうな女性なのに威圧感を与えない。
 彼女は首をかしげて、やってきた華菜を見た。

「あなたがここの新しい生徒さんですか? 名前は?」
「華菜です。花咲華菜」
「ああ、平和の力の」

 名乗れば彼女はすぐにわかったようで、成程とうなずいた。

「今日来られたということは、コードネームとコスチュームをご所望ですね?」

 彼女の言葉に、華菜はハイと答えた。
 正直好きにしてくれて構わないのですが、とリェイルは言う。

「中には本名を明かしたくない能力者もいます。コードネームはそのための方便なのです。ですので好きに決めてくれて構いません。コスチュームも同様ですね。私ならば……自分の能力に準じたコードネームにしますがね。わかりやすいので」

 その返答に、華菜は悩んだ。
 自由に決めていいと言われると、かえって決めづらくなるものだ。
 華菜は必死に記憶をたどる。

 確か自分の能力である「平和」は英語でPeace、平和といったら鳩、鳩は確か、英語で……Pigeon、だったかと、平凡であった頃の勉強をかろうじて思い出す。
 平和、鳩。平和の鳩。ピース、ピジョン。ピース・ピジョン!

 ——決まった。

 華菜は、花が咲いたような笑顔を見せた。

「決めました……。私はピース。ピース・ピジョン! 平和の鳩です」

 ピース・ピジョン。口にして改めて、それが自分の名なのだと彼女は再認識する。
 良い名前ですね、とリェイルはほめた。

「では、コスチュームの選択に行きましょうか。そうそう、外見はコスチュームに合わせて貴女の好きなように変化しますので、コードネームを名乗る前の貴方の正体は誰にも、わからないようになっています」

 衣装室に案内しましょう、とリェイルはそっと立ち上がった。

  ◆

 本当に様々な衣装があったけれど、平凡を自称する華菜——もといピースは、結論、平凡なコスチュームを選んだ。
 よく言えば無難、悪く言えば陳腐。白を基調としたどこかの学校の制服にありそうなセーラー服に、頭にはオリーブの髪飾り。茶色のショートボブの髪に、白い長靴下、茶色の靴。
 しかしその服装はシンプルでこそあったが、彼女にはよく似合っていた。
 置かれていた鏡を見て、ピースは頷いた。

「これでいいです。学園長さん、どうもありがとうございました!」

 彼女が動くたびに、頭につけたオリーブの葉が揺れた。
 学園長リェイルはそれを見、優しく微笑んだ。

「これで必要なことは決まりましたね。一応説明しておきますと、この学校は全寮制。ですから一度入学しますとしばし、親元には帰れなくなりますがよろしいでしょうか?」

 それくらい、ピースは覚悟のうちだ。

「大丈夫です! 正直、わくわくがたまらないんです!」
「気に入っていただけて何よりです。そうそう。あなたがこの学校の敷地を出たらコスチュームは自動解除されますが、あなたがこの学校の敷地にまた入ったとき、今回選んだコスチュームは自動で装備されます。コスチュームは変えることができません。……これで確定してもよろしいでしょうか」

 ピースはもう一度、鏡を見た。
 そこに映る姿は紛れもない、平和の使い。

「ええ、このままでいいです!」
「そうですか。それでは決めることは決めましたので、本日はお引きとりを願います」
「わかりました!」

 リェイルの求めに従って、ピースもとい花咲華菜は、コスチュームを着たまま学園の敷地を出た。
 彼女の身体が完全に広大すぎる学園から出たとき、着ていたコスチュームは光とともに消えて、彼女はいつもの普段着を着ていた。
 どんな力が働いたのかはわからないが、今は異能者の時代である。学園長が異能者であっても、何らおかしいことはない。華菜は学園長もまた異能者であると踏んでいた。
 しかし、そんなことはどうでもいいか。
 華菜は学園の敷地を出て数歩歩いたあと、再び学園を振り返った。
 その学園の敷地には広大な森があり、校舎はその森の奥にある。
 不思議な雰囲気のする学園だけれども。そこが華菜の、新しい場所となる。
 華菜は、入学式の日が待ち遠しくてならなかった。


  ◆


 それから約一ヶ月。
 ついに訪れた入学式の日、華菜もといピース・ピジョンは、森の中を校舎に向かって歩く道すがら、驚くべき人に出会った。
 藍色の髪に青の瞳、中世の騎士みたいな鎧姿。
 彼は彼女の知っている「彼」とは違ったが、宿す雰囲気は変わらなかったから。
 思わず、彼女は呼んでしまった。

「信互く……」
「違う、ソーマだ!」

 咄嗟にその言葉に反応した彼。彼はやってきたピースの存在を認めると、何だとつぶやいた。

「……お前か。ここでは何と名乗っているんだ?」
「ピースです。ピース・ピジョンです」
「平和の鳩か、お前らしいな。こっちはウィルド・ソーマだ。ソーマと呼んでほしい」
「ソーマ?」
「Sword Masterだからソーマ。スペルもそのままSwormaだ。……由来は省く」

 彼は、いつもの彼らしくクールに対応した。
 しかしピースには疑問があった。
 七虹異能学園は異能者しか来られない学園。ソーマが信互であったとき、彼が異能を持っていたことをピースは知らなかった。
 だからピースは彼に訊ねた。

「信互く……じゃなくて、ソーマくん。何か、異能とかあったの?」

 ああ、と彼は頷いた。

「この力のせいで、不運を強いられてきたんだ。申し訳ないが、相手がお前でも話さんぞ」
「そっか……」

 人には人の事情がある。そこを下手に詮索するほど、ピースは野暮ではない。

 そうこうしている内に、やがて学園の校舎が見えた。
 確か、体育館に集まるようにとかお知らせには書いてあった。ピースたちはその大きな校舎に足を踏み入れ、体育館を目指した。
 途中、様々な人を見かけた。
 ピースみたいに制服姿(ただしブレザーとスカート)の銀髪の少女もいれば、髪の毛が左右で白と灰色に分かれた少年、銀髪でタキシードを纏った少年など。本当にたくさんの人が、この学園にはいるようである。

 みんながみんな体育館を目指していたため、特に考えなくても到着することができた。
 体育館に入った生徒たちは、思い思いに自由に広がった。
 それからしばらくして、体育館の奥から学園長が現れた。何かが始まる予感がする。
 彼女は金色の髪を揺らしながらも、手にマイクを持って皆に声をかけた。

「皆様、皆様。選ばれし能力者の皆様、よくぞお集まりいただきました。私はここの学園長のリェイル。今から校則と、皆様全員に『卒業試験』を差し上げます」

 その言葉を聞いて皆、いぶかしげに首をかしげた。卒業試験? 一体何をしろというのだろう。
 リェイルは、ふふふと微笑んだ。





「簡単です。皆様に殺しあいのゲームを演じてもらえればいいのです」





「……え?」

 その言葉は、あまりに突飛で。みんなの頭に一斉に、無数の疑問符が浮かんだ。
 リェイルは淡々と説明を続ける。

「ここの生徒数は20人です、が。今日を含めて一週間、生徒同士で己の異能を活用して殺し合いを行いなさい。一週間以内に人数が16人未満になっていなかった場合は、私が責任を持って皆様を殺しましょう」
「ちょっと待ちなさいよ!」

 学園長の言葉に、赤いツインテールの髪をした、赤い瞳の少女が反論した。彼女は全体が赤かった。髪も目も着ているワンピースも。
 彼女は目に怒りを宿して、学園長を睨みつけた。

「信っじらんない! あたしたちはこんな、殺し合いなんか望んでいないよっ! 欲しいのは『資格』だけだもん! さっさと寄越しなさいよね!」

 彼女の言葉に、リェイルは柔らかに異を唱えた。

「そんな都合のいい話が、どこにありますか」
「そんなのないよ、わかってる! でもさぁ、何で殺しあいなわけ!? 『資格』が決まった人数しか貰えないものなら、成績順で良かった人から与えていくとかできないわけっ?」
「それでは面白くありません」

 リェイルは笑っていた。嗤っていた、わらっていた!
 綺麗に見えた紫の瞳は、ゆがんだ喜びに揺れていた。
 彼女は赤髪の少女を見た。

「貴女はルールに逆らいますか?」
「当然じゃないの! あたし、この学校から抜けるから! じゃね!」
「できるとお思いですか!」

 踵を返して歩き出そうとした少女。その背中に、リェイルは己の手を向けた。


 次の瞬間。


 グジャァァアア! 聞くにおぞましい音が、して。


「あ…………」


 リェイルの手から伸びた漆黒の茨が、少女を背中から貫き、腹を裂いて一気に広がった。
 血の匂い。腹を開かれ、飛び散った臓物。
 身体をけいれんさせて、倒れ伏した少女。
 あちこちで悲鳴が上がった。それはピースだって例外ではない。
 血、肉、臓物。彼女自身から生まれたものが、赤い彼女をさらに赤く、紅く緋く赫く朱く染めていく。真紅の花が、一瞬にして咲いた!

 リェイルのゆがんだ笑みが、遠くに見えた。
 悪魔の如く、笑いながらも。
 彼女は告げる。





「——さあ、ゲームを始めましょう」





 決して望まぬ殺し合いが。生徒同士の化かし合いが。呪われし運命の遊戯が、悲しみしか生まないゲームが!
 今、幕を開けた。
 生徒たちに、逃れるすべはなかった。


 ——死にたくないッ!


〈プロローグ 了〉

◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †

 次からは本格的に「ゲーム」が始まります。只今の人数は19人、生き残るは16人、減るは3人。
 一体誰が脱落するのか?

 さあさあ始まった悪夢のゲーム! 死ぬのは誰で、生き残るのは誰?
 次の話に、請うご期待!