複雑・ファジー小説
- DG 運命遊戯 1-1-1 騎士が剣を捧げるは ( No.3 )
- 日時: 2017/12/16 15:03
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: Yv1mgiz3)
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《第一ラウンド 小手調べの殺戮ゲーム》
〈一章 手を取り合えば?〉
1 騎士が剣を捧げるは
早速の人死にに騒然となった体育館。いつどこで暴動が始まったっておかしくはない。誰も彼もが今にも不安を爆発させそうになっていた。体育館は一触即発の雰囲気に満ちていた。
そこを。
「鎮まりなさい!」
よく通った女の子の声が割った。鶴の一声にざわめきは鎮まる。
見るとそこには年長そうな、紫のツインテール、濃い紫の瞳の少女がいた。あまり幼い感じがしないから、ピースよりは年上だろう。
彼女は茶色の半袖ジャケットに紫色のホットパンツ、肘や膝の部分には紫色の手甲といった、活動的で動きやすそうな軽装をしていた。
紫色の少女は、混乱するみんなに言った。
「ねぇねぇみんな、頭冷やしなさいよ! ここでこんなに慌てていても、一体何になるっていうのよ? 確かにデスゲームは始まったわ、大変結構! ならばね、混乱して騒ぐよりも、いかにして自分が生き残るか、それを考えるのが先決じゃないの!? ええ、確かに人は死んだ。あたしもこの目でしっかり見たわ。だけどそれがどうかしたっていうの? あんな見せしめに惑わされちゃ、この先絶対に生き残れないからっ!!」
彼女の言葉は、混乱するみんなの目を覚ました。皆、心の平穏を取り戻していく。そうだ、そうだ。嘆いていても何も始まらないのだと、目が覚めたように呟く人たちがいる。
紫の少女はそれを見て、ふうっと溜め息をついた。
「はーい、みんな目が覚めたわね? 一応名乗っとく。あたしはエーテナ、名前の意味なんてないわ。コードネームはテキトーよ」
彼女は名乗り、笑みを浮かべているリェイルの方を見た。
首をかしげて、彼女に問う。
「で? あたしたちはこれからどうすんの。どうすればいいの。殺し合いは今すぐかしら? 何か情報をくれないと、動きづらくて困るんだけど」
その質問を待っていました、とリェイルは大きくうなずいた。
彼女は説明を始める。
「開会式は終了しました。ではでは、これからゲームのルールを解説しましょう。
まず、皆様には後で指定した教室に行ってもらいます。そこでお互いに軽く自己紹介しましょうか。このゲームは殺し合いのゲームですが、チームを組みたければ組んでも構いません。単独行動よりも、チームを組んだ方が生存率は上がるでしょう。
次に。一応ここは学校ですからね? あなたがたの異能力についての授業を行います。ただし途中で抜けたり勝手に殺し合いを始めたりしても、先生は黙認いたします。ここは『学園』とある以上、最低限のことはするつもりですよ。
そうそう、途中棄権なんて言いだした者は、私が即刻処分いたしますのでそのつもりで。あの少女みたいになりたくなければ、最後まで戦い抜いて下さいね。
学園内には寮があります。どの部屋を使っていただいても構いませんし、食堂や風呂場もあるので十分に活用してください。ただし不意打ちなどに関しては私は関知いたしません。とりあえずこの学園で、皆様は一定期間過ごしていただきます。
後で皆様には自己防衛用の小型ナイフを配ります。どう使うかはそちら次第です」
そう一気に説明を終えた彼女は、ここからが本題です、と悪魔の笑みを見せた。
「期間は一週間。一週間が過ぎるまでに人数が16人未満になっていなかった場合は、私が責任を持って皆様を殺します。皆様の能力は全て把握済み、私は皆様全員を殺すことができます。
要は、期間内に確実に殺し合いを行ってくださいということです。一週間が過ぎるまでに規定の人数になった場合は、これ以上の殺しを認めません。余計な殺戮を犯した者は、責任を持って私が殺します」
——一週間以内に、三人殺せ。でないと皆殺しにする。
学園長が告げたのは、非情な言葉だった。
彼女は踵を返して歩き出す。
「では教室に案内しましょう。殺し合う者同士、親睦を深めてみたらいかがですかぁ?」
その紫の瞳は、狂ったように嗤っていた。
◆
リェイルに案内されたのはごく普通の教室だ。しかし誰もが不意打ちされることに怯え、皆不安そうだった。エーテナが一度は激励したが、この恐怖が彼らの間から簡単に消えるということは、ないだろう。人間不信になったっておかしくはない。
だからこそ、チームを組むのだ。互いの命を預け合い、少しでも安心を得るために。
信じれば裏切られることもあるだろうが、信じて得られるものもまた大きい。
リェイルは、言った。
「とりあえずはまず、皆様に自己紹介していただきましょうか」
そうしなければ何も始まらない。相手が信用できる人物かどうかもわからない。
最初はメンバーを代表して、わかったわとエーテナが進み出た。
「さっきも名乗ったけど、あたしはエーテナ。能力? 誰が教えますかっての。あくまでもあたしの意見だけれど、能力は下手に公開すると致命的になるわよ? 生き残りたいならそこは黙っておきなさい。以上」
彼女の紫の瞳には、真剣さが宿っていた。
自己紹介を終えたエーテナは、次は誰かと周囲を見渡す。その視線がつと、ピースの上に留まった。
ピースは困った顔をした。まだ話すことを決めていないのだ。しかしエーテナは促すように彼女を見る。ピースは困り果てて、ついつい助けを求めるようにソーマを見た。
彼女の窮状に気が付いたソーマが溜め息をつき、代わりに前に進み出た。
「ウィルド・ソーマ。剣を扱う騎士だ。よろしく頼む」
言って彼は、きっちりと礼をした。どこで覚えたものか、中世の騎士の礼みたいだった。彼の纏う銀色の鎧もあいまって、ピースには彼が本物の騎士であるように見えた。
ピースは彼が言葉をまとめるまでの時間を稼いでくれたのだと知り、彼に小さくお礼を言った。
大丈夫だな、と問いかけるように、青い瞳がピースを見る。
わずかな時間だったけれど、ピースはなんとか自己紹介の言葉を練り上げられたから。
笑って、前に進み出た。
「ピース・ピジョン、平和の鳩です! よろしくお願いします!」
◆
その後。それぞれの紹介を聞いて、ピースは何となくメンバーを把握した。
彼らは敵かもしれないが仲間かもしれない。とにかく覚えないことには何も始まらない。
中には冷たい対応をする者もいたが、そこは人それぞれなのだろう。
自己紹介が終わったあと、リェイルは言った。
「ではでは。チームを組むのは自由です。今から一時間自由時間をあげますので、皆様は好きにチームを組んでくださっても構いません。別に組まなくったって構いません。自分でリスクとリターンを見極め、好きになさるといいでしょう」
私はゲームマスターですので殺し合いが始まったら基本、ゲームに直接の関与はいたしません、そう言って。
「それでは。私はしばし教室を出ますよ。一時間後にお会いしましょう。それと」
彼女は鞄を持っていて、そこから鞘の付いたナイフを取り出した。数えなくてもわかる。あれは、20本あったんだ。しかし赤い少女が死んでしまった今、彼女が出したナイフの数は予想通り19本だった。先ほど『自己防衛用のナイフ』と言っていたから、彼女はそれを出したのだろう。
「最低限の自己防衛手段はあった方がいいでしょう。一人一本ずつ、これを差し上げます」
教卓の上にナイフを置いて、彼女は教室から出ていった。
教室がざわめく。誰と組もうか、どうしようか。組んだら一蓮托生だよな、などといった会話が、不安と警戒、希望と期待を込めて様々に飛び交いだす。
しかしピースは迷わない。彼女には最初から、組む相手がいた。
青銀の騎士に、花が咲いたような笑顔で笑いかける。
「ソーマくん、私と組もう!」
ピースの言葉に、ソーマはにやりと笑った。
彼は右膝を地につけて左膝を立て、腰に差した剣を抜いて、柄をピースに差し出した。
困惑したままピースがそれを受け取ると、ソーマは剣を動かし、剣の腹を自分の肩にのせるようにした。
彼は微笑み、芝居がかった口調で彼女に言った。
「我、貴女の騎士になることを誓いましょう」
それは、彼がピースに自分の命を預けることと同義。
ピースは思う。確かに状況は一蓮托生ではあるが、これではあまりに一方的なのではないかと。
ピースはまだ困惑したままで、彼に問うた。
「えっ、ソーマくん。私、そこまで求めていないよ……?」
「我が剣は、貴女のもの。ピース、オレを騎士に叙任すると、言うんだ」
「でも……」
ソーマは苦い笑みを浮かべた。
「生憎とオレは、そこまで社交的じゃなくてね。あんたくらいしか組みたいって思える相手がいないんだよ。だから」
青銀の騎士の瞳に宿る光は、真摯な思いを帯びていた。
彼には他に組む相手がいない。そしてピースも、彼以外に知り合いがいないのは確かだった。
要はお互いしか、ピースとソーマにはこの学園に知り合いがいない。ピースが持ちかけソーマが受けた。彼の返答の仕方は独特ではあったが、「組みたい」という思いは同じだから。
ピースは何を迷っているんだと、自分を叱咤した。
(せっかくソーマくんが騎士になるって言ってくれたんだ、私はそれを受けなくちゃいけない)
渡された剣は重かった。しかしピースは頑張ってそれを握りしめ、持ち直して改めてソーマの肩にのせ直す。
平和の鳩は、厳かに告げた。
「我、汝を我が騎士に叙任する!」
芝居がかった口調で返し、ピースは恥ずかしそうに笑った。
本来はその後、主となった者は騎士に剣を向け、騎士はその刀身に口づけをして騎士叙任式は終わるのだが、ピースに手順はわからない。
彼女は剣を慎重に握り、その柄をソーマに差し出して返した。
ソーマは穏やかに微笑んでいる。
ここに、新たなチームが誕生した。
平和の鳩と、それを守る青銀の騎士と——。
◆
影間 莉子(かげま りこ)は高校生だ。今年で17歳になる。
彼女には父親がいない。父親は、彼女が幼いころに病気で死んでしまったから。
それから彼女は母と二人暮らし。しかし間もなく家計は苦しくなって、彼女はある程度大きくなったとき、アルバイトに出なければならなくなった。
(学業なんて、やってられないわよ!)
なんとか一家食いつなぐため、莉子はひたすら働いた。しかしそれでも彼女の母は、莉子が高校を中退することには反対だった。
莉子には夢があったから。医者になりたい、医者になってたくさんの人を救いたい、という夢が。
莉子の母はその夢をずっと応援し、だからこそ諦めてほしくないと娘に言った。莉子だって夢を叶えたい。しかし、今のままではいずれ、生活は破綻する。
夢か、生活か。普通に考えれば生活を優先すべきだが、莉子は夢を簡単には捨てられない。だから大いに悩んでいた。
(あたしはあたしの夢を叶えたいよ。でも、そんな自由なんて)
——なかった、はずなのに。
その日、料金請求の手紙の中に紛れていた一枚のチラシが。
『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』
彼女の運命を変えた。
彼女には「力」があったから。異能力と呼べる力が。
幸い、それはそこまで目立つものではなかったから、彼女はこれまでずっと、そのことを隠していられた。
だが、もしも力を活用して『資格』を得られたのならば。まっとうな稼ぎ手段を得られたのならば、今の苦しい現状はきっと変わると莉子は信じた。
だから彼女は母にそのチラシを見せて、力強く笑ったのだった。
「やりたいこと、見つけたわ」
今の生活が何とかなれば、きっと医者になることはできる。莉子は学校に入学希望を出した。そして入学希望は受理された。
コードネームとコスチュームをもらい、数日経って、入学式の日が来る。
莉子は出発するために玄関先に立ち、軽く右手を上げた。
「じゃあママン。あたし、行ってくるから」
「莉子……」
「違う。もうあたしは莉子じゃない」
彼女の気の強い瞳がきらりと輝いて、自分のコードネームを告げた。
「あたしはエーテナ。自分の未来は自分で切り拓くんだ」
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- DG 運命遊戯 1-1-2 或る稲妻の場合 ( No.4 )
- 日時: 2017/12/16 15:04
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: Yv1mgiz3)
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2 或る稲妻の場合
——ルールに従うのが、嫌だった。
だから彼は逆らった。全力で、全力で。
学校の規則なんて彼の前では無きに等しい。高校に行くのに髪を金に染め、目には金色のカラーコンタクトを嵌め、そもそも制服なんて着ないで鎖ばっかりジャラジャラした派手な漆黒のジャケットを身に纏い、あちこちボロボロに破れたジーンズを履き、耳には鎖の付いたピアス、靴の踵はもちろん潰す。遅刻欠席は当たり前で、授業中も授業とはまるで関係ないことをする。寝る。近くの悪友と喋りだし、騒ぎだす。まだ未成年なのにパチンコ屋に行き、下級生を脅してお金をむしり取る。何回も彼は先生に補導されて親が呼び出されたことも多々あったが、彼は反抗するばかりで一行に従おうとはせず、誰もが匙を投げた。彼はどこからどう見ても不良生徒に他ならなかった。
「俺は俺で好きにやるんだよ! 俺の人生だぜ? 勝手に歩く道決められてたまるかよ」
そんな彼の名前は雷門寺 秋羅(らいもんじ あきら)。幼い頃から稲妻を自由に操る力を持っており、その性格と相まって極めて危険な人物とされていた。
それなのに、勉強なんてまるでした形跡がないのに彼の成績はいつも学年トップであった。典型的な不良生徒なのに頭が良く、故に先生も彼を落第にできない。
問題児、雷門寺秋羅は、色々な意味で学校の有名人であった。
そんな彼も、「不出来な子」として親から勘当されて一カ月が経つ。親切な友人の家に居候させてもらっていた彼はその日、あるチラシを見つけた。
『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』
彼には別に、どうしても『資格』が必要な事情なんてなかった。だからそれは無視しても良かった。確かに彼は異能者だが、彼自身他者の評価なんてまるで気にしない性質なので世間から冷たい目をされるのも慣れていた。
しかし彼は入学希望書類を出した。彼の居候先の友人は、その理由を聞いて呆れた顔をした。
「まったく、秋羅らしいよねぇ。本当に自由なんだから」
その理由とは、単純に、
「異能学園だって? わぁお! 面白そうじゃねぇ? 俺、入学するわ!」
といった、特に脈絡も無いものだった。
そして彼の入学希望は受理され、彼は晴れて七虹異能学園の生徒となった。
コードネームはジェルダ・ウォン。稲妻みたいな、鋭い響きを宿す音。
コードネームに意味はないが、その音は自分自身を表しているようだと秋羅——ジェルダは思った。
金髪金目、黒のシャツに黄色のジャケット、鎖ばっかりジャラジャラした灰色のズボン、胸元には金色の稲妻形のプレートの付いたネックレス、両の手の黒の指貫グローブ、漆黒のブーツ。
彼が選んだコスチュームも彼らしく鋭い印象があって、彼は満足そうに笑ったのだった。
そして彼は入学する。
◆
「ではでは。チームを組むのは自由です。今から一時間自由時間をあげますので、皆様は好きにチームを組んでくださっても構いません。別に組まなくったって構いません。自分でリスクとリターンを見極め、好きになさるといいでしょう」
始まったデスゲーム。ジェルダ・ウォンは誰と組もうかときょろきょろする。
教室にはたくさんの人がいた。騎士みたいな少年はセーラー服の少女に何か誓っている。阿呆らしい。
誰と組んでも良かったが、彼はなんとなく近くにいた三人に声をかけた。
一人は、複雑な編み込みの施された水色の長い髪と水色の瞳を持った少女。海の色をした豪華なドレスを身に纏い、いかにも海のお姫様と言った風体である。
一人は、赤みの強い茶色の髪を後ろで一つのお下げにした少女。どこぞの村娘みたいな、やや民族的な雰囲気のするワンピースを着ている。しっかりした印象がある。
一人は、長い銀髪と赤い瞳の少女。学園のブレザーとスカートを着用し、その上から理科室の白衣を羽織っている。白いメカっぽい髪留めを左右に付けた、タレ目でほんわかした印象がある。彼女は赤い縁のメガネをかけていた。
そこにいたのは全員女の子だった。ジェルダは「ハーレム結成か?」などと他人事のように思いつつも、どうするかと目線で問うた。
三人は偶然固まっていただけらしく、まるっきり会話が無かった。そこをジェルダの言葉が割ったのだった。
「ようよう、そこのお三人さん。正直組む相手は誰でも良かったが、折角だしさぁ、俺とチーム組んでみねぇ?」
いきなり掛けられた言葉に、三人はそれぞれの表情を浮かべる。
海の少女は軽く眉を上げ、民族的なワンピースの少女はその顔に困惑を浮かべ、白衣の少女はのんびりとした笑みを浮かべている。
空気が、固まった。
ジェルダは困ったように両手を顔の前で振った。
「いやいやいや、俺、変な奴じゃあないぜ? でもよぉ、折角だから誰かと組んでみたって面白そうだなぁオイと思ってだな?」
彼は単独行動を愛する者だったが、相手が面白ければ集団行動だって嫌いではなかった。彼の興味は風のようにどんどんどんどん移っていくが、彼はまた、一度行動を共にした相手にはそれなりの友情を以て尽くす、といった一面もあった。拘束されるのは嫌っても、仲間による友情のために拘束されるのならばそれはそれで構わない。彼にはそんな一面があった。
そして今回はデスゲーム、決して遊びではありえない。組む相手によって自身の命運が左右されると言ったって過言ではない。
そんなゲームで彼は選択した。偶然近くにいた三人の少女を、自分と命運を共にする相手と。
ジェルダは誓う。拒否されたら、もう誰とも組まないと。
彼の鋭い勘が告げるのだ、彼女らと組むべしと。
白衣の少女は、彼の申し出に破顔した。
「にゃー、にゃー。お申し出、嬉しいのです。シロはあなたと組みたいのですにゃー。シロはシロですにゃー。これからよろしくなのですっ!」
猫みたいな口癖で、無邪気にそう答えた少女。
その答えを聞いて、海の少女は苦笑いして彼の前でお辞儀した。
「いいですわ、わたくしも貴方の申し出に乗りましょう。わたくしの名はアキュアリア。長いのでアクアと呼んで下さっても構いませんわ」
彼女は優雅に微笑んだ。
それを見たら、残る一人もうなずかざるを得ない。
民族的なワンピースの少女はまだその瞳に若干の警戒を浮かべながらも、名乗った。
「みんなが言うなら乗るしかないなぁ。私はテンプレイア。いいわ、四人でチームを作ろうか?」
態度は人によって様々だったけれど。今ここに、新たなチームが誕生した。
ジェルダは満面の笑みを浮かべ、大きく名乗った。彼の周囲でパチパチと紫電がはじけた。
「俺の名前はジェルダ・ウォン! よっしゃあ、チーム結成だぜぇ!」
稲妻の申し子は、拳を突き上げ快哉を叫んだ。
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- DG 運命遊戯 1-1-3 命を預けて ( No.5 )
- 日時: 2017/12/16 15:06
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
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3 命を預けて
このゲームはデスゲームだ。ならば知らない人に命を預けるよりは、知り合い同士で命を預け合った方が良いだろう。
だから二人は文句なしに組んだ。だって幼馴染だから。
「相手の能力を無効化する」少女、リィアナ・ファーンディスペリは、青眼と黒の腰までのロングヘアー、青薔薇のコサージュを頭につけて、漆黒のゴスロリ風ワンピースを着ていた。頭のコサージュの花言葉は「不可能」。その飾りを選んだわけは彼女の「無効化」能力に起因する。
「相手が直前に放った能力を真似する」少年、アーリン・フィディオライトは金髪に明るい緑の瞳、黄色のシルクハットをかぶり、黄色の背広を着ている。リィアナとは違い、よく目立つ服装だ。
親から強引に入学させられたリィアナは思う。このデスゲームを生き残るには、目立たぬことが大切だと。
「出る杭は打たれる、ですからね」
そしてあえて目立ち、リィアナに向けられる目をそらす役割が彼女の幼馴染であるアーリン。彼は「道化」を自称していた。
彼の本当の名前は山中 智也(やまなか ともや)。リィアナ——ある名家の令嬢である古門院 幽奈(こもんいん ゆうな)の幼馴染である。
彼自身は実際、幽奈と違って大した身分でもない。ただ彼女の近所にいた、それだけだけれど。いつしか二人は、よく行動を共にするようになっていた。
デスゲームが始まった時、彼は笑って幼馴染に言った。
「ねぇねぇ幽奈。さっそく僕と組まないかい?」
明るく無邪気な幼馴染に、彼女は「いいわ」と穏やかに微笑んだ。
彼女自身、自ら望んでこの学校に来たわけではない。そもそも普通に過ごしていれば、「異能を無効化する」能力なんて、誰が気付くというのだろう。
ある日、幽奈と智也が連れ立って歩いているときに二人は異能者に襲われ、そこでそれぞれの才能を開花させた。
そのままでも、良かったのに。異能に足を突っ込まなくても、生きていけたのに。見栄っ張りな幽奈の親は、彼女を強引に学校に入れた。
だから智也はついていった。「幽奈一人じゃ心配だから」と。
そうして二人は、今に至る。
望まぬ入学、始まったデスゲーム。リィアナもアーリンも他の人みたいに強い願いを抱いて入学したわけではないけれど。
思いが、あったから。
リィアナは、誓う。
「父様、母様。私はこのゲームを絶対に生き残るわ。そして教えてあげるんだから。あなたたちが、愛しの娘をどんな地獄に放り込んだのか」
知ってもらわなければ、ならないから。
「あなたたちが私の意思を無視しなければ、無駄な見栄を張らなければ私は平穏に生きていけた!」
だからこそ、生き延びる。だからこそ、生き残る。
大した理由にもなってはいないが、それがリィアナの「理由」だった。
◆
「化け物」と呼ばれていた。触れたものを破壊する力を持っていたがために。
少年は見た、自分の手のひらを。血に染まった真っ赤な手のひらを。
彼の目の前には、破壊された真っ赤な何かがあった。それの元は人体であったが、今やもう、元の姿さえ定かではない。
飛び散った臓物と肉の塊、所々に見える白い骨、こぼれ出た真紅の脳髄と飛び散った脳漿、広がるはどこもかしこも赤の光景。
ムッとするような血の匂い。
ああ、これは悪夢だろうか。悪夢ならば早く覚めろと少年は強く願ったが。
少年はじっと手のひらを見ていた。あらゆるものを破壊する力を持つ、最凶の力の宿る手のひらを。
彼は己の宿す力の強さを、知っていたから。
この血の匂いと粘りつくような感触が、何よりも冷たい現実を突き付けていた。
——俺は、人を殺してしまったんだ!
少年の瞳から涙がこぼれた。その色は血の色をしていた。
彼は殺すつもりなんてなかった。ただその人たちに触れたかっただけだった。
なのに。
悪夢の力は勝手に暴走し、触れたその人たちを肉塊に変えた。
どうして、どうして。彼はそんな力など、まったく望んではいなかったのに。
狂ったように歪む視界。彼は思わず膝を付き、血濡れた床に手を付いた。
そして、制御できずに暴れ出す破壊の異能。
床が、崩れた。
「うわっ!」
彼がいたのは、一軒家の二階。
崩れた床に巻き込まれ、彼の身体は落ちていく。その上に落ちてきたのは、破壊された元人体。ついでに重い家具も落ちてくる。
ドサドサドサッ。落ちてくる感触に、彼は己の命の終わりを感じた。
彼は薄れゆく意識の中、そっとつぶやく。
「そうさ、終わっていい……。こんな化け物なんて、誰も生きてほしいって願ってはくれないだろうさ……」
化け物は、消え去るべき。そもそも生まれるべきではなかった。
彼が最後に思ったのは、自分が殺した両親のこと。
愛していたのに、殺してしまった肉親のこと。
◆
「まさくーん」
名を呼ぶ声がする。白鳥 正輝(しらとり まさき)は目を覚ました。
彼の目の前には茶色っぽい髪の少女。のほほんとして穏やかな、可愛らしい顔をしている。彼女の名前は沢地 瑠奈(さわち るな)。彼の幼馴染であり——同時に、彼を救った恩人でもある。
あの日。警察がやってきていろいろと事情聴取してきたあの日。自ら誤って両親を殺し身寄りをなくした彼を救ったのは、この幼馴染であった。
彼女は彼の隣に住んでいたから。彼の家が壊れたのを聞き、慌てて駆けつけて来たのだという。
そして危うく施設に入れられそうになっていた彼を一緒にやってきた自分の両親を説得し、何とか沢地家の養子として自分の家に引き取ってもらうことになった。こうして彼には新しい居場所ができた。
あの事件のあと彼は長いこと心を閉ざしていたが、瑠奈の変わらぬ優しさによって、彼はようやく普通の生活ができるようになった。自分の恐るべき力も何とか制御できるようになった。
そんな彼が願うのは、両親への贖罪。
彼は己の力で両親を殺してしまったから。ならばせめてこの力で、誰かの役に立ちたいと願うようになった。
「まさくーん?」
彼を呼ぶ声がする。正輝は微笑んでベッドから身を起こし、素早く着替えて瑠奈を見た。
「朝からどうした?」
「こんなお手紙が来てたんですよー」
彼女が見せてきたのは、何の変哲もないチラシ。
『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』
しかしそこに書かれていたのは、正輝の希望を叶える道標(みちしるべ)になりそうなことだった。
「『資格』……」
彼は驚いたような顔で、その文字を見つめていた。
よかったねぇと瑠奈が笑う。
「まさくん、これで希望を叶えられるですー。でも、私も一緒に行っていいですかー?」
「当然だろう。むしろ一緒に行ってくれとこっちが頼みたいくらいだ」
「やったぁです!」
無邪気に笑う瑠奈。
彼女もまた、能力者であった。
彼女の異能は癒しの力。触れた相手を、相手が致命傷を負っていない限りはどんな傷でも治す力。その力は強力で、彼女ならば誰よりも人の役に立てるだろうと正輝は思う。
チラシに書かれていた『七虹異能学園』は能力者のための学校だ。ならば彼女も共に入学できるかもしれない。
正輝は己の先に、新しい道が拓かれていくのを感じた。
彼は力強く笑って、瑠奈に言った。
「俺は、行く。この異能学園へ! そこでこそ自分は新しい毎日を始められると、そう信じる」
「ならばパパとママに言ってくるですよー。まさくんは」
「自分の口から言うさ。おじさんおばさんには世話になっているしな」
「おじさんおばさんじゃないです! まさくんはもうこの家の子なので、父さん母さんなのですー」
その言葉を聞いて正輝は一瞬、自分の表情を暗くした。
「……俺にとってのパパとママは、俺の殺したあの二人しかいないんだ。たとえ戸籍上養子になっても、それだけは、変わらない」
彼の脳裏に一瞬閃いたのは、あの悪夢の日の光景。
自らの手で両親を殺した。ただ抱き締めたかっただけなのに。
あれから何年過ぎた? 八年は過ぎた。もうこの家で過ごした時の方が長くなってしまった。
それでも、それでも。あの二人は、彼の本当の両親だったから。
瑠奈はしゅんとした顔をした。
「……ごめんなさい。考えてなかったですー」
「沈むな。こっちの問題だ」
正輝は不器用に瑠奈を励まして、義理の両親のいる応接間に向かった。
◆
二人はともに正輝と瑠奈が異能学園に入学することを許可してくれた。そして義母の優花は正輝を励ましてくれた。
「よかったじゃない、正輝。……ようやく、止まっていたあなたの時間が動き出すのねぇ」
止まっていた正輝の時間。そう、それは彼が両親を殺したあの日から。
それが、動き出す。その言葉は、本筋をついているように思えた。
しかし、と彼は首をかしげる。
「瑠奈は関係ないだろう? 『化け物』の俺とは違って、彼女にはまだ普通の人として生きていく道が」
「だから私が行きたいのですー! まさくんもさっき許可してくれたじゃないですかー」
義理の両親に申し訳ないと思ったのかそう言いだした正輝の身体を、瑠奈がぺしりと叩いた。
彼女はその目に強い意志を浮かべて両親を見た。
「私、行くのです! まさくんと異能学園へ!」
彼女は、気付かない。自分が正輝に抱いているこの感情が。彼と一緒ならばどこまでもいけると信じ、彼の隣にずっといたいと願うこの想いが。
恋と、呼ばれることに。
いつからだろう。幼い頃から正輝と瑠奈は一緒だった。正輝が「事件」を起こしてしばらく誰とも話せなくなった時も、瑠奈はずっと彼の傍にいて彼を支え続けた。
最初はそれは単なる好意だったのに、好意はいつしか恋に変わった。
だから彼女は、彼とともに異能学園に行く。
両親もそれに特には反対しなかった。
やがて入学希望書は受理され、二人は七虹異能学園に入学する。
◆
コードネームはイグニス・シュヴァルツ。漆黒に一部白のメッシュが入った髪、漆黒のマントと漆黒のジャケット、漆黒のズボンに漆黒のブーツ。手には漆黒の指貫グローブ。
正輝の選んだコスチュームは、全身で闇を表す服装。
彼は自嘲的に思ったのだ、『化け物』に光なぞ似合わないと。
闇に潜み住む破壊の災厄。それが彼、イグニス・シュヴァルツだった。
コードネームはアルカナ・ファイオルー。淡いブロンドの髪に桃色の瞳、黄色と桃色を基調にした可愛らしいワンピース、明るく華やかな茶色のブーツ。頭には桃色の花飾り。
瑠奈の選んだコスチュームは、全身で光を表す服装。
彼女は無邪気に思ったのだ、こんな綺麗な服を着てみたいと。
光に舞い踊る癒しの妖精。それが彼女、アルカナ・ファイオルーだった。
破壊と治療、真逆の能力。破滅的と牧歌的、真逆の性格。
そんな二人だけれど、二人は不思議と息が合った。
デスゲームが始まった直後、二人は運命に導かれるようにしてチームを組んだ。
それは、当然のことだったのかもしれない——。
◆
「……役者がそろってきたじゃない」
次々とチームができていくのを、エーテナは冷めた目で見ていた。
そうだ、チームを作らなければ。内気な子の方がエーテナにとっては御しやすい。
彼女は周囲を見渡した。今現在、チームを組まずに残っているのはエーテナを抜いて八人。
彼女はその中でも、一人の少女と一人の少年に目をつけた。
一人は、神が左右で分かれ、目の色が特徴的な灰色の少年。髪は右側が白で左側が灰だ。前髪がやたら長い。目の色は灰色っぽい白目と黒目。身長155ほどで小柄である。部屋着のようなフードのついた、ゆったりとした灰色の服をフードを被らずに身に纏っている。
彼は少し内気で自分から輪に入れなさそうな印象があったから、エーテナは自分から誘うことにした。
このチームではエーテナがリーダーになる。我の強い人間はいらないから。
「さっきも名乗ったけれどあたしはエーテナ。誰かチームを組む相手を探しているんだけれど、みんな埋まってきちゃったのよね。だからあたしはあんたに訊くわ。ねぇ、良かったらあたしとチーム、組まないかしら。嫌なら別にいいわ、他を当たるから」
彼女が笑顔で声をかけると、灰色の少年は驚いたような顔をした。
「エーテナ。自己紹介とかで目立ってたから知ってる。僕でも……いいの?」
ええ、とエーテナは頷いた。
「消極的でもいいじゃない。助け合う心さえ持ち合わせていれば、誰だってオッケーよ。ただしチームはあたしがとりしきるし、二人だけだと心細いからあと一人誰かお誘いするわ。それでもいいのなら、乗ってくれるかしら」
トーンは困ったような顔をして左右を見た。彼とエーテナは初対面だ、彼が警戒するのもうなずけるが。
周囲に誰も知り合いがいない場合、目の前にいる人を信じるしかない。そうやって信じた人に、自分の命を預けるのだ。
灰色の少年は、わかったよとつぶやいた。
「わかった。お誘い、受けるよ。足手まといになるかもしれないけれど、頑張るからよろしくね」
エーテナは彼の手を握って、力強く微笑んだ。
「何かあったらあたしに頼りなさい。大丈夫よ、みんなで絶対に生き残るから」
そして彼女はもう一人、目をつけていた少女に近づいた。
彼女はウェインと名乗っていた。青みがかった銀髪に紫の瞳の少女。目立たぬ灰色のワンピースを身に纏い、黒の長靴下、銀の靴を履いている。内気で警戒心が強そうで、それでもどこか脆い印象があった。
彼女はエーテナが近づいてくると、エーテナを不安げな瞳で見つめた。エーテナは彼女を安心させるように、穏やかに笑った。
「初めまして、あたしはエーテナ。あなたとチームを組みたいのだけれど、どうかしら」
エーテナが少女に声をかけると、少女はますます不安げな顔をした。
「初めまして……。でもボク、あなたのことを信用できないよ? そもそも初対面の人をどうやって信用しろって? でもでも、チームを組まないとボクはきっと、生き残ることができないんだよね……。でも怖いんだ。どうすればいいだろう?」
少女は迷っていた。本当は誘いを受けたいのに、裏切りへの恐怖がそれを受けることをためらわせる。
彼女には、背中を押す言葉が必要だった。
エーテナは優しく笑って、勇気づけるように少女に言った。
「信用すればいいじゃない」
どこまでも勝ち気で、全身から自信をみなぎらせて。
「信ずるに足る」と思わせればよい。頼りなさげにしてはならない。
エーテナは言う。
「あたしを信用すればいいじゃない。あんたは気づいているの? その人間不信が自分の選択肢を狭めているって! 折角人が誘っているんだから受けるのが道理ってもんでしょ。あたしはそう簡単に死にはしないわ。いいからあたしを信じなさい!」
叫び、堂々と立つエーテナは確かに、「信ずるに足る」と思わせるだけの強さがあった。
そして何より。ウェインは彼女の傍にいることで、安心さえ覚えた自分を知った。
強いエーテナの傍なら、強い彼女の傍なら! きっと死なずに済むと、なんとなくの勘でそう思った。
ウェインはおずおずとささやくように言った。
「……信じて、いいの?」
「当然でしょ? ただし仲間は他にもいるからよろしくね」
「わかった……」
エーテナはウェインに手を差し出した。無骨な紫の手甲の付いた手。しかし握ってみれば暖かくて、ウェインの緊張が一気にほぐれた。
「エーテナ、エーテナ」
何度もその名前を呼んで、ウェインは満面の笑みを浮かべた。
「ボクはウェイン! これからよろしくね!」
「よろしく。さて、ウェイン、トーン。あんたたちも仲間なんだから、互いを認識して挨拶なさい」
ウェインのチーム入りを確信したエーテナは、ウェインとトーンを引き合わせた。
内気な二人はぎこちなくあいさつを交わしたが、その心からは疑念が消えているように見えた。
エーテナはここに、新たなチーム誕生を宣言する。
「紫の雲、今ここにあり! さぁて、生き残るために戦いぬくわよ!」
役者はそろった、チームはできた。
残ったのはチームに入ろうとしても入れなかった者たちと、もともとチームを作ろうとはしなかった者たち。
その数は、六人。
一人は、ぼさぼさな黒髪に藍色の瞳の男。右目には大きな火傷の痕があり、手袋をしている。彼はあまり人と積極的に関わろうとはしなさそうに見える。彼はゼロと名乗っていた。
一人は、砂色の髪に鳶色の瞳の少年。髪と同じ色のジャケットを羽織って背中に弓と矢筒をつけた少年。彼はアロウと名乗っていた。
一人は、水色の髪と水色の瞳の少年。水色の魔導士めいたローブを着用していて、全体的に青い印象がある。彼はカーシスと名乗っていた。
一人は、白い髪に白い瞳の少年。白のジャケットに白のズボン、白のマントを羽織っていて全体的に白い。彼はヴィシブルと名乗っていた。
一人は、栗色の髪色にこげ茶色のような瞳の色で、ショートボブの髪型の少女。彼女はベージュのVネックの制服を着用し、赤と茶色の線のチェック柄のスカートと真っ黒な靴下、黒い皮のローファーを履いていた。彼女はハーフ・アンド・セカンドと名乗っていた。
一人は、140㎝程の小柄な体躯に緑色の瞳と銀髪が特徴の少年。黒のタキシード姿である彼はバロンと名乗っていた。
チームを組まずに一人なのは彼ら六人のみとなった。そのうち誰が自らの意思で一人なのかは、本人以外に知るすべはない。
そして教室の扉ががらりと開いて、金髪の学園長が戻ってきた。一時間が過ぎたのだ。
彼女はチームごとに固まっている皆を見て、言った。
「大方チームは組めたようですね? 大変結構なことです。では改めて」
彼女は本格的に、告げる。
「さあ、ゲームを始めましょう」
【一章 了】
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- Re: 【始動】Destiny Game 運命遊戯 ( No.6 )
- 日時: 2017/10/23 20:26
- 名前: アンクルデス ◆40kNVwyVY6 (ID: UIQja7kt)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=615.jpg
お疲れ様です〜( ´ ▽ ` )
シロはジェルダ君のチームに入ったんですね!
しかも女の子3人って、まさにハーレムですねw
今後彼がどのようにチームを動かして戦うのか注目してます(^。^)
- DG 運命遊戯 1-2-1 攻撃には報復を ( No.7 )
- 日時: 2017/10/25 22:15
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
>>6
シロちゃんはこれから活躍しますよー。
ジェルダのチームの行く末、ご覧あれ!
◆
一話は3000文字くらいの方が読みやすいんですね。
次から長さに気を使ってみますですハイ。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
〈二章 生き残るのに理由は要らない〉
1 攻撃には報復を
ゲームが始まった。ついに本格的に始まった。始まってしまった。
ここから先は何をしても黙認される。目の前で誰か死んでも、どんなに悲惨な死に方をしても、学園長は眉ひとつ動かさないのだろう。
それで、形ばかりの『授業』をするのか。生き残って『資格』を手に入れる人のために。
ピースは、思う。せっかく出会えた仲間たちなのだから、誰にも死んでほしくはないと。
そんなのは夢物語だ。殺し合いをしなければみんな死んでいく、そうわかっているけれど。
彼女は怖くなって、思わず目から涙を流した。
「泣くな。お前はオレが守るから」
恐怖に震える彼女を、そっと無骨な手が撫でた。変わらぬ騎士姿、どこまでも毅然として、凛と前を向く藍色の瞳。
「オレはお前の騎士になったんだぞ? 守る相手に泣かれちゃ立つ瀬がない」
「ソーマくん……」
「オレの異能は攻撃にも防御にも向いてる。そう簡単にやられやしないさ。二人で生き残ろうぜ。知らない奴なんて放っておけばいい。……心を鬼にするんだ」
そんなありふれた言葉でも、ソーマに言われると嬉しくなる自分をピースは感じた。支給されたナイフにそっと手を触れて決意を新たにする。
彼女は辺りを見回した。特に席順などは決められていないので、皆思い思いの席に座っている。最初の一時間で決めたチームごとにかたまって、チームに入れなかった六人は教室の後ろの方でぽつんとなっていた。こうなるのは仕方がないことだ。こんなデスゲームである以上、チームの仲間以外に気を回す余裕などない。
しかしその六人は同時に、不確定要素であるとも言えた。
チームに所属しているものならばチーム全体で生き残るために他者を蹴落とす。しかしその対象は決して、自分のチームの仲間ではありえない。だから「あのチームの人は同じチーム内の○○だけは殺さない」ということがわかるから、それを取っ掛かりにすれば少しは行動を読めそうなものである。
反面、チームに所属していない一匹狼は行動がまるで読めない。彼らは自分以外を生き残らせる理由がないため、誰を殺すのかつかむことができない。故に厄介、故に警戒しなくてはならない相手なのだ。
そうして、名ばかりの『授業』が始まる。
学園長リェイルは教壇に立ち、不気味に微笑みながらも皆に言った。
「それでは授業を始めます。一限目、歴史」
流れるような金色の髪が、教室の窓から差し込む光に輝いた。
「まず皆さま方。最近異能について色々と問題視されることが多くなりましたが、ずっと昔にも異能があったということをご存知でしょうか。異能は最近に始まったものではないということをご存知でしょうか」
昔にも異能があった? ピースにはまるでわからない。彼女は首をかしげるばかりだ。誰も手を挙げる者なんて……
「知ってンぜ? 魔術だろ?」
……いないわけがなかった。
ビリビリと全身から鋭い印象を放つ金色と黒の少年、確かジェルダ・ウォンと名乗っていた彼が、遠慮なく手を挙げて発言していた。
リェイルはおやと眉を上げる。
「正解です、ジェルダ・ウォン。一体なぜわかったのですか?」
「つーかわかんねェのが馬鹿なんじゃねぇの? 昔の人たちは訳のわからない力を魔術と称して遠ざけ迫害した! よってかつて異能は魔術と呼ばれた! これ以外にどんな答えがあるってンだよ?」
「ならばあなた以外は馬鹿ということになりますが」
「それでも別にいいだろ? ああつまんねーの。さっさと先行けよ。これだから授業ってやつは本当に退屈なんだ、もっと頭使わせる問題をオレに寄越せよ、なァ? 簡単すぎて話になんねェよ」
ジェルダ・ウォンもとい雷門寺秋羅は、当時彼が所属していた高校の中ではトップレベルの問題児であった。ただしそれは彼が馬鹿だから問題を起こしているというわけではない。あまりにも鋭すぎる頭脳で先生をぶった切っていくので辞職する先生を多数輩出した、ということでも問題児扱いされていたのだ。彼がいれば先生の意味がない。挙句の果てには「何で先生やってんの。人の上に立つのがそこまで承認欲求満たしてくれんのかァ?」だ。リェイルは自分が冷静な方だと自覚してはいるが、彼の扱いに関しては気をつけねばと肝に銘じた。
誰もがそんなやりとりを見て、呆然としている。生まれてこの方、ここまで先生に暴言を吐く生徒を見るのも初めてであろう。
リェイルはこほんと咳払いを一つして、そのまま皆に背を向けて黒板にチョークで何かを書いていく。
だが、稲妻はそれだけでは終わらなかった。
「オレに背を向けるたァいい度胸だなぁオイ!」
瞬間、迸(ほとばし)った稲妻が、リェイルを焼き焦がさんと迫った。
確かにそれは効果的であると言えた。生徒同士で殺し合いをするよりはそもそもの原因である学園長を殺した方が、犠牲が少なくて済むのだから。
しかし人生、そんなに甘くはない。
「私に攻撃を加えようとするとはいい度胸ですね」
バチバチと火花を散らしながら迫った稲妻はしかし、彼女の身に到達する前に彼女自身が放った漆黒の茨に吸収され、そのまま教室の床に流れた。
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
茨に多少は吸収されたとはいえかなりの強さの電流が、床を通じて生徒たちの身体を這いのぼる。
ジェルダはその様を見て、不敵ににやりと微笑んだ。彼自身にも先程の電流は通ったはずだが、稲妻使いの彼にはどんな電気も効きはしない。
「後ろ向いててかわすかねぇ」
「私の能力で対処できる能力者しか、ここには呼んでいませんから。無論、貴方のことも把握済みです。あなたに攻撃されるであろうことは、簡単に予測がついていた」
そうかい、と笑って、ジェルダは大人しく席に着いた。
が、学園長はそれだけで終わらせるつもりはなかった。
「攻撃には報復を。そうでもしなければ示しがつきませんよね? よって私はジェルダ・ウォン、貴方を報復の名において処罰します」
その言葉に、ジェルダの表情が固まった。
彼の攻撃は効かないが、向こうの攻撃は彼に届く。
彼の額から汗が流れた。彼の不敵な笑みが硬直する。彼は油断ない瞳でリェイルを睨んだ。
彼女は叫ぶ。
「攻撃には報復を!」
飛んできた茨は間にいた他の生徒も見境なく吹っ飛ばす。ソーマがピースの身体を引っ張り、彼女を黒の射線から遠ざけた。
漆黒の茨は最初に見た赤色の少女みたいに彼の身体を貫くことはしなかったが、確実に彼にダメージを与えていた。
「くそっ……ハァ……ハァ……ざけんじゃねぇぞ……この狂った学園長がァッ……!」
苦しそうな息が、その喉の奥から洩(も)れる。
彼は漆黒の茨に、首を絞められていた。
生き物のように茨が動き、彼の息の根を止めていく。彼は弱々しく稲妻を放つが、茨に吸収されて四散する。
リェイルは笑う、悪魔のように。
「命乞いをすれば許してもいいですよぉ? あなたはどんな声で私に命を乞いますかぁ?」
ゲームが始まったときのように、狂気に満ちた瞳が笑う。
しかしジェルダの金の瞳は、決して揺らぐことはなかった。
「命乞いなぞ……してたまるかよ」
首を絞められ、苦しそうな声で。しかし決して揺らがぬ心で。
「そんな無様……そんな間抜け……死んでも——晒してたまるかァッ!!」
ビリビリバチバチと紫電が爆ぜる。リェイルはその顔に喜悦を浮かべた。
「いいですねぇ、いいですねぇ、決して折れぬ不羈(ふき)の顔! 私に抗いますか! ならばさらなる罰を!」
締め付けが強くなり、彼の顔からは血の気が失われていく。
しかしそれでも、揺らがない。稲妻は曲がらない。
どこまでもどこまでも真っ直ぐに、落ちていくのだ。墜ちて、いくのだ。
「命乞いなど……しない……ッ!」
「ならば死になさい!」
彼を殺さんと、リェイルが本気になった、とき。
「おかしいのです! こんな理不尽、シロは断じて許せないのです! ふーっ!」
ブレザーとスカートを着た白衣の少女が、その左腕を振り上げて茨に叩きつけた。
瞬間、そこに見えたのは白熱するレーザーブレード。
それはまさにジェルダの命を奪わんとした茨を、あっさりと断ち切った。
彼の首を絞めていた茨はするりとほどけ、漆黒の粉となって空気に散った。
稲妻の申し子の身体が、くずおれる。
「ゲホッ、ゲホッ……流石に……堪(こた)えるぜぇ……」
「ジェルダ! ジェルダ!」
彼の周囲に、彼のチームの仲間たちが駆け寄った。ジェルダは何度も何度も激しく咳き込んでいたが、かろうじて生きていたようだった。
リェイルは冷めた瞳で彼を見た。
「どうやら命拾いしたようですね」
ジェルダは激しく咳き込みながらも、それでも不敵に笑って、かすれた声で言い放った。
「おうよ……。最高の仲間が……いたからなァ?」
言って、彼はシロを見た。彼女は安堵のあまり、泣きそうになっていた。
彼は、思う。やはり自分の直感は正しかったのだと。
彼女たちと組むことになって本当に良かったと心から感じ、珍しく真摯な思いを口にする。
「何だ……まぁ、その、ありがとな。……お陰で死なずに済んだわ」
彼の感謝の言葉を、シロは笑顔で受け止めた。
「仲間として、当然のことなのです!」
攻撃には報復を。学園長に挑むは愚か。
この法則が、生徒たちの間に染みわたった。
稲妻の申し子が、身をもって実証してくれたから。
授業は粛々と進んでいった。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- Re: 【始動】Destiny Game 運命遊戯 ( No.8 )
- 日時: 2017/10/26 08:09
- 名前: モンブラン博士 (ID: or.3gtoN)
ジェルダは学園長に締め付けられても決して自分の意見を曲げようとしないとは天晴ですね。
最初に学園長の犠牲になった赤い女の子と通じるものがありますね。このまま彼はフェードアウトしてしまうのかとハラハラしていましたが、シロに助けられてよかったです!
これからどうなるのか楽しみです!
- DG 運命遊戯 1-2-2 喧嘩の相手は選ぶべき ( No.9 )
- 日時: 2017/10/27 21:48
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
>>8
応援ありがとうございます1
ですが、えーと、次からコメントは雑談掲示板にお願いします。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
2 喧嘩の相手は選ぶべき
一限目は何とか終わり休み時間がやってきた。一限目にあったことで生徒たちの話題は持ちきりだ。ある生徒についての話題でもちきりだ。
自ら反抗し、学園長に殺されかけたジェルダ・ウォンは一部の間では英雄扱いさえされていた。見上げた精神だと誉めたたえられた、けれど。
「……出る杭っていうのは打たれるんじゃないのかなぁ?」
アロウは不思議でたまらなかった。
どうして彼が殺されないのか、どうして彼ばかり崇められるのか。
アロウは無意識に背中にある矢筒に触れる。
彼の持つ能力もまた、かなり攻撃的なものであったが。
——それでも、あの稲妻にはまだ足りない。
しかしあのチームは極めて危険だと彼は判断した。このまま放っておくことを許せないくらいに。
彼に直接挑むのは自殺行為だ。ならばどうする? 答えは簡単だ。
アロウは生まれて初めて悪意でもって人を傷つけることになる自分を恐れ、小さく震えた。
彼自身、とても優しい少年なのに。
——赦して欲しい。
彼はあえて矢ではなくて、学園長から支給されたナイフを手に取った。
アロウ。彼の能力は「投げたものを必ず相手に当てる能力」。ただし防がれれば意味はないので、実際タイミングが合わないとそこまでうまくは使えない。
だからこその弓、だからこその矢。しかし矢をつがえる動作はあまりにも目立ちすぎるから。
そっとナイフに触れた手が汗で滑る。
彼が狙った一人の少女は、さっきまで首を絞められていたジェルダを過保護なまでに心配していた子。白衣を着て眼鏡をつけた、ほんわかした雰囲気の子。
彼女の目にアロウは映らない。彼女はジェルダ達しか見ていない。そしてジェルダから見てもアロウがいる位置は死角だ、彼の能力を使えば絶対に、防がれることなく当てられる!
——赦して欲しい、生き残る為だ!
意を決して、ナイフを放つ。それは白衣の少女の首に、
——突き刺さらなかった。
ぽよん、と空気が弾んだ。彼の放った支給品のナイフは彼女に当たる前に何かの力で弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいった。
何が起きたのかはわからない。しかし失敗したと彼は理解し、弓を手に取り矢をつがえた。
狙われた少女は何が起きたのかわからないというように首をかしげている。
アロウはつがえた矢を放った。立て続けに一発、二発、三発。「投げたものを必ず相手に当てる」アロウの矢は無論、彼女に向かって飛んでいったが。
悲鳴が上がる。突如始まった殺し合いの風景に。
しかし彼の放った矢はなぜかすべて、彼女に当たる前に弾き返された。先ほど放ったナイフと同じだ。
シロと名乗っていた少女はここに至って、ようやく状況を理解した。
「ほー? 理解できない行動です。シロに物理攻撃は効かないですにゃー」
不思議そうに首をかしげ、攻撃してきたアロウをじっと見つめた。
彼女自身は気にしていない。実際何のダメージも受けてはいなかったから。
しかし、忘れてはいまい? そう、このチームには。
「——てめぇ、今、何をした?」
どこまでも鋭く光る、黄金の稲妻がいるということを。
そう、だからこそ彼は、一撃でシロを仕留めなければならなかったのに。
彼の攻撃は不思議な力で跳ね返されて、彼は怒れる獅子を起こしてしまった。
ジェルダ・ウォンの瞳が怒りに燃える。彼の周囲で紫電が弾けた。
「てめぇ、今、オレの仲間に何をしたッ!」
直後。怒りを込めた稲妻がアロウを焼かんと迫り来たが。
「教室で争うのはやめてくださる?」
確かリィアナとか名乗っていた漆黒の少女がその射線に進み出て、天に差し上げた右手で稲妻を受け止めた。
そうだ、あのジェルダの怒りの稲妻を受け止めた。
彼女はどこまでも冷静に言う。
「ここで争ったら関係ない人が巻き込まれるわ。それは断じて私は避けたいの。稲妻さん? 一応言っておきますけれど、貴方の稲妻は私には効かないわ。すべて無効化して差し上げますけれど」
彼女の頭の飾りは青薔薇。その花言葉は不可能。
彼女の前ではすべての異能が無効化されるから。ゆえに不可能の青薔薇を身につける。
通常は傍観者を気取っていたいリィアナだったが、こうなってしまえば事態は別だ。
リィアナが氷のように鋭い瞳で二人を睨むと、わかったとアロウが頷いた。
「……喧嘩を売ったのはぼくだ。決着は木工室でつけようか」
いいけど、とジェルダが油断なくアロウを見る。
「何故に木工室なんだァ? もしかして、てめぇの戦いやすいフィールドだったりすンのかよ?」
「お察しの通りだ。……ぼくは、弱いから」
「じゃあ何故喧嘩を売ったんだ? オレが出てくるってわかっていただろう、なァ?」
「貴方は危険だからだよ」
アロウは素っ気なく言い放った。
彼に絡まれた時点で自分の負けは確定したようなものだと彼は思っていた。もともと彼はこのゲームを生き残れるなんて欠片も思ってはいなかったが、一人くらいは犠牲にできると踏んでいた。
しかし。
(誤算だったよ……)
無害そうだったシロ。彼女に物理攻撃が効かないなんて、まったくもって彼の誤算だった。
彼は半ば諦めたような瞳でジェルダを見た。
どこまでも真っ直ぐに突き進む稲妻の瞳には、ただただ勝利のみが輝いていた。
◆
砂見 駆(すなみ かける)は中学二年生だ。彼には梨恵(りえ)という名の三歳年下の妹がいた。しっかり者で生真面目で優しい駆と明るく無邪気な梨恵。彼らは仲の良い兄妹で、そろって異能の力を持っていた。
彼らは異能を持ってこそいたが、これまでは比較的平凡な毎日を送っていた。駆は持ち前の異能を活かして弓道部のキャプテンになり、梨恵は持ち前の異能を活かして走ることでは一番になった。
駆の能力は「投げたものを必ず対象に当てる」能力、梨恵の能力は「自分を中心とした半径二メートル以内の時間の速さを自由に操る」能力。彼女はそれを利用して自分の周囲に流れる時間を遅くして対立候補の足を鈍らせ、それで駆けっこのトップになっていた。もちろん、彼女自身足が速いのもあったけれど。
そんな二人の毎日は当たり前のように流れるはずだったが、しかしある時。
梨恵が、重い病に倒れた。
これまでずっと二人で仲良くやってきたのに。梨恵が、重い重い病に倒れた。
以来、彼女は一度も目を覚ましていない。その命の灯が消えるのも時間の問題だった。
彼女を治すにはたくさんのお金が必要だったが、一般家庭である砂見家にそんなお金があるはずもなく。
悩み苦しんでいた駆を救ったのは、たった一枚のチラシだった。
『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』
卒業できた者には『資格』を与えると書いてあって。『資格』が得られれば大量の収入も見込めると書いてあって。
駆は異能者であり、今まさにお金を必要としていたから。
「梨恵のために、ぼくは行くよ」
現状を変えられるのは自分しかいないと知って、彼は入学希望書を提出した。
やがてそれが受理されて、彼が名乗った名はアロウ。
どこまでもその矢は真っ直ぐに飛んで。
一体どこに行き着くのだろうか。
◆
まだ慣れぬ校舎の中を、案内図を頼りに歩いていく。
駆——アロウの心の中は、不安でいっぱいだった。
彼の脳裏に浮かぶのは、人工呼吸器をつけた梨恵の姿。あの元気だったころなどまるで想像できないくらいに、やせ細った妹の姿。
彼が死んだら彼女も死ぬ。お金が得られないなら彼女は死ぬ!
だからこそ、生き残らなければならなかったのに、どうして。
アロウは先を行くジェルダに、まるで勝てる気がしなかった。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- DG 運命遊戯 1-2-3 赦しの弓矢と稲妻と ( No.10 )
- 日時: 2017/10/28 22:27
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
3 赦しの弓矢と稲妻と
訪れた木工室。
アロウは木工室に着くなり片っ端から引き出しを開け、釘やら何やらを取り出して机に並べる。
それを見て、ジェルダは理解したように頷いた。
「なるほどな……。アンタの能力は、『投げたものを必ず相手に当てる』ってェ能力かァ? すぐにわかったぜ。つまんねぇなァ、オイ!」
稲妻の如き鋭き瞳を、アロウ程度がごまかせるはずもない。
そうだよとアロウは頷いて、その瞳に炎を宿した。
(ぼくの名はアロウ。ただしそれは、矢を意味するarrowだけじゃない。赦しを意味するallowもまた、その名前の中にはあるけれど)
どうせジェルダは許してはくれないだろう、そう彼はわかっているから。
弓を手に取り、矢をつがえ、燃える意思を体中から噴き出させてジェルダを狙った。
彼は弱い少年だ。しかしここで彼が死んだら、妹もまた、死ぬから。
「赦してくれなくたっていい——。生き残って、ぼくは梨恵を治すんだ!」
血を吐くような叫び。
その言葉を聞いて、ジェルダは微妙な表情を浮かべた。
「アンタにはそんな目的があるのか……。遊び半分で入ったオレとは大違いだなァ? だがよ、オレだって!」
遊び半分でも、ふざけ半分でも。
生きたいから。死にたくはないから。
突如放り込まれた理不尽なゲーム。だが稲妻にだって!
彼の周囲で紫電が爆ぜる。
「生きることまで、放棄しちゃあいねぇよッ!」
彼が叫んだ瞬間。
「絶対に当たる」アロウの矢が飛んだ。
避けても当たる。防がなければ当たる。そんな能力を使って放たれた矢が。
当たってくれ、そう切にアロウは願って立て続けに矢を放つが。
「効かねぇなァ、そんなの!」
弾ける稲妻に木で作られた矢柄を折られ、鏃(やじり)はあらぬ方向へすっ飛んで行った。ジェルダに当たりそうなものも中にはあったが、一度矢柄を折られた矢には、アロウの能力は働かない。いとも容易くジェルダは避けた。
アロウの額に汗が伝う。彼の心を絶望が覆っていく。
くじけそうになる弱い心。しかしアロウは脳裏に妹の姿を思い描くことで、何とかその恐怖を克服しようとした。
矢が駄目ならば、金属は? 金属ならば、焼かれない!
そう考えたアロウは矢と弓を片づけ、並べてあった釘を手に取った。
「投げたものを必ず当てる」能力だから、実際投げるものはなんだっていい。なんだって当たるのだから。
余裕ぶって不敵に笑うジェルダの周囲に、ビリビリバチバチと紫電が弾けた。
「許してよ——僕が生き残ることを、どうか許してッ!」
「そんなに安い命じゃねェよッ!」
必死の思いで彼が投げた釘に稲妻がまとわりついた。そして。
「どうして……」
釘はジェルダに届かずに、あらぬ方向へそれていく。
嘘だ、とアロウが叫んだ。
「ぼくの能力は絶対だ! 必ず相手に当てるんだ! なのにどうして当たらなかった!」
「科学のお時間といこうかァ?」
ジェルダは落ちた釘を拾って、片手で弄んだ。
「簡単だぜ? 電気で強力な磁場を作って、磁力を使って弾いたんだ。木工室にある釘は鉄製だしなァ? ああ、簡単だったぜ」
アロウは、わからない。そもそも中学生レベルで分かるようなことでも無い。
ただ彼がわかったのは、己の攻撃がまるで通用しないことと、
「……ぼくは、死ぬのか」
ジェルダの稲妻に対する防御手段を、まるで持ち合わせていないこと。
自分の攻撃はまるで通らず、相手の攻撃だけが通る、この状況下で。
「生き残れないのか、ぼくは」
そして、梨恵も死ぬ。
お金が得られなければ、満足な医療を受けられないのだから。
アロウは圧倒的な敗北感に、乾いた笑みを漏らした。
「そうだよ、そうだよ、アハハハハハ……。早まって攻撃しなければ、ぼくはこうも悲惨な状況にはならなかったのに。生き残れたのかもしれないのに。ああ、ぼくは早まった。だってあの子にはもう、あまり時間がないのだから……」
うなだれる彼に、ジェルダはそっとささやいた。
「でもな、大切な人のために動こうってェ心は、嫌いじゃないんだよ。
名前を教えてくれ、赦しの弓矢。オレが生き残れたら供養してやる」
彼ははっきりそう言った。
人一倍頭が切れる彼には、アロウのダブルミーニングにも気づいていたのだ。
アロウの頭の中にあったのは、決して切れない絆で結ばれた妹のこと。
彼女のことを考えながら、先に逝くことになることを内心で謝りながら。
「アロウ」としての精一杯の誇りを持って、彼は名乗った。
「ぼくの名前は砂見駆。砂見……駆だ。覚えていてくれるかな……?」
「当然だろ? 殺した相手は、忘れねぇよ」
誇り高くジェルダを見つめたアロウの瞳。ジェどこまでも澄み渡り、大切な存在のみをただただ思う純粋な彼にジェルダは内心で天晴れとつぶやいた。
彼はジェルダに喧嘩を売ったが、その秘めた心は高く買うべきだ。
ジェルダは片手に稲妻をためて、一気に解き放った。
「アロウ、いやさ、砂見駆———。あんたは、立派だったぜ」
瞬間、解き放たれた電撃がアロウの心臓に達して。
身体中を走った電撃にその身を一度けいれんさせて。
赦しの弓矢、アロウは逝った。
〈アロウ、脱落〉
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
- DG 運命遊戯 1-2-4 束の間の休息 ( No.11 )
- 日時: 2017/10/30 22:12
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
休息編。
これまでまともに出ていなかった人物のうち何人かが、少しまともに登場します。
◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ † ◆ †
4 束の間の休息
休み時間が終わったとき、帰ってきたのは一人だけだった。
黄金の稲妻、地を這う紫電、ジェルダ・ウォン。
背に弓を負った少年、アロウは戻ってこなかった。
リェイルは無機質な声で告げた。
「アロウ、脱落です。残る脱落人数はあと二人」
その言葉を聞いて、ハーフはとても怖くなった。
始まった殺し合い。最初の少女は先生によって殺されたけれど、次に死んだのは同じ生徒によってのこと。
これまで無かった実感が、明確な存在感を伴ってハーフに纏わりついてくる。
—— 一人は、危険だ!
誰かと組んだ方が、危険も折半できるだろうか。
彼女の能力は『折る』能力だ。木の枝や棒だけではなく、時間を端折って他の生徒の能力発動時間を短縮したり、床を折って壁を作ったりするなど応用範囲が広い。
しかし今、彼女の心はまさに『折れ』そうになっていた。
誰かとチームを組まなければ。強迫的観念に駆られて辺りを見回すが、今更出来上がったチームには入れそうにも無いし、新しくチームを作るような勇気も無い。
アロウ、脱落。ジェルダ・ウォンに殺されて。同じ生徒同士で殺し合って。生徒が生徒の命を奪って。
怖かった。何とかしたいと思うけれど、恐怖に動く力が出なくて。
自分の席でただ青ざめるだけだった彼女。
それでも救いはやってきた。
「ねぇねぇ、良かったらあたしのチームに入らない?」
紫色が目に入る。紫のツインテールに、髪よりも濃い紫色の瞳。茶色の半袖ジャケットに紫色のホットパンツ。あちこちにつけられた同色の手甲。
最初に赤の少女が殺された時、誰よりも早く立ち直ってみんなを励ました少女だった。
彼女の全身からは、リーダーの風格が放たれていた。彼女ならば絶対に大丈夫だと、安心させるような何かがあった。
ほっとして、ハーフは頷いた。
「ありがとう! 私、頑張るから!」
「よろしくね。何回も名乗ったけれど、あたしはエーテナ。そう——このゲームを生き残る者よ」
ジェルダのように、どこまでも曲がらない真っ直ぐな瞳。
エーテナチーム。ジェルダチームと肩を張れるくらいの人数のチームが、今ここに完成した。
◆
その日はもう殺し合いは行われなかった。粛々と授業は進み、授業後は皆それぞれ寮に戻った。ピースはもちろんソーマと同室だ。男子寮と女子寮の区別なんて存在しない。命のやりとりをする場、今更男女がどうのこうのなんて言っていられるわけがないのだ。ソーマは立派な騎士だから、万が一のことなんてあり得ないだろうとピースは思う。この狂ったゲームの中、一人でいるのは危険なようにも思えたから。
ちなみにここでの夕飯は学校の食堂で食べるらしい。集まる時間は個人の自由だが、食堂が開いているのは夕方の六時半から八時半までの二時間なので、その間に来ないと夕飯抜きとなる。ただしこのご時世だ、誰が敵になるかわかったものではないからどの時間に来るにせよ、警戒だけはしっかりしておかなければならない。
寮は全室完全防音らしいから真に落ち着ける空間は寮しかない。
ピースは案内図にあった寮の一部屋を選び、ソーマと一緒に泊まることにした。
寮には最大六人部屋まであって寮のある棟は四階建て、一つの階に六部屋あった。何かあった時にすぐ逃げられるようにピースたちは一回の部屋を望んだが、生憎と一階はすでに完全に埋まっていた。だからピースたちは二階の203号室に泊まることにした。
扉を開けてみれば、二人部屋の203にはまず大きな二段ベッドがあるのが目に入った。なかなかの大きさで寝心地もよさそうだ。
次に目に入ったのは一つしかない机とクローゼット。机はずいぶんと大きめで、そこには椅子が二脚置いてあった。
部屋全体の広さは16畳くらいと広い。七虹異能学園はずいぶん広い敷地を持つので、寮の一部屋も格段に大きかった。
二段ベッドの下の段に腰かけてようやく人心地ついたピースは大きく息をつき、そうだ、と気になっていたことをソーマに訊く。
「ふうー、なんとか落ち着いたねー。ところで信互く……じゃなくてソーマくん、私の力は『触れた相手から戦おうという気持ちをなくす』能力なんだけど、ソーマくんはどんな能力を持っているの? ここに来たばかりの頃は明かしたくないと言っていたけれど、チームを組む以上知っていた方が有利だと思うの」
返答に一瞬だけ間があった。そうだな、とソーマは答える。
「ピース、支給品のナイフを貸してくれないか?」
「え、これ?」
恐る恐るピースは鞘に入ったままのナイフを差し出す。それを受け取ったソーマはナイフを机の上に置き、自分のナイフと剣も机の上に置いた。一体何をする気なのか。
彼はそっと目を閉じて、そして開いた。
「……動け」
彼が命じると。机に置かれた剣とナイフが、何もしていないのに動き出す。
ピースは驚いた声を上げた。
「わぁっ、すごい……! ソーマくんの能力って、刃物を自由に動かせる能力なの?」
「五メートル以内のもの限定、という制限つきだがな。防御にも使えるから割と便利なんだ」
彼はそう、穏やかに微笑んだ。
殻が手を振れば、生き物のように動いていた刃物が一気に止まる。それはすぐに、単なる金属と成り果てた。
彼は数年前に学校の図工の授業でこの力を誤って発動させて友人を傷つけてしまったことがあり、以来その力は彼にとってのトラウマだったが、今のこの殺し合いの悪夢の中ではなかなかに頼れる力でもあった。
ソーマは、言う。
「早速一人脱落したが、オレはお前をそうはさせない」
だから安心して頼ってくれと、はにかむように笑った。
◆
誰もいないはずの部屋に、激しい咳の音がする。
その部屋には誰もいなかった。なのに苦しそうな喘鳴(ぜんめい)だけが聞こえている。
このゲームの中で、そんな人間がいただろうか。
やがてその姿が、滲むように誰もいない部屋に現れた。
白い髪に白い瞳の少年。白のジャケットに白のズボン、白のマントを羽織っていて全体的に白い彼の名は、ヴィシブルといった。
彼は生まれつきひどく病弱で、あまり外出のできない少年だった。
彼がヴィシブルではなくて遠峰 白夜(とおみね びゃくや)と名乗っていた時だって、彼は学校を休んでいてばかりだった。
そんな彼がこの学校に来た理由は、いたって単純。
『自立したいから』ただそれだけだ。
彼には封じている忌まわしい過去があった。その過去によって彼は両親を亡くして厳しい祖母のもとで育てられたが、支配欲の強い彼女は彼の自由を許してはくれなかった。だから彼は、自立して祖母の支配から脱却しようと考えていた。
チラシが来たとき彼は、何も言わないで家を出た。そうでもしなければ逃げられないと思ったから。
なのに居場所を求めて訪れた学園では、デスゲームが開催されて。
「難儀な運命だよ……」
一人部屋のベッドに横たわったまま、そうぽつんと呟いた。
早速殺し合いで一人が死んだ。次に死ぬのは誰なのか。
ヴィシブルはそっと全身に力を込めた。するとたちまち透明化し、見えなくなったその身体。
ヴィシブルの能力はそれだ。透明化——invisible——ヴィシブル。
彼の名前は能力そのままだ。安易だとは思ったが、わかりやすくていいだろう。
「デスゲームが終わる前に……病死しなければいいんだけど……」
込み上げた苦しさにまた、彼は激しく咳き込んだ。この学校はそれなりに辺鄙なところにあったから、到達するのに消耗しすぎたのかもしれない。
彼は、考えた。
「誰かと組むことができれば……」
そうすれば、助けてもらえるのだろうか、と。
しかし組むならば二人だ、と彼は思っていた。人数が多いと行動しにくい。二人だけの方が信じる人間が少なくて済むから。
ヴィシブルは部屋に置いてあった時計を見た。いつの間にか、時刻は七時。もう夕飯の時刻が始まっているらしい。
「行かなきゃ……」
思うのに、起き上がった瞬間倒れてしまう。
食べなければ弱るのに、食堂まで歩けない。
(夕飯、抜きかな)
諦めて、彼はそのまま眠りについた。
〈二章 了〉
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- DG 運命遊戯 1-3-1 決定的に変わった意味 ( No.12 )
- 日時: 2017/11/01 22:23
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
今回は短めです。
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〈三章 残る二人は誰が逝く〉
1 決定的に変わった意味
アロウが、死んだ。他の生徒の手によって。
その事実は、これまであまり本気になっていなかった生徒たちの考えを変えた。
決定的に変わった意味。生き残るためには他者を積極的に排除せよと心がささやく。
だからこそ「彼」は動くことにした。「彼」の目には、未来危険人物になり得そうな存在が映っていたから。
「アルカナ、絶対に生き残ろうな」
そうイグニスは、相棒の少女に言った。
彼女は「急に何ですかー」と首をかしげた。
「そうするに決まっているじゃないですかー。イグニくん、いきなり何を?」
「決闘を、挑む」
にべもなく彼はそう言い放った。
化け物の力の宿った手を、じっと見つめながら。
遠い昔のトラウマの記憶を、強く意識して封じ込めながら。
あの記憶は下手に思い出したら自分が壊れると、知っていたから。
「危険な奴がいる。誰とも組んでいないし今後も組む予定はないように見えるが、俺は奴を脅威と感じる……!」
初日。どこまでも冷静に冷徹に皆を観察していたあの緑の瞳。
あれを見て皆何も思わなかった、否、そもそも気づいてさえいなかったが、イグニスの黒の瞳は見抜く。
——奴は、危険だ。
アロウはジェルダ一味を排除しようとして敗れたが、イグニスはそんな風に敗れるつもりはない。
不意打ちにジェルダが激怒したならば、そもそも不意打ちなんかせずに、堂々と決闘を挑んで勝てばいいだけの話。
負けはしない。たった一回でも相手に触れることができれば、その瞬間に勝ちは決する。
イグニスは果たし状を書き、授業の時間に備えた。
公衆の面前で正々堂々決闘を挑む。そうすれば相手は避けられまい?
誰にだってプライドはあるし、彼が挑む相手は特にそれが高そうに見えた。
それでもアルカナは不安そうだった。
「でもでもっ。決闘ってことは、どちらかが死ぬまでですよね? なら、もしもイグニくんが死んだら——」
「死んでたまるか。まだ贖罪も終わっていないんだ。……信じてくれ、正しい輝きを、白鳥正輝を!」
アルカナの能力は傷の治療。それでも致命傷以上は治せない。
しかし、イグニスの瞳に宿る輝きは、あまりにも強烈で。
——信じても、いいかな。
アルカナにそう思わせるだけの力があった。
アルカナは両の手を握って、強く笑ってイグニスに言う。
「ならならっ。私、まさくんのこと信じるのです! 絶対に勝って下さいね!」
「教室でまさくんはやめてくれよ。ああ、俺の力を知っているだろう?」
「ところでどなたに挑むのですかー?」
「ああ、それは……」
始業前。時計が時を刻んでいく。
授業の前に、彼は果たし状を叩きつけるつもりであった。
彼は、その名を口にした。
「バロンだ」
◆
朝。形ばかりの授業が始まる教室で、イグニスは目的の相手を見つけた。
銀髪に緑の瞳、低身長にタキシード。
彼の目指す相手、バロンだ。
イグニスは彼に近づいていく。
「イグニス・シュヴァルツだ。あんたに殺し合いを申し込みに来た」
その机に、書いた果たし状をバンと叩きつける。
バロンはその行動に、驚いたように眉を上げた。
「ほう、私に殺し合いを?」
彼は渡された果たし状を手に取った。
誰もが見ている。授業の開始直前である、彼に逃れるすべはない!
そこには、
『昼休み、中庭での決闘を申し込む。これは殺し合いのゲームの一環だから、どちらかが死ぬまで殺し合う』
と書かれていた。
イグニスとしては体育館や校庭の方が決闘場所にふさわしいように思えたが、彼の能力は相手に触れなければ発動しない、つまり超近接攻撃なのだ。もしも相手が遠方攻撃の手段を持っていた場合、 遮蔽物も何も無いだだっ広い空間で戦うのは愚策と言えた。
だからこその中庭、だからこその決闘場所。
中庭にはたくさんの木が生えていて、それはちょうど良い遮蔽物になる。
もちろんイグニスにはこういった戦闘経験はまるでないが、それは相手にしても同じことだろう。
だからこそ、挑んだのだ。
「挑戦を受けろ。公衆の面前で断れるほど、ヤワなプライドなんて持ち合わせてはいないだろう?」
挑発的にイグニスは言って身につけていた黒の左手の指貫グローブを外し、相手の机に勢いよく叩きつけた。
バロンはしばらくその様を見ていたが、やがて。
「……いいだろう。君の挑戦、私が受けた」
叩きつけられた黒手袋を拾った。
決闘は、成った。
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- DG 運命遊戯 1-3-2 死闘の果てには ( No.13 )
- 日時: 2017/11/03 08:23
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
諸事情により、明日から四日間ほど来られなくなります。
今日の投稿が異様に早いのは……藍蓮は学生でして、明日から修学旅行に入るので早めに投稿した方が良いとの判断です。
決闘の結末は?
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2 死闘の果てには
学園長の、あっても無くても変わらない講義を受けて二人は中庭にやってきた。正々堂々の決闘とあって、校舎からはたくさんのギャラリーが二人を見ていた。面白半分で見に来た輩もいるのだろうが、決闘があれば全力を出さざるを得ない、つまり能力がバレることにもつながりかねない。そんなリスクを負っても尚、イグニスは決闘といった形を選んだ。そうでもしなければ、紳士然としたバロンを引っ張り出すことができないと考えていたからだ。
殺し合いの決闘だ。だが決闘には審判が要る。
その審判の役は当然のように、学園長リェイルが引き受けた。
彼女は言う。
「私は公平な審判をしますよ。どちらの生徒にも特にこれといった思い入れはありませんからね。でも私がやれることといったら開始の合図だけですし、審判にだって不正のしようがありませんよ、と言っておきます」
それはどこか弁解のようにも聞こえた。彼女は自分が他の生徒たちから圧倒的な敵意でもって迎えられていることを知っている。だからこそそのようなことを言って自己保身を図ったのだろう。自己保身などする必要がないくらいに強いのは皆、とうに確認済みだが。
イグニスとバロンは互いの集合を確認したあと、それぞれに散らばって今は中庭のどこかに身を隠して開戦の時を待っている。
緊張が極限にまで張りつめているのが、誰にだってわかるくらいだ。
校舎からはアルカナの桃色の瞳が、不安げに揺れていた。イグニスはそちらを振りかえるほどの余裕を持たない。
そして。
「イグニス・シュヴァルツ対バロン。決闘を始めます」
中庭の真ん中に立つリェイルがさっと手を挙げ、その手を振りおろして開戦を宣言した。
宣言したあと彼女は、巻き込まれないように校舎内に避難した。
もうイグニスとバロンには、互いのことしか頭にない。
開戦。しかし誰も動かない。互いの能力をまるで知らない二人は動けない。少しでも相手の情報を把握せんとして膠着状態となる。
先に動いたのはイグニスだった。
がさりと音を立てて茂みが動いた。バロンはそれに反応し、手元の武器を投げる。それは銀色に輝く拘束用のチェーン。
七虹異能学園では、「コスチューム」入手時に、任意で三つまで武器を持てる。他の皆は当初、殺し合いのデスゲームが起きるなんてまるで想像していなかったから支給品のナイフ以外は持っていない者が多数派だが、慎重なバロンはその枠を二つ埋めた。だから彼はイグニスとは違い、多少は遠方攻撃手段を持つ。
彼の武器は、小型拳銃とチェーン。それ以外にも彼は、その場にあるものを武器にする。
様子見にバロンが放ったチェーン。外れることがあったとしても、そうなったらなったで向こうは遠方攻撃を警戒して無駄な接近は避けるだろうとバロンは読んだ。
しかし、結果は彼の予想を越えた。
バロンはチェーンに手応えを感じた。茂みから漆黒の少年が引っ張り出されてきたのが見えた。チェーンは彼の首に巻きついて締めあげていたが、それでもイグニスは不敵な表情を浮かべる。
「甘いッ!」
イグニスがその手を自分の首を絞めるチェーンに触れれば、それは金属の硬質さを感じさせないくらい呆気なく、一瞬で砕け散った。
「なッ……」
思わず驚き距離を取ったバロンに、イグニスは静かに告げる。
「それが俺の能力だ。『触れたものを破壊する』! 接近戦は命取りだぜ?」
「ふむ。ならば」
バロンはチェーンの残骸をタキシードの内側に仕舞い、小型拳銃を取り出した。それを見たアルカナが悲鳴を上げる。
しかしそうはさせないと、イグニスは地面に手を触れた。すると彼のいた場所が大きく陥没し、彼を狙った銃弾は彼の頭上を過ぎていった。
この能力は、こういった応用も可能なのである。
ほうとバロンは眉を上げた。
「君の能力は……強いのだね、私とは違って」
その答えを聞いて、若干低くなった位置からイグニスが首をかしげた。
「なんだ? あんたは弱いと言うのか? そもそもあんたの能力は一体何なんだ」
「私とは違う、私とは違う、私とは違って、君は、強い……! 私みたいに弱くはない。私とは違う、私とは違う、私とは違う……」
彼はそう何度も何度もそうつぶやいた。戦場に於いて相手に大きな劣等感を持つことはアドバンテージにはならないだろうとイグニスは思うが、ひとまず決着をつけることが先だ。彼は陥没してできた穴から躍りだし、自らの能力で相手の肉体を破壊せんと一気にバロンに肉薄する。
その瞬間、殺気を感じた。
「————ッ!」
強烈な、あまりに強烈な殺気に命の危険を感じたイグニスは咄嗟に身をかがめて前転、その直後、彼の頭上を三発もの弾丸が通り過ぎた。
その反応速度は、先程の交錯時には決してなかった速さ。
変化が起きたのは、バロンが自分を貶(おとし)めた後。
イグニスはそれらの事実からある結論を導き出すが、あまりに予想外な能力に頭の方が理解を放棄する。
だって。
(劣等感で強くなる、だって?)
そんな能力、存在するわけがないと彼は思いたかったが、そう仮定しないと先程の事実を証明できない。
ならば。
「悪いが、早期決着させてもらうぞッ!」
相手がこれ以上劣等感を高めて強化されないうちに。
イグニスは走った。その肩を弾丸が掠めて血が飛んだ。焼けつくような激痛にアルカナの悲鳴。それでも彼は止まらない。
——多少の怪我なら計算のうち。生き残れればそれでいいッ!
走る。撃たれて血が飛ぶ。それでも走り続ける。両者の距離は縮まっていって。
あと3メートル、2メートル、1メートル……。
「とどめだッ! こちらが生き残る為だ、死んでもらうぞッ!」
『化け物』と呼ばれたイグニスの手は、あらゆるものを破壊する悪魔の手は、バロンに達した。
アルカナの歓声。ギャラリーが息を詰める。バロンはその目にふと諦めを浮かべた。
イグニスは勝利を確信し、その手をバロンの腹に押しあてた。
誰もが、次の瞬間バロンが肉の塊になることを想像していた、
のに。
「……嫌だ」
イグニスの顔が、ひどく青ざめていた。
彼の悪魔の手はすでにバロンに触れている。バロンの生殺与奪権は彼にある、のに。
イグニスの全身が震え始めた。絶対に勝てるポジションに、生き残れるポジションにいるのに、彼はどうしてもバロンを殺せない。
彼がバロンの身体に手を当てたとき、封じていた蓋を突き破って一気に、あの忌まわしい記憶が噴き出してきたから。
ずっと昔、彼は誤ってその手で両親を殺した!
以降、彼はその『化け物』の力を。人に対して行使したことはなかった。
そして今、その力を。人に行使しなければならなくなった、とき。
蘇るのは血の記憶。
大切な人を抱きしめようとして殺してしまった、永遠に戻らぬ遠い日の記憶。
彼はあれ以降、人を殺したことはなかった。
悲しみの記憶が、忌まわしき記憶が、今、彼に殺しをすることをためらわせる。
殺さなければならないのに。殺さなければならないのに!
彼の視界に赤い色の幻想が浮かんだ。
彼は喉の奥から絞り出すようにしてつぶやいた。
「こんなことじゃなかった……」
それは絶望の言葉。勝利を目前にしての敗北宣言。
イグニスは、人を殺せない。
殺さないと自分が死ぬような状況の中にあってさえ。
イグニスは、殺せないのだった。
「『贖罪を』と俺は言った。『こんな力でも、人の役に立ちたい』と。だが!」
気づいたのだ、己の失敗に。
彼とあの過去は、どうしても切り離すことができないものなのに。
それを切り離そうとした、忘れようとした、乗り越えられると思いこみ、人を殺せると驕り、勝てると無駄な勘違いをした。
「だが!」
それは、悲鳴。彼がずっと上げられなかった、上げることすら許されなかった、心から救済を願う『助けて』という悲鳴!
彼は血を吐くような思いで叫んだ。
「こんなの贖罪じゃない! 違う、違うんだ! こんなの……こんなの、俺が望んだ結末じゃない! 俺は人を殺せないんだ!」
自分から決闘を挑みながら、戦士は勝利の間際に剣を捨てた。
そんな戦士に待つ末路は?
「……それが、答えか」
ゆっくりと動き出したバロン。その手には小型拳銃。
イグニスは強くなんかなかった。弱い自分をひたすら、「強そうに見える」殻で覆っていただけ。
彼の時間は止まっていたのだ。自ら両親を殺したあの日から。
彼はまだ、十歳の子供だった。彼の時間は凍りついたまま。いくらアルカナが頑張ろうとも、その心の本質は「あの日」から動き出すことはできなかった——。
「ならば、死んでくれ。私にも生き残る権利がある」
アルカナの悲鳴。
銃口がイグニスの額に当てられて、そして。
「見てくれ、アルカナ……。これが、俺なんだ。これが、白鳥正輝なんだ、瑠奈……!」
銃声。
イグニスの身体が大きくのけ反る。
血が辺りに飛び散って、深紅の花を咲かせた。
アルカナの絶叫が空間を引き裂いた、
——それが。
それが、『化け物』イグニス・シュヴァルツの最期だった。
〈イグニス・シュヴァルツ、脱落〉
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- DG 運命遊戯 1-3-3 動き出す策略 ( No.14 )
- 日時: 2017/11/07 23:45
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
戻ってきました。が。所用あってしばらく更新が不定期になります。ご了承ください。
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3 動きだす策略
イグニスの死をアルカナはしっかりとその目で見ていた。もうすぐ勝てそうだった彼がずっと昔のトラウマに負け、まさかの敗北をし、銃で頭を撃ち抜かれて死んだのをしっかりと見た。
アルカナはいまだにその事実が信じられない。彼女にとってのイグニスは「最強」だった。彼の「触れたものを破壊する」能力は数多いる能力者の中でも随一の強さを誇っていて、たとえ遠方攻撃に弱くともその勝利を純粋に信じさせるに足る「力」があった。
アルカナは思い出す。この決闘の直前に、イグニスが口にしていた言葉を。
『アルカナ、絶対に生き残ろうな』
『死んでたまるか。まだ贖罪も終わっていないんだ。……信じてくれ、正しい輝きを、白鳥正輝を!』
「……私、信じたのに」
絶え間ない涙を両の目から流しながらも、イグニスの死に慟哭しながらも彼女はそう、呟いた。
信じていた、信じていたんだ。「最強」の彼と「治療」のアルカナ。二人揃えばどんな困難だって乗り越えられるって。
それなのに彼は。
彼は。
ずっと自分の時間を止めたままで、そして止まっていることにすら気がつかないで。
アルカナのあらゆる期待を裏切って、無残にも死んでしまった。
アルカナは彼が、好きだったのに。
いくら彼女の力でも、死人を蘇らせることはできない。
アルカナは喪失の重さに泣いた。泣いて泣いて泣き崩れた。信じていたものを裏切られ、ひとりぼっちになったと知って。
今、彼女がいるのはイグニスの部屋。正確にはイグニスとアルカナの部屋。この部屋から彼女はずっと、その戦いを見ていた。
しかしこうしてイグニスはいなくなり、部屋には彼のいた痕跡だけが残された。
朝も一緒に話していたのに。
彼の漆黒の鞄、彼が使った小さな椅子、彼の眠ったベッド。
朝は生きていて、彼女と話していたのに。不敵な笑みを浮かべて、「信じてくれ」と強く言った。アルカナはそれを疑うことなんてできなかった。だから信じた。彼の言葉通りにただ純粋に、彼が帰ってくることを。
アルカナの視界に、死んだイグニスの遺体にそっと花を手向けるバロンの姿が目に映る。紳士的なんだなぁと虚ろになった心で彼女は思ったが、イグニスを殺した彼に対して、怒りも何も、まるで感情らしい感情が浮かばなかった。
イグニスの死によって、アルカナは心を失くした。
キンコンカンと昼休み終了の鐘が鳴る。やたら耳に響くそれをうるさいと思い、アルカナは窓を閉めて布団にもぐりこんだ。
今の彼女にとっては授業なんてどうでもいい。大切なのはただ一点、イグニスが死んだということだけ。
イグニスの寝ていた枕に涙にぬれた顔をうずめれば、彼の残り香が鼻腔をくすぐる。
このまま自分も死んでしまえればいいのにとアルカナは思った。
しかしそれはイグニスに対して申し訳ない気もしたし、アルカナに自殺なんてする勇気も無い。
「まさくん……。ひどいですよぅ……」
ぽつりと小さくつぶやいた。
◆
「三人目、脱落、か」
戦いの一部始終を眺めていたギャラリーの中に、水色の髪と水色の瞳をした少年がいた。彼は水色の魔導士めいたローブを着用し、全体的に青い。
歳は十代の半ばくらいだろうか、まだ少年らしいあどけなさを宿す顔立ちだが、その瞳に宿る冷酷さはまるで少年のものではない。
名をカーシスという彼はまだ、チームを組んでいない人物の一人であった。
彼がチームを組んでいない理由は一つ。「他者を信用できない」からだ。
幼いころから両親の虐待ばかり受けてきたカーシスは基本、誰かを信じることができない。最悪誰かと組むことも考慮に入れていなくはないが、それでもせいぜい一人と組むのが限度である。三人組以上のチームは認めたくない、それが『策略家』カーシスの挑み方だった。
彼はこれまでは極力、傍観に徹していた。落ち着いた青でまとめられた彼の衣装はジェルダの金やソーマの騎士の鎧、アーリンの黄色の背広などに比べれば圧倒的に目立たない。かと言って何も喋らないわけではなく、無難な程度に人の会話に参加してそれでも出しゃばらず、どこまでも陰に潜んでマークされないようにしていた。
カーシス自身の能力は扱い方次第だが攻撃的とは言えない。だからこそ彼は自らの身を守る手段を講じた。
それが策略、それが術数。
弱いから、弱いからこそ。唯一誇れる頭をフル回転させて策を練る。
彼は現状を頭の中で整理した。
最初。名前すらわからなかった赤髪の少女は規則を破ったがために処刑された。
次に。アロウと名乗った弓使いは、不意打ちを仕掛けたがために激怒した仲間に殺された。
最後。イグニスと名乗りを上げた「破壊者」は、己の迷いに殺された。
それらの情報が示すのは皆、「自業自得」ということだ。アロウとジェルダの戦いは実力差があったのかも知れないが、イグニスの場合は完全な自滅である。
メンタルをうまく保てずに、三人は早まって死んだ。
カーシスはそう分析する。
「確かあと一人死ねば、休息が訪れるのだったか……」
自分以外誰もいない一人部屋で、彼はそうぽつりとつぶやいた。
「ならばその一人は、僕が殺る」
支給品のナイフを手で転がした。
彼が鈴鹿 蒼人(すずか あおと)だった時、彼は両親から手ひどい虐待を受けていた。優秀すぎる弟しか両親は見てくれなくて、カーシスの分のご飯すら作ってくれなくなった。そしてストレスがたまるとカーシスを殴る、蹴る。カーシスは彼の両親にとって、体の良いサンドバッグ代わりにしか思われていなかった。
だから彼は両親を殺そうと思った。盗み出したお金でナイフを買って、人体の急所について調べ尽くした。
結局その復讐は成らず、その全てが露見して殺されかけた後、彼は家を抜けだした。
そして放浪の果てに偶然たどり着いたのがここ、七虹異能学園だ。
だから彼は他の19人とは違って入学を望んで学園に来たのではなく、迷い込んでここにたどり着いた。事情が違う。
しかし彼は両親を殺すために一人で色々と研究してきたから、ナイフ使いを覚えるために動物だって殺してきたから、刃物の扱いには自信があった。
その冷たい横顔には、生き残るための冷徹さしかない。彼に情けなんて存在しない。彼はただ己の生存のために冷たい刃を振るい続ける永久凍土だ。溶けることのない氷を抱えた凍える刃だ。
親からもらった名前が嫌いだった。彼はだから自分に「カーシス」以外の名があることを認めていない、認めたくない。
永久凍土に両親は、不要だったから。
虐待によって体に無数刻まれた傷はたまに激しく痛みだすことがあるけれど、彼はそれを復讐の痛みととらえた。自分から子供時代を奪い去った両親への復讐心を忘れないための、思い出させるための痛みだと。
そんな過酷な環境にいたのだ、感情を失ったって仕方あるまい?
カーシスは次に殺す相手のことを考える。手で弄ぶナイフがギラリと凶悪な光を放った。
「あいつなら、殺れる」
確信できる相手がいた。
カーシスは己の勝利をすでに直感していた。
「第一ラウンドは僕が終わらせよう。それでみんなに恩を売るというのも一興か」
策略は、動き出す。
◆
同時期。
その日はずっと授業に出られず、一人部屋のベッドに横たわっていただけのヴィシブルも、イグニス死亡の報を聞いた。
それを聞いて、彼は思った。
動きださなければ、と。
またまた戦況は大きく動いた。これ以上じっとしたままというのも危ないかもしれない。
ヴィシブルは苦労してベッドから身を起こし、支給品のナイフを見た。それはどこまでも鋭くて、簡単に人を殺傷できそうにも見えた。
彼は微笑んでそれを懐にしまうと、ベッドの端を掴んで立ちあがる。咳が漏れた。体調は決して万全ではないが、これ以上この場に引きこもっていたら、逆に戻ってきたときに命を狙われるような気さえして。
——座して死を待つなんて、嫌いなのさ。
動く時だ、いい加減。他の皆も、一つ空いている席に疑問を持ちはじめていることだろう。下手に疑われるのはまずいからそろそろ動かなければならない。
懐のナイフの冷たい感触を確認し、一歩一歩よろけながらも何かにつかまって彼は歩き出す。
寮から教室まではずいぶんな距離がある。それでも、それでも。
静観するときは、終わったのだ。
そう自らに結論付けて、病に蝕まれてボロボロの少年は、歩き出す。
その道がどんな未来に通じているのかは、誰も知らない。
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- DG 運命遊戯 1-3-4 交錯する真偽 ( No.15 )
- 日時: 2017/11/09 18:34
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
諸事情ありまして、以降、更新は不定期となります。
ご了承ください。
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4 交錯する真偽
その後三日は特に何事も無く日々が過ぎた。そして舞台は「ゲーム」が始まって五日目に移る。
残り時間はあと二日。あと二日以内に一人が死ななければ全滅だ。誰もが不安を感じていたが、アロウやイグニスの件がある、迂闊に動いたら危険だと誰もがわかっていたために動けなかったが、動かなかったら全員死ぬのだ。状況を変える存在を皆、待ち望んでいた。
怖くて自分からは動けないくせに、他の誰かにそれを期待して静観を決め込む。デスゲームの中に見え隠れする、人間のエゴ。
猫の首に鈴をつける、ということわざがあるが、今の状況はそれに似ていた。この場合は誰もが猫であり誰もが鼠だ。誰かを殺さなければならないのに、いざそれを実行するとなると反撃が怖くて誰もできない。
しかしそんな状況の中で、まるで不安を見せない少年がいた。
「策略家」カーシスだ。
彼には「策」があったから、不安なんて感じなかった。
彼はある「タイミング」を虎視眈々と狙っていたが、ついにその時が来たと知って、こっそりと校舎を抜けだした。
彼の目に映るは金髪の少女。大切な人を失ってずっと泣き濡れていた彼女はもう見る影も無く、ぼろぼろにやつれていた。
その後をカーシスは追う。追いかけるうちにその姿が、少しずつ変わっていく。
青い髪は漆黒に白のメッシュの入った髪に、青い瞳は漆黒に、青い衣装は漆黒のマントと漆黒のジャケット、漆黒のズボンに漆黒のブーツに。手には漆黒の指貫グローブまでつけたその姿は、
「……イグニス・シュヴァルツ」
死んだ「彼」と全く同じ姿と声で、そうカーシスはつぶやいた。
どこからどう見てもその姿はイグニスそのもので。
カーシスの能力は「変身」。人でも物でもなんでも好きなものになることができる。それは、誰かに化けることも可能だということ。攻撃的能力ではないが応用範囲が広く、策略家のカーシスに合っている能力とも言えた。
ただし、変身したまま死ねばもちろん死ぬし、無機物に化けて破壊されたらそれでも死ぬ。
それは、使いどころを誤れば一瞬で死ぬ可能性すら秘めているのだ。
しかし誰かに化けてもそれは外見だけで、能力までは真似られない。だから今のカーシスに「破壊」の能力はない。
だがそれだけでも、虚ろになったアルカナを騙すには、充分なのだ。
カーシス=イグニスは音をたてないように慎重に、彷徨いだしたアルカナを追う。
そして。
最後に一回だけ聞いたアルカナの「本名」で彼女を呼ぶ。
「ルナ!」
「はいぃ!?」
その声に、その言葉に。アルカナはびっくりして、恐る恐る後ろを振り返った。
そこにいたのは紛れも無い、イグニス・シュヴァルツの姿で。
カーシスが化けたとも知らない彼女は、一瞬にして思考を停止させた。
「ま、まさ、くん……? でも、嘘なのです。まさくんは死んだのです! 私、この目で見てました! だからこんなに……こんなに、悲しいのです……!」
首を振り現実を否定する彼女に、違うとカーシス=イグニスは首を振る。
「気づいていないのかもしれないが、死の直前、お前の癒しの力が俺を救ったんだ」
事実、アルカナが癒しの能力使いだということは公(おおやけ)にはなっていない。だがカーシスは現状、アルカナに限らずほとんどすべての生徒の能力を把握していた。公開していない生徒も数多くいるのにカーシスは何故か知っている。なぜなら。
彼は「変身」の能力で小さな生物に化け、それで情報を集めたからだ。
同じ生徒同士ならば殺し合いの相手なのだし警戒して当然だろう。だがこの校舎の周辺には木々があり、森がある。当然そこには虫やら何やら様々な生物がいる。そんな状況下で。
——誰が紛れ込んだ小さな虫を、情報集めに来た間者だと疑うだろうか?
カーシスはそこを突いて情報を集めた。無論、虫という小さな体では潰されたら死ぬ可能性があるがそこはカーシス、ヘマはしない。
そして今、彼は万全な状態で、相手を謀(たばか)り騙し殺すためにここにいる。
アルカナは片翼を失った鳥だ。生きていてもつらいだけだろうし、だからこそ他の人の生きる権利を奪ってまで生き残る意味がない。イグニスを失い虚ろになった彼女は、早く死んだ方がみんなの為だ。
そう考えてカーシス=イグニスは、それでも顔だけは優しく、彼女に微笑んだ。
「まあ、でも他の奴に見つかるわけにはいかなかったからな。『すでに死んだ者』になった方が命を狙われずに済むだろう?」
彼の吐く言葉は正論に聞こえるだろう。もしも——彼が本物の、イグニス・シュヴァルツであったのならば。
不安定だったアルカナはすぐに、彼を信じた。
その顔に満面の笑みを浮かべて、目から喜びの涙を流して彼に抱きついた。
「まさくん……まさくん、生きてたのです! 生きてて、よかった……!」
「そう簡単に、死んだりはしない」
彼女の身体をそっと抱きながらも、カーシスの頭は高速で回っていく。
相手の信用は得た。後はさりげなく殺すだけ。
そう思い、彼がそっとマントの裏のナイフに手を触れようとした、
時。
——血が、溢れた。
アルカナの、白い首から。
カーシス自身はまだ手を下してはいない。まだタイミングではなかったから。
「あ……」
ぐらり、とその身体が倒れていく。彼女の首についた傷は明らかに致命傷であり、彼女の「治療」能力でも間に合わないとすぐにわかった。
それなのに、彼女を刺し殺した相手はいない。
新手の能力者か、とカーシスは焦った。そういえば彼でもまだ、把握しきっていない能力者がいないでもないが。
くずおれたアルカナが必死でカーシス=イグニスに手を伸ばした。
「まさくん……助けて……」
しかしその手を彼は振り払い、変身を解いた。
瀕死のアルカナの瞳が驚愕に見開かれる。
「悪いな、僕はイグニスじゃない」
冷徹な瞳が彼女を射抜けば、彼女の顔が絶望に染まる。
カーシスは言った。
「『策略家』のカーシスだ。最後の一人はあんたに死んでもらおうと決めていたものでな。イグニスはとうに死んでいたのさ」
「……騙されたんだ、私は」
死に逝く彼女は今、一体何を思っているのか。
その桃色の瞳はしかし、驚くほど澄み渡っている。
「でも……ありがとう」
「なぜ礼を言う。礼を言われる筋合いはないが」
「だって私……これでようやく、まさくんに会えるんだもん……」
一人生き残ってしまった彼女は死を望んでいたが、自殺することは死んだイグニスが許さなかった。
彼女は死にたかったのだ。それをカーシスが、否、正確には「誰か」が終わらせた。
アルカナは大きく息を吐き、最後に小さくつぶやいた。
「まさくん……そこに、いたんだ」
首から多量の血を流して。
こうしてアルカナ・ファイオルーは逝った。
こうして一つのチームが消え去った。
しかしカーシスには不明なところがあった。
彼は何も無い空間に呼びかける。
「下手人! 姿を見せろ!」
「どうせこれ以上隠れていられないさ……」
激しく咳き込む音と苦しそうな喘鳴。
純白の少年の姿が、滲むようにして現れた。その手に握られた支給品のナイフには、血がべっとりと付いていた。
アルカナの血だ。これで彼は彼女を殺した。
どう言うことだ、とカーシスは彼に詰め寄ろうとしたが、
「……っ!」
突如少年の身体がくずおれて、彼は地に倒れてしまう。
「お、おい……?」
思わず心配げに駆け寄ったカーシス。少年は何度も荒い呼吸を繰り返しており、苦しそうだった。
「病気、なのか?」
「そうだよ……」
白い少年はそう、何とか言葉を紡いだ。
「僕はヴィシブル……。どうやら、君と同じことを考えていたようだね……」
「……アルカナを殺すことか」
「君が時間を稼いでくれたから、僕は彼女を殺せたのさ」
彼の外見は儚い。そして非常に弱々しい。しかしその目の奥には紛れも無いしたたかさがあって、外見に惑わされてはならない類の人間だとカーシスにはわかった。
普通の思考回路ならばこの状況でアルカナを殺せない。「そんなひどいこと」といった倫理が働いて膠着状態になる。本当は殺してやった方が彼女を助けることになるのに、誰もその可能性に気づかずに彼女を生き地獄に放置する。
それが「普通」なのだ。「普通」の思考回路なのだ。
なのに。
カーシスとヴィシブルは違った。下手な倫理に惑わされず、真実を探しあてて実行した。その結果が今ここにあるアルカナの死体だ。
同じような思考持つ仲間。カーシスと同じ冷酷さを持つ少年。
これまではあえて孤独を選んでいたカーシスだったが、彼とならばチームを組んだって良いような気がしてきた。
それにカーシスは思う。このヴィシブルという少年、誰かと組まなければ死んでしまうのではないか、と。
彼の能力である「透明化」は見た。彼の「強さ」も理解した、が。
病気を抱えている彼は、肉体的には最弱だ。
だからカーシスは提案することにした。「この僕が自分から同盟を提案するなんてな」なんて思いながらも。
倒れたまま立ち上がれないヴィシブルに、その手を差し出した。
「あんたと僕は似ている……。そこで提案なのだが。僕も一人、あんたも一人だ。ならば」
「策略家」の瞳が、何の嘘も含まない純粋で真摯な輝きを宿す。
「僕と、手を組まないか?」
ヴィシブルの苦しそうにしていた顔がその瞬間、不敵に輝いた。
「いいよ。……僕でも助けになれるのならば、ね」
「なるに決まっているさ。そう言えば名乗っていなかったな。僕はカーシス。『策略家』のカーシスだ」
差し出されたその手を握って、ヴィシブルは改めて名乗る。
「僕はヴィシブル。『不可視』のヴィシブルさ」
カーシスの手を握って彼は立ち上がろうともがくが、うまく立ち上がれないようだ。
カーシスは苦笑いして、その華奢な身体を背負った。
「ごめんね……」
申し訳なさそうに笑った彼に、気にするなとカーシスは返す。
背負ったその細い身体は、枯れ木のように軽かった。
「相棒として、当然だろう?」
チーム組んだから二人部屋に移らなきゃなとかつぶやきつつも、彼はその場を後にする。
今ここに、策謀のタッグが完成した。
〈アルカナ・ファイオルー、脱落〉
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- DG 運命遊戯 1-3-5 安らぎを乱す者 ( No.16 )
- 日時: 2017/11/18 01:26
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)
お久しぶりです。
週一更新になる可能性が高くなりましたが、皆様これからもよろしくお願い致します。
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5 安らぎを乱す者
赤い少女が死に、アロウが死に、イグニスが死んだ。
そしてその日、生徒たちは一斉に体育館に呼び出しをくらった。
また何かあったのだろうか、誰か死んだのだろうか? ピースは心配げな表情で体育館のステージに立つ学園長を見た。
生徒たちはぞろぞろ集まっていく。ピースは数を数えた。1、5、10、16。17人いたのに一人足りない。やはり誰か死んだのか。誰かによって殺されたのか。
全員の集合を確認して、おもむろにリェイルが口を開く。
「皆様」
彼女はどこか嬉しそうだった。
「アルカナ・ファイオルーが死にましたので、第一ラウンドの終了をここに宣言いたします」
知らされたのは、もう一つの死。
相棒を失って一人ぼっちになった、少女の死。
それはとても悲しいことのはずなのに、どうして。
ピースは人々の顔に安堵を見る。彼女の死を悼むよりも先に、自分の代わりに彼女が殺されたことにほっとしている。自分が選ばれなかったことを喜んでいる。
今行われているのはデスゲームだ。そういう心情の変化があってもおかしくはないけれど。
『平和の鳩』たるピースは少し、悲しくなってしまった。
誰も彼女の死を悼むまい。いっそ彼女の死は喜ばれてさえいるだろう。
これが現実、これが真実。
ピースはぎゅっと唇をかんだ。
リェイルは、言う。
「第一、というからには第二ラウンドがありますが、第二ラウンド開始までには今日を含めないであと一日猶予を与えます。第二ラウンドのルールは休息が終わったら教えます。ひとまず一時的に殺し合いは終わりましたので、第二ラウンド開始までの間に新たな殺しを行うことは認めません」
まだまだ殺し合いは終わらないけれど、誰かの影に怯えないでもいい休息時間が始まる。
「彼女の死により皆様の命は救われました。次なる地獄の開始までに、好きなようにお休みください。休息時間中の授業はありません」
そう短く言い置いて、彼女はステージから去る。
彼女がいなくなったあとには様々な喧騒が満ちていた。
ピースは複雑な気分だった。誰かの死により自分が生き残る、その原理はわかっていたけれど。それを実際目の前にしてみれば、怖くなるのも仕方がない。
けれど。
これが現実、これが真実。
だから彼女は精一杯の笑顔で、己を守る騎士に言った。
「ようやく休息が訪れたよ! 思い切り体を伸ばそう!」
そうしてリフレッシュして、悲劇に傷付いた心を癒すんだ。
そうだなとソーマは笑った。「休息の、時間だ」
二人は体育館の外へ飛び出した。
◆
が、事態はそう簡単に進まなかった。
ピースは見たのだ。皆が体育館の入り口に集まりだしたその瞬間、どこかで紫電が爆ぜたのを。
紫電と言えば想像されるのは。
——ジェルダ・ウォン!
「伏せろォッ!」
ソーマの声。何を言われるまでも無くとっさにピースは地面に身を投げ出すが、稲妻は簡単に曲がる。このままでは直撃してしまう!
その刹那の中ピースはジェルダの行動に愕然としていた。第一ラウンドは終わった、終わったのになぜ彼はこの様な攻撃をしたのか。全て終わった後の殺戮をした場合、それを犯した本人は学園長によって殺されてしまうのに、なぜ!
ピースの腰から何かが抜けた。稲妻が何かにぶつかる激しい音。それはピースの前だけでなくそこかしこでしたけれど、ピースは自分は助かったのだと知った。
「怪我はないか?」
険しい顔でソーマが彼女に手を差し伸べる。彼の前には二本のナイフ——ソーマの物とピースの物——が、クロスするようにして宙に浮いていた。
ソーマの能力は「一定範囲内に入った刃物を自由に操る」。それを使って、自分達の代わりにナイフに稲妻をまとわりつかせて身を守ったのだった。
ソーマはまだ稲妻をまとっているそれらを一瞬だけ地に付けて電流を逃がし、自分の手に回収して一本をピースに返した。
見れば攻撃を受けたのはピースたちだけではないらしい。ジェルダと彼の仲間以外は皆それぞれに臨戦態勢を取って、ジェルダを燃える瞳で睨みつけていた。
「礼を言うぜ」
彼は笑った。
「殺しの稲妻じゃなかったし実際、見た目が派手なだけで大した威力も無い稲妻だった、当たっても一瞬痛いだけで致命傷にはなり得ない稲妻だったのに、みんなして防御してくれたこと。お陰でそれぞれの能力が読めた。これで十分に対策出来るじゃんか、なァ?」
——彼は。
彼は。
殺すつもりなんか、ルールを破るつもりなんか端からなかった。彼は「命を守らなければ」と皆に錯覚させて、その上で皆に本気を出させて能力を読むという強引な手段に出たのであった。
生き残るためには明かす情報は少なければ少ない方が良いというこの状況の中で、この不意打ちは非常に痛いものだった。言にピース以外は誰も知らなかったソーマの能力は結果、皆にばれることになったわけだし。
ピースの体内で血が逆流する。ピースの耳元で冷たい叫び声がした。
——生き残るためにはどんなことでもする奴がいる!
迂闊だったのだろうか、甘かったのだろうか。
「平和を」とピースは願った。ゆえにピース、平和の鳩、だったのに。
震えるピースをソーマはその腕に抱き、ジェルダを思い切り睨みつけた。
「……貴様」
「生き残るためは何だってするぜ。あ、言っとくけどオレを倒そうなんて考えるなよ? どうせみんなにはできねぇよ!」
笑いながら、三人の仲間を伴って立ち去っていくジェルダ・ウォン。
ピースは最初、ジェルダを「強い人」「尊敬する人」みたいにかなり上に見ていたけれど、この瞬間、彼女の中のジェルダ像が崩れ去った。
ジェルダは確かに強いけれど、尊敬するような人間では無かった。当たり前の様に平和を乱し、目的のためには手段を選ばない。
この殺し合いのゲームの中にあっては、仕方のないことなのかもしれないけれど。
揺れる心を強く保つためにピースはソーマに強くしがみつき、事態を重く受け取った。
《第一ラウンド、終了》
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