複雑・ファジー小説

第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.13 )
日時: 2017/11/30 09:23
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)

人の心が具現化した精神世界"プリンセシナ"

 持ち主によって、造り、深さ、見せる記憶は違う——百人居れば百通りのプリンセシナが存在するということ。
だがしかし千差万別のプリンセシナでも大きく分けることで二種類に分類することができる。

一つ目は参加型。

プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶世界の登場人物として参加し体験する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えており、会話をすることも可能。
まるで今まさに現実時間(リアルタイム)で起きているかのように感じることが出来る。

——現実的な体験であっても所詮は過去に起きた出来事の再現。起きた過去を書き換えることなど神にもできない。


二つ目は劇場型。

プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶を劇や映画を観るかのように映像として観て体感する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えておらず、会話をすることは不可能。
過去に起きた出来事の記録映像を傍観者として観るだけしか出来ない。

——過去を変える権利すら手に入れていない者に過去を変えることなどできない。



大きく分ければこの二種類に分類される。……が、人の心とは他人(ひと)が思うよりも複雑で難解、二種類の世界が入り混じった世界も存在すれば、どちらにも属さない世界もまた存在する。
未だよくわかっていないというのが我々の見解だ。




                                   とある研究員の論文.


Re: シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語- ( No.14 )
日時: 2017/11/30 10:24
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)

(ルシアside)




身体を包み込んでいた温かい何かが消えた。
たぶんヒスイのプリンセシナの中に着いたんだと思う。いつもプリンセシナに入る時は、温かい光に包まれて目を閉じて、身体を包み込んでいた温かいものが消えて、目を開けると見たこともない世界が広がっていたから。

だから目を開けた。もうプリンセシナに来るのは四回目。慣れたくないけど少しは慣れてしまった。だからもう少々な事では驚かな——


『ブオオオオオオオオオン』
「うわっお!?」

……い、つもりだったんだけど突如唸りを上げた獣のような咆哮に驚いて尻餅をついちゃった。イタタ……地面が砂浜だからそんなには痛くなかったけど。って、砂浜?

顔を上げて改めて辺りを見渡して見ると、此処は僕も良く知っている場所だった。
上に張られているのは見えない結界、そして深海魚たちが空を飛ぶ鳥達のように自由に泳いでる。周りにある建物はどれも古くて崩れていて苔まみれ、砂浜にはワカメとかの海藻類や色とりどりのサンゴ礁が生えている……そうかここは海の中にある国アトランティスなんだ。

「なんです。この素敵な深海の世界はっ。
 ご主人様との式は海の見える小島の教会でと思っていましたけど、ここのような海の中にある教会で挙げるというのもいいですね♪」

じゃあもしかしてあの大きな獣みたいな声は、二匹のドラゴンとかいう生き物のもの?

「ちょっとあそこの獣がうるさいですけど、まああんなのはパピコちゃんのご主人様への愛の劫火(ごうか)にかかれば一瞬で炭と化します♪」

ブルースノウ王から狂犬を退治する為に此処へ来た僕達はなぜか犬じゃなくて、トカゲみたいなワニみたいな頭の大きな獣、ドラゴンと戦うはめになったんだ。
ドラゴンは絵本とかのおとぎ話の世界で最強生物と呼ばれている化け物。
でも彼らはおとぎ話の世界にしか存在しないはず、なのにどうして現実の世界に存在しているんだろう? 

「新居はどうしますぅ? やはり海辺の白い家です? それともいっその事、ここに新居を建ててしまいましょうか♪
 ここでしたら、深海魚が食べ放題でヘルシーですし♪」

後から現れたドラゴンは空間を破ると言うか、世界を隔てる壁のような物をぶち破って"コチラ側”に侵入してきたって感じだったし……。

それに"あのドラゴン"が言っていた「帝竜(ていりゅう)を召喚しやがった」ってどうゆう意味なんだろう。
ドラゴンにも名前とかあるのかな。帝竜ってことは偉いドラゴンだったのかな?

「あの……ご主人様?」

考えれば考える程、疑問ばかり増えていって答えがみつからない。

「私(わたくし)の話聞いてます?」

僕達の前に現れた二匹のドラゴン。そしてヒスイのプリンセシナ第一階層目がここなのはどんな理由があってのことなんだろう。
ここが闇病にかかったきっかけのようなものがあるのかな。だとしたらそれは一体。

「ご主人様!」
「ふぇ、あっはい!?」

びっくりした……気が付いたらパピコさんの顔が目の前にあった。
それにどうしてだろう……すごく怒っているように見える。

「もう! 私の話聞いてました?」

え……? パピコさん何か僕に話しかけてたの?

「はあ……」

うわっすっごいわざとらしい溜息をついているよ。
ちょっと考え事に集中しすぎていて悪いことをしてしまったかな……。

「ごめんね、パピコさん」
「いいですよー、どーせご主人様はヒスイさまの事で頭がいっぱいなんですからー」

はぶててるっ。すっごい棒読みでそっぽを向いて唇をとぎらせてパピコさんは言っている。
小さな子供みたいだと、少しくすりと笑いそうになったけど我慢我慢。もしここで笑ってしまったらさらにパピコさんの機嫌を損ねてしまうよ。

「それよりも。ここは何なんです?」

あっそうかパピコさんは知らないんだっけ。僕はこの場所の説明をしてあげた。
パピコさんはふーんと興味なさげに聞いていたけど、

「つい昨日の光景が現れるだなんて珍しい事もあるもんですね」

少し難しそうな顔をして頷いていた。
やっぱりこれって珍しいことなんだ。プリンセシナの案内人であるパピコさんが言うんだから間違いはないはずだよ。

「それで何処へ行きましょう?」
「そうだね……まずは広場に行こうか。そこで僕達はドラゴン達に出会ったから」
「りょーかいでございます♪」

チャキッと敬礼するパピコさん。本当彼女は感情の浮き沈みが激しいというか、切り替えが早いというか、白黒がはっきりしている人だなと思う。

アトランティスはドーナツみたいな円形で中心にぽっかりと空いた穴、広場に向かって迷路みたいな細い通路が入り組んでいる造りなんだ。
始めて来た昨日は迷いに迷って、大変だったけど。二回目の今日はもう迷わないぞ。……たぶん。




『ギャハハハハッ!!』
『ブオオオオオオオオオン』

遠くから聞こえてくる二匹のドラゴンの咆哮。

『お願いだからここではない何処か遠くへ逃げてぇぇぇぇええええ!」

少し違ついてきたヒスイの叫び声。そうか今この世界での僕達は——。





第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.15 )
日時: 2017/12/01 10:34
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: hr/PPTT1)

『やめろ……くるなッ! 死ぬのか? この俺さまが死ぬ?
 アアッ! やめろやめろやめろ! やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろぉぉおおおおお!!』

——突如聞こえた断末魔。誰かの最期の叫び声。死にたくないと願う声が消えた。

 僕達が広場に辿り着いた時には"もう全てが終わった"後だった。

「……終わったんだ」

 僕達が見たのはピンっと張っていた糸が切れたように身体が揺らめいて、繋がっていた糸が切れた操り人形のように、ヒスイがへたりとその場に尻餅をつくところだった。

 広場にはあれだけ大きな声で鳴いていた二匹のドラゴンの姿はなかった。
あるのは崩れた石像と何か大きなものが通ったように真っ直ぐ直線に抉られくりぬかれて地層が丸見えとなっている地面。

「また随分と凄い事があったみたいですね」

 まじまじと抉られた地面を見ながらパピコさんが言った。確かに僕もそう思う。
どんな攻撃をしたらこんなことになるんだろうって。ヒスイがあの時「逃げて!」って言ってなくて、僕があのまま駄々をこねてこの場に居続けていたらどうなったんだろう。

 この攻撃に巻き込まれて全滅? なんてことになってかもしれない。
地面が抉られている部分は丁度、僕達が立っていた部分だから。ヒスイが立っている場所から後ろは抉れていないみたいだけど、彼女が立つ正面はもう……全部崩れてる。原型が一部でも残っているのが不思議なくらい酷い有様だよ。

「ヒスイさまはどうしてこの記憶を残しておられたのでしょう」
「どうゆう意味です?」

 パピコさんが言った記憶を残したって言葉に違和感を感じだ。だってプリンセシナっていうのは忘れてしまいたい、心の奥底に封印した記憶がしまわれている場所で、意図的に記憶を残す場所ではないはず?

「あっ、いえっ、なんでもございません♪」

 でもその疑問には答えてくれなかった。
パピコさんは場が悪いような、しまった! って表情をして慌てて誤魔化しの台詞を吐いていた。どうしてパピコさんがそんな見え透いた嘘をつくのか分からないけど、触れてほしくないことなら無理に聞いたらいけない……よね。

「ここの階層で見られるのはここまでのようですね。ささっ、サクッと次の階層へ向かいましょう♪」
「そうだね」

 パピコさんに促されるまま僕達は、広場のから少し東に行ったところにあった第二階層と書かれた扉に手をかざした。
扉はそれだけで自動的に内側へと開き始めて、次の階層へと僕達を招き入れる。

 次の階層では何が見えてくるんだとう。ワクワク半分ドキドキ半分って感じだな。
人の封じた過去の記憶を楽しむのは不謹慎だと思うしそれに、見られたくない心の闇を盗み観る事になるんだからあまり好い気もしない。

 ぶつぶつとそんな事を考えながら僕はパピコさんと第二階層へと続く扉を通った。











                     †







「きゃはは♪ まさかこの記憶をとっておくなんて物好きダネ♪」

 誰もいなくなったアトランティスに響く童女の声。

「あまり不要な干渉はするなと言ったはずですよ」

 背後からやって来た童女を叱るのは落ち着いた青年の声。

「だってツマンナイだもーん♪ アタシも"あの子"でアソビたーい♪」
「何を言っているんですか。兎で十分遊んでいたではないですか」

 くるくると回り朽ち果てた街の建物を蹴り飛ばし遊ぶんでいる童女に青年はそう諭すが

「シュヴァルツァーダケあの子でアソブなんてずるいヨー。きゃはは♪」
「なるほど」

 納得したように青年は大きく頷くと口角をニッと上げ

「私はいいのですよ。遊んでさしあげた"記録は既に消去(デリート)"していますので」

 手の持っていた古い文字で書かれた分厚く重たい本をぱたっと閉じ

「さあ——お遊びはもういいでしょう。観測を続けますよ」
「ハーイ♪」

 身体を翻し青年と童女はシュッと音もなくその場から消え去った。
アトランティスからは本当に誰もいなくなった。第一階層からは本当に誰もいなくなった。