複雑・ファジー小説
- 第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.13 )
- 日時: 2017/11/30 09:23
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)
人の心が具現化した精神世界"プリンセシナ"
持ち主によって、造り、深さ、見せる記憶は違う——百人居れば百通りのプリンセシナが存在するということ。
だがしかし千差万別のプリンセシナでも大きく分けることで二種類に分類することができる。
一つ目は参加型。
プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶世界の登場人物として参加し体験する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えており、会話をすることも可能。
まるで今まさに現実時間(リアルタイム)で起きているかのように感じることが出来る。
——現実的な体験であっても所詮は過去に起きた出来事の再現。起きた過去を書き換えることなど神にもできない。
二つ目は劇場型。
プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶を劇や映画を観るかのように映像として観て体感する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えておらず、会話をすることは不可能。
過去に起きた出来事の記録映像を傍観者として観るだけしか出来ない。
——過去を変える権利すら手に入れていない者に過去を変えることなどできない。
大きく分ければこの二種類に分類される。……が、人の心とは他人(ひと)が思うよりも複雑で難解、二種類の世界が入り混じった世界も存在すれば、どちらにも属さない世界もまた存在する。
未だよくわかっていないというのが我々の見解だ。
とある研究員の論文.
- Re: シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語- ( No.14 )
- 日時: 2017/11/30 10:24
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)
(ルシアside)
身体を包み込んでいた温かい何かが消えた。
たぶんヒスイのプリンセシナの中に着いたんだと思う。いつもプリンセシナに入る時は、温かい光に包まれて目を閉じて、身体を包み込んでいた温かいものが消えて、目を開けると見たこともない世界が広がっていたから。
だから目を開けた。もうプリンセシナに来るのは四回目。慣れたくないけど少しは慣れてしまった。だからもう少々な事では驚かな——
『ブオオオオオオオオオン』
「うわっお!?」
……い、つもりだったんだけど突如唸りを上げた獣のような咆哮に驚いて尻餅をついちゃった。イタタ……地面が砂浜だからそんなには痛くなかったけど。って、砂浜?
顔を上げて改めて辺りを見渡して見ると、此処は僕も良く知っている場所だった。
上に張られているのは見えない結界、そして深海魚たちが空を飛ぶ鳥達のように自由に泳いでる。周りにある建物はどれも古くて崩れていて苔まみれ、砂浜にはワカメとかの海藻類や色とりどりのサンゴ礁が生えている……そうかここは海の中にある国アトランティスなんだ。
「なんです。この素敵な深海の世界はっ。
ご主人様との式は海の見える小島の教会でと思っていましたけど、ここのような海の中にある教会で挙げるというのもいいですね♪」
じゃあもしかしてあの大きな獣みたいな声は、二匹のドラゴンとかいう生き物のもの?
「ちょっとあそこの獣がうるさいですけど、まああんなのはパピコちゃんのご主人様への愛の劫火(ごうか)にかかれば一瞬で炭と化します♪」
ブルースノウ王から狂犬を退治する為に此処へ来た僕達はなぜか犬じゃなくて、トカゲみたいなワニみたいな頭の大きな獣、ドラゴンと戦うはめになったんだ。
ドラゴンは絵本とかのおとぎ話の世界で最強生物と呼ばれている化け物。
でも彼らはおとぎ話の世界にしか存在しないはず、なのにどうして現実の世界に存在しているんだろう?
「新居はどうしますぅ? やはり海辺の白い家です? それともいっその事、ここに新居を建ててしまいましょうか♪
ここでしたら、深海魚が食べ放題でヘルシーですし♪」
後から現れたドラゴンは空間を破ると言うか、世界を隔てる壁のような物をぶち破って"コチラ側”に侵入してきたって感じだったし……。
それに"あのドラゴン"が言っていた「帝竜(ていりゅう)を召喚しやがった」ってどうゆう意味なんだろう。
ドラゴンにも名前とかあるのかな。帝竜ってことは偉いドラゴンだったのかな?
「あの……ご主人様?」
考えれば考える程、疑問ばかり増えていって答えがみつからない。
「私(わたくし)の話聞いてます?」
僕達の前に現れた二匹のドラゴン。そしてヒスイのプリンセシナ第一階層目がここなのはどんな理由があってのことなんだろう。
ここが闇病にかかったきっかけのようなものがあるのかな。だとしたらそれは一体。
「ご主人様!」
「ふぇ、あっはい!?」
びっくりした……気が付いたらパピコさんの顔が目の前にあった。
それにどうしてだろう……すごく怒っているように見える。
「もう! 私の話聞いてました?」
え……? パピコさん何か僕に話しかけてたの?
「はあ……」
うわっすっごいわざとらしい溜息をついているよ。
ちょっと考え事に集中しすぎていて悪いことをしてしまったかな……。
「ごめんね、パピコさん」
「いいですよー、どーせご主人様はヒスイさまの事で頭がいっぱいなんですからー」
はぶててるっ。すっごい棒読みでそっぽを向いて唇をとぎらせてパピコさんは言っている。
小さな子供みたいだと、少しくすりと笑いそうになったけど我慢我慢。もしここで笑ってしまったらさらにパピコさんの機嫌を損ねてしまうよ。
「それよりも。ここは何なんです?」
あっそうかパピコさんは知らないんだっけ。僕はこの場所の説明をしてあげた。
パピコさんはふーんと興味なさげに聞いていたけど、
「つい昨日の光景が現れるだなんて珍しい事もあるもんですね」
少し難しそうな顔をして頷いていた。
やっぱりこれって珍しいことなんだ。プリンセシナの案内人であるパピコさんが言うんだから間違いはないはずだよ。
「それで何処へ行きましょう?」
「そうだね……まずは広場に行こうか。そこで僕達はドラゴン達に出会ったから」
「りょーかいでございます♪」
チャキッと敬礼するパピコさん。本当彼女は感情の浮き沈みが激しいというか、切り替えが早いというか、白黒がはっきりしている人だなと思う。
アトランティスはドーナツみたいな円形で中心にぽっかりと空いた穴、広場に向かって迷路みたいな細い通路が入り組んでいる造りなんだ。
始めて来た昨日は迷いに迷って、大変だったけど。二回目の今日はもう迷わないぞ。……たぶん。
『ギャハハハハッ!!』
『ブオオオオオオオオオン』
遠くから聞こえてくる二匹のドラゴンの咆哮。
『お願いだからここではない何処か遠くへ逃げてぇぇぇぇええええ!」
少し違ついてきたヒスイの叫び声。そうか今この世界での僕達は——。
- 第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.15 )
- 日時: 2017/12/01 10:34
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: hr/PPTT1)
『やめろ……くるなッ! 死ぬのか? この俺さまが死ぬ?
アアッ! やめろやめろやめろ! やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろぉぉおおおおお!!』
——突如聞こえた断末魔。誰かの最期の叫び声。死にたくないと願う声が消えた。
僕達が広場に辿り着いた時には"もう全てが終わった"後だった。
「……終わったんだ」
僕達が見たのはピンっと張っていた糸が切れたように身体が揺らめいて、繋がっていた糸が切れた操り人形のように、ヒスイがへたりとその場に尻餅をつくところだった。
広場にはあれだけ大きな声で鳴いていた二匹のドラゴンの姿はなかった。
あるのは崩れた石像と何か大きなものが通ったように真っ直ぐ直線に抉られくりぬかれて地層が丸見えとなっている地面。
「また随分と凄い事があったみたいですね」
まじまじと抉られた地面を見ながらパピコさんが言った。確かに僕もそう思う。
どんな攻撃をしたらこんなことになるんだろうって。ヒスイがあの時「逃げて!」って言ってなくて、僕があのまま駄々をこねてこの場に居続けていたらどうなったんだろう。
この攻撃に巻き込まれて全滅? なんてことになってかもしれない。
地面が抉られている部分は丁度、僕達が立っていた部分だから。ヒスイが立っている場所から後ろは抉れていないみたいだけど、彼女が立つ正面はもう……全部崩れてる。原型が一部でも残っているのが不思議なくらい酷い有様だよ。
「ヒスイさまはどうしてこの記憶を残しておられたのでしょう」
「どうゆう意味です?」
パピコさんが言った記憶を残したって言葉に違和感を感じだ。だってプリンセシナっていうのは忘れてしまいたい、心の奥底に封印した記憶がしまわれている場所で、意図的に記憶を残す場所ではないはず?
「あっ、いえっ、なんでもございません♪」
でもその疑問には答えてくれなかった。
パピコさんは場が悪いような、しまった! って表情をして慌てて誤魔化しの台詞を吐いていた。どうしてパピコさんがそんな見え透いた嘘をつくのか分からないけど、触れてほしくないことなら無理に聞いたらいけない……よね。
「ここの階層で見られるのはここまでのようですね。ささっ、サクッと次の階層へ向かいましょう♪」
「そうだね」
パピコさんに促されるまま僕達は、広場のから少し東に行ったところにあった第二階層と書かれた扉に手をかざした。
扉はそれだけで自動的に内側へと開き始めて、次の階層へと僕達を招き入れる。
次の階層では何が見えてくるんだとう。ワクワク半分ドキドキ半分って感じだな。
人の封じた過去の記憶を楽しむのは不謹慎だと思うしそれに、見られたくない心の闇を盗み観る事になるんだからあまり好い気もしない。
ぶつぶつとそんな事を考えながら僕はパピコさんと第二階層へと続く扉を通った。
†
「きゃはは♪ まさかこの記憶をとっておくなんて物好きダネ♪」
誰もいなくなったアトランティスに響く童女の声。
「あまり不要な干渉はするなと言ったはずですよ」
背後からやって来た童女を叱るのは落ち着いた青年の声。
「だってツマンナイだもーん♪ アタシも"あの子"でアソビたーい♪」
「何を言っているんですか。兎で十分遊んでいたではないですか」
くるくると回り朽ち果てた街の建物を蹴り飛ばし遊ぶんでいる童女に青年はそう諭すが
「シュヴァルツァーダケあの子でアソブなんてずるいヨー。きゃはは♪」
「なるほど」
納得したように青年は大きく頷くと口角をニッと上げ
「私はいいのですよ。遊んでさしあげた"記録は既に消去(デリート)"していますので」
手の持っていた古い文字で書かれた分厚く重たい本をぱたっと閉じ
「さあ——お遊びはもういいでしょう。観測を続けますよ」
「ハーイ♪」
身体を翻し青年と童女はシュッと音もなくその場から消え去った。
アトランティスからは本当に誰もいなくなった。第一階層からは本当に誰もいなくなった。
- 第二階層[ウサギとドラゴンネレイド] ( No.16 )
- 日時: 2017/12/04 11:24
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: GbYMs.3e)
温かい。
第二階層に来て最初に感じた感想。瞼を開けてみると見えて来たのは緑豊かな大自然。
小鳥が歌い、ウサギやキツネ、タヌキとか小動物たちが楽しそうに踊っている豊かな森。
「深海の街の次は森の中ですかあ。自然豊かで素敵な場所でございますね、ご主人様♪」
この森は南の森? 僕の故郷の近くにある森に似ているような気もする、けど多分違うと思う。南の森もこんな風に穏やかな春の気候で沢山の動物たちが暮らしていて、家族がピクニックするのに最適な場所……だったのは過去の話だから。
「海の中にお家と言うのも魅力的ですが、やはりここは定番に森の中にひっそりとウッドデッキのお家と言うのも乙なものでございましょう。
動物たちに見守られながら、愛を育んでいくのですっキャ♪」
自然豊かな森だった南の森はとある事件のせいで植物も動物も誰も生きられない死の森へと変えられてしまったんだ。そう……あいつのせいで。
「そうです! ウッドデッキも良いですが、御伽噺(おとぎばなし)に擬(なぞ)えてお菓子の家と言うのはどうでしょう?
私そうゆうのメルヘンチックなお家に住んでみるの夢だったのです♪」
あいつのせいで多くの血が流れ、多くの涙が流れ、多くの人の命が消えていった。あいつは許せない……そう思っていたのに、いざ目の前からいなくなってしまったら、達成感よりも虚無感の方が強く残ったような気がする。心にぽっかりと大きな穴が開いてしまったような、そんな気が……。
『まだこの本途中なの。最後まで読みたいから、ここでもう少し読んでるね』
あれは……ヒスイ?
ぶつぶつと過去の出来事を思い返しいると、勝手に歩き出していた僕の足は目的地まで辿り着いていたみたい。
森の中にぽっかりと拓けた草原の広場、その中央に佇んでいる一本の大樹……名前は確か時渡りの聖樹さまって言ったけ? 女神さまよりも昔から此処に生えているっている凄い長生きしているお爺さんの樹。
その下にいるのはヒスイと多分この世界の僕達。
話している内容から察するに、賢者の隠れ里で女神さまのいるアンコールワットへ行く許可を貰ってこれから言って来るよって事をヒスイに伝えている所だと思う。
昔あった戦争のせいでヒスイが生まれてきた種族、ドラゴンネレイドは臆病ウサギって呼ばれいる、リリアン達が忌み嫌らわれているそう。
だから聖地であるアンコールワットにヒスイを近づけさせない事、それが長から僕達に提示した条件。
僕には戦争とか、今ドラゴンネレイドが抱えている状況とか、よくわからないけど、ヒスイが辛いのを独りで我慢しているのは分かる。……分かっているのに何もできなかったんだ、あの時も、今も。
『わかった……すぐに帰って来るから』
僕たちは手を振りながらアンコールワットに向かって歩き出した。ヒスイは見えていないはずなのに、僕から過去の僕たちが見えなくなるまで手を振り続けて、見えなくなった丁度で手を振るのを止めた。
いつも思ってたけど、ヒスイは目が見えない事を感じさせないくらいに普通に生活している。ごく普通に生活しているからたまにヒスイの目が見えていないことを忘れそうになってしまうよ。……駄目だよね、正常者が障碍者の手助けをしないといけないのに。
『さてっと』
座り直して手に持っていた子供用の絵本を開く。ヒスイには僕たちの気配は感じていないみたい。それを良しとするのは間違っているのかもしれないけど、彼女の隣に座って絵本を覗き見てみる。
「あれ? 何も書いてない?」
開かれている絵本は白紙で何も書かれていなかった。
「それはそうでは? だって彼女は目が見えないのでしょう?」
「そうなんだけど……でもヒスイは読書家さんでいつも沢山の本を読んでいる姿を見かけるよ」
「盲目なのにですか?」
「……うっ」
そう言われたら反論できない。確かに目が見えないのにどうやって読書を楽しんでいるんだろう。ちらりと見たヒスイの横顔は読書を楽しんでいるかのように、楽しそうに微笑んでいた。
もしかして本当は見えているとか? ……でも本は白紙なのにどうやって……色々頭を悩ませた僕の疑問は小さな一言で解決する事になった。
『真っ白なのに何がそんなにおもしろいの?』
「えっ!?」
声をした方を振り向くとそこには、小さな子ウサギ……じゃなかった、ウサ耳が生えた子供達が興味津々って感じでヒスイを取り囲んでいる。
『なんで目をとじてるんだよー』
不思議そうにヒスイの顔を覗かせているのは、ピンっと伸びた黒いウサ耳と短く整えられた黒髪に黒真珠のような黒い瞳で全体的に黒一色でまとめたやんちゃそうな男の子。
『その、絵本、わたち、知ってる』
可愛い茶色く黄ばんだウサ耳のぬいぐるみを抱えて途切れ途切れに話しているのは、垂れた長い茶色のウサ耳と栗色の長い髪と銀杏(イチョウ)の葉のような瞳で全体的に茶色系な物静かそうな女の子。
『ちょっとチミたち、知らない人と話してはいけないとせんちぇいが言ってましたよ』
かけたメガネをくいっと上げて後からやってきたのは、ライオンの鬣(たてがみ)のようなふさふさしたウサ耳と肩まで伸ばした毛先がカールしていて、透き通った海のような瞳の真面目系な男の子。
可愛い子ウサギ三人組。隠れ里に住んでいる子供達かな?
自分を取り囲んでいるあの子達に気が付いたヒスイは優しくお姉さんのように微笑んで
『これは点字の絵本だよ』
『てんじー?』
「点字ってなに?」
子供たちと一緒になって首を傾げるとパピコさんに笑われてしまった恥ずかしい……。
『触ってみると分かるよ』
差し出された絵本に子供たちは手を伸ばす。
ご主人様も如何です? とパピコさんに言われて僕も触ってみることに。
『ブツブツだ!』
『ポコポコ!』
『いえこれはデコボコですね』
「人によって感じ方は違うんだね」
触ってみた紙はブツブツもポコポコもデコボコもしていた。丸い点みたいなものが等間隔にあるような気がするけど、もしかしてこれが?
『それが点字。そのプツプツでお姉ちゃんは絵本を読んでいるんだよ』
『へえー目とじてても本が読めるなんてずげーな』
『……すごい」
『そ、そんなこと勉強すれば僕にも出来ますよっ』
爛々と目を輝かせてヒスイの持っていた絵本を触っている子供達。
僕たちがアンコールワットに行っている間、寂しい思いをしていないか心配だったけど
「良かった、ヒスイは子供達と楽しい時間を過ごしていたんだね」
ほっと胸をなでおろしていると、隣に座っていたパピコさんが難しそうな顔をして声を潜めて
「……どうでしょうね」
何処かを指さしながら言った。引きつけられるようにその方向を見てみると
『きゃあああああああ!!?』
持っていた籠(かご)を振り上げ、尻餅をつく一人の女の人がいた。白いウサ耳とブロンドのなびく長い髪が綺麗なリリアンの人はどうしてあんな、まるで化け物でも見たような形相で驚いているんだろう。
『あ、ドロシー先生』
やんちゃそうな男の子がへたりと座り込んでいる女の人に声をかけた。でも女の人は呼吸困難になっているみたいに、口をパクパクさせて顔からはどんどん血の気が引いて行き蒼白とした表情になっている。
『こ、子供達!』
絞りだした声で女の人は子供たちを呼んだ。なんで呼ばれたのか分かっていない子供たちはきょとんと首を傾げてお互いの顔を見合わせ女の人の元へと駆け寄った。
女の人は子供たちを強く抱きしめて
『大丈夫ね? なにもされていないわね? 怪我はしてないわよね?』
何度も何度も、無事を確認する。そんなあの子たちを傷つけるようなことヒスイがするわけないじゃないか、と僕は言いたくなった、けど。
『貴方に敵意がない事はお仲間からお聞きしています。……ですが、私達は貴方達から受けた傷を忘れた日はありません。
貴方がそれに関与している、していないに関わらず、私達は貴方を許す事は出来ません。
どうか……私達に武器を取らせないでください。どうか……何も知らない子供達にあの悲劇を見せないでください』
子供たちに身体を抱えられ助けられ、重たい身体を引きずるようにして女の人たちは隠れ里へと帰って行った。
これがリリアンとドラゴンネレイドの間にある溝なんだ。
ヒスイにリリアンたちとどうにかしたいと言う気持ちはない、リリアンのみんなもそれは理解してくれている、でも、なのに受け入れ合うことは出来ない。
それだけリリアンとドラゴンネレイドの間には深すぎる溝はあるから。
「この階層の記憶はここまでのようです——行きましょう」
前を歩くパピコさんに続けて僕も重い足を動かした。
次に待ち構える第三階層と書かれた扉を探すために。
- 第三階層[カジノでのドラゴンネレイド] ( No.17 )
- 日時: 2017/12/07 09:54
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UQpTapvN)
身体を包み込んでいた眩く暖かな光が消えていくのを感じる。第三階層に着いたみたいだ……ここが第三階層……瞼を開けて景色を見る前に僕を……。
「臭いッ!」
鼻が曲がるような強烈な臭いが襲った。
なんだろうこの臭い。甘い木苺と酸っぱい柑橘と爽やかな石鹸とその他色々な香りを混ぜて、新たな臭いを生み出しちゃったみたいな。
絵を描くときに使う絵具をがむしゃらに色々混ぜてみたら、最終的に生まれるのは何色なのか分からない、しいて言うなら黒? って感じのあの色を臭いにとして具現化させたものみたいな……。
鼻を手の甲で塞いで薄っすらと瞼を持ち上げると、突き刺すような眩しい光が目の前一杯に広がった。
眩しい過ぎて一度瞼を瞑って慣れてきた頃にもう一度瞼を開いて見てみる。
「あっここ、カジノだったんだ。どうりで……」
全体的に金色の空間。ドルファフィーリングが経営している二大娯楽施設の一つ、仮面の国にある巨大カジノ。そのエントランスだ。だからなんだ、沢山の人たちが行き交うカジノの玄関口だから、いろんな臭いが残ってて臭かったんだ。なるほど。
金で出来た壁に掛けられているのはどこかの貴族様か王族の人たち? それともどこかの企業の社長さんかな? モフモフのお髭を生やしたお爺さんたちの肖像画が壁一列に掛けられて正直これを夜中に見たら怖い。
床も金。ひかれている絨毯(じゅうたん)は深紅の色をしていて何だったけ? リアさんが言っていたんだけど、確か……ペルシャ絨毯とか言う貴族様御用達の高級品らしいよ。
肌触りも最高でこんなのが家にあったらヨナも喜んだ、だろうに。
建物を支える柱も金。床屋さんの入口付近に置かれている青と白のシマシマがクルクル回っている置物みたいな模様。……もしかしてそれをイメージして造ってあるとか? まさかね。
吹き抜けの天井も金。下げられているシャンデリアも金、聖誕祭(クリスマス)で使うイルミネーションみたいな煌びやかな装飾がされていた色鮮やかに輝いてとても綺麗。
「森の次は目がチカチカする賭博場ですか……」
隣まで歩いて来るとパピコさんはやや残念そうに言った。
そう言えばパピコさんっていつも数秒遅れてやってくるよね。次の階層へ続く扉に入る時、僕の方が数秒早く入るからかな?
「パピコさんはこんな風に派手な場所はあまり好きじゃないんですか?」
「ええ。そうですね。お祭りなどの派手さは好きなのですが……こうゆうネオン色の派手さはあまり……」
驚いた。ってきりパピコさんはこうゆうの好きなタイプの人なのかと思ってた。だって、伸ばした青紫色の髪を頭の左右で、濃い紫色のリボンで結んでいて、出目金みたいな大きな青紫色の瞳は何でも入ってしまいそうだし、紫陽花のが描かれた和服の背中には半透明の青紫色の虫の羽のような……丸い羽根が左右二枚ずつ蝶みたいな感じで付けて、仮装大会に出る人みたいな恰好しているから……ってきりそうなのかと思ってたけど……違うんだ。
「それよりご主人様?」
辺りを見渡し
「このカジノでは何かあったんです? ヒスイさまのプリンセシナにこのカジノがあるって事は何かあったと思われるのですが?」
何かあった……か。そうだろうね。
ここでヒスイ……いや僕達全員とって衝撃的な事があったんだ。そのせいでヒスイの心が傷つき闇病に侵されてしまったのかもしれないね。
でもそれをどうパピコさんに伝えたらいいのかな? ありのまま全てを? ……でもそれは。どうしようかと顔を俯せて悶々と考え込んでいると。
『…………』
僕とパピコさんの間を誰かが素通りして行った。誰? って自然と新線が目の前を通って行った人を追った。
コツコツと金で出来ている床を軽く小机音が聞こえる。見覚えのある白い生地に若草色の蝶の模様が描かれている和服と呼ばれる和の国特有の衣装を着ている女の子の後ろ姿。ヒスイだ。
ヒスイが向かっている方向から、反対側を見てみるとカジノ内へ続く扉のところで爛々と目を輝かせている田舎少年少女たち……って、過去の僕たちなんだけどね。
カジノなんて始めて来た場所だったから。それに金色の建物なんて初めて見たから。でも傍から見たら只のおのぼりさんにしか見えない……は、恥ずかしい。うう、あの時は気づかなかったけど僕もあんな無邪気にはしゃいでたんだ。ランファのこと怒れなかったかも……ごめん。
「ご主人様。あの女、黒服と何やらヒソヒソと怪しく話してますよ?」
あの女って……。パピコさんはたまに口が悪くなるから困る。
パピコさんが言う通りヒスイは黒いサングラスに黒いスーツを着てビシッと決めている男の人を捕まえて何かをヒソヒソと話していた。
確かヒスイが黒服さんと何か話してくれたおかげで通常フロアの奥にあるVIPフロアへ案内してもらえたんだよね。……吐き気がするような場所だったけど。
「気になりません?」
「えっ、何が?」
「だってご主人様に隠れてコソコソと行動してヒソヒソと声を潜めて話しているんですよ?
きっと何か良からぬことの相談をしているんですよ」
そ、そうかな……。パピコさんはたまに疑り深いところもあるかた困る。
でもそうだね。ヒスイが何を話していたのか気になると言えば気になるかな。あの時はごにょごにょとしか聞こえなくて、話している内容はさっぱりだったからね。
エントランスに置かれている観賞植物の陰に隠れるような形でヒソヒソと話している。ヒスイと黒服さんに近づいてみた。二人には僕たちの姿は見えていないみたいだから安心して進み聞き出来る?
『メシアの生き残り及び特異点、その他を連れて来ましたナナ様へ連絡お願いします』
「えっ!?」
ヒスイは僕がメシアだってことを知っていたの?
黒服を捕まえたヒスイは身をかがめて誰にも聞こえないように囁くようにして言った。
黒服はこくんと一回頷くとスーツの襟元(えりもと)に付いている黒いポッチ? 小さなアミアミの機械みたいな物を口元に近づけて
『ナナ様ヒスイがメシアと特異点、おまけを捕らえて来たそうです。どうしましょう』
そう言い終わると今度は耳の穴の中に入っている黒い物体に手を当ててうんうんっ頷いて
『……かしこまりました』
ヒスイの方を一度見て、次に過去の僕たちを見た。えっと……何がどうしたの?
一連の行動を見たけどやっぱりよく分からなくて。僕の住んでいた村には魔法や化学や、なんてものは存在しなかったから。全部人力で、みんなや動物たちと協力して行うのが当たり前だったから。こんな新型の機械とか見てもよくわからないよ……。
「パピコさんになら今のがどうゆう意味だったのかわかりますか?」
隣で僕と一緒に黙って見ていたパピコさんに訊ねてみた。
「さあ?」
でもパピコさんは意味ありげに首を傾げるだけだった。……意地悪。
「次の階層への扉はあのVIPフロアへ続く廊下から行けるみたいですよ」
話を切り替えるようにパピコさんは次に向かうべき場所を指さして言う。
でもまあ、そうだね。今はパピコさんの事を詮索するよりも、ヒスイの心の闇を晴らす事が先決だよね。……闇病がいつまで大人しくしてくれるかわからないし。
穢れ化するまでの時間は人それぞれ。でも早い人は発病したその日のうちになってしまったらしい。ヒスイは毒の件もあるし。いつまでもつかなんて誰にもわからない。出来るなら早く治してあげた方が良いに決まってる。
僕たちは第四階層へ行くため廊下を歩き出した。
- 第四階層[ウラギリのドラゴンネレイド] ( No.18 )
- 日時: 2017/12/07 11:04
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UQpTapvN)
『ルシアァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!』
第四階層に到着して最初に聞こえて来たのは耳を劈く(つんざく)ような悲鳴。
『なんで……なんで……君が……』
掠れ(かすれ)た声、ゆっくりと倒れて行く僕。
『どうゆうつもりだ——』
——ヒスイ!
倒れた僕の目の前に呆然と立っていたヒスイにみんなの視線が突き刺さる。哀しみと怒りと絶望を混ぜたような、混沌とした視線が鋭い刃となってヒスイの心に突き刺さる。
「…………」
隣にいるパピコさんは何も言わない。なにも言わずに"観て"いる。
『ふふふ……』
吹き抜けになっていて天井の無い丸型ドームの特設ステージ。舞台の上で白い睡蓮(すいれん)が描かれた扇子(せんす)を広げて口元を隠して、目元を緩めて微笑んでいるのはドルファフィーリングの四天王の一人であり、カジノ経営を任されている氷霰(こおりあられ)のナナさん。
十二単のような何枚の着込んだ着物と呼ばれる衣装は動きにくそうに見えるけど、ナナさんは氷魔法の使い手。自分が一歩も動かない。動くのは敵対者だけ。
だってナナさんが放つ氷の刃は少し擦めただけでみるみるうちに身体が凍っていってしまうから。
ナナさんと一戦交えた後のリアの身体には沢山の小さな氷柱(つらら)がぶら下がっているし。
観客席で黒服さんたちと戦っていた僕たちは怖い氷の魔法の餌食にはならなくて済んだけど、信頼していた仲間からの予期しなかった一撃。
僕の腹部にぐさりと突き刺さった一本のナイフ。刃渡り三十センチくらいはありそうな大きめのナイフは僕の弱い皮膚なんて簡単に突き破り、柔らかい肉なんて簡単にザクザクと突き刺し、スカスカな骨なんて簡単に粉砕して、また弱い皮膚を突き破って貫通する。
貫通したナイフを勢いよく抜けばそこから真っ赤な血が噴水のように噴き出すんだ。
この赤を見ていると、ヨナが好きだった苺を思い出す。家の近くに生えていた木苺……またヨナと食べたかったな。
『ヒスイは妾の僕(わらわのしもべ)
其方らの仲間のふりをしてずっとこの時を狙っていたんどす』
階段状に無数の椅子が並べられている観客席から、中央にある月の光が差し込む特設ステージに飛び上がりナナさんの三歩後ろに立ち、
『……そう。私はナナ様の道具。
——貴方達の事なんて一度たりとも仲間だと思った事は無い』
そうはっきりとした口調で、僕たちを斬り捨てるようにヒスイは言った。
でも僕は知っているよ。口ではそう言っていた君の瞳が濡れていたことを。
『テメェ!!』
情に篤いリアさんはヒスイに斬りかかった。でもそれを僕は止めた。
だって仲間が争う姿なんて見たくないから。それに……ヒスイはまだ知らないはずだから。あのことを——。
『…………どうして仰ってくれなかったのですか』
床に倒れているナナさんの上半身を抱きかかえ膝をついた足の上に乗せて大粒の涙を流しているのに、本当は大きな声で泣き出したい癖に、ヒスイは全部我慢して、冷静に冷たい口調で言う。
『どうしてっ……なんであの時っ、仰ってくれなかったんですか!?』
強く。感情のままに叫び、ナナさんの身体を揺らす。……けどもうナナさんからの返答はない。ナナさんからヒスイの質問の答えは帰って来ない。
だってもうナナさんは——
『ああ……あぁあ……アア——アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
あの日カジノ中に響き渡るヒスイの金切り声。
あの日も今日も僕はただ見ている事しか出来なかった。ヒスイが苦しんでいる姿を遠くから"観て"いる事しか出来なかった。
観客席に座って舞台を観る観客のように、この場で起きた出来事をただひたすらに観ている事しか出来きないんだ。
僕に"起きてしまった過去を変える力"なんてないんだから。
お互いに無言のまま。顔も合わせないまま僕たちは次の第五階層へと続く扉を探しに歩き出す。
背後から聞こえてくる悲鳴から逃げるように、僕たちはここから離れた場所へと歩き出した。
- 第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] ( No.19 )
- 日時: 2017/12/10 16:24
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: sxkeSnaJ)
第五階層に到着後、僕が最初に感じたのは
「ゲホゲホッ。な……に、これっ……息が出来な……」
息が出来なくて、すっごく苦しくて、空気を吸い込もうとしたら、吐き気がしてよけいに苦しくなる。咳が止まらないくて、目の前がじんわりとにじんで来て辺りの景色がよく見えなくなってくる。
やばいっ。このままだと僕、呼吸困難で死んでしまうかもしれない。
プリンセシナでの、死は現実世界で死ぬ事と同じ意味を持っているってパピコさんが前に言ってた。
そして僕が死ぬということ。それはヒスイも死んでしまうという事でもあって——
「ご主人様——これを!!」
涙で霞んで良く見えない目の前に何かが投げつけられた。拾い上げてみるとそれはおでこから顎の辺りまで覆い隠すマスクだった。どうしてこんなマスクが投げつけられてきたの?
「これは貴方様に危害を加える物ではありません。貴方様のお命を護る物でございます! さあ——早くお付けになって」
だんだんと遠のいていく意識。だんだんと暗くなっていく視界。
聞こえてきた声は幻聴? 死にゆく僕が見た幻?
でもいいや。そんなのどうでもいいや。こんなところで僕は死ぬわけにはいかない。少なくともヒスイを助けるまでは死ぬわけにはいかないんだ!
拾い上げてマスクを顔に装着してみる。
「シュボー」
するとどうしてだろう。吸いたくても、吐き出したくても、何をしても上手く出来なかった呼吸が嘘みたいに、いつも当たり前にしているように息をすることが出来んだ。
「シュボー」
息を吐くたびに鳴る変な音。
「間に合ってようございました」
「うわっ!?」
不審な人物に話しかけられて僕は尻餅をついてしまった。
「どうしました?」
その人物は橙色の丸い大きな瞳で僕を見下ろして、四角い機会をつけた口元からは言葉を話すたびに「シュボー」って変な音が鳴らしている。
「だ、誰!?」
「誰って……私は……」
不審な人は両腕を横に広げて、やれやらと言いたそうに首を軽く左右に振ると、顔に手を当てて
「ご主人様の正妻、パピコですよ」
"外されたマスク"の下には良く知っている、出目金みたいに大きな青紫色の瞳に、アヒルのようなぷるんっとしたサーモンピンク色の唇にほんのり桜色に頬を染めている、パピコさんの顔があった。
「パピコさん?」
「そうですよー。なんだと思ったのですかー?」
不貞腐れそう言うと、パピコさんさんはマスクを再び装着し直した。
なんだパピコさんだってんだ……僕はてっきり、と言ったところで口を閉じた。
だって僕を見る橙色のレンズからすっごく怖い視線が感じたから。
マスクで顔は隠されているからパピコさんが今どんな顔をしているのか、僕には見る事が出来ない。
だけどきっと多分、怒っているんだろうなあ……とは視線でなんとなく察する事が出来た。
なのでこれ以上は、余計な事を言わないようにしようと思います。
「それにしても……」
景色を見渡すパピコさんにつられて僕も見渡してみる。
曇天模様の空。分厚い黒い雲のせいで太陽の光が差さない。灯りは点々と置かれていうる、電灯や建物の明かりしかない。
僕達がいる場所は工場地帯のようで見える建物は全て黒い鉄で造られた建物ばかり。
街全体が黒一色。鉄の冷たい壁で出来ている。そんな印象を受ける。
煙突から噴き出ているなの黒い煙が空気汚染の原因ですね、とパピコさんは近くにあった建物の煙突を指さしながら言った。
確かに、爆発後に昇る黒煙のように黒い煙が空へ昇って行っている。黒い雲に混じった、黒い煙か……あの二つのせいでこの街は息が出来ない程に空気が汚れて、太陽の光が見えない程に分厚い雲に覆われた、黒一色の世界になってしまったのかな?
「寂しい街だね」
「そうですね」
街の風景をぐるっと見渡して思った僕達の感想。
この街には動物の姿が一匹もない。植物が一本も生えていない。台地は枯れ果てていて、微々割れてあちらこちらに亀裂が入り大きな溝が出来ていて、崖のようになっている。
もし人があそこに落ちてしまったらどうするんだろう? 溝の中を覗き込んで見れば、底が見えない暗黒の世界が広がっていた。見ているだけでゾワリと背筋が震えた。
「ここはどこなんだろう……」
こんな場所、僕は知らない。ヒスイだけが知っている場所なのかな?
僕とヒスイは生まれた時からずっと一緒にいるわけじゃない。妹が紅い鎧を身に纏った騎士に攫われて、奪い返す旅に出た途中で知り合って、色々あって一緒に旅する仲間になったんだ。
だからヒスイと知り合う前の話だと、僕は彼女の事を何も知らない。
ヒスイ自身、あまり過去の話をしたがらなかったから。
- 第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] ( No.20 )
- 日時: 2017/12/12 16:59
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lEZDMB7y)
「歩いてみようか」
ここがどこなのか探る必要もあるし、今は少しでも情報が欲しいから。
僕たちは横一列になって歩き出した。何もない寂しい雰囲気の場所だな……。
周りを見渡して見てもあるのは、工場の鉄の壁ばかり。触ってみても冷たくて、こちらの体温を吸い取っていってしまうような、そんな感じ。
ずっと黙ったまま歩き続けているとやっと人がいる場所へと出て来たみたいだ。
沢山のお店が並んでいることから、ここは商店街か何かかな?
それに住人たちの恰好をみることでここがどこなのか、なんとなくだけど知ることが出来たよ。
今僕達がしているようなマスクだと、思ってたものは仮面と呼ばれるもので、それで顔を隠して色鮮やかなポンチョを身に纏っている人たちが沢山いる国、ここは仮面の国だったんだ。
仮面の国はどの国よりも機械的に発展していった国らしいから、この空気が汚染されて、台地が死に絶えている感じにも、納得がいく。
それに仮面の国になら来たことがある。
ランファに呼ばれて飛行船に乗ってリンクさんの闇を晴らそうとしたり、ドルファフィーリングの本社へ乗り込んだり、色々あった場所だからよく覚えてるよ。
この場所の思い出に浸っていると
『るっるっるー』
『スキップするのはいいけど、転ぶなよ』
『転ばないもーん』
聞き覚えのある声が遠くの方からこちらへ近づいて来るのが分かった。顔を振り向かせてみると角から曲がって来たのは、
「ランファ!? それにリアさんにヒスイまで」
楽しそうにスキップしているランファの少し後ろから、歩いて来るリアさんとヒスイの姿。
目の見えないヒスイに腕を掴んでもらって、リアさんがエスコートしているみたい。ランファは一人楽しく遊んでいるようだけど。
「三人は何をしているんだろ?」
「さあ? それにしても音程外しまくりの下手な鼻歌ですね」
「そ、そうだね……」
元からランファは音痴だと思ってはいたけども……。楽しそうに歌う彼女から奏でられている音楽? と思われるものは音程が外しまくりでとても聞いてられないようなそんな感じ……だけど、あんなに楽しそうに歌っていたら止めたくても止められないよね?
- 第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] ( No.21 )
- 日時: 2017/12/14 11:06
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 5AipYU/y)
『あーあ。それにしても……』
腕を上に伸ばし溜息をつくように呟いた。
『あの時、リアが邪魔しなかったら買い出しじゃんけんに負けなかったのにー』
……買い出し、じゃんけん?
『なんでぐーを出しちゃうかなー? あそこで空気を読んでチョキを出してくれれば買ってたのにー。
リアのせいで眠っているアルトさんを看病する側になれなかったじゃん。
買い出しの何が楽しいんだよー。どうせお菓子買ってくれなんでしょ?』
『当たり前だろ』
『ぶーぶー』
なるほど。これは僕がリンクさんの闇を晴らす為に彼女のプリンセシナに入っていた間の出来事なんだ。だがら僕が知らない場所が舞台だったんだ。
でも、お菓子を買ってもらえないからって不貞腐りすぎじゃないかな……ランファ。頬っぺたを河豚みたいに膨らませて腕をぶんぶん回して怒っているよ……なんと言うか、だね。
苦笑い。隣にいるパピコさんを見ると呆れたような表情をしていた。
『大体お前、ヒスイの目が見えない事を良い事にずるしようとしてただろ』
『うぐっ!?』
……ランファ。
『そうなのかな?』
クスクス。小さく笑うヒスイ。ランファをからっているのかな。
『そ、そんなことないもん!』
口調は震えている。目はバタフライをしているかのように、瞼はバタバタして目玉は左右を泳いでいる。
『あるだろ』
冷たく言い放つ。
『あるわけないじゃん!! 見て! ヒスイさん!
このランファちゃんの澄み切ったまん丸おめめを!!』
鼻息を荒くさせて鼻の頭が擦れるくらいに顔を近づける。
ヒスイは困ったように首を軽く傾げて苦笑い。
『ごめんね、ランファちゃん。
私のこの閉じてしまった目には、貴方の澄み切ったまん丸おめめは見えないよ』
小さな子供を窘めるように囁いた。のだけど……。
『グサァァ!! ランファちゃんは心の無いアホアホリアのせいで傷ついたっ。大きく傷つけられましたっ。うおおおおおんっ!』
大きな声で叫ぶと、泣いているふりをして何処かへ走り出してしまった。
走り去って行くランファの背中を見つめ、
『あんまり遠くには行くなよー。迷子になっても知らないからなー』
あっさりとした口調でリアさんは言っていた。追いかけないんだね……。放置の方向なんだね……。
まあ確かにランファなら、動物の帰巣本能みたいなものありそうだし大丈夫なのかな。
商店街の四つ角の道のど真ん中で放置された、リアさんとヒスイ。
ヒスイはリア腕を掴んだまま。リアさんはランファが走り去って行った方向を見つめたまま。もうランファの背中は見えないはずだけど……。
『……二人きりだな』
「え?」
数秒間、真っ直ぐを見つめていたリアさんが隣にいるヒスイに顔を向け囁いた。
二人きり? 町の住人さんたちもいるし、僕とパピコさんもいるから二人きりきりではないと思うよ、リアさん。そうですよね、パピコさん、と横に顔を向けると
「キタキタキタキタキタッキタァァァァァアア!!!」
大きくガッツポーズをして何かを叫んでいるよ?
たまにパピコさんがどういう人なのか分からなくなるときがああって、この人大丈夫なのかなって心配になる時があるよ……。
- 零れ話。 ( No.22 )
- 日時: 2017/12/19 13:27
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lEZDMB7y)
悪事が発覚してバシャバシャとバタフライさせているランファ被告。
どう言い訳するのかな?
『この純真無垢なランファちゃんがそんな事するわけないじゃないかっハニャロペッテ!』
ハニャロペッテ……?
慌てるあまり語尾が変な事になっているよ……。嘘つくなんて良くないと思うな、悪い事をしたならちゃんと素直に「ごめんなさい」って謝らないと。
と、思うのは僕だけなのなのかな……?
『寝言は寝て言え』
冷たく突き放すような口調で言い、続けて
『妄言は鏡見てから言えよ』
「リアさんっ」
さすがにそれは言い過ぎだと思う。
『うー』
ほらランファだって梅干しを食べた時のようなクシャクシャのかおになっちゃって……
『酷いよ、リア!』
ほら、怒りだして……
『ヒスイさんが自分の顔を見る事が出来ないからってそんなこと言うなんて!!」
……ん? あれ何かおかしいぞ?
ランファはリアさんの腕に捕まっていたヒスイを楯がわりに自分の前に引っ張り出して来ると、むすっと頬を膨らませて
『ヒスイさんだってね! 見えないなりに色々努力してんだよ!
いくらっ夢見る乙女でもそんな酷い事言っちゃ駄目なんだよ!?』
うー、と獣のような呻き声をあげて、キャンキャン吠えているランファにはぁあと重たい溜息を一つ吐くと、
『いや……お前だよ、お前』
「貴方のことですよ、貴方の」
呆れた口調でリアさんとパピコさんは同時に言った。
二人には何か通じ合う者でもあるのかな、同じ瞬間に言えるなんてすごいや。隣にいるパピコさんと、前の方で話しているリアさん達を交互に見つめてみる。
『大丈夫だよ、ヒスイさんっ。
たとえお顔がぶちゃいくだったとしても、気にしちゃ駄目だかんねっ。
世界でイッチバン可愛いのはランファちゃんだってもう世界が誕生したときから決まっている事なんだからっ、あたし以外なんて道に落ちてる小石以下なばかりなんだから気にしたら駄目だよ!』
たぶんこれはランファなりの励ましの言葉だと思う。いや思いたい。
片目を閉じてウインクをして、親指を立てた指をぐっ! って感じで見えないヒスイの鼻先に持って行って「頑張れよっ」って口パプで呟いているよ……本当何がしたいんだろうね、この子は……。
『あー、でもそうだな……』
何かを思い出したようにリアさんが突然声をあげた。
『何も見えないってのは確かに色々損しているかもな』
それを今更? とも少し思ったけれど確かに、今僕たちが当たり前に見ている物が見えない生活ってどんな世界なんだろうね。
口で説明するのは簡単だろうけど、でもいざその状況になってしまったら、僕はどうするんだろう……。
『何も見えないってことはよ』
ごくりと唾を飲みこみ、リアさんの次の言葉を待った。
『俺のこの美貌も見えてないってことなわけだろ?』
「……はい?」
思っていた内容とは違う物で、想像していた言葉とは別の、斜め上方向からきたからちょっと素っ頓狂な声が出ちゃった……。
リアさんは自分の手の平で、自分の筋が通った高い鼻すじやぷるんとした唇にふにふに柔らかい頬ををさすりながらこう言った。
『この完成されたイケメンフェイスが見れないなんて、人生の半分以上損している事になるよな』
えーとっ、僕からはノーコメントです。パピコさんからは?
「…………」
だそうです。ヒスイも同じ返答みたい。じゃあ最後にランファから、
『……うっわ。自分でべた褒めとかキッモ』
気持ち悪い虫を見るような顔で言っているけど、数分前君もおんなじこと言っていたからね?
僕の周りにいる人たちは言意味でも、悪い意味でも、面白い人たちばかりのようです。……楽しいから僕としてはいいだけどね?
- 第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] ( No.23 )
- 日時: 2017/12/23 17:14
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: B0dMG1jJ)
泣き叫び走り去って行くランファの背中を呆然と見つめていると
『……二人きりだな』
ぼそりとリアさんが呟いた。独り言を言うように小さな声で囁くように呟いた。
『……そうだね』
リアさんの左斜め後ろ、彼の腕を掴んでいたヒスイもまた独り言のように小さく呟いた。こくりと微かに頷いて。
二人のやり取りを見て、
「キタキタキタキタキタッキタァァァァァアア!!!」
シャアアッ!! と、ガッツポーズをして叫んでいるパピコさん。彼女の大きな瞳は、まるで新しいおもちゃを買って貰った子供みたいに光輝いて……正直ちょっと引いてます。
「ヒスイさま、ここに極めりです!」
大きな声で大きな独り言を言いだしました……。ヒスイを指差すと血走った目で興奮気味に息を荒げて、
「色欲魔とのフラグ建設展開! これはもう詰んだも同然!
二人はこのまま順調に愛を深めて行くのです。そしてやがてヒスイさまのお腹には新たな命が……ですがそれが運の尽き!
色欲魔の目的は若い女と寝る事、子供が出来た女には要は無いとボロ雑巾のように捨てられればいいのです!!」
…………なに言っているんだろう、この人。
声高らか自信満々の声を大にして言っているパピコさん。笑い声は勝ち誇った人みたいにご満悦なもの。
「あのね、パピコさん。リアさんはそんな酷い人じゃ——」
言葉を遮るように突如、疾風が巻き上げた。それは竜巻のような強い風であり、嵐でもあり……吹き飛ばされてしまいそう!
「な、何事ですかっ!?」
近場に合った掴まれそうなものを掴み、反対側の手はパピコさんを掴んだ。砂を巻き上げて砂嵐が起きているから、いまいち状況がよくわからない。いったい何が起こっているんだろう……ここで。
「…………ッ」
砂嵐を作った竜巻は少しずつその大きさを変えながらどこか遠くへ進んで行った。良かった、進行型タイプで。そのままずっといるタイプだったらどうすることも出来いまま……ってことになる所だったよ。
危なかった。過ぎ去って行く竜巻を見つめ、ほっと胸をなで下ろす。でもこれはただの始まりだったみたい。言うなら、戦前に吹く一陣の風のようなものだった。
『チッ、外したか』
突如風が吹き荒れた場所から聞きなれた声がする。
『下手くそ』
最初に聞こえた声から少し離れた場所からも、聞きなれた声がする。
「……ぇ」
ずっと竜巻ばかり気にしていたから気が付かなかった。竜巻の中に人がいたなんて……自分とパピコさんの身の安全を守るだけで精いっぱいで二人がどうなったなんて気にしている暇がなかった。
大地震が起きたかのようにひび割れて、めくれ上がり地層が見えて深く埋められているはずのパイプが浮かび、引き裂かれてしまった地面に向かい合うように立って睨み合っているのはよく知った顔。
『うるせ。人に殺してくれって頼んでおきながら、攻撃を避ける奴に言われたくねーな。
死にたいんなら、大人しく俺に殺されとけよ。ドラゴンネレイド』
眉間にしわを寄せて、苛立ちを露にしていつもは絶対にしない乱暴な口調で話すリアさん。
『殺刃(さつじん)を放たれたら誰だって避けると思うけどな、だってそれが動物的本能というものでしょう?
そうじゃないとしても私は殺気を感じたら、瞬時に避け始末するように"プログラム"されているの、だから一瞬で終わらせてくれないと——下手くそな壊楽族さん?』
無表情で淡々と機械的に喋るヒスイ。あまり自分の感情を表に出さないタイプだけどこんな人形のような喋り方を彼女は絶対にしない。
こんな血が通っていない人形みたいな表情を彼女はしたりなんてしない。
いつも杖代わり使っていた刀はリアさんの足元に転がっていた。つまり今のヒスイは武器を持たない丸腰の状態、なのにリアさんは剣をヒスイに向けている。
『お前が死ねないのは俺が悪いとでも?』
横に剣を振るうとまた風が吹き荒れ上昇気流がうまれた。風はさっきの暴風で破壊された民家や建物の瓦礫を噴き上げて、
『俺達、壊楽族がお前らドラゴンネレイドに劣るとでも?』
指揮者が振るう指揮棒のように剣を振るうと、風は八の字ダンスのように揺れ吹き荒れ、不規則な動きをする瓦礫がヒスイに襲い掛かった。
「危ないっ!!」
すぐに空中を飛び交う瓦礫を叩き落とそうと剣を抜いたのだけどそれは、
『…………ッ』
余計なお世話だったみたい。ただひっそりと立っているだけだと思っていたヒスイが一瞬力むと彼女を中心とした竜巻が生まれた。
『……貴方には失望したよ』
見捨てるように、憐れむように、呟く。
竜巻はリアさんの作った風を押し返すように、ぽんっと空中を飛び交っていた瓦礫を全て遠くへ吹き飛ばしてしまった。
リアさんが瓦礫を舞い上げて一分も経たない間に起こった出来事、これはまるで打ち上げ花火のような一瞬の出来事だった。
『………クソがッ!!』
またも攻撃をかわされてしまったリアさんは、自暴自棄になってしまったかのようにがむしゃらに剣を振るった。
がむしゃらに振るわれる、剣の切っ先はヒスイの肌にかすりもしない。疲れるのは汗だくのリアさんばかりで、飛び散るのは彼の汗の雫ばかりで、涼しいげな汗一つなく、立っていた場所から一歩も動かないまま華麗にかわすヒスイは人形のような機械的な口調で
『この程度の実力でドラゴンネレイドを殺せるとでも思っていたの?
私一人簡単に殺すことが出来ないのに"あの人"に復讐することが出来るとでも思っているの?』
『————ッ!!』
『自惚れさん』
袖の中に隠していた刃渡りが十センチにも満たないぎらりと銀色に輝く切っ先をリアさんの喉仏に突き刺した。……ように見えた。実際は薄皮一枚分刺しただけだったみたい。
だけどがむしゃらに、無茶苦茶に剣を振り回すリアさんを止めるにはこれだけで十分だった。
後ろへ引き下がる事も、前へ行く事も、呼吸をすることだって躊躇われる。僅かでも動けば刃はリアの喉を突き刺し、頸動脈を斬って血が淋漓(りんり)のように流れて最終的に——死んでしまうから。
死にたくない理由なんて人それぞれ。僕にも、パピコさんにも、誰にだって一つは絶対にあるもの。
リアさんにどんな過去があったのか、なんて僕は知らない。ヒスイが言っていたあの人とか、復讐とか、意味なんてわからないし、何も知らないけど、ここで死ぬわけにはいかないという気持ちだけはわかる。
悔しそうに血が出るまで歯を噛みしめている彼を見ていれば、誰だってわかるよ。
心が締め付けられるように痛いんだ。頭の中に見たことのない映像(記憶)が流れているようで痛いんだ。
——前にも僕はこの光景を観ていたような、前にも僕はこれを体験したような、そんな気がするのは……何故?
鉄を打つ金槌(かなづち)の音が仲で鳴り響くように痛い。頭を抱え押さえていると、さらに痛くさせるようなハイテンションの食う血を読まない明るい声が辺り一帯に響き渡った。
『もーーーーうっ!! いつになった追いかけて迎えに来るんだよー。
知ってる? ウサギさんとランファちゃんは、ほっとかれると死んじゃうんだよっ!?』
ぷくーと頬を膨れ上がらせて怒っているランファの姿が視界の端に入った。相変わらずの空気を読まない発言。ランファはいつでもどこでも変わらないな……。
『勝手に死んどけよ、チビガキ』
『なんだとー!?』
ランファをからかうのは、ひょうきんとした話し方をしてまるで悪戯っ子のようにニカッと笑ういつものリアさん。
『ランファちゃんはウサギさんだったんだね?』
『そうなんです! ぴょんぴょん跳ねちゃうよー』
近寄って来たランファの頭を優しく撫でてあげているのは、いつもの優しいお姉さんのような母性を感じさせる優しい微笑みのヒスイ。
「……いつも通りの二人だ」
さっきまでのは……幻? 白昼夢? そう勘違いしてしまう程に、二人はいつも通りだった。でもあれは現実に起こった出来事。その証拠に地面はひび割れて、大きくめくれ上がったままだし、リアさんは汗だくで首には薄っすらと血が滲んでいる。
『何かあったの? なんかリア、ボロボロ−』
周りを見ながら、少ししょんぼりとした表情で答えた。
ランファが空気を読むなんて珍しい……。って思ったらいけないのかな、やっぱり。
『ああ……ちょっとな』
『うん……ちょっとね』
苦笑いして二人は視線だけ合わせ。
『お前が立ち去った後、俺達の前にコンクリートマフィアが襲ってきたんだ』
『こんくりーとまふぃあ!?』
なにそれなにそれと目を輝かせるランファに、どうどうと落ち突けと宥め。
『いやー本当驚いたぜ。まさか白ブリーフ一丁の変なオッサンの集団が突然目の前に現れて、
「チミタチはトランクス派か、ブリーフ派か?」
って聞いて来てなー、トランクス派だって答えたらいきなりだぜ?』
え……そんな愉快な人たち居たっけ?
『頭の毛もないつるてか集団ですっごく驚いたよね』
白いブリーフ一丁で、頭の毛もないつるっつるっのてかりと光っている人たちで結成された集団なの!?
『まだこの辺にいるかもしれねえ。おいっ、チビガキ。危ないからお前は先に店に入ってろ』
『えっでも……リアとヒスイさんは?』
心配そうな声を出すランファにリアさんはぐっと親指を立てると
『安心しろ。ヒスイは命を懸けて護り店まで連れて行くからよ!』
『うんっ!』
瞳に涙で潤ませてランファは大きく頷くと、身体を翻してお店に向かって走り出した。
「なんでしょう……戦場で負傷した兵士が仲間に俺に構わず先に行け! 大丈夫だ、俺は後から追いかけるから、って言うの臭い場面を思い出してしまいました」
隣にいたパピコさんが何か言っているけど、何を言っているんだろう。……よく聞き取れなかった。
走り去って行くランファの背中を呆然と見つめ。
『チビガキは単純だな』
『ランファちゃんだからだよ』
呆れたような口調で独り言のように呟いき、リアさんは歩き出した。その後を追いかけるようにヒスイも歩き出す。途中、落とした刀を拾い上げて。
『諦めたよ』
ぼそっと囁いた。
『何が』
振り返らないままリアさんは訊ねる。
『貴方じゃ私を殺せない——だから自分で決着をつけることにするよ。
短い間だったけどありがとう、殺す為に頑張ってくれて。……どれも無駄だったけどね』
俯せ静かに淡々とした口調で喋るその表情はやっぱり人形みたいに、何も感じさせない無表情なもので。
『待てよ』
黙々と歩いていたリアさんの足が止まった。
『キミが死のうが、死ぬまいが、俺を裏切ろうが、どうしようが関係ない。とゆうよりキミに興味がない。だけどな——』
くるりと振り返った彼の顔は、まるで人の過ちに怒った悪魔のようなもので。
『ルシアの気持ちを裏切るような事は絶対に許さねえ』
吐き出された言葉はまるで地の底に住まう魔王のような地を振るえるような重たいもので。
『アイツは人を疑うって事を知らないお人好しの大馬鹿者で、困っている奴がいるって聞けば善人でも悪人でも助けてしまうようなどうしようもない大馬鹿者なんだよ』
……あれ? 僕すっごく散々な言われようされていない? ふと、隣に居るパピコさんを見ると「そうです。そうなのですよ。色欲魔の癖によく見ていますね」と、リアさんの言葉を肯定するように大きく頷いていた。首ががくんがくんなっているけど、痛くはなにのかな……。
『アイツの気持ちを裏切り、悲しませるような事は絶対にするな。
もしそんな事をするって言うんなら——この身の全てを失ってでもキミを』
最後の言葉を敢えてリアさんは言わなかった。それでもヒスイには伝わったみたいで彼女は小さく
『そう。好きにすればいいと思うよ』
囁くと、リアさんの横を通り歩いて行った。
残されたのは舌打ちをする悔しそうなリアさんと、こつんこつんと鳴り響くヒスイの持つ鞘が地面を叩く音のみだけ。
(ここでの記録は濃厚的なものでしたね。まるでこってり豚骨ラーメンを食べた時のような不快感です。……あぁ、気持ち悪い。
まあこのような事ご主人様に言えるわけもありませんけど。あの方は優しすぎますから。
……ですが、ここだけ記録が濃厚と言うのもまた興味深い事象なのもまた然り。"あの方"なら嬉々として調べ上げそうなものですね。いえ、もうお調べになられているのかもしれません、あの方はそうゆう人でしたから)
「パピコさんがぼうっしているなんて珍しいですね」
「えっ? ええ……ってなんです、ご主人様? 私だって物憂げに考え事だってしますよ。ぷんぷんっ」
ぷんぷんって口で言う擬音だったけ?
「さあ、変な事言っていないで、次の階層へと参りましょう」
変な事って、言いだしたのはパピコさんさんの方なんだけどな……。僕は目の前に差し出されたパピコさんの手を掴んだ。肉質ある温かいすべすべとした手は、周りにいる女の子たちとはやっぱり違う感触がする。さすが大人の女の人だなって気がする。
なーんて、どうでもいい事を考えながら僕とパピコさんは第六階層へと続く扉をくぐり抜けた。
- 第六階層[ナミダを流すドラゴンネレイド] ( No.24 )
- 日時: 2017/12/30 22:55
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: vevJKpiH)
『じゃあ……行って来るね』
窓の外から茜色の夕日が差し込む部屋で"僕"は振り返りそう言った。
『大丈夫、シルちゃんの事は私に任せて』
振り返った先にいる彼女は優しく微笑んだ。振っている手は、ヨナを思い出す。外にお仕事で出かけるときに、痛いのを我慢して玄関まで来て「いってらっしゃい」と言ってくれた、あの笑顔を思い出させる。
『………ありがとう』
この声は彼女に届いているかな? "僕"は聞こえるか、聞こえないか、くらいに小さな声でそう囁き、手に持っていた水色の石を正面にあるベットの上で、死んでいるかのように目を瞑り(つむり)横たわっているシルの胸元へと近づけた。
石は温かく眩い光を放ち、"僕"の身体を包み込んだ光はシルの身体の中に入って行くようにスーッと、消えた。
部屋に一人取り残されたヒスイは布団からはみ出ていた、シルの左手を掴み
『……貴方は愛されているんだね』
そっと布団の中に戻した彼女の表情は
『私も愛されたかったな……』
とても哀しそうで—— とても苦しそうで——
『人形に感情などいらぬ』
背後から聞こえる。地の底から出すような低い声。聞き覚えのある声。絶対に忘れるわけの無い声。憎くて憎くて気が狂ってしまいそうなくらいに憎い声の持ち主。
「どうしてお前がここにッ!!?」
驚いた。振り返った先に怨敵(おんてき)が居たことに。
白い肌に牛のような鋭い角、裂けて大きな口と鋭く尖った牙、恐ろしい般若のお面で顔を隠して、返り血で赤黒く汚れた見るだけで吐き気のする汚い鎧で身を汚し、汚れきった手でヨナを攫った憎き騎士。僕は彼の事を"紅き鎧の騎士"と呼んでいる。
怨敵を前に怒り露にして、腰に下げた剣を振り上げ紅き騎士に襲い掛かろうとした僕を、パピコさんが止めた。これはヒスイが見た過去の記憶であって現実のものじゃない。今ここであいつを斬ったって、現実のあいつに何も害を及ぼさないからって……そんな事言われたって、あいつのせいでヨナは!!
カチャリ。抑えるパピコさんの腕を払いのけようと暴れる僕の耳元で聞こえた軽い音。留め金のような物が外されたような音。ゆっくりと音がした方向を見てみると……。
「……ッ!」
息を呑んだ。
茜色の夕日が眩しい窓の傍にある、ベットの前に置いた丸椅子に座りシルの寝顔を見つめるヒスイの後頭部に、黒い銃口が突き付けられいた。突き付けている犯人はもちろん紅き鎧の騎士。銃口を突き付けたまま、無言で立っている。
「あいつ、ヒスイを殺すつもり!?」
剣をもう一度振り上げる。
「……狙いは本当にヒスイさまなのでしょうか?」
僕を抑え込んでいたパピコさんの腕が離れた。……どうゆうこと?
振り上げた剣をあいつに振り下ろすことなく、剣の先を床に向ける。ここは様子を見た方がいいと思ったから。
『何故殺らない』
地響きのような低音の声。
『自分の失敗を拭えないのがそんなに心配?』
無邪気な子供のようなあどけない声。ヒスイが喋ったの?
『意味の解らない事を言うな。貴様はメシアと雌豚、両方を殺れる好機を無駄にするつもりか』
無機質な銃口でこつんとヒスイの頭を小突いた。
僕の事をメシアって種族名で呼ぶのは構わない。でもシルの事を雌豚って呼ぶのはやめてほしい。彼女は豚なんかじゃない、れっきとした人だ。可愛い女の子なんだ。
『……血の臭い』
クスッと小さく笑い彼女は答えた。
『この臭いはユウの。それに火薬の臭いも……そういえば闘技場(コロシアム)の地下には大量の爆弾が隠されているって噂があるんだよね?
負けず嫌いのあの子なら、きっと転んでもただは起きないはず。全てを巻き込んで自爆の一つや二つしそな物なのに——どうして私達は生きているのかな?』
歯を食いしばり分が悪そうな顔をしている彼の姿を愉しむように。
『ドルファに敗者はいらぬ。足手纏いになる者など王に必要ない』
『だから殺した? 放って置けば勝手に死んでくれたのに?』
後ろに立っている僕からじゃ、彼女が今どんな顔をしているのか見えない。回り込めばその顔を見ることは出来るけど、足が動かない。根がはっているみたいに、重くて持ち上がらない。
『メシアも雌豚も邪魔者も、何もかも全部消す事が出来たのにどうしてそれをしなかったか……』
ゆっくりとこちらを振り返った顔は……。
『それはルシアを助けたかったからでしょ?』
——バンッ。一発、部屋に鳴り響く爆発音。
紅き鎧の騎士が撃った弾はヒスイの頬を掠めて、窓枠に当たった。
『ほざくな人形が』
般若のお面の下にある鋭い眼光がヒスイを睨み付ける。
『もしかして図星だった?』
あはっと嗤うヒスイ。こんな……嫌な顔をする彼女を見たのは初めてだ。胸の辺りがざわざわして気持が悪い。
『ぅ……うぅ……』
小さな呻き声。それはシルが発したもの。彼女の胸元が光り輝いている。"プリンセシナに行った僕"が返って来るんだ。
『時間切れか』
紅き鎧の騎士は構えていた銃を下し
『次は無いぞ』
鎧の中へとしまう動作のなかヒスイを睨み付けそう言った。
『もしかして脅しのつもり? それとも命令?
どちらにせよ、そんなの聞くつもりなんてないよ。私の雇い主は貴方じゃないもの。
"今の雇い主"はナナ様だから』
それにね——と、背を向けて立ち去ろうとする紅き鎧の騎士を呼び止めるようにヒスイは言葉を続けた。
『言われなくても、メシアの生き残り……ルシアは殺すよ。お墓には貴方の首を供えてあげるから安心して?』
にこりと微笑んだ彼女の顔からは生を感じなかった。どちらかというと、能面のような、無表情でなんの感情もない——人形のような笑みだ。
『それは楽しみだ』
捨て台詞を吐いた後、紅き鎧の騎士は光に包まれて僕たちの目の前から姿を消した。
ベット以外何もない部屋には、僕とパピコさんとヒスイだけが取り残された。それはなんだか、世界にたった三人だけ取り残されたような、孤独感を感じ、
『……貴方は愛されているんだね。私も愛されたかったな……。
だから、私が終わらせてあげる。貴方の幸せで楽しい人生を』
頬に一筋の雫が垂れるその姿は胸が締め付けるように痛く、苦しいもので真っ直ぐ見る事が出来ず目を背けてしまった。
ヒスイ……君は一体……どんな人生を歩んで来たの? 君の事を知れば知る程、僕はッ!
誰かに握り潰されるように痛くて苦しい胸を押さえ、身体を引きずるようにして僕は次の階層への扉を探し出し、倒れるようにして中へ飛び込んだ。
この間、パピコさんは何も言わなかった。何も答えてはくれなかった。遠慮していたのか、あえて何も言わなかったのか、全部知っていながら黙っているのか、どれが正解なのか、違うのか、それは分からない。僕に出来るのはただ観ているだけだから——
- 第七階層[アンサツ者ドラゴンネレイド] ( No.25 )
- 日時: 2017/12/31 10:14
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: Yt9nQPKm)
鉛のように重たい瞼を開くと、目の前いっぱいに広がるのは赤の世界。それは厭と言う程見て来て血の赤じゃなくて、紅葉した紅葉の並木通り。傍に建ち並ぶ桧(ひのき)で造られた建物から出入りし、行き交う人々は絵画のように幻想的で、美しいと見惚れてしまうそんな景色が広がっていた。
さっきまで感じていた胸を締め付ける痛みがすーと、どこかに溶けてなくなってしまった。息が出来なくなるほどに痛かったのに。
『…………』
すれ違う人々はみんな可笑しな見た目をしている。
普段僕達が着ている洋服じゃなくて、和服と呼ばれる独自の文化で生まれた衣装を着て、下駄と呼ばれるサンダルをもっと歩きづらくさせたような靴を履いて、住人の殆どが二本足で立って歩いている"毛の生えた"動物たちのような見た目だ。
人の姿をしている人たちはみんな変な髪形をしている。
男の人はちょんまげと呼ばれる、頭のてっぺんが少し寂しいヘアスタイル。女の人は丸くてもっこりと盛り上がった髪に、櫛(くし)や簪(かんざし)を刺して豪奢な感じだ。
「ここは和の国だ。動物人みたいな見た目の人たちの国。
他の国との交流を一切遮断することで、独自の文化を持って発展していった国だ」
——ヒスイと初めて出会った国でもある。
なんとなく紅葉の並木通りを歩いていたはずだった。だけど僕の足は吸い込まれるかのように、とある一本の路地裏へと赴いた。そこに行けば何かがあるような気がして。
そこは薄暗く、ドブネズミがはうゴミだらけの汚い場所だった。無法に放置された黒いゴミ袋からは腐った生ごみの悪臭が漂っている。左右にある家の壁も、長年掃除されていないんだろうな、スプレーのような物で落書きされたままになっていて、さらにその上から何か食べ物がかかったような跡が付いている。ここに長居すると身体に何か悪影響を及ぼしそうで怖いと、思いながらも路地裏を進んで行く僕の足は止まらない。
『時間丁度。面白くないくらいに正確ね』
曲がり角に差し掛かった所で誰かに声をかけられた。声は曲がった先から聞こえた。若い女の人の声、まだ二十代前半の僕とそんなに変わらないくらいだと思う。声の人は僕に話しかけたのかと一瞬変な誤解をしてしまった。
『……今回の任務は』
真後ろから聞こえた、聞きなれた声に納得した。
振り返った先にいるのは、もちろんヒスイ。その顔は無表情で何も感じさせない人形のようなもの。第五階層で見せたあの無機質な顔だ。淡々と機械的に話す彼女の声に一切の感情を感じない。
『この男を殺しなさい』
曲がった角の先に居たのは和服が似合う綺麗な女の人。麦色の綺麗で長い髪をうなじの所で一つに纏め(まとめ)緩く大きな三つ編みで結んでいる背の高い凛とした顔の人。口は緩み口角が上がっているけど、上にある目は緩んでいない。鋭く吊り上がった目尻は、恐怖を感じさせ身体が震えた。
『……』
差し出された手のひらサイズの紙を受け取ったヒスイの横から覗き見てみた。本当はこんな事したくはないのだけど、ヒスイの事を知る為にはしょうがないことなんだ、と自分に言い聞かせる。
「……え」
紙に書かれていたのは一人の青年の絵。それは良く知っている青年の顔で、ずっと一緒居た青年の顔であり、
『名前はルシア。あのメシアの最後の生き残りだそうよ』
その青年は僕の事だった。
『ルシア……ッ』
一瞬、ヒスイの顔が歪んだ。声が震え、驚きと恐怖の感情が出ていた。
『どうしたの? 標的(ターゲット)に動揺するなんて珍しい……もしかして知り合いだった?』
可笑しそうに女の人は扇子で口を隠しくすりと微笑んだ。
『知らない、初めましての相手よ。……じゃあ私は行くから』
背を向けて立ち去ろうとしたヒスイを「ああ、待ちなんし」と女の人は呼び止めた。
ヒスイは頭だけ振り返った。
『先輩の小話くらい付き合ってくれてもいいんじゃないかしら?』
その言葉に、ヒスイは無表情で何も答えない。でもそれが答えだったらしく、女の人は嬉しそうに微笑み言葉を続けた。
『その男、般若の騎士のコレらしいわ?』
小指を一本立てた。
『戦いにしか興味無いって言っていた戦闘馬鹿が恋だなんて、あー可笑しい!
そんなら後輩として、真っ赤な花束くらい贈らないとねえ?』
『そうね。身体は綺麗に斬り飾ってあげないとね』
何この会話……どうして二人は"人を殺す"話をこうも嬉々として話していられるの? なんでこんなにも楽しそうな口調で話しているのに、どうして君たちの顔はそんなにも無表情なの?
『今度こそ行くから。必然的な出会いより、偶然的な出会いの方が運命めいたものを感じるそうだから、男って生き物は』
再び前を向いた彼女の顔は、自嘲するような笑みだった。
†
なんとなく。本当になんとなくだったけど、プリンセシナ内に鍵(ロック)がかかったような気がした。それはまるでこの階層で観れる記憶はここで終わりだと伝えているようなものであり、ヒスイのプリンセシナ内部に閉じ込められてしまった合図のようなものに感じられた。
記憶の終わりはいつもパピコさんが教えてくれた。始まりも終わりも
、次が最下層のシークレットガーデンに続いている事とか、何もかも、全部案内人のパピコさんの指示に従って動いて来た——今までずっと。なのに今回はそれを教えてくれなかった?
「あれ? 待って……パピコさんはどこにいるの?」
いつもすぐ傍にいるはずの人がどこを見渡してもいない。かわりにあるのは吸い込まれそうな常闇。
「ここは……どこ?」
聞いても誰も答えてはくらない。自分の質問の声が反響するだけ。
慌てちゃ駄目だ。落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ僕。瞑り胸に手を置いて暴れる心臓を押さえ、冷静になろうと頑張った。
まず先に思い出されたのは、ここで観た記憶の数々。
海の国の王様に頼まれて僕たちは、海の中に沈んだ王国アトランティスに行ってそれで……二匹のドラゴンと出会い、時渡りの聖樹の下ではリリアンとドラゴンネレイドの間にある埋めたくても埋められない溝の深さを見せつけられて、裏カジノでは全てを知ってしまった彼女の絶望するさまを見た、工場地帯では死を願いながらも死ねない苦痛、殺人を日常的に殺らなくてはいけない楔(くさび)を打ち込まれた彼女の心——その悲鳴が頭の中で反響し激しい頭痛を催す、だけど僕にはその悲鳴の原因となったものが理解できなかった。
——僕にヒスイの闇を浄化することはでき…………ザザッザザザッザザザザッザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ……目の前は壊れた液晶画面のように砂嵐となり何も映さなくなったザザザザッザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ……。
-To be continued-