複雑・ファジー小説

第三階層[カジノでのドラゴンネレイド] ( No.17 )
日時: 2017/12/07 09:54
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UQpTapvN)

 身体を包み込んでいた眩く暖かな光が消えていくのを感じる。第三階層に着いたみたいだ……ここが第三階層……瞼を開けて景色を見る前に僕を……。

「臭いッ!」
 
 鼻が曲がるような強烈な臭いが襲った。
なんだろうこの臭い。甘い木苺と酸っぱい柑橘と爽やかな石鹸とその他色々な香りを混ぜて、新たな臭いを生み出しちゃったみたいな。

 絵を描くときに使う絵具をがむしゃらに色々混ぜてみたら、最終的に生まれるのは何色なのか分からない、しいて言うなら黒? って感じのあの色を臭いにとして具現化させたものみたいな……。

 鼻を手の甲で塞いで薄っすらと瞼を持ち上げると、突き刺すような眩しい光が目の前一杯に広がった。
眩しい過ぎて一度瞼を瞑って慣れてきた頃にもう一度瞼を開いて見てみる。

「あっここ、カジノだったんだ。どうりで……」

 全体的に金色の空間。ドルファフィーリングが経営している二大娯楽施設の一つ、仮面の国にある巨大カジノ。そのエントランスだ。だからなんだ、沢山の人たちが行き交うカジノの玄関口だから、いろんな臭いが残ってて臭かったんだ。なるほど。

 金で出来た壁に掛けられているのはどこかの貴族様か王族の人たち? それともどこかの企業の社長さんかな? モフモフのお髭を生やしたお爺さんたちの肖像画が壁一列に掛けられて正直これを夜中に見たら怖い。

 床も金。ひかれている絨毯(じゅうたん)は深紅の色をしていて何だったけ? リアさんが言っていたんだけど、確か……ペルシャ絨毯とか言う貴族様御用達の高級品らしいよ。
肌触りも最高でこんなのが家にあったらヨナも喜んだ、だろうに。

 建物を支える柱も金。床屋さんの入口付近に置かれている青と白のシマシマがクルクル回っている置物みたいな模様。……もしかしてそれをイメージして造ってあるとか? まさかね。

 吹き抜けの天井も金。下げられているシャンデリアも金、聖誕祭(クリスマス)で使うイルミネーションみたいな煌びやかな装飾がされていた色鮮やかに輝いてとても綺麗。

「森の次は目がチカチカする賭博場ですか……」

 隣まで歩いて来るとパピコさんはやや残念そうに言った。
そう言えばパピコさんっていつも数秒遅れてやってくるよね。次の階層へ続く扉に入る時、僕の方が数秒早く入るからかな?

「パピコさんはこんな風に派手な場所はあまり好きじゃないんですか?」
「ええ。そうですね。お祭りなどの派手さは好きなのですが……こうゆうネオン色の派手さはあまり……」

 驚いた。ってきりパピコさんはこうゆうの好きなタイプの人なのかと思ってた。だって、伸ばした青紫色の髪を頭の左右で、濃い紫色のリボンで結んでいて、出目金みたいな大きな青紫色の瞳は何でも入ってしまいそうだし、紫陽花のが描かれた和服の背中には半透明の青紫色の虫の羽のような……丸い羽根が左右二枚ずつ蝶みたいな感じで付けて、仮装大会に出る人みたいな恰好しているから……ってきりそうなのかと思ってたけど……違うんだ。

「それよりご主人様?」

 辺りを見渡し

「このカジノでは何かあったんです? ヒスイさまのプリンセシナにこのカジノがあるって事は何かあったと思われるのですが?」

 何かあった……か。そうだろうね。
ここでヒスイ……いや僕達全員とって衝撃的な事があったんだ。そのせいでヒスイの心が傷つき闇病に侵されてしまったのかもしれないね。

 でもそれをどうパピコさんに伝えたらいいのかな? ありのまま全てを? ……でもそれは。どうしようかと顔を俯せて悶々と考え込んでいると。

『…………』

 僕とパピコさんの間を誰かが素通りして行った。誰? って自然と新線が目の前を通って行った人を追った。
 コツコツと金で出来ている床を軽く小机音が聞こえる。見覚えのある白い生地に若草色の蝶の模様が描かれている和服と呼ばれる和の国特有の衣装を着ている女の子の後ろ姿。ヒスイだ。
 ヒスイが向かっている方向から、反対側を見てみるとカジノ内へ続く扉のところで爛々と目を輝かせている田舎少年少女たち……って、過去の僕たちなんだけどね。

 カジノなんて始めて来た場所だったから。それに金色の建物なんて初めて見たから。でも傍から見たら只のおのぼりさんにしか見えない……は、恥ずかしい。うう、あの時は気づかなかったけど僕もあんな無邪気にはしゃいでたんだ。ランファのこと怒れなかったかも……ごめん。

「ご主人様。あの女、黒服と何やらヒソヒソと怪しく話してますよ?」

 あの女って……。パピコさんはたまに口が悪くなるから困る。

 パピコさんが言う通りヒスイは黒いサングラスに黒いスーツを着てビシッと決めている男の人を捕まえて何かをヒソヒソと話していた。
 確かヒスイが黒服さんと何か話してくれたおかげで通常フロアの奥にあるVIPフロアへ案内してもらえたんだよね。……吐き気がするような場所だったけど。

「気になりません?」
「えっ、何が?」
「だってご主人様に隠れてコソコソと行動してヒソヒソと声を潜めて話しているんですよ?
 きっと何か良からぬことの相談をしているんですよ」

 そ、そうかな……。パピコさんはたまに疑り深いところもあるかた困る。

 でもそうだね。ヒスイが何を話していたのか気になると言えば気になるかな。あの時はごにょごにょとしか聞こえなくて、話している内容はさっぱりだったからね。

 エントランスに置かれている観賞植物の陰に隠れるような形でヒソヒソと話している。ヒスイと黒服さんに近づいてみた。二人には僕たちの姿は見えていないみたいだから安心して進み聞き出来る?

『メシアの生き残り及び特異点、その他を連れて来ましたナナ様へ連絡お願いします』
「えっ!?」

 ヒスイは僕がメシアだってことを知っていたの? 

 黒服を捕まえたヒスイは身をかがめて誰にも聞こえないように囁くようにして言った。
黒服はこくんと一回頷くとスーツの襟元(えりもと)に付いている黒いポッチ? 小さなアミアミの機械みたいな物を口元に近づけて

『ナナ様ヒスイがメシアと特異点、おまけを捕らえて来たそうです。どうしましょう』

 そう言い終わると今度は耳の穴の中に入っている黒い物体に手を当ててうんうんっ頷いて

『……かしこまりました』

 ヒスイの方を一度見て、次に過去の僕たちを見た。えっと……何がどうしたの?
一連の行動を見たけどやっぱりよく分からなくて。僕の住んでいた村には魔法や化学や、なんてものは存在しなかったから。全部人力で、みんなや動物たちと協力して行うのが当たり前だったから。こんな新型の機械とか見てもよくわからないよ……。

「パピコさんになら今のがどうゆう意味だったのかわかりますか?」

 隣で僕と一緒に黙って見ていたパピコさんに訊ねてみた。

「さあ?」

 でもパピコさんは意味ありげに首を傾げるだけだった。……意地悪。

「次の階層への扉はあのVIPフロアへ続く廊下から行けるみたいですよ」

 話を切り替えるようにパピコさんは次に向かうべき場所を指さして言う。
でもまあ、そうだね。今はパピコさんの事を詮索するよりも、ヒスイの心の闇を晴らす事が先決だよね。……闇病がいつまで大人しくしてくれるかわからないし。

 穢れ化するまでの時間は人それぞれ。でも早い人は発病したその日のうちになってしまったらしい。ヒスイは毒の件もあるし。いつまでもつかなんて誰にもわからない。出来るなら早く治してあげた方が良いに決まってる。

 僕たちは第四階層へ行くため廊下を歩き出した。