複雑・ファジー小説

Re: 【参加型】神世ノ描画≪参加神募集中≫ ( No.4 )
日時: 2017/12/01 19:51
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

忍者『霧隠才蔵』。
その名を聞いたことがあるものはごまんといるだろう。
当然のごとくその秘伝の忍術を受け継がせるため、血を残し後世まできた。
しかし予測できたであろうか。

現代の『霧隠』が、引きこもりニートだということを。


【霧隠 ヤマの素晴らしき引きこもり生活】


この世界では魔法というものが生きている。魔力というものも当然ながら生きている。魔物もダンジョンも、冒険もギルドもある。なんなら、学園だってある。そんなファンタジーに溢れた世界に、『霧隠才蔵』の血を引くある忍は生きていた。
いや、正確には、『引きこもっている』と言った方が正しいだろうか。

「おいコラヤマァ!いつまで寝てやがるとっとと起きろやこのニートが!!」
「うっせーい!!私は食っちゃ寝生活で生きていくって決めたんじゃい!!」
「ざけんなテメエの生活費でどんだけ金食われてると思ってんだ!!」
「働きたくないでござる!!」

日が高く昇り、世間一般的には『昼間』と呼ぶ時間帯の頃、ある一軒家では騒々しい言い合いが始まっていた。
家主と思われる錫杖を持った女が、いつまでも布団にこもっている『それ』を、無理矢理ひっぺがすようにしてたたき起こす。布団から剥がされた『それ』は眠い目を擦りながら、極力大きな声で女に怒鳴りつける。だが女は眉間のシワを更に濃くさせ、更に怒鳴りつけた。結局、怒鳴りつけられた方の『それ』は、いそいそと布団に潜り込んでしまったが。

「全く霧隠才蔵の血筋の人間とあろうお方がこんなザマだとはなあ……ブフッ」
「なーにかいったかしらー?安倍晴明様ー」
「いーやなんにも。つーかとっとと起きねえと酒抜きにすんぞ、『ヤマ』さん」
「え、ちょそれは死活問題やめて『トミ』さん」

『ヤマ』と呼ばれた女は、『トミ』と呼んだ女に向かって焦った顔を向ける。しかしトミはそんなことをお構い無しにヤマを布団から再び引っぺがした。

「モギャンッ」
「さっさと着替えろ、んでさっさと布団ほせ干物」
「干物言うなー」

そういうものの、トミは溜息をつきながら部屋を出ていった。最後の声は聞こえていたのかそうでないのか。それはもうわからない。ヤマは諦めて着替えることにした。
さて、こんな引きこもりニート生活を満喫し、嫌が応にも外へ出たくない布団から出たくないと駄々を捏ねた彼女———『ヤマ』こそ、その『霧隠才蔵』を血筋であり『霧隠一門』を受け継ぐ忍者、『霧隠 ヤマ』である。だが現代となって、忍者が必要とされることを考えたが何も無かったので、「無駄じゃねえか」と思いつつ、結果引きこもりニートという道を突き進むことになってしまったが。これの他にもニートになった確固たる理由があるのだが、今は割愛しておく。

「大体さー、なんでこのご時世に忍者なのかしら。何もやることないじゃん?」

というのが彼女の口癖である。未だフラグは回収されたことは無いが、それが今のご時世とやらに幸か不幸かはわからない。果たして忍者という存在を、この世界は認知しているのか、それとも御伽噺の存在ということで片付けられているのか。彼女には分からない。仕方がない。彼女はまともに外へ出たことなど、ここ10年ないのだ。

「外へ出れば社畜人生、引きこもれば干物……どっちとるかって言われたら迷わず後者だわー。社畜人生とか送りたくないし。ならニート取るわ。忍者は引きこもってこそ忍者……ぐぅ」
「何わけのわからんこと言ってんだあと二度寝すんじゃねえ!!」
「うぎゃー!やめてよ人でなし!」
「うるせえさっさと起きろ干物!!」

今度こそ布団ごと持っていかれ、完全に身ぐるみ剥がされたヤマ。ヤマは着ていた半纏を握りしめ、トミを睨みつける。

「これもとる気だろー!鬼ー!悪魔ー!!トミさーん!!」
「わけわかんねー事叫んでねーで着替えろ!!」
「やめれー!!」

そして予見されていたことが現実となった。ヤマが着ていた半纏を、トミは容赦なく、理不尽にも剥ぎ取った。そうしてトミはケッと飛ばして部屋を今度こそ出ていった。
一人取り残されたヤマはため息をついてのそのそと立ち上がりクローゼットを開ける。こうなってしまってはどう足掻こうが、自分の足で起き上がり動かなければならない。あのトミが大人しく半纏と布団を返してくれる理由もない。ヤマはそれをよく知っていた。なぜなら毎日やっている出来事であるからだった。

「まあとはいっても。ある服は全部同じなんだけどね」

ヤマはすこし笑いながらも、寝間着を捨てて服に腕を通した。


———————


「めし」
「死ね」
「そう言いつつ朝から炒飯出してくるトミさん優しい」
「さっさと食って死ね」
「手厳しー」

トミのいる部屋——と言っても家と繋がっている居酒屋なのだが——にヤマは足を踏み入れる。髪の毛はちゃんとシニヨンにまとめたし、服だってきちんと新しめのものに着替えた。これでトミに文句を言われることはないだろう。
その当のトミはものすごい不機嫌な顔でヤマを出迎えたが。

「だいいちな、朝飯って時間じゃねーんだぞ。昼飯だぞ。お前分かってんのか」
「ちゃんと食べきれって?」
「ちげーよニートが」
「あだっ」

びしっと額を人差し指で強く突かれる。ヤマは小突かれたところを擦りながら、炒飯を食べ始めた。

「いただきまっす」
「あ、そうだヤマさん。飯食ったらお前買出しにいけ」
「断るンゴ」
「鉄拳!」
「んに゛ゃっ!!」

炒飯を食べようとしたまさにその時、トミの鉄拳が綺麗にヤマの頭上へ落ちる。ガチンッという嫌な音がヤマから響いたが、トミは気にせず口を開く。

「まともに外出てねえんだからちったあ日光浴しろ」
「してるもん!!」
「部屋の窓を介してな」
「ぐぬぬ……」
「わかったらさっさと飯食って買い出しいけ。テメエ忍者なんだから金置いて帰ることぐれーできんだろ」
「( 'ω')ウィッス」

もしまた断ったら酒抜き、と言外に伝えたのが分かったのか、ヤマはそれ以上反抗するのをやめた。そして黙々と炒飯を消費する作業に戻った。トミはその傍ら、煙管に煙を立たせ、すうっとそれを口に含む。トミの口から丸い輪っかができる。

「飯食ってる横で煙管とかどうかと思うの」
「あたしが飯食ってる時にテメエも葉巻吸ってたろお互い様だバーカ」
「盛大なブーメラン乙でござった」
「おめーがな」

そう言い合っているうちに、ヤマの皿がカラになった。それをトミが取り上げると、ヤマに財布を投げてよこした。そしてトミは玄関口を指さす。

「いけと」
「おう」
「酒は?」
「メモに書いてあるやつ買って戻ってくるまで買うな」
「へーい……」
「それとなんか最近宗教勧誘みてーなの流行ってるみたいだから見つけ次第殺せ」
「せめて半殺しにしてあげよ……?」

そう言い残すと、ヤマは扉を開けて数年ぶりに外に足を踏み出した。